にしむらさんのレビュー
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空を見上げる古い歌を口ずさむ
小路幸也 / 講談社文庫
昔々、あるところ(北海道だけど)に、作家を目指す男が住んでおりました。
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昔話をします。
第29回メフィスト賞受賞作にして、小路幸也のデビュー作でもある本作が世に出たのは2003年4月、そう、もうデビューから10年も経つんだ。それに先立つこと6年の1997年5月、当時わ…たしがやっていた本の感想を載せていたHPを見たよ、というメールを小路さんからもらい、それ以来メールのやりとりをしたり、何回か実際に会ったり、最近ではtwitterで絡んだり?しながらのつきあいも、こちらはもう16年になる。
当時から小路さんは作家志望で、「小説すばる」の新人賞に応募しては、最終候補までは残るけど結局受賞は逃す、ということが何度かあり、本人は「決定力不足のサッカー日本代表と呼んでくれ」などと自嘲していたけれど、もちろん内心はいろいろと思うところがあったんじゃないかな。周りの我々(わたしのHPを通じて知り合ったグループ。その中の一人に後の海猫沢めろん先生もいたけど、それはまた別のお話)は無責任に励ますことしか出来なかったけど、少しでもそれが励みになっていたのなら嬉しいな。
そんな小路さんがメフィスト賞を受賞してデビューする、という話を聞いて、当時の我々は少なからず驚いたものだった。もちろんミステリ好きなのは知ってはいたけれど、だってメフィスト賞だよ? 舞城王太郎に佐藤友哉に西尾維新だよ? いったいどんな作品なんだ、早く読みたいぜ、というわけで、待ちに待った発売日の仕事帰り、当時の職場があった渋谷中の書店を巡り「今日発売の、小路幸也の『空を見上げる古い歌を口ずさむ』という本はありませんか? 今度のメフィスト賞受賞作なんですけど」と書店員さんに片っ端から尋ねて回る、というミッションをこなして遂に手に入れたのだった(口コミって大事よね)。
さて、こうして手にした小路幸也のデビュー作『空を見上げる古い歌を口ずさむ』なのだが、わたしの感想を書くのは控えよう(をい)。だって、もう何年もデビューを待望していて、今度こそはいけるかも、あれ? いつの間にかあの話は立ち消えに? みたいなことがあった後でようやく手にしたデビュー作だったのだから、冷静な感想なんて書けるわけがないのだ。ただ一つだけ言えるのは、ここから全てが始まり、そして10年経った今もまだ続いているのは、とても幸せなことなんだろうな、と言うこと。そしてこの先の10年、20年も、その作品で楽しませてくれることを期待してるぜ、義兄弟。 続きを読む投稿日:2013.12.14
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know
野崎まど / ハヤカワ文庫JA
分かりやすいストーリーと分かりやすい結末と分かりやすいオチ
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いきなり読み手の反感買いまくりな主人公らしき男が登場して読むのを止めようかと思いましたが、そこはそれ、わたしももういい大人なので最後まで読みましたさ。
そしたらなんでしょうね、これは、なんて読みや…すいんでしょ。分かりストーリーに分かりやすい結末に分かりやすいオチ。もちろんだからダメなんてことは全然無いので、SFがあまり得意じゃないと思っている人は、ライトノベルの延長だと思って読んでみるといいかも。
ただ、どちらかと言えば「何が書いてあるのかよく分からないけど、なんか凄いことだけは分かる」お話の方が、SFっぽい気がするのん。個人的には、ね。 続きを読む投稿日:2013.12.10
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あなたの魂に安らぎあれ
神林長平 / ハヤカワ文庫JA
初めて神林長平を読む人にうってつけの一作
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満を持して神林長平作品が一気にReader Storeに入荷(電子書籍でも「入荷」って言うのかしらん? んー、「入電」とか?)したようで、やれめでたい。
OVA化もされた「戦闘妖精・雪風」シリー…ズ、アプロが可愛い(?)「敵は海賊」シリーズなどのシリーズ物や、日本SF大賞受賞作の「言壺」、重厚長大な「猶予の月」、デビュー作の「狐と踊れ」が収められた同題の短編集などなど、どれから読んだらいいのかリンダ困っちゃう(古)、という割とよくあるタイプのあなたにお薦めなのが本作、「あなたの魂に安らぎあれ」から始まり、「帝王の殻」、「膚の下」と続くいわゆる「火星三部作」です。
本作は神林長平の長編第一作でもあり、わたしが初めて読んだ神林長平作品でもあるのですが、布団の中で読みながらとうとう途中で止められず明け方に読み終えた後もしばし呆然とした後、うわなんだこれすげえ読み終えてこんな気分にさせられたのは小松左京の「果てしなき流れの果てに」以来かもしれんうわーすごい本読んじゃったなこれは生涯のオールタイムベスト20に確実に入る一冊になりそうだうわーまいった、などと眠気なぞ吹き飛んでしまうほど興奮したのを昨日のことのように覚えています。
