たまご915さんのレビュー
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ザ・ゴール
エリヤフ・ゴールドラット, 三本木亮, 稲垣公夫 / ダイヤモンド社
定番ですが名著です。ちなみに小説です
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中小企業診断士の資格取得の講座で、講師の方から本書を紹介されました。
以前から本書の存在は知っていたのですが、これを機に読み始め、そこで初めて小説だということを知ったのですが、楽しんで読み進められまし…た。
当たり前のことではありますが、企業の究極の目的(ゴール)は、利益を上げること。利益を上げるには売上を増やしてコストを下げること。本書は工場を舞台にしていますが、工場における利益とは、コストとは、といった根本的な問題に切り込んでいます。
小説の体裁であるため、工場運営以外のシーンも描写されており、その中にも運営改善のヒントを見つけることができます。ネタバレになりますが、子供たちとのハイキングから、ボトルネック以外の部分での稼働改善が必ずしも利益を生むものではないと気づくなど、主人公の洞察の深さにも気づかされます。
最後に、本書の舞台は1980年代の米国。日本がカイゼンやJITで大きな成果を上げていた裏で、米国が凋落したといわれた時期でした。
本書の設定が事実であったとすれば、そりゃあ当時の米国は日本に勝てなくなるよなあと思う反面、現代では日本と新興国の立場に置き換えられるかと思いますが、日本が新興国と製造業で戦っていくには何をすればよいのか、考えさせられる1冊でもあります。 続きを読む投稿日:2013.10.12
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年収は「住むところ」で決まる ─ 雇用とイノベーションの都市経済学
エンリコ・モレッティ, 安田洋祐, 池村千秋 / プレジデント社
日本では。
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本書は米国を都市ごとに分析し、イノベーションがある都市とそうでない都市とで年収格差が発生し、その差は広がっているという結論を示しています。
「そうでない都市」の代表として、デトロイトやダラス、ヒュース…トンなど、NFL(アメリカンフットボール)の本拠地となっている都市がいくつも上がっていました。
NFL好きなので聞いたことがある街がイケていないほうに数多く上がるのは複雑な気分でしたが、過去に隆盛を極め、その時期にチームを誘致できた街でもあるわけで、ある意味当然なのでしょう。
日本で言うと、プロ野球チームの親会社に映画会社(松竹、東映、大映など)や鉄道会社(西鉄、阪急、近鉄、南海、東急、国鉄など、現在は阪神、西武のみ)がいたのがIT企業(楽天、ソフトバンク、DeNA)に代わっていったようなものですか。
イノベーションを起こす企業がある街で成功すれば、その企業の従業員が増え、彼らに対するサービス(飲食店や小売店など)のために経済活動が活発化され、その企業だけではなく街全体の収入が上がる、というメカニズムが働きます。
直感的なメカニズムで、これを否定する人は少ないだろうと思います。もっとも、得られた収入を奪ってしまう外部の仕組み(つまり、社会保障や投資家集団など)も存在するので、現実は理論のようにはいかないのですが。
本書では、イノベーションを起こせる企業づくり、そしてそのために人材の獲得と教育が、住民の収入を上げ、生活の質を高めるのに重要とされています。
とくに教育は、質の高い人材を育成するために不可欠であるにもかかわらず、近年の米国では十分な教育が施されていない(代わりに、外国から優秀な人材が流入するのでイノベーションを起こせる)とされています。
本書は米国の事情が中心で、日本は比較対象の外国のひとつとなっていますが、日本の場合を考えてみます。
共通するのは、日本では東京に企業も人材も集中し、そのため東京圏とその他の都市との間で、格差が年々広がっています。
インターネットの普及で、企業も人も場所を選ばず働けるという考え方もありましたが、やはり「物理的に近い」ことはコミュニケーションや情報共有、そして信頼の醸成など見えにくい部分での効果がまだまだ大きいようです。
アベノミクスで「地方創生」をうたい、企業や人材の地方移転を促す制度を作っていくようですが、そうでもしないと東京一極集中は進む一方ですし、これでも格差は埋まらない可能性もあります。それくらい、東京という街の魅力というか、吸引力は大きいと言えます。
日本では、地方都市でイノベーションが生まれても、本書で示されたようなメカニズムが十分に機能しているとはいえません。
(事例としては、任天堂や京セラの京都、ジャストシステムの徳島、ハドソン(ゲーム会社)やボーカロイドの札幌、Ruby(プログラム言語)の松江などをあげれば十分でしょう。)
このあたりの日米の差異を研究している研究者や学生はすでにいると思いますので、何かしらの知見が出てくると期待しています。 続きを読む投稿日:2015.01.24
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勝負哲学
岡田武史, 羽生善治 / サンマーク出版
将棋とサッカーの共通点
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将棋ファンで羽生名人の大ファン、サッカーも(詳しくはないけれど)好きなので、この対談本はいつか読みたいと思っていました。
