
シャイニング(上)
スティーヴン・キング,深町眞理子
文春文庫
スティーブン・キングなんか怖くない
キング先生、巷では「スティーブン・キング・オブ・ホラー」とか言われてますけど、どちらかと言うとサスペンス風かダーク・ファンタジー風な作品の方が多くて、ガチのホラーはそんなに多くはないような気がします(個人の感想であり、感じ方には個人差があります)。ただし数は少ないのですが、「IT」と「呪われた町」と、そしてこの「シャイニング」はガチで怖いです。あの読みながら鳥肌が立ちっぱなしな感じはなかなか他の作家では味わえません。 で、本作の「シャイニング」です。映画では、ジャック・ニコルソン演じる主人公のジャック・トランスが斧でドアを壊して顔を覗かせてるビジュアルが強烈に印象に残っていますが、実は原作と映画では結構な差異があったりします。どっちも怖かったのですが、わたくし的には想像を巡らす余地がより多い分、原作の方が怖かったような気がするのですが、なにぶん読んだのが前世紀なものであんまし覚えてなかったりして(てへ)。 でも長大な作品が多くて、電車の中で吊革につかまり立ちしながら読んでいて腕がやられた被害者が多い(ちなみにわたしは「IT」のハードカバーでやられました)ことでも知られるキング作品こそ電子書籍向けだと思うので、今回の電子化には含まれなかった「IT」とか、入手困難な「呪われた町」とか、泣かせにきた作者の狙い通りにまんまと泣かされる「グリーンマイル」とかどんどん電子書籍化されることを希望します。 最後に、「スティーブン・キング絶賛!」みたいな帯が巻かれてる海外作品をよく見かけますが、「キングは誰でも褒める」ので、あんまり信用しない方がいいですぞ。これ豆な。
5投稿日: 2015.05.06
機龍警察 火宅
月村了衛
早川書房
「機龍警察」? ああ、「パトレイバー」のちょっと小さいバージョンね、そんなふうに考えていた時期がわたしにもありました。
日本SF大賞&吉川英治文学新人賞を受賞し、わたしの心の中の「今、一番続きが楽しみなシリーズ・2015年春」、堂々の第一位でもある「機龍警察」シリーズ初の短編集。 どこか高村薫の「合田雄一郎」シリーズや横山秀夫の諸作を思わせる表題作、ライザやユーリが警視庁特捜部に入る以前のストーリーである「済度」そして「雪娘」、まさかこのシリーズでこんなに爆笑させられるとは思いもよらなかった宮近特捜部理事官受難の巻な「勤行」、そしてラストの1行で本シリーズに待ち構える闇の深さを予感させる「化生」と、短篇ながらどの収録作もバラエティに富んだ読み応え十分な作品ばかりでした。 もっとも、長編の方を追いかけている人ならわたしが薦めるまでもなくとっくに読んでいるでしょうし、このシリーズを初めて読むなら、やはり長編第一作の「機龍警察」(ちょうど「完全版」も出たことだし、ってなんだよ「完全版」て?)から読むべきだとは思うので、本作単独ではなかなかお薦めしにくいのですが、ともかくこのシリーズは読んで後悔することは無いと断言しておきます。Kindle版は3/27に発売予定の最新作、月村了衛版「ダイハード」?な「槐(エンジュ)」も楽しみです。
3投稿日: 2015.03.21
紅 ~歪空の姫~
片山憲太郎,山本ヤマト
ダッシュエックス文庫DIGITAL
紫かわいいよ紫
