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blackearowlさんのレビュー
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  • ハイドゥナン1

    ハイドゥナン1

    藤崎慎吾

    ハヤカワ文庫JA

    まさに、平成の「日本沈没」(オカルト入っていますが)

    昭和の時代に、故小松左京氏は新書上下二巻で日本を沈めてしまいました。もちろん、主眼が沈没そのものにはなく、天変地異に直面した日本人にあるのは明らかですが、ハイドゥナンを読んで第一に思ったのが、小松左京氏は実にあっさりと日本を沈めたものだという点です。最新のプレートテクニクス理論を持ってすると、琉球を沈めるだけでも、実はこれだけ手続きが必要だったのです。ただ、読み応えから行けば、まさに平成の「日本沈没」にふさわしい内容だったと思います。 SFパニック小説として読むこともできますが、焦点は、日本の誇るマッドサイエンティストたちが琉球の人たちと協力していかに琉球を救うかにありますが、残念ながら、完全に人間が持っている科学だけで沈没を防ぐことができませんで、かなりオカルトが入っていることは否めないと思います。読み物としては面白い部類に入ると思いますので、小松左京版「日本沈没」のようなハードSFさにこだわらなくても許容できるSF読みでしたら、実におすすめだと思います。 私は、どうしても、このオカルトの部分が最後まで気になりました。で、☆一つ減点。

    1
    投稿日: 2015.03.08
  • エンダーのゲーム〔新訳版〕(上)

    エンダーのゲーム〔新訳版〕(上)

    オースン・スコット・カード,田中一江

    ハヤカワ文庫SF

    未来の戦争に新しい概念を入れたふるびらないSF

    1977年に発表された短編「エンダーのゲーム」(日本では、短編集「無伴奏ソナタ」に収録)を長編化して1985年に発表された長編小説です。おそらく、カードの出世作と言って良いと思います。大体、短編で物足りなかった部分がきちんと補われて、さらに続編に続くような伏線が張られています。 今、一読して驚くのが、30年前に書かれたとは思えないほど内容が古びていない点です。それは、まだ、現実の戦争にエンダー・ウィッギンのような立ち位置の子供たちは出てきていませんが、今後の出現の可能性がまだ残されているからだと思います。1987年に初めて読んだときは、おぉ、そうか、と膝をたたいたと同時に、もし私が軍の上層部なら、かなり真剣にエンダー・ウィッギンの養成を考えただろうと思いました。しかし、二流のスペースオペラにならずに、SF小説として面白いのは、エンダー・ウィッギンとその周りの人々の活躍ではなく、その成長に焦点が当たっているからだろうと思います。 続編「死者の代弁者」では、実際に、エンダー・ウィッギンのその後が描かれており、これも面白く読めます。(かなり内容はシリアスですが。) 数年前に映画化されましたが、登場人物の内面の表現では小説にかなうはずもなく、本当に「エンダーのゲーム」を理解するつもりがあるならば、ぜひ本書を読むべきだと思います。

    3
    投稿日: 2015.03.08
  • 天地明察(特別合本版)

    天地明察(特別合本版)

    冲方丁

    角川文庫

    素直に面白く読める。

    和算を大成した関孝和のことは学校で習ったことをある程度覚えていましたが、安井算哲という人物については、正直、この本を読むまでほとんど知りませんでした。日本独自の暦を作成するにあたり大きな貢献をした偉大な学者と言えそうです。もともとは江戸城で将軍の前で御前囲碁試合を行う当時としては最強の碁打ちの一人だったようです。現在のプロ棋士に数学者のような理論派の棋士が何人かいますが、安井算哲という人もそんな頭の構造を持っていた人なようで、碁所としてつとめる傍ら、精密な測量と複雑な算術を必要とする暦学を修得しています。 この小説の特徴は、作者が登場人物各人にそれぞれ思い入れをいれるというか、公平な目配りをしているというか、軽く扱われている登場人物がいない点にあるように思います。ですから、関孝和や徳川光圀のような脇役も実に生き生きと動いていて、読者を飽きさせないだけでなく、(一つ間違えば主人公をくってしまうような)独特の緊張感を醸し出しているように思います。 映画は見ていませんが、結構ビジュアルな描写が多いので、自分なりのシーンを思い浮かべながら楽しく読める小説だと思います。本屋大賞受賞作品に外れはほとんど無いといえますが、この小説も個人的には「当たり」でした。 すべての本読みにおすすめです。但し、冲方丁ファンには、この冲方丁はややおとなしく感じるかもしれません。

    5
    投稿日: 2014.12.23
  • ぼっけえ、きょうてえ

    ぼっけえ、きょうてえ

    岩井志麻子

    角川ホラー文庫

    怖いと言うよりおぞましい。

    第6回日本ホラー小説大賞と第13回山本周五郎賞を受賞した表題作を含む4編の短編集。 しかし、ホラー小説というわりには、それほど怖いとは思えないのですが、日本の村の老人から聞かされる言い伝えのようなじめっとした湿度の高いおぞましさをひしひしと感じました。 横溝正史の作品群にあるような(特に、岡山を舞台にした金田一耕助シリーズ)雰囲気と言えばわかってもらえるでしょうか。そういえば、この短編集の舞台は岡山です。 とにかく、表題作のできが良いです。この一編のためにこの本を購入しても良いくらいです。 何度も言うようですが、(水木しげるで鍛えられたこの身には)怖さは感じられませんでした。私の想像力が足りないのかもしれません。

