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blackearowlさんのレビュー
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  • 火星のプリンセス

    火星のプリンセス

    エドガー・ライス・バローズ,厚木淳

    創元SF文庫

    よい意味で古くさく、懐かしいスペオペ。私にとってのバローズの代表作。

    バローズの小説作家としてのデビュー作。しかし、読んでみると、まるで何十年も小説を書き続けてきたベテラン作家の作品のような安定感と完成度。 内容はかなりシンプルな英雄の冒険譚。まるで中世ヨーロッパの騎士のような動機でアメリカの西部劇のような展開を見せる典型的なスペースオペラ。 そんな小説がおもしろいのか?読めばわかる。ものすごくおもしろいのだ。 さすがに、火星に人工衛星が次々と着陸する世の中では火星を舞台にした人間(軍人)の冒険というのは無理がある。しかし、それらを超越したこの小説から巻き起こるエネルギーは、読む人を捕まえて離さない。 こんなに破壊力のある想像力というのはいったいどこから出てくるのだろうか。 これがデビュー作だなどと信じられるだろうか。バローズは、デビュー作で最高傑作をものにした希有にして幸運な作家だと思う。 SFファン、特に初心者は刮目して読むべし。スペースオペラは、100年前にすでに完成していたのだ。

    1
    投稿日: 2014.07.20
  • マルドゥック・ヴェロシティ1 新装版

    マルドゥック・ヴェロシティ1 新装版

    冲方丁

    ハヤカワ文庫JA

    「スクランブル」のあとに読んでほしい前日譚

    「マルドゥック・スクランブル」のボイルドを主人公とした前日譚。時代設定や人物設定などは読者は知っていることとして省略されている部分が多いので、「スクランブル」を読んでからこちらにトライするのが吉。 「ヴェロシティ」の名の通り、後半になるほど加速するストーリーの疾走感が気持ちいい。だからといって決して明るい話ではなく、「スクランブル」でボイルドがあんな人物に設定されてしまっている理由が重く語られています。 個人的には、敵味方として登場する異能者たちの「能力」が見物だと思っています。これらは、冲方氏でなければ思いもつかないような奇妙奇天烈なものばかり。ハードSFファンとしては、実現可能性としてどうよ、というところもありますが、敵味方一人一人の冒険談だけでそれぞれ短編が書けそうなくらい生き生きしているのは冲方氏ならではという部分もあるように思えます。 「スクランブル」を読んで気に入っていただけた読者なら、文句なく楽しめる作品だと思います。

    0
    投稿日: 2014.07.12
  • MM9

    MM9

    山本弘

    創元SF文庫

    リアルな異世界のリアルな怪獣小説

    台風や大地震などの自然災害がない代わりに怪獣(通称M)による災害がちょくちょくある世界。現世界で台風の通路上に日本の国土があるように、(なぜかという説明はないものの)M災害が多発する日本。M災害を予報し、発生した場合の進路・被害予想などを研究・広報する気象庁(決して自衛隊ではない)のセクションの職員たちが主人公のこの物語。びっくりするほどハードで、きわめて慎重とすら言えるほど超技術や超自然的能力などを持ち出してこない、と学会会長の著者らしい一編。テレビドラマ化されているが、それとは別物と思った方が良いです。話の筋書き上、超人を一人、話の中で出してしまったが、かつての東宝・円谷の特撮映画のように生き生きと動いていて、これもまた楽しい。内容的に子供向け、もしくはジュブナイルとは思えないが、子供の頃ウルトラQやウルトラマンにはまった世代なら、絶対に興味深く読めるはず。

    2
    投稿日: 2014.06.28
  • ハーモニー

    ハーモニー

    伊藤計劃

    早川書房

    ディストピア小説としての現時点での一つの回答

    テクノロジーが進化して、個々人のあらゆる病気が駆逐された未来を舞台にしたディストピア(見方によってはユートピアなのかも)小説。現実世界でのサラリーマンの企業による健康管理を極端・徹底的にして全人類に適用したような世界が舞台。主人公たちは、そんな体制に陰で反抗する女性(少女)たち。そこで起きた、ある意味必然性をもった大事件とは。 文体としてはやや取っつきにくい感じもあるが、読み進むうちに気にならなくなる、非常に強烈な魅力を持った作品。エンタテイメントでありながら、(著者の境遇も併せて)考えさせられる問題作。 このSF小説はすごい。P・K・ディック賞特別賞も当然か。どうしたらこんな小説を考えつくのか。伊藤計劃氏の底の知れなさは慄然としてしまう。早世したのは本当に惜しかったと思えるが、死期が近いことを悟っていたからこその作品かもしれません。 SFファンなら必読、そうでない人にもお勧め。「虐殺器官」を読めた人なら、抵抗なく読めると思います。 そういえば、「虐殺器官」共々アニメ化されるとか。実写での映画化はちょっと難しいのではないかと思っていたので、アニメ化は当然と思われますが、気をつけて演出しないと、総スカンを食いますね、これは。