前作の「紅 ~醜悪祭~」からもう6年経ってしまったそうですが、6年と言うと「『崩月流甲一種第二級戦鬼、紅真九郎』!うおー、 かっけー!!」と(心の中で)叫びつつ読んでいた中二病を患っていた人もとっくに成人して、「『紅』? まだやってたんだ、あれ」と言いそうなくらいの歳月ではあります。原作が出ないもんだから、途中からオリジナル展開になっていたコミックス版(これはこれで割と面白かったのですが)もいつの間にか完結していて、もう続きは読めないものと諦めていたので、ダッシュエックス文庫から続編が刊行されると聞いて、人間真面目に生きていれば良いこともあるんだなあ、としばし感慨に耽ったものでした(ごめん、ウソついた。そこまでしみじみしなかったわ)。 さて、そんなわけで久方ぶりの本作ですが、なんで急に悪宇商会と手打ちしてるんだよとか本作のヒロインが登場した途端にその後の展開が全部分かったような気になったけど最後までその通りに話が進んじゃったよとか紫かわいいよ紫とか、いろいろと言いたいことはあるのですが、復帰第一作目としてはまぁ、こんなもんじゃね? なによりこれが売れてくれないと続きが読めなくなりそうだし、読めてもまた6年後なんてことになるとそれまでわたしが生きていられるか割と際どいので、みんなで読もうお願いだから。 ただ、本作からいきなり読んでも正直分わけが分からないよ!状態だと思うので、どうせ読むなら全作読んでもたったの4作なので最初から読むことをお薦めします。とりあえず、紫かわいいよ紫と(心の中で)呟きながら読めばいいと思うよ。 終わりだよ~ (o・∇・o)/
2投稿日: 2015.03.21
恋する女たち
氷室冴子,峯村良子
集英社コバルト文庫
♪だけど好きよ 好きよ好きよ誰よりも好きよ
表紙の写真は若かりし頃の斉藤由貴です。大森一樹監督で映画化された時のヒロインでしたね。共演していたのが高井麻巳子(現・秋元康の嫁)、相楽ハル子(元・ビー玉のお京)、斉藤由貴演じるヒロインが片思いする野球部のエースが柳葉敏郎(!)だという辺りが時代を感じさせます。 とは言え、確かに配役は時代を感じさせますが、原作の小説の方はさすが氷室冴子、普遍的な物語はいくら時を経ても決して古びないことを教えてくれます。女子高校生三人組の三人それぞれの恋の行方は、同世代の若い読者にも、あるいは高校時代なんて遙か昔になってしまったもう若くない(失礼)読者にも、共感できるところがあるのではないでしょうか。 シリーズ物が多い作者ですが、本作はこの1作で完結しているので、初めて読む氷室冴子作品としては取っつきやすいかと思います。読んでみて気に入ったら、「クララ白書」、「アグネス白書」あたりもお薦めです。 少女小説でデビューし、一般小説に進む作家が多い中で(例えば山本文緒とか唯川恵とか。桜庭一樹はちょっと違うかな?)、少女小説家としての生涯を全うした作者ですが、やはり51歳という早すぎる死は残念であり、このまま忘れられてしまうのは惜しい作品ばかりだと思います。そう、『少女小説家は死なない!』のです。
0投稿日: 2014.02.14
解体屋外伝
いとうせいこう
河出書房新社
お前は暗示にかけられていないと断言できるのか?
最近、久々の小説「想像ラジオ」が芥川賞候補になり、再び注目を集めているいとうせいこうの初期作品。初版が1993年ということから、もう21年前の作品になりますが、初めて読んだ時の衝撃は今でもはっきりと覚えています。 テーマは「洗脳」で、今でこそカルト教団の事件などを経ていることから特に目新しい単語ではありませんが、当時はまだ一般的とは言えない状況を逆手に取ったような造語、例えば洗脳のプロを「洗濯屋(ウォッシャー)」、洗脳外しのプロを「解体屋(デプログラマー)」と呼ぶセンスが無茶苦茶格好よくて、読みながら痺れました。テーマがテーマだけに、小難しそうなストーリーかと思われるかもしれませんが、そんなことは決してなく、いとうせいこうを初めて読むにはうってつけの<冒険活劇愉楽小説>になっていると思います。 そして、読み終た読者に対して発せられる「お前は暗示にかけられていないと断言できるのか?」という問いに、あなたはなんと答えますか?