羽生名人は将棋界の第一人者であり、講演や執筆などの活動は将棋界に留まらず、広く…ビジネスの世界で私たちは示唆を与えられています。岡田監督も日本代表の監督として、2度のワールドカップ本戦出場を果たしています。
将棋とサッカーは全く違う競技ですが、共通点もあります。(駒と選手のアナロジーもありますが、ここを強調しすぎると選手は監督の指示に従って動くべきものとなるため、否定的に捉えるべきでしょう)
サッカーでは各選手ごとに得意な動きがあり、その特性を生かしたポジションやフォーメーションが勝利への技術となります。
将棋は駒の動きが定められていますが、サッカーと同様に囲いや戦法が勝利への技術となりますし、サッカーも将棋もフォーメーションが日々進化し続けているのも共通点と言えるでしょう。
あまり技術的に込み入った話はしませんが、相手の隙を突くためにこれまでの常識では見られない攻撃態勢をとったり、あえて攻めさせておいて反撃のタイミングを窺ったり、逆にあえて攻め込まずに守備体型のほころびを待ったりするなど、現代は将棋もサッカーも大きく変わりつつあります。
常識にとらわれない攻撃と、あらゆることを想定した守備が、時に攻守を入れ替えながら戦うのは、サッカーも将棋も同じと言えます。
また、勝負に対する集中力についても、重なり合う部分があるようです。もちろん将棋は1対1、サッカーはチーム戦ですから、集中の仕方にも違いはあるでしょうが、「フロー体験」や「ゾーンに入る」という言い方で、深い集中に入り非常に高いパフォーマンスを出せることは共通です。
羽生さんはこの状態を、深海に潜って戻ってこられないようなぎりぎりのところ、という感じでお話しされていましたが、潜るという表現が「ハチワンダイバー」という将棋マンガに通じるところがあります(好きなときに集中できるようなものではないようですが)。
ただ一点に集中するだけではなく、「広い集中」と表現された、フィールドや盤面全体を注視して、どこで戦いが起こっても瞬時に対応できる気持ちの持ち方も、潜る「深い集中」と同様に必要と思いました。
本書は2011年に(紙で)出版されており、同年の東日本大震災と、その中で将棋やサッカーが果たすべき役割についても意見交換しています。
1995年の阪神・淡路大震災のときには、神戸在住で被災した谷川王将が羽生六冠を退け王将位を守り、神戸の希望となりました(羽生の七冠独占はこの翌年。六冠をすべて防衛し、翌年の王将戦でも挑戦者となった)。
かつては大正時代の東京大震災のときにも、新聞紙面に将棋が掲載され、ひとときの娯楽として被災者にも好評だったと聞きます。
サッカーも、被災地のサッカースクールで子供たちが楽しんでいるのを見て元気づけられた、希望を持ったという人も多かったようで、サッカーや将棋のような娯楽は直接の復興にはならなくても十分に役に立てるのだと感じます。
(余談ですが、フィギュアスケートの羽生結弦選手(さらに余談で、将棋の羽生は「はぶ」、スケートの羽生は「はにゅう」)が仙台在住で被災しており、その後の活躍で被災者を勇気づけたと聞きますし、ジャンルを問わないですね。) 続きを読む投稿日:2014.12.17
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タイム・マネジメント4.0 ─ ソーシャル時代の時間管理術
竹村富士徳 / プレジデント社
単なる効率的な時間の使い方ではありません。『7つの習慣』の実践です。
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普段から忙しく、時間をもっと効率的に使えたらいいのに、と考えていてこの本にたどり着きました。
本を開けるまで気づいていなかったのですが、『7つの習慣』の考え方がベースとなっていて、これを実践することが…時間を管理することにつながるということです。
7つの習慣の中に、優先度の考え方が出てきます。これが本書のキモとなる部分でもあり、ここを勘違いしていると時間管理はうまくいかないということになります。
7つの習慣では「重要度」と「緊急度」という2軸での優先度の考え方があるわけですが、「重要だが緊急ではないこと(第2領域)」と「重要ではないが緊急なこと(第3領域)」の、どちらを優先するべきでしょうか?この答えが、タイム・マネジメント4.0の本質でもあります。
時間は誰にとっても平等に1日24時間が与えられ、増やすことも貯めることもできません。では、「時間管理」は何を「管理」するのか、というと、イベント(出来事)の管理であるとの表現に、なるほどと思わされました。時間を効率的に使うというのは、とりもなおさず、日々の出来事を効率的に実行していく、ということでもあるわけです。
さて、私は「タイム・マネジメント4.0」が実践できているのか、と自問します。
スピード感を重視していて、多くのことを短い時間で片付けることは、ある程度できているのではないかと思います。
ただ、それはそれぞれのタスクをおざなりに(なおざりに、ではないです)してきたのではないか、ということも言えるわけで、必要なタスクを、適切な優先度と時間配分できちんと片付けていかないと、大きなタスクに耐えられなくなってしまうかもしれない、という危惧があります。
そういう不安が、自分自身の問題点として顕在化したことだけでも、収穫のあった1冊と言えます。 続きを読む投稿日:2014.09.03