    7
    投稿日: 2014.05.11
  • 虐殺器官

    虐殺器官

    伊藤計劃

    早川書房

    日本のハードSFの新たなスタイル

     異論も多いだろうと思いますが、私は、この本が21世紀の日本のハードSFの新たなスタイルの提示だろうと思っています。  故伊藤計劃氏の処女長編ですが、その完成度は高く、何ものを足しても引いても全体のバランスが崩れると言った感じの美しさが感じられます。全体の雰囲気も暗すぎず明るすぎず、テーマにちょうど良い感じに収まっています。  プロットは、ゴルゴ13か007ばりの近未来サスペンス。ディテールは、紛れもないハードSF。そして、テロとは、正義とは、といろいろ考えさせられる奥深さもあります。あらすじだけを読むとかなり荒唐無稽な感じになりますが、実際に読むと、そのリアリティがひしひしと伝わってきます。  ヒットした「機龍警察」にもいえることですが、これからのSFは、純SFから他のジャンル、たとえばミステリー小説やサスペンス小説などとのハイブリッド化が進むのかもと思わせる小説でした。それらで提示されるのは、人類とハイテクのバラ色とはとてもいえない未来構図。それが、閉塞感漂う現在の世相とマッチしているのでしょう。  だからといって、この小説が時代に迎合した安易な小説だとはいえないと思います。リーダビリティはすごく良いです。日本SF界に「伊藤計劃以後」という言葉ができるほどのエポックメイキングな小説です。SFに興味がある方なら、是非一読をお勧めします。

    15
    投稿日: 2014.05.02
  • アンドロイドは電気羊の夢を見るか?

    アンドロイドは電気羊の夢を見るか?

    フィリップ・K・ディック,浅倉久志

    早川書房

    「ブレードランナー」とは印象がかなり異なります。

    有名な映画「ブレードランナー」の原作としてあがっているP.K.ディックの日本で最も広く読まれている作品。 正直、おもしろいおもしろくない以前の問題として、何を言いたいのかよくわからない、曖昧模糊とした語り口が私は嫌いです。それでも、いくつか読んだP.K.ディックの作品の中ではこの作品はかなりわかりやすい方だと思います。 映画との共通点は、プロットの芯の部分と舞台のロサンジェルスの雰囲気と登場人物の名前くらいで、ディックはこの映画の原作があなたの作品ですと言われてもぴんとこなかったのではないかと思われます。 ただ、小説全体に漂う八方ふさがりな絶望感と数少ない希望という雰囲気はよく表現できていまして、それを楽しむには良い本だと思います。 しかし、ディックの作品のどこが良いのか、どこがそんなに多くの人を魅了するのか、全然理解できない私でありました。

    6
    投稿日: 2014.04.26
  • 夜市

    夜市

    恒川光太郎

    角川ホラー文庫

    静謐で昭和世代にとって懐かしい雰囲気の異世界の物語

    「夜市」も「風の古道」も静かな印象を受ける美しい異世界物の物語。(賑やかな夜市を指して「静かな」、というのも変な話ですが。)夕方の神社の裏や、普段入らない街角の裏道を見て、異世界への入り口かもと想像をたくましくした昭和世代の子供の頃の妄想をそのまま小説として提示したような雰囲気があります。 ホラー小説大賞を受賞した表題作も良いのですが、この本のために書き下ろした「風の古道」もまた雰囲気ばっちりでおもしろく読めました。 ホラー小説大賞受賞と言うことで、よほど恐いのかと思う人のために一言。全然恐くありません。和風ファンタジーととらえた方が良いかと思います。

    11
    投稿日: 2014.04.13
  • 鴨川ホルモー

    鴨川ホルモー

    万城目学

    KADOKAWA

    映画を見て納得している人はもったいない。

    この作品は映画化されています。映画を見たことがありますが、原作小説の方が100倍はおもしろいです。私は京都で生活したことはないのですが、この小説で描かれている京都は雰囲気満点で、時代的エキゾチックと言えば良いのか?非常に楽しい小説です。

    2
    投稿日: 2014.01.03