2投稿日: 2014.02.01
空を見上げる古い歌を口ずさむ
小路幸也
講談社文庫
昔々、あるところ(北海道だけど)に、作家を目指す男が住んでおりました。
昔話をします。 第29回メフィスト賞受賞作にして、小路幸也のデビュー作でもある本作が世に出たのは2003年4月、そう、もうデビューから10年も経つんだ。それに先立つこと6年の1997年5月、当時わたしがやっていた本の感想を載せていたHPを見たよ、というメールを小路さんからもらい、それ以来メールのやりとりをしたり、何回か実際に会ったり、最近ではtwitterで絡んだり?しながらのつきあいも、こちらはもう16年になる。 当時から小路さんは作家志望で、「小説すばる」の新人賞に応募しては、最終候補までは残るけど結局受賞は逃す、ということが何度かあり、本人は「決定力不足のサッカー日本代表と呼んでくれ」などと自嘲していたけれど、もちろん内心はいろいろと思うところがあったんじゃないかな。周りの我々(わたしのHPを通じて知り合ったグループ。その中の一人に後の海猫沢めろん先生もいたけど、それはまた別のお話)は無責任に励ますことしか出来なかったけど、少しでもそれが励みになっていたのなら嬉しいな。 そんな小路さんがメフィスト賞を受賞してデビューする、という話を聞いて、当時の我々は少なからず驚いたものだった。もちろんミステリ好きなのは知ってはいたけれど、だってメフィスト賞だよ? 舞城王太郎に佐藤友哉に西尾維新だよ? いったいどんな作品なんだ、早く読みたいぜ、というわけで、待ちに待った発売日の仕事帰り、当時の職場があった渋谷中の書店を巡り「今日発売の、小路幸也の『空を見上げる古い歌を口ずさむ』という本はありませんか? 今度のメフィスト賞受賞作なんですけど」と書店員さんに片っ端から尋ねて回る、というミッションをこなして遂に手に入れたのだった(口コミって大事よね)。 さて、こうして手にした小路幸也のデビュー作『空を見上げる古い歌を口ずさむ』なのだが、わたしの感想を書くのは控えよう(をい)。だって、もう何年もデビューを待望していて、今度こそはいけるかも、あれ? いつの間にかあの話は立ち消えに? みたいなことがあった後でようやく手にしたデビュー作だったのだから、冷静な感想なんて書けるわけがないのだ。ただ一つだけ言えるのは、ここから全てが始まり、そして10年経った今もまだ続いているのは、とても幸せなことなんだろうな、と言うこと。そしてこの先の10年、20年も、その作品で楽しませてくれることを期待してるぜ、義兄弟。
1投稿日: 2013.12.14
know
野崎まど
ハヤカワ文庫JA
分かりやすいストーリーと分かりやすい結末と分かりやすいオチ
いきなり読み手の反感買いまくりな主人公らしき男が登場して読むのを止めようかと思いましたが、そこはそれ、わたしももういい大人なので最後まで読みましたさ。 そしたらなんでしょうね、これは、なんて読みやすいんでしょ。分かりストーリーに分かりやすい結末に分かりやすいオチ。もちろんだからダメなんてことは全然無いので、SFがあまり得意じゃないと思っている人は、ライトノベルの延長だと思って読んでみるといいかも。 ただ、どちらかと言えば「何が書いてあるのかよく分からないけど、なんか凄いことだけは分かる」お話の方が、SFっぽい気がするのん。個人的には、ね。
1投稿日: 2013.12.10
あなたの魂に安らぎあれ
神林長平
ハヤカワ文庫JA
初めて神林長平を読む人にうってつけの一作
