
ゲーマーはもっと経営者を目指すべき! 電子特別版
4Gamer.net編集部,川上量生
KADOKAWA
ドワンゴの経営感覚
ゲーム情報サイト「4Gamer.net」で連載していた、ドワンゴ社長川上量生氏の対談集です。自分は元の対談記事を読んでいなかったため、それぞれのお話を新鮮な気持ちで読むことができました。 川上さん自身が大のゲーマーで、ゲームの自慢話をしたかったそうです。それでは対談企画が通らないだろうということで、書名にあるような経営と結びつけたテーマで「だまして」企画を通そうとした結果が本書です。とはいうものの、なかなかどうして、しっかりした経営の考え方をお話しされています。 第2章の、新しい事業を軌道に乗せるためのエネルギー理論があり、なるほどと思わされました。 経営やマーケティングでは「キャズム」という考え方がでてきますが、これを化学の「活性化エネルギー」に置き換えて説明しています。 (川上さんが大学で工学を専攻しており、化学の考え方が身に付いていたこともあるのだと思います。) 新しい製品やサービスは、キャズムを越えると大きく売れ行きを伸ばします。「キャズム」「活性化エネルギー」でそれぞれ画像検索して並べてほしいのですが、キャズム越えを化学反応、越えるのに必要な労力を活性化エネルギーと対比しています。キャズム越えを簡単にする施策があれば、それが触媒と言えるわけです。 ここからが川上氏の理論で、活性化エネルギーの山を越える前(反応物)と越えた後(生成物)のエネルギーは、どちらが高いか決まっていません。これが製品・サービスにも当てはまり、キャズムを越えた後のエネルギーのほうが小さければ、キャズムさえ越えれば後は勝手に売れていく、という考え方ができるということです。 そういうサービスを見極めることが大事で、ドワンゴがサーバー構築⇒着メロ販売⇒動画共有と業態を次々に変えていったことも、儲かるサービスへの嗅覚力と、競合が出れば撤退という軸がしっかりしていたからではないか、と考えられます。 そして、自分が将棋が好きというのもありますが、コンピューター将棋の「やねうらお」氏との対談、その後に日本将棋連盟の谷川浩司会長(十七世名人)との対談があったのを興味深く読みました。 将棋にランダムの要素がないことで、コンピューターにとっては暴力的な計算量で人間を圧倒するだけではなく、究極的には相手がどんな手順を指し手も自分が勝てる着手を見つける(見つけられなければ自分の負けである)こともできるでしょう。 ゲームの本質としても、将来の数十通りの手順のうち勝てる順が1つしかなくても、その1つを選ぶことができます。これが確率に左右されるゲームであれば、期待値を算出して勝ちやすい手を選ぶことになり、ゲーム性が大きく変わってしまいます。 ドワンゴは変な会社だと思っていましたし、変であることは間違っていないと思いますが、読む前に感じていたネガティブな感覚はなくなりました。 もともと2ちゃんねるの西村博之氏の関与が強く、2ちゃんねる流の人間関係の破壊者となる不安を持っていたり、ニコニコ動画の立ち上げ時にYouTubeにただ乗りしたりといいイメージがなかったのですが、本書を読んで「自分たちの目指す社会を自分たちの手で生み出そう」という気持ちを強く感じました。 自分がそれまで感じていた、破壊であったりとか、他者へのただ乗りであったりとか、そういったずるい手段は(川上さん自身が言うほど)取っておらず、自ら汗をかいているという印象に変わっています。
2投稿日: 2015.09.19
努力が勝手に続いてしまう。
塚本亮
ダイヤモンド社
意識しないでできる努力が、最高の努力だ
