
蜩ノ記
葉室麟
祥伝社文庫
日本人のこころに響く秀作
江戸中期の豊後国羽根藩。郡奉行の藩士戸田秋谷は、ある事件の責を追われ十年後の切腹とその間の家譜編纂を命じられ、山あいの村に幽閉されていました。 その監視役を任じられた庄三郎が秋谷と共に過ごす日々から感じ得た、人が生きるべき道とは・・・。 淡々とした筆致で描く、自分の役割をひたすらに全うする秋谷の心奥深くの信念の篤さに心震わされます。そして人の信念は他人をも変えることが、ごく自然に読む者に伝わってきます。 日本人の誰もが持っている清冽な心を思い出させてくれる秀作でした。
7投稿日: 2014.05.22ルーズヴェルト・ゲーム
池井戸潤
講談社文庫
野球とビジネスのドキドキ感が味わえます
今や、売れる作家の一人となった池井戸潤氏作品の文庫化です。舞台は業績の思わしくない中堅製造業の青島製作所。リストラを迫られる経営陣と社会人野球チームの存廃を絡めて、逆境に立ち向かう男達の奮闘を描きます。 得意の組織と個人の葛藤劇に加えて、本作では野球に対する想いを織り交ぜることで、肩の力を抜いて読めます。野球のゲーム描写が少々物足りないかなと思いましたが、諦めずに前を向こうとする男達の姿に相変わらず勇気付けられます。 読後に、自分もがんばろう!と心地良い前向き感に浸れること請け合いです。
76投稿日: 2014.05.02インベスターZ(1)
三田紀房
モーニング
中学生が主人公の投資マンガ
ドラゴン桜の作者、三田氏による中学生を主人公にした投資がテーマのコミックです。 ありえないような設定でスタートしてますが、ドラゴン桜のように徐々にそのワールドに引き込んでいくのでしょう。 第1巻ではお金の歴史を振り返るところから「講義」が始まり、投資の格言をもって初心者にも分かりやすくお金とは何か?投資とは何か?を語っていきます。 まだまだ導入部。さてどんな展開になるでしょうか。
2投稿日: 2014.02.01受験必要論 人生の基礎は受験で作り得る
林修
集英社学芸単行本
本業の予備校講師目線で語る受験エッセイ
林修氏が本業の予備校講師と自らの経験をもとに語る大学受験をテーマにしたエッセイです。対話形式なのでトーク調ですらすら読めます。 著者は「受験とは10代のうちに自分の人生に真剣に向き合う1つの制度である」と言います。公平な評価のもと勝ち負けが明確になる経験は人生にも役立つでしょう。「学力以外の物差しで能力を計る大学があってよい」という主張にも同意できました。 ただ、東大現役合格した著者の経験談は余計で、受験現場を知る者の視点から突っ込んだ提言がなかったのが残念でした。
0投稿日: 2014.01.26マネー・ボール〔完全版〕
マイケル・ルイス,中山宥
ハヤカワ文庫NF
チームで勝つとはどういうことかを教えてくれます。
ブラッド・ピット主演で映画にもなった原作です。資金力に乏しいメジャー球団がどうやって常勝チームに変貌したのか、その驚くべき手法を著した実話です。 本書はひとりの男の伝記ではなく、ひとつの考え方の伝記といった方がよいでしょう。目標達成に必要なスキル、役割と評価軸を明確にすれば卓越した個人技がなくても勝負に勝てることを証明しています。 ホームランバッターや奪三振王ばかりを評価しても、チームが勝たなければ意味がないことを経営層は再考すべきでしょう。
0投稿日: 2013.12.28百億の昼と千億の夜
光瀬龍
早川書房
日本SF史に残る金字塔的作品。想像力を解き放て!
日本SF史上屈指の金字塔的作品です。萩尾望都氏の漫画でも有名です。とにかくスケールが壮大でその単位たるや億、兆すらぬるく、那由多、不可思議の世界です。 この世界の運命を知ろうとすればするほど次々に現れる支配者…。この世界の外にはそれを見てる別の世界があって、そのまた外には…と永遠に続くとしたら…。 我々の想像力はどこまで拡大できるか、挑戦状を叩きつけられたかのようです。もはや近視眼的なネットの閉鎖された世界で時間を浪費している場合ではない。想像の力を解き放て…! そんな著者のメッセージが聞こえた気がしました。
0投稿日: 2013.12.28エッジ 下
鈴木光司
角川ホラー文庫
読者の想像力が試される独特の恐怖感
上巻に引き続き数学、物理学ネタを散りばめ、ある物理現象が引き起こす恐怖に対峙する人々を描きます。 少々破綻気味のストーリーと科学的考証はさておき、この宇宙は微妙なバランスの上に成り立っていて、そのバランスがいつ崩れるかは誰にも分からない、という著者のメッセージは確かにその通りだと思いました。 その日は明日かもしれない。そう、明日も日は昇ることが当たり前ではない、と考えた時に背筋にぞっと走る感触こそが著者の狙った恐怖なのでしょう。 読者の想像力を試される作品だと思いました。
2投稿日: 2013.12.28エッジ 上
鈴木光司
角川ホラー文庫
アメリカでも評価されたSF作品!
リングシリーズでお馴染み、鈴木光司氏のSFサスペンスです。日本各地で起こる謎の失踪事件。一連の事件に奇妙な共通点を見いだすが…。 随所に散りばめられた物理学の小ネタを使って、読者を主人公たちの視点に引きずり込むのは鈴木氏お得意の手法。本作品でも如何なく発揮されています。 日本人初のシャーリー・ジャクソン賞(米国のサスペンス&ホラー文学賞)受賞した作品ということで、上巻で広げた風呂敷をどう下巻で展開させるか楽しみです。
1投稿日: 2013.12.28清須会議
三谷幸喜
幻冬舎
戦国時代の名将たちが現代語で心理バトル!
清須会議とは、本能寺の変後、明智光秀が討たれた後の織田家継嗣問題及び領地再分配を清須城で話し合ったれっきとした史実です。ところが三谷氏の手に掛かると、氏の創作なのではないかと錯覚するくらい喜劇的です。 だいたい歴史物なのに現代語訳って…。名将達がイマドキの言葉で会議という名の心理戦を戦うところが既に可笑しいです。 本作は小説というより映画の脚本チックです。映画を観る前に、どの役者がどの人物に配されるのか考えながら読むのも一興かと。
0投稿日: 2013.12.28