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權兵衛さんのレビュー
いいね!された数267
  • 牛馬解き放ち

    牛馬解き放ち

    西村寿行

    角川文庫

    西村寿行ファンにとって隠れた名作

    西村寿行氏の代表作ではありません。ですが、原則女人禁制、その「らしさ」は随所に。そして、「らしからぬ」部分も随所に。 圧倒的パワーで押しまくるいつもの牽強付会は控えめ、その代わり、男女の物悲しさを余すところなく描ききっています。 ラストは動揺するほど感情移入してしまいました。なので、★5つ。 映像化不可能に近い作品でしょう。だからこそ活字の威力が光ります。 きっとこの作品で儲けようなんて微塵も思わず、ただひたすら世界観に浸りきって作家本能で書き上げた感じがします。まさにプロフェッショナル。 昭和の巨匠の、この路線の作品をもっと読みたかったです。

    4
    投稿日: 2017.03.19
  • 蒼茫の大地、滅ぶ (下)

    蒼茫の大地、滅ぶ (下)

    西村寿行

    角川文庫

    制覇は滅びのはじまり

    飛蝗群団の動きに連動する政治動向の描写が、深慮遠謀満載でことさら秀逸。タイトルも素晴らしい。昭和の巨匠の偉大さに慨嘆するしかなかった。 クライマックスに向けて緊迫感が増した点を考慮し、上巻は★×4、下巻では満点★×5とした。

    2
    投稿日: 2016.08.02
  • 蒼茫の大地、滅ぶ (上)

    蒼茫の大地、滅ぶ (上)

    西村寿行

    角川文庫

    エンタメはこうあるべき

    西村寿行氏のパニック系小説としては、迫りくる鼠群の恐怖を描いた「滅びの笛」「滅びの宴」と並ぶ名作である。 作者らしさ、という部分