まず、作者のプロフィールがおもしろいのです。 高校の途中まで落第点で、一念発起して地元(関西)の最上位クラスにある私立大学に合格、そしてケンブリッジ大学にまで進学してしまうという、「ビリギャル」のような話がここにもあります。 ビリギャルにしても本書著者にしても、教育システムが多様化に対応するという課題を突きつけているようにも感じます。 彼らのように本来持っていた能力を入学試験に振り向けることができる人もいますが、おそらくはその能力を生かせず社会に貢献する機会を失った人がその何十倍もいるものと思われます。 何十倍もの人間の機会損失は、社会にとっても大きな損失ですし、能力を吸い上げる仕組みを考えていかなければなりません。 そして、本書の本題は「努力」のあり方です。 著者が成功した、努力を続けて飛躍的に成長できた理由は、2つに集約できます。 1つ目は「明確なビジョン」。 やらされる努力は絶対に続きません。 逆に、自分がこうなりたいという明確な意思があり、そのために必要な努力であれば当然やるはずです。 傍から見れば、なぜこんなしんどい努力を長期間続けられるのかと驚くようなことでも、本人は努力しているとさえ思っていないこともあるでしょう。 もうひとつが、この方法で「ビジョンを達成できるという確信」。 流行しているから、他人に言われたからこの方法をとるというのではなく、自分で理解、納得、腹落ちした方法をとるわけです。 他人からの横やりは入るかもしれませんが、自分のやり方に確信を持っている人はブレないですね。 また、続けているうちに確信が揺らぐこともあるかもしれませんが、短いスパンで成果を確認して、これで大丈夫、ここは改善しよう、という微調整で対応できます。 PDCA(Plan-Do-Check-Action)サイクルという考え方がありますが、努力の継続についても、まさしくこれです。 たとえばダイエットで、努力が続かないという人は、まず自分がどうなりたいのか、と言うところ、つまり「ビジョン」をとことん突き詰めてください。 ビジョンを突き詰めた結果、ダイエットが必要ならやればいいし、他の方法が必要ならそちらに移る形です。 ここまでくるとダイエットは手段に過ぎなくなっていますから、ビジョンから離れないように、自分が実行できて効果のある手段を選べばよくなります。 苦しむ必要はなく、ラクできるなら徹底的にラクしてしまいましょう。
1投稿日: 2015.08.08
改訂版 小さな会社は人事評価制度で人を育てなさい!
山元浩二
中経出版
まずは経営理念。経営者にはそこに気づいていただきたい。
中小企業診断士の登録を受けて1年あまりたち、勤務先(中小のシステム開発会社です)の経営について、社長から意見を求められることも何度かありました。 そういった活動の中で、診断士の研究会で紹介されたのがこの本です。 自画自賛するわけではないのですが、勤め先の経営理念やビジョンは非常にしっかりと作られ、また社内に深く浸透しています。 2011年に転職した際、この会社を選んだのも、経営理念に共感したところが大きくありました。 世の中、そういう会社ばかりではないのは知っています。経営理念がそもそも存在していないか、あっても形骸化しているところも多いでしょう。 ビジョンを決めて長期的な視野で、と言われても、日々の売上を追うので精一杯でそんな余裕はない、という会社も少なくないはずです。 自分のこのコメントが、どれだけの経営者に読んでもらえるかわかりませんが、声を大にして言っておきたいことがあります。 それは、日々の売上が何のためのものなのか、今一度考えてほしい、ということです。 言い換えれば、売上が増えれば利益も増え、会社も成長していきますが、成長してどんな会社になりたいのか、そこを考えていますか、ということです。 その「何のために売上を追うのか」「成長してどんな会社になりたいのか」が、理念でありビジョンとなります。 そしてこの理念を従業員に浸透させるやり方として、人事評価制度を重視しています。 人事評価は単に勤務態度や成果を点数化して給料や役職に反映させるだけのものではなく、従業員に仕事の成果や理念への共感についてフィードバックし、気づきを与え、モチベーションを高める場になります。 さいごに。目標管理制度や、360度評価制度が持て囃されたこともありました。 ですが、どんな制度を採用するにせよ、「その制度でどんな人材を高く評価するのか」、「その結果会社がどこに向かうのか」、つまり「利益が上がって成長できるのか」、そして「成長の方向は理念やビジョンと一致しているのか」、が明確になっていないと、絵に描いた餅で終わってしまいます。
2投稿日: 2015.07.17
ゼロ秒思考
赤羽雄二
ダイヤモンド社
押しつけ感はありますが