満を持して神林長平作品が一気にReader Storeに入荷(電子書籍でも「入荷」って言うのかしらん? んー、「入電」とか?)したようで、やれめでたい。 OVA化もされた「戦闘妖精・雪風」シリーズ、アプロが可愛い(?)「敵は海賊」シリーズなどのシリーズ物や、日本SF大賞受賞作の「言壺」、重厚長大な「猶予の月」、デビュー作の「狐と踊れ」が収められた同題の短編集などなど、どれから読んだらいいのかリンダ困っちゃう(古)、という割とよくあるタイプのあなたにお薦めなのが本作、「あなたの魂に安らぎあれ」から始まり、「帝王の殻」、「膚の下」と続くいわゆる「火星三部作」です。 本作は神林長平の長編第一作でもあり、わたしが初めて読んだ神林長平作品でもあるのですが、布団の中で読みながらとうとう途中で止められず明け方に読み終えた後もしばし呆然とした後、うわなんだこれすげえ読み終えてこんな気分にさせられたのは小松左京の「果てしなき流れの果てに」以来かもしれんうわーすごい本読んじゃったなこれは生涯のオールタイムベスト20に確実に入る一冊になりそうだうわーまいった、などと眠気なぞ吹き飛んでしまうほど興奮したのを昨日のことのように覚えています。 と言うわけなので、まだ読んでない人は読むといいよ。そんで「雪風」でも「敵は海賊」でも、なんでもいいから手当たり次第神林長平作品に手を出してハマればいいさ! じゃ、グッドラック!!
8投稿日: 2013.11.15
マリアビートル
伊坂幸太郎
角川文庫
ドキっ!屍体だらけの新幹線、スネークも出るよ!
我ながら、ひどいタイトルだ。 さて、最近Readerで読み終えたばかりな本のレビューなので、まだちゃんとストーリーを覚えてるから大丈夫です(何が?)。「グラスホッパー」に続く「インセクトシリーズ」の2作目(あ、「インセクト(昆虫)シリーズ」と言うのは今わたしが付けました。みんなも使っていいぜ)ですが、1作目の「グラスホッパー」を読んでなくても特に問題はありません。わたしも読んだはずですが、ああ、そう言えばそんなキャラがいたような……いなかったような……、とずーっとぼやっとしつつ読んでしまいましたが、面白かったですよ? ただ、伊坂幸太郎は割と久しぶりに読んだのですが、あれ?こんなにギャグがあからさまだったっけ?と思いました。もうちょっと唇の端だけで「ニヤリ」とする笑いだったような印象があるのですが、大口を開けて「ぎゃはは」的な笑いが多かったかな。で、わたしが好きな伊坂幸太郎は、前者の笑いの方なので、それがちょっと不満かも。ただ、まぁ、ラスト近くの「自分の幸運を、得体の知れない不運の怪物がかぶりつき、食い散らかしていく恐怖だ。」というフレーズには大爆笑させられたので、★四つで。
2投稿日: 2013.11.03
あなたに似た人
ロアルド・ダール,田村隆一
ハヤカワ・ミステリ文庫
あなたにも似た人、わたしにも似た人
なにやら二分冊の[新訳版]とやらも出ているようですが、わたしが読んだのはこちらの版なので、こちらでレビューを書きます。 そんなわけで、江戸川乱歩の造語であるところの「奇妙な味」と呼ばれる作品は多々ありますが、本作はその中でも代表的な短編集と言ってよいでしょう。なにせ記憶力にモンダイがあり、読んだ本のストーリーを端から忘れるこのわたしですら、「味」、「南から来た男」、「おとなしい凶器」と、三篇ものストーリーを覚えているのですから! もっとも、全部で十五篇収録されているので、1/5しか覚えてないんですけどね。 それはさておき、この三篇はホラーでもなくミステリでもなくSFでもなく、まさに「奇妙な味」としか呼べない傑作短篇で、普段あまり海外物の短編集などに手を出したことが無い人には特にお薦めです。あと早川書房は<異色作家短篇集>を電子書籍化するなら、マシスンの「13のショック」とフィニィの「レベル3」を早く電子化するように。
1投稿日: 2013.10.26