    1
    投稿日: 2014.12.23
  • 後宮小説(新潮文庫)

    後宮小説(新潮文庫)

    酒見賢一

    新潮文庫

    著者のデビュー作にして、(今のところ)最高傑作

     第一回日本ファンタジーノベル大賞受賞作で、アニメ「雲のように風のように」の原作です。  正直、アニメは毒気が全くなくて(子供向けだからしょうがないか)、物足りないとお思いのあなた、ぜひこの本を読むべきです。アニメでの登場人物の造形は原作にかなり忠実と思われるので、違和感は無いと思われます。  ジャンルとしては、確かに東洋歴史ファンタジーとしか言いようがない作品ですが、リサーチは行き届いていて、魔法とか超自然的なものに逃げることなく、本格的な歴史小説のようなハードな部分も持っている小説です。  だからといって、取っつきにくい部分は全くなく、からっとした乾性の雰囲気の(その当時はまだ概念としてなかった)ライトノベルのような軽い、楽天的な小説です。でも、絶対ジュブナイル小説ではありません。(ジュブナイル向けではないシーンもいくつかあります。)  とにかく、物語世界と登場人物の造形がしっかりしているので、読んでいて引っかかりが全くありません。するすると納得して読めてしまいます。  西洋風のファンタジーに飽きた人、中国を舞台としたファンタジー小説が好きな人はもちろん、大体の読書好きなら読んで損はない万人向けの小説だと思います。  なお、個人的には、日本ファンタジーノベル大賞で最終選考以上に残ったなかで本として刊行された小説では畠中恵氏の「しゃばけ」がベスト、次点が「後宮小説」と思っています。

    1
    投稿日: 2014.12.23
  • スローカーブを、もう一球

    スローカーブを、もう一球

    山際淳司

    角川文庫

    スポーツは人間ドラマだ。

    スポーツは人間ドラマだ、と改めて思わされるノンフィクションでした。取材も結構深くなされており、有名な(と言うより、山際淳司氏を有名にした)「江夏の21球」など、一球ごとに刻々と変わる状況を忠実(かどうかは本人しかわからないが)に活写しています。感動すること請け合い。ただ、ちょっと内容が古いので、若い人は読んでもちんぷんかんぷんかも。

    1
    投稿日: 2014.10.04
  • 天使と悪魔(上)

    天使と悪魔(上)

    ダン・ブラウン,越前敏弥

    角川文庫

    反物質に対する過小評価はあるけどおもしろいサスペンス

     映画化されました。その公開直後、わざわざCERNが「映画にあるようなことないし、不可能だ」とわざわざ記者会見するほどの影響を与えました。  念のために言うと、CERNは実在しますし、反物質の研究も主要な研究テーマの一つとして行っていることも事実です。しかし、この小説にあるような効果が出るまでの反物質は作成されたことがないし、今後も当分は不可能でしょう。  また、この小説のラストのような事象が起きたら、ラングドン教授だけでなく、バチカン市国の敷地内に居た全員が強力なガンマ線で被爆しています。おそらく、ほとんど死ぬでしょう。  ということで、ダン・ブラウンはあまり先端科学に強くないことがわかりますが、そのことがこの小説の価値を損なうことはほとんどありません。テーマは、むしろ「科学と宗教の葛藤」です。これは中世以来の欧米の永遠のテーマの一つです。  この小説はラングドン教授シリーズの第一作とのことですが、この第一作にしてすでにキャラクターは完成しています。「ダ・ヴィンチ・コード」も読みましたが、リーダビリティはどちらも同じくらい読みやすいですが、スピード感、サスペンス感は こちらの方に軍配が上がると思われます。日本語翻訳も完璧で、何の違和感もなく読めます。  「ダ・ヴィンチ・コード」を読んでおもしろいと思った方、この本もおもしろいです、かなりおすすめです。ダン・ブラウンは読んだことがない方、ミステリやパズルが好きな方なら、絶対おすすめです。  はまると一気読みして徹夜すること請け合いです。注意しましょう。