と言うわけなので、まだ読んでない人は読むといいよ。そんで「雪風」でも「敵は海賊」でも、なんでもいいから手当たり次第神林長平作品に手を出してハマればいいさ! じゃ、グッドラック!! 続きを読む投稿日:2013.11.15
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リライト
法条遥 / ハヤカワ文庫JA
王道か邪道か
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「バクマン。」で主人公の二人が、自分たちが目指すべきなのは王道か邪道か、みたいな議論をするシーンが何回かありまして。もちろん王道だから良いとか、邪道だから悪いとかいうことではなく、あくまでも売れるた…めの<戦略>としてどちらを選択するか、というようなことを話し合うわけです。
で、本作なわけですが、これはもう思いっきり邪道ですね。この手のお話を読んだ後に残る余韻もへったくれもありません。もちろんだからダメなわけでは全然無く、「あり」か「なし」かで言ったら「あり」です。特に、NHK少年ドラマシリーズで「タイムトラベラー」(筒井康隆の「時をかける少女」を原作とする一番最初の映像化作品)をリアルタイムで観たことがあるような、すれっからしのSFファンにしてみれば、ふふん、そうきますか、なるほどね、などとツッコミを入れつつ楽しく?読めるのではないでしょうか。
ただ、邪道というのは王道があってこその邪道(逆もまた真ですが)、とも思うので、あまりこの手のタイムトラベル物を読んだことが無い人には勧めません。例えばケン・グリムウッドの「リプレイ」とか、北村薫の「《時と人》三部作」とか、高畑京一郎の「タイム・リープ-あしたはきのう」とか、新城カズマの「サマー/タイム/トラベラー」とかが未読だったら、先にそちらを読むべきかと。まぁ、他にもこのジャンルでの佳作、傑作は多々あるのですが、ある程度の代表作と言われる作品を読んでから読む方が楽しめる、本作はそういう作品だと思います。 続きを読む投稿日:2013.11.11
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マリアビートル
伊坂幸太郎 / 角川文庫
ドキっ!屍体だらけの新幹線、スネークも出るよ!
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我ながら、ひどいタイトルだ。
さて、最近Readerで読み終えたばかりな本のレビューなので、まだちゃんとストーリーを覚えてるから大丈夫です(何が?)。「グラスホッパー」に続く「インセクトシリーズ…」の2作目(あ、「インセクト(昆虫)シリーズ」と言うのは今わたしが付けました。みんなも使っていいぜ)ですが、1作目の「グラスホッパー」を読んでなくても特に問題はありません。わたしも読んだはずですが、ああ、そう言えばそんなキャラがいたような……いなかったような……、とずーっとぼやっとしつつ読んでしまいましたが、面白かったですよ?
ただ、伊坂幸太郎は割と久しぶりに読んだのですが、あれ?こんなにギャグがあからさまだったっけ?と思いました。もうちょっと唇の端だけで「ニヤリ」とする笑いだったような印象があるのですが、大口を開けて「ぎゃはは」的な笑いが多かったかな。で、わたしが好きな伊坂幸太郎は、前者の笑いの方なので、それがちょっと不満かも。ただ、まぁ、ラスト近くの「自分の幸運を、得体の知れない不運の怪物がかぶりつき、食い散らかしていく恐怖だ。」というフレーズには大爆笑させられたので、★四つで。 続きを読む投稿日:2013.11.03
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あなたに似た人
ロアルド・ダール, 田村隆一 / ハヤカワ・ミステリ文庫
あなたにも似た人、わたしにも似た人
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なにやら二分冊の[新訳版]とやらも出ているようですが、わたしが読んだのはこちらの版なので、こちらでレビューを書きます。
そんなわけで、江戸川乱歩の造語であるところの「奇妙な味」と呼ばれる作品は多…々ありますが、本作はその中でも代表的な短編集と言ってよいでしょう。なにせ記憶力にモンダイがあり、読んだ本のストーリーを端から忘れるこのわたしですら、「味」、「南から来た男」、「おとなしい凶器」と、三篇ものストーリーを覚えているのですから! もっとも、全部で十五篇収録されているので、1/5しか覚えてないんですけどね。
それはさておき、この三篇はホラーでもなくミステリでもなくSFでもなく、まさに「奇妙な味」としか呼べない傑作短篇で、普段あまり海外物の短編集などに手を出したことが無い人には特にお薦めです。あと早川書房は<異色作家短篇集>を電子書籍化するなら、マシスンの「13のショック」とフィニィの「レベル3」を早く電子化するように。 続きを読む投稿日:2013.10.26