タイトルから、自分は即時に判断を下す考え方や技術を記したものと想像しましたが、内容的にはもっと幅広く、常に自分の思考を整理しておき、「考えがまとまらない」という状態を作らないための方法や技術が書かれています。 やり方に関しては、「この方法以外は認めません!」的な押しつけは感じられますが、頭の中を紙に書き出すことで思考を整理すると言うやり方は、確かに有用だと思います。 思考は「感情」と「論理」からできています。感情の部分が強すぎると、相手の立場をおもんばかれずにワガママになってしまったり、逆に空気を読みすぎて自分の主張を殺してしまったりします。 逆に論理が先行しすぎると、正しいことを言っていても、冷たい印象を与えてしまい拒絶的な反応を受けることも少なくないでしょう。 思考を整理し、自分も相手も立てて、より良い方向に持っていくための考え方を表明できれば、議論や交渉もうまく進むと言えます。 アサーティブ・トレーニングの考え方にも近いですが、アサーティブの場合は考え方の根本(自分も大事にする)と表面上の言い方に特化しているのに対し、本書はその中間の部分を補うものとも言えます。 つまり、考え方の根本やメタな考え方と言える部分と、表出される言い方や表現の間をつなぐ部分、つまり、個別の具体的な問題についての思考を見える化し、整理するものです。 アサーティブであれば、カウンセラーがいて、カウンセラーの問いかけに答えることで思考が整理されますが、そこを自分一人で行えるようにもなるかと思います。 自分はこの方法を実践しようと思っているわけではないのですが、これを知っていることで、何か資料をまとめるときに、考えを紙に出すと本書で示された方法が使えるので、今後何かと役に立ちそうです。
2投稿日: 2015.07.12
会社の目標を絶対に達成する「仕組み」の作り方
石田淳
中経出版
経営理念の大切さ
私の勤め先も目標管理制度を部分的に取り入れていますが、自分自身うまく達成できていないどころか、立てた目標を覚えていないのが実情です。 会社としてもこのような状態はまずいということで、来期から会社の目標と個人の目標が連動するような体制を作ることになっており、改善されていくことになります。 本書に示されている目標達成の方法は、大きく2つに分けられます。 ひとつは会社の目標を個人の行動レベルまで分解し、日々の成果で達成が見えるようにする仕組み作りです。 つまり社員10人の企業で年間売上高1億円が目標なら、個人では年間1000万円、月間83万円を積み上げていくことになります。 個人で単価4000円の商品を月間200個売って(製造側なら「作って」)いるなら、4000円を4200円にするには、あるいは200個を210個にするにはどうすれば良いかを考え、具体的な行動として個人目標とし、実行していくという流れです。 もうひとつは目標達成の行動が継続するような仕組み作りで、強制的にやらせるのではなく、個人の目標達成が顧客や社会にどのように役立っているのかの気づきを与え、自律的に行動できるようにする環境作りでもあります。 ここで大事になってくるのが、それぞれの企業の経営理念です。 経営理念がないがしろにされている、そこまでいかなくとも形骸化している企業は皆無ではないと思います。 創業者は何を思ってこの会社を興したのか。 経営者は利益を積み上げて、会社をどうしたいのか。 そしてそもそも、この会社は存在理由は何なのか。 ……それを具体的な言葉で表現したものが経営理念であり、存在理由が説明できない会社は存在しなくていい、とさえ思っています。 人間というのは不思議なもので、口では生活のために働いている、自分が良ければそれでいい、と言っていながら、自分の行動が社会に貢献出来ていると知って無駄な行動をしたとか、不快に感じるとかいうことはありません。 本質的に私たちは社会に貢献したいと考えているわけで、経営理念がそれぞれの企業の貢献のあり方を示し、理念と会社の目標、そして個人の行動目標がしっかりとリンクすると、誰もが自律的に行動し始めるわけです。 そういった目標作りができている企業は、当然ながら強い企業になっています。
1投稿日: 2015.06.04
変化を生み出すモチベーション・マネジメント 6つのマジックで思考と行動が変わる
小笹芳央
PHPビジネス新書
わかっていても、できないこと