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小さくてもいちばんの会社 日本人のモノサシを変える64社
坂本光司, 坂本光司研究室 / 講談社
従業員を大事にする企業は、社会から愛される
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著者である坂本研究室をまとめる坂本光司教授は、『日本でいちばん大切にしたい会社』シリーズの著者で、毎年「日本でいちばん大切にしたい会社」大賞を選考し表彰しています。
坂本教授の理念は、会社経営とは「5…人に対する使命と責任」を果たすものであり、その5人とは、優先する順に1.従業員、2.外注先・下請け企業、3.顧客、4.地域社会、5.株主であり、社内外を問わず働く人を大切にする企業こそがよい企業である、との姿勢を強く打ち出しています。
昨今の不景気と投資家偏重の政策のため、世界的に従業員が軽視され、労働が義務や苦役と結びつくようなネガティブなイメージで捉えられていますが、坂本教授が推奨する企業はそういった風潮とは一線を画し、従業員を大切にすることで成長してきた企業です。
本書は、坂本教授が主宰する研究室のメンバーが調査したレポート集となっています。64社という多くの企業を取り上げており、私が住む埼玉県越谷市の企業もありました。「小さくても」どころか、ショッピングモールの規模の大きさが日本で「いちばん」の企業(イオンレイクタウン)ですが、大きくてもおごらず、多数のテナントや顧客を集め、決して交通の便がよくない同地にわざわざ人を呼ぶ魅力を紹介しています。
多数の企業を紹介していることもあり、もう少し掘り下げて紹介してほしいと感じさせる企業や、ビジネスモデルが書かれていないためそこまでコストをかけて経営が成り立つのか不安になる事例もあります。ですがそれを割り引いても、まだまだ日本は捨てたものではないと感じさせる一冊でした。 続きを読む投稿日:2014.07.04
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生き方
稲盛和夫 / サンマーク出版
人間としてまっとうな生き方、まっとうな経営
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京セラの創業者で、DDI(現在のKDDI、au)で通信分野に進出し、近年は日本航空(JAL)の再生を手がけた稲森和生氏の経営理念が著された一冊です。
「生き方」というタイトルにも見られるように、その考…え方は企業経営に留まらず、私たち一人一人の働き方や考え方、そして生き方にもあるべき姿を投じてきます。
まず、働き方について述べられています。稲盛氏はものづくりの人ですので、製造現場での課題解決について、強い思いとこだわりが感じられます。
つまり、絶対にこの壁を越えるのだ、という強い意志で常にその課題を考え続け、一生懸命に考え抜き、ありとあらゆることをやり切った先に、「神様」が解決策を与えてくれる。
苦行に耐えた先の神秘の瞬間と捉えるとオカルトっぽくなってしまいますが、「セレンディピティ」とも呼ばれる、考え抜いた先の啓示的なひらめきのことでもあります。
いま、自分自身が仕事の場で、ある課題の解決にそこまで考え尽くしたことがあったか、途中で諦めたり妥協したりしなかったか、改めて考えさせられます。
考え方は、道徳的なところに行き着きます。稲盛氏は経営学を体系的に学ばないまま経営者として現場に出て行ったのですが、そこで実行したのは、人間としてまっとうな経営でした。
重要な決断の際には、自分の決断は利己的なものではないか、私心が少しでも混じってはいないか、それを何度も何度も問い詰め、利他の精神、奉仕の精神で経営手腕を発揮してきました。
「口ではそう言っているが、実際に自分の利益を考えないわけがない」と考える人はいるとは思います(個人的には、自分が利己的だから誰もが自分と同じように利己的だ、というだけだと思いますが)。稲盛氏はそのような考え方の存在は認めた上で、一切の私心を持たないようにしてきたと言っていますし、それが本心なのでしょう。
私は親も戦後生まれの団塊ジュニア世代ですが、道徳が忘れられたと書かれているのは同感です。バブル崩壊以降欧米の合理的な考え方が日本にも定着して、合理的な考え方の良いところは忘れられ、悪いところだけ残ってしまったようにも思います。
そして最後に、「生き方」。稲盛氏は仏門に入りましたが、宗教でいう創造主の存在を、宇宙や人間の誕生のスケールでも信じているようです。
だからこそ、良い行い、まっとうな生き方を続けていれば必ず報われ、逆に堕落した人生から得られるものはそれなりでしかないとしています。
(このあたりは難しいところで、将来報われるための「善行」は、報われたいという私心があっての行いになるので、却って報われないこともあるでしょう。
そして将来報われるだろうと知ってしまったがために、善行が善行でなくなるとすれば、それも皮肉な話です。)
自分もプロテスタントの教会に通っていた(洗礼は受けていません)時期があるのですが、それ以来神の存在を感じています。とくに何かしてもらえるわけではないのですが、常に自分のことを見てくださっているし、だから「誰も見ていないから悪いことをしてもいい」とは考えなくなっています。
泥臭いし、不器用かもしれませんが、まっとうに生きる。そして生まれたときよりも良い人間になって人生を終える。
それこそが、人間としての最高の幸せ、最高の生き方なのではないかと思いました。 続きを読む投稿日:2014.12.03