blackearowlさんのレビュー
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エンダーのゲーム〔新訳版〕(上)
オースン・スコット・カード, 田中一江 / ハヤカワ文庫SF
未来の戦争に新しい概念を入れたふるびらないSF
3
1977年に発表された短編「エンダーのゲーム」(日本では、短編集「無伴奏ソナタ」に収録)を長編化して1985年に発表された長編小説です。おそらく、カードの出世作と言って良いと思います。大体、短編で物足…りなかった部分がきちんと補われて、さらに続編に続くような伏線が張られています。
今、一読して驚くのが、30年前に書かれたとは思えないほど内容が古びていない点です。それは、まだ、現実の戦争にエンダー・ウィッギンのような立ち位置の子供たちは出てきていませんが、今後の出現の可能性がまだ残されているからだと思います。1987年に初めて読んだときは、おぉ、そうか、と膝をたたいたと同時に、もし私が軍の上層部なら、かなり真剣にエンダー・ウィッギンの養成を考えただろうと思いました。しかし、二流のスペースオペラにならずに、SF小説として面白いのは、エンダー・ウィッギンとその周りの人々の活躍ではなく、その成長に焦点が当たっているからだろうと思います。
続編「死者の代弁者」では、実際に、エンダー・ウィッギンのその後が描かれており、これも面白く読めます。(かなり内容はシリアスですが。)
数年前に映画化されましたが、登場人物の内面の表現では小説にかなうはずもなく、本当に「エンダーのゲーム」を理解するつもりがあるならば、ぜひ本書を読むべきだと思います。 続きを読む投稿日:2015.03.08
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MM9
山本弘 / 創元SF文庫
リアルな異世界のリアルな怪獣小説
2
台風や大地震などの自然災害がない代わりに怪獣(通称M)による災害がちょくちょくある世界。現世界で台風の通路上に日本の国土があるように、(なぜかという説明はないものの)M災害が多発する日本。M災害を予報…し、発生した場合の進路・被害予想などを研究・広報する気象庁(決して自衛隊ではない)のセクションの職員たちが主人公のこの物語。びっくりするほどハードで、きわめて慎重とすら言えるほど超技術や超自然的能力などを持ち出してこない、と学会会長の著者らしい一編。テレビドラマ化されているが、それとは別物と思った方が良いです。話の筋書き上、超人を一人、話の中で出してしまったが、かつての東宝・円谷の特撮映画のように生き生きと動いていて、これもまた楽しい。内容的に子供向け、もしくはジュブナイルとは思えないが、子供の頃ウルトラQやウルトラマンにはまった世代なら、絶対に興味深く読めるはず。 続きを読む
投稿日:2014.06.28
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鴨川ホルモー
万城目学 / KADOKAWA
映画を見て納得している人はもったいない。
2
この作品は映画化されています。映画を見たことがありますが、原作小説の方が100倍はおもしろいです。私は京都で生活したことはないのですが、この小説で描かれている京都は雰囲気満点で、時代的エキゾチックと言…えば良いのか?非常に楽しい小説です。 続きを読む
投稿日:2014.01.03
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ハイドゥナン1
藤崎慎吾 / ハヤカワ文庫JA
まさに、平成の「日本沈没」(オカルト入っていますが)
1
昭和の時代に、故小松左京氏は新書上下二巻で日本を沈めてしまいました。もちろん、主眼が沈没そのものにはなく、天変地異に直面した日本人にあるのは明らかですが、ハイドゥナンを読んで第一に思ったのが、小松左京…氏は実にあっさりと日本を沈めたものだという点です。最新のプレートテクニクス理論を持ってすると、琉球を沈めるだけでも、実はこれだけ手続きが必要だったのです。ただ、読み応えから行けば、まさに平成の「日本沈没」にふさわしい内容だったと思います。
SFパニック小説として読むこともできますが、焦点は、日本の誇るマッドサイエンティストたちが琉球の人たちと協力していかに琉球を救うかにありますが、残念ながら、完全に人間が持っている科学だけで沈没を防ぐことができませんで、かなりオカルトが入っていることは否めないと思います。読み物としては面白い部類に入ると思いますので、小松左京版「日本沈没」のようなハードSFさにこだわらなくても許容できるSF読みでしたら、実におすすめだと思います。
私は、どうしても、このオカルトの部分が最後まで気になりました。で、☆一つ減点。 続きを読む投稿日:2015.03.08
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ぼっけえ、きょうてえ
岩井志麻子 / 角川ホラー文庫
怖いと言うよりおぞましい。
1
第6回日本ホラー小説大賞と第13回山本周五郎賞を受賞した表題作を含む4編の短編集。
しかし、ホラー小説というわりには、それほど怖いとは思えないのですが、日本の村の老人から聞かされる言い伝えのようなじめ…っとした湿度の高いおぞましさをひしひしと感じました。
横溝正史の作品群にあるような(特に、岡山を舞台にした金田一耕助シリーズ)雰囲気と言えばわかってもらえるでしょうか。そういえば、この短編集の舞台は岡山です。
とにかく、表題作のできが良いです。この一編のためにこの本を購入しても良いくらいです。
何度も言うようですが、(水木しげるで鍛えられたこの身には)怖さは感じられませんでした。私の想像力が足りないのかもしれません。 続きを読む投稿日:2014.12.23
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後宮小説
酒見賢一 / 新潮文庫
著者のデビュー作にして、(今のところ)最高傑作
1
第一回日本ファンタジーノベル大賞受賞作で、アニメ「雲のように風のように」の原作です。
正直、アニメは毒気が全くなくて(子供向けだからしょうがないか)、物足りないとお思いのあなた、ぜひこの本を読むべ…きです。アニメでの登場人物の造形は原作にかなり忠実と思われるので、違和感は無いと思われます。
ジャンルとしては、確かに東洋歴史ファンタジーとしか言いようがない作品ですが、リサーチは行き届いていて、魔法とか超自然的なものに逃げることなく、本格的な歴史小説のようなハードな部分も持っている小説です。
だからといって、取っつきにくい部分は全くなく、からっとした乾性の雰囲気の(その当時はまだ概念としてなかった)ライトノベルのような軽い、楽天的な小説です。でも、絶対ジュブナイル小説ではありません。(ジュブナイル向けではないシーンもいくつかあります。)
とにかく、物語世界と登場人物の造形がしっかりしているので、読んでいて引っかかりが全くありません。するすると納得して読めてしまいます。
西洋風のファンタジーに飽きた人、中国を舞台としたファンタジー小説が好きな人はもちろん、大体の読書好きなら読んで損はない万人向けの小説だと思います。
なお、個人的には、日本ファンタジーノベル大賞で最終選考以上に残ったなかで本として刊行された小説では畠中恵氏の「しゃばけ」がベスト、次点が「後宮小説」と思っています。 続きを読む投稿日:2014.12.23