株式会社リンクアンドモチベーションの代表、小笹氏の著書です。 会社名が示すとおり、働く人のモチベーション(動機付け、やる気)の向上を目指したコンサルティング事業を行っている企業で、私の勤め先でもお世話になったことがあると聞いています。 成長したい、大きな成果をあげたい、出世したい。 今までのやり方を続けていては限界が見えているのはわかっていても、やり方を変えるのは失敗したときが怖くて踏み切れない。 そういう人は多いと思います。 これは結局、現状維持のほうが安定していて自分にとって都合がよく、成長の可能性を自ら摘んでしまっているわけです。 成長のためにやり方を変えるというのは、つまりは日々の行動や考え方の「習慣」を変えることになります。 現状の習慣を捨て(アンフリーズ = un-freeze)、新しいやり方を取り入れ(チェンジ = change)、改めて習慣づける(リフリーズ = re-freeze)。 言ってしまえばこれだけなのですが、これで変えられるのはわかっていても、やっぱりできないのが人間というものです。 そこで本書ではそれぞれのステップにおいて、どういう考え方をすればよいか、行動に結びつけることができるか、が示されています。 自分も、一緒に働く仲間達がモチベーションを持って働く環境を作ってゆきたいと考えています。 ちょうど社内報の立ち上げの話があり、社内報も小笹氏の別の著書でモチベーションを高める道具として有効としていましたので、主体的に関わらせてもらうことにしました。 (このレビューを書いている、2015年5月時点の話です) 自分自身変わってゆきたいし、周りの人々にも良い影響を与えてゆければと思っています。
0投稿日: 2015.05.13
統計学が最強の学問である
西内啓
ダイヤモンド社
ビッグデータに振り回される前に知っておきたい
2010年頃から、「ビッグデータ」という言葉が世に出てきました。 ブログやTwitterの書き込み、電子マネーやクレジットカードに登録される購入履歴など、大量のデータを元に何らかの傾向や相関を見いだし、意思決定に役立てる手法で、主にマーケティング分野で用いられています。 ビッグデータの理解には統計学の知識が必要ですし、そういう時期に出てきた書籍なのですが、ビッグデータ関連の話は軽く触れる程度になっていて、その前に必要な統計学の概念や基礎知識が主に扱われています。 統計学は、自分も十分理解できているとは言えないし、多くの日本人になじみの薄いものではないかと思います。 大きな理由として、大学入試でほとんど扱われないことがあります。入試のカリキュラムでは数学の「確率・統計」という形で扱われ、確率の出題はあっても統計はあってもオマケ程度、それゆえに高校の授業でもほとんど取り扱われないという状況であろうと考えられます。 ですが、やはり、ある程度の統計のリテラシーは持っておくべきだと考えます。 マスメディアやネットを通して伝えられるアンケートの結果に、どれくらい信憑性があるか。 相関関係と因果関係を混同してしまっていないだろうか。 統計的なデータがあるのに、ロジックを求めすぎて見落としていることはないだろうか。 そういった疑問を持つ力も、統計リテラシーが前提となります。 自分も本書を読むまで見落としていた大事なことがありました。 それはランダムサンプリングの考え方なのですが、たとえば喫煙習慣と肺がんの罹患率の関係を調べる際、喫煙以外の要素はすべて揃えないと、信頼性のある結果は出ないものと思っていました。 現実にはそのような条件の統制はできないので、信頼性はある程度犠牲にしているのだろうと考えていましたが、実際にはその他の条件が十分にランダムであれば、十分な信頼性が得られると言うことです。 統計学における考え方や概念の説明が主で、関連する学問分野間(たとえば、経済学と社会学)での統計への認識やアプローチの違いなど、興味深い話も多く、逆に数式はほとんど出てきません。 もし統計学を難しいと敬遠してきた人がいるなら、本書を読めば、統計学は思っていたほど難しい話ではないし、今まで統計学を敬遠していたために、言葉は悪いですが騙されていたことも多かった、という気づきもあるのではないでしょうか。
3投稿日: 2015.04.29
エッセンシャル思考 最少の時間で成果を最大にする
グレッグ・マキューン,高橋璃子
かんき出版
仕事の【断捨離】