    0
    投稿日: 2014.09.27
  • 福家警部補の挨拶

    福家警部補の挨拶

    大倉崇裕

    創元推理文庫

    日本における刑事コロンボの正統的後継者

     TVシリーズを全部見てから、「挨拶」「再訪」を読みました。  刑事コロンボの本放送は小学校~中学校の時にほとんど全部を見て、二見書房の新書版ノベライズもその当時に10冊くらい読んでいます。  作者は、刑事コロンボに影響を受けたことを隠していませんが、隠しようがないほど「刑事コロンボ」です。しかも、少なくとも最初の二冊に関しては、外れなし。全く見事に倒叙推理小説が展開されています。  しかも、コロンボ警部は自白調書を取ればそれで満足するたちなようで、本人の自白以外は物証がない(裁判で有罪にできるかどうか怪しい)場合もいくつか見受けられますが、福家警部補はその点は気を使っているようで、裁判員も納得するような証拠をきっちり集めています。あとは、日本の女性であることと、浮浪者と間違えられるほど汚い格好はしていない(しかし、保険か宗教の勧誘員とは間違えられる)ことと、チリは食べないところが違います。  サブカルチャーに詳しく、酒豪で、何日徹夜しても全然平気な不思議な女性、福家警部補に関する設定は今後もまだまだ出てきそうで、今後も楽しみです。  今年テレビ化されましたが、「挨拶」「再訪」から脚本を起こした分に関しては、基本的に原作に忠実で、檀れいの顔を思い浮かべながら読むのもまた一興と思われます。また、テレビドラマを見てから原作を読んでも、興ざめするところは全然ありません。安心して読んでください。  リーダビリティはすごく良いです。徹夜しなくても一冊読めると思いますが、福家警部補ならぬ身では、寝不足には注意が必要です。忠告しましたよ。

    0
    投稿日: 2014.08.23
  • マルドゥック・スクランブル The 1st Compression─圧縮 〔完全版〕

    マルドゥック・スクランブル The 1st Compression─圧縮 〔完全版〕

    冲方丁

    早川書房

    ラジカルな冲方節が炸裂

     私は、「天地明察」の前に「マルドゥック・スクランブル」と続編(正確には前日譚)の「マルドゥック・ヴェロシティ」を読んでいまして、「天地明察」を読んで、冲方丁、ずいぶんお行儀が良いじゃんと思ったクチです。  SF読みの私としては、冲方丁の入門書としては、「マルドゥック・スクランブル」をおすすめします。「スクランブル」と「ヴェロシティ」、計6冊を読破できた方は、もうどの冲方丁の作品を読んでも平気です。私が保証します。ちなみに、「ヴェロシティ」は「スクランブル」よりもっとラジカルでぶっ飛んでいます。  ハードSFファンの私としては、構築されている作品世界の完成度とガジェットやディテイルの科学的整合性が気になるのですが、前者は満点、後者は赤点と言えると思います。大体、ウフコックという金色のネズミ、すでにあのドラえもんを超えています。有り得ません。ボイルドという大男、最強の超能力者です。あのターミネーターくらいなら瞬殺できます。これで生身の人間だというのですから、有り得ません。しかし、この有り得なさが、一見ユートピアな作品世界の「闇」や「裏」を象徴し、作品全体にピンと張り詰めた緊張感を与えているのもまた事実です。他にもこの作品には異形のものが出てきますが、どれも作品を盛り上げるのに役立っています。  ところで、冲方丁氏、異形のものとか、変態とかを案出・描写する部分に才能があります。「スクランブル」では(闇の)畜産業者がそれに当たりますが、本にして大丈夫かと思うほどのすさまじさです。ここもおすすめ。  そして、作品の約1/3を占めるカジノのシーン、冲方丁氏はどこで取材したのか、非常にシビアでリアルです。私はこの部分を読んで、恐ろしくなって、海外旅行に行っても決してカジノには近づくまいと決心しました。世の中のカジノの全部がこんな感じではないのでしょうが、これに近いのではないかと思わせる著者独自の納得できる考察がありました。あらゆる意味でプロの世界は厳しいのです。  映像作品は未見ですが、両方こなしたという人の話を総合すると、本と映像、どちらが先でも問題ないようです。ただ、この作品、壮大すぎて想像しきれない部分もありますので、初心者は映像を見てからの方が取っつきやすいかもしれません。  何にしても傑作です。ぜひご一読を。

    0
    投稿日: 2014.08.11
  • 日本沈没(上)

    日本沈没(上)

    小松左京

    光文社文庫

    小松左京誌の代表作にして最高傑作

     私が思うに、小松左京氏の作品には傾向が二つあるように思います。一つは、「ゴルディアスの結び目」や「虚無回廊」のような、思弁的、哲学的なSF、もう一つは、「さよならジュピター」や「首都消失」のような本格ハードSFです。「日本沈没」は、どちらかというと後者の部類に入る小説です。しかし、読むに理系のセンスが必要かというとそういうわけではなく、(ちょっと子供には刺激的な表現もありますが、)中学生でも読める平易な内容です。しかし、行われた取材・ディテールの積み重ねは綿密そのもので、当時の修士論文並みの内容があると評されてもいます。  小松左京氏を一気にベストセラー作家に押し上げた人気作ですが、映画化も二回(1973年(藤岡弘主演)と2006年(草薙剛主演))、テレビドラマ化も1974年(村野武範主演)になされており、それぞれヒットしています。なお、原作に忠実なのは1973年の映画版のみで、あとは設定を使った別物と思った方が良いです。  読んだことのない方は(特に、2006年草薙剛主演版の映画を見て、初めて「日本沈没」に接した方は)、この機会に是非読んでみてください。内容は重いし、ハッピーエンドでもないですが、おもしろさは保証します。

    1
    投稿日: 2014.07.26