『エッセンシャル思考』というタイトルからは内容の想像が付かないのですが、読み進めていくウチに自分の中で感じたのは「これは『仕事の【断捨離】』の本だ」という感覚です。 断捨離という言葉がバズワードとなってしまい、このレビューを書いている2015年3月にはほとんど見かけなくなったのですが、自分で仕事を持ちすぎず、最も必要なものだけにしてしまうという方法論が、断捨離と同じ方向だと思います。 ちょうど先日、別のところでこの書籍の記述に通じるおもしろい話を聞いたので紹介します。 日本のある企業(規模こそ小さいですが、知名度はある会社です)の社長さんの話で、大きな売上につながる研修講師の依頼が入ってきました。 たまたま、同じ日に社長の中学生になるお子様のイベントがあり、そのイベントに参加するとお子様と約束していたとのことです。 社長は依頼の返事を1日延ばしてもらいましたが、その後取った行動、そして翌日の回答はどのようなものだったか、想像できますでしょうか。 答えは、 「お子様と話をして、イベントに自分が参加して欲しいのか正直なところを聞き出した。 そしてその結果をもって、講演の依頼はお断りした」 です。 優先順位が一貫しているところ、家族との人間関係を重視するところが、本書と同じだと感じましたし、実践している人が現実にいるのだというのも驚きでした。 いま自分が仕事のやり方を表面的に変えようとすると、「生兵法は大怪我のもと」になるだけに思います。 エッセンシャル「思考」とあるように、ものの考え方を改め、今やるべきことは何か、そう決断する理由や優先順位はどうなっているのか、というところに一貫性を持たせないといけないでしょう。 それには自分自身の判断基準が確立していないといけないですし、自分の信念やビジョンというものも明確にしていくことになるかと思います。 (ここまで、上の社長さんの話が出た、目標達成の講習で聞いてきた話ですが) また、仕事を1つに絞ると言うことは、その1つで失敗することは許されないということになります。 複数の仕事を並行に動かすのは、どれかが失敗しても他でカバーする、というリスクヘッジの意味もありますので、それを捨てて1つの仕事を絶対に成功させるという覚悟や自信を持っていないとできないことでもあるでしょう。 極端な話、外的要因での失敗も仕方ないでは済まされず、先着して外的要因の影響をつぶしておくなどの必要があるし、それだけの行動ができる権限や能力、意志の強さが求められます。 そもそも、仕事を絞らないと回しきれないほど持っていないし(この段階で仕事を絞るとただの「サボり」です)、自分の場合は優先順位の考え方は必要ですがまずは絶対量を増やしてからですね。
5投稿日: 2015.03.01
資本主義の終焉と歴史の危機
水野和夫
集英社新書
資本主義の限界とは何か
トマ・ピケティが「21世紀の資本」を著し、資本家に富が集中し、貧富の格差が増大することに一定の理由が示されました。 「21世紀の資本」は大部でありながら日本では広く受け入れられ、経済誌などでは多くの特集が組まれています。 本書もピケティと同じく、資本主義の限界を指摘し、近代以降の資本主義に変わる新たな経済・社会・国家のシステムを構築する必要を論じています。 自分自身、働く人の立場として、労働の対価としての付加価値の再分配が適切になされず、十分に報われていないと感じることがあります。 日本の労働組合や左派政党などは、経営者を労働者に敵対する立場に置き、労働者に還元すべき利益を不当に得ていると批判していますが、自分自身はこの認識は古く、過去の遺物だと考えています。 現在は経営者と投資家が分離し、経営に積極的に口出しする「物言う株主」も多くなっています。彼らの中には目先の自分達の利益のために行動しており、企業の利益を根こそぎ奪い、経営を壊すことも憚らないものもいます。投資先が壊れる前に、持ち株を売り抜ければいいとでも思っているのでしょう。 現在は、経営者と労働者は同じ側に立ち、投資家の横暴から企業と雇用を守るべきなのです。 投資家の横暴が投資先を壊すこの構図こそが、資本主義の限界を象徴していると感じます。 とくに近年の新自由主義は「資本主義原理主義」とも思っているのですが、投資家の横暴を許すどころか、積極的に容認、後押しするようなところがあります。 ピケティの「21世紀の資本」が指摘するところ、そしてマルクスの「資本論」が100年前に危惧したところも、新自由主義のなれの果てに行き着くのではないでしょうか。 本書の最後では資本主義が崩壊することを前提に、その先にあるべき社会システムを検討しています。 資本主義にて市場が成長するには新しい市場が必要ですが、現代はその市場が飽和して新しい市場がなくなったため、資本主義が成立する条件が失われたとしています。その上で、成長しない市場の中での定常的、持続的な社会システムが求められるとあります。 しかしそのような社会は、誰も過剰な利益を求めない社会、言い換えれば抜け駆けを許さない社会となり、非常に息苦しいものになってしまいそうです。 著者が求めるところは、社会システムにとってあるべき姿なのでしょうか。 私たちに突きつけられた究極の課題でもありますが、常にこの課題について検討し続けていくことが、資本主義の暴走を防ぐ方法であろうと考えます。
5投稿日: 2015.02.07
アドラーに学ぶ部下育成の心理学 「自ら動く部下」が欲しいなら ほめるな叱るな教えるな
小倉広
日経BP
モチベーションこそ人材育成の要諦
アドラー心理学は「嫌われる勇気」を読んだ程度ですが、その考え方については強く共感し、自分がこれまでやってきたことの裏付けにもなっている、と感じました。 アドラーの考えは子供の教育に生かすことも多いのですが、本書は企業内の人材育成に特化した記述となっています。 印刷の書籍だと、本書の帯に「褒めるな、叱るな、教えるな」と大書されています。 これはアドラー心理学を教育の場で用いるときによく使われている考え方とのことで、褒めるのも叱るのも人間関係に上下を規定してしまい、教えることで他人に依存する人間を作ってしまいます。 アドラーの教えでは、人間関係に上下はなく(指示系統の上下はありますが、人間関係とは異なります)、他人に依存するのは自己の幸福を失う行為であるとしています。 まず前提としたいのは、働くのは給料をもらうために自分の感情を押し殺して行うようなものではなく、労働の成果(製品や商品、サービスなど)で社会に貢献することが働く目的であり、給料や賃金はその対価のひとつに過ぎません。 企業も売上や利益が究極的な目標ではなく、自社の製品やサービスを通して自分達が考える理想の社会に近づけていく(何を理想とするかは、各社の経営理念やビジョンに示されているはずです)ための手段として売上や利益があるのです。 なので企業内の人材育成とは、働く人ひとりひとりの貢献のあり方を自社の経営理念や理想の社会とすり合わせ、その理想に近づけるために自分の能力や時間を使う、という意識を持ってもらい、理想の実現のために能力を高める、あるいは高める意思を自主的に持つ、ということになるかと思います。 そのための人材育成法を、アドラー心理学を踏まえて、著者自身が実践、体験したこと(成功も失敗も含めて)を実例として述べています。 その中で最も納得感があったのが、「成果を出せなかったときの帰結を体験させること」です。 野球やサッカーなどのチームスポーツが特徴的ですが、ミスをすれば負けるし、ミスを繰り返せばその選手自身がポジションを追われる(配置換え、担当替え)ことになります。 そうやって失敗の重さを本人が感じれば、賞罰で部下を操作する必要などないし、却ってチーム全体の空気を乱すことになります。 その後はよく言われることですが、ポジションを奪われた選手をそこで腐らせるのではなく、もう一度チャンスを与えて、強くなって戻ってこさせるのが名監督ですね。 褒める・叱る・教えるではなく、自分から動く・考えるようにしていく、そのための必要な場の提供や誘導を行っていくのを、アドラー心理学では「勇気付け」と呼んでいます。 これは「動機付け」、つまりモチベーションとほぼ同じ意味で(かなで書くと1文字違いでもあります)、モチベーションを適切に与えることができれば、人間というものは勝手に成長していくものです。 モチベーションは「やらせる」ものではなく、「自分から見つける」ものなので、いかにして部下にモチベーションを(押しつけるのでも、教えるのでもなく)見つけてもらうかのヒントが、本書から示唆されていると感じました。
7投稿日: 2015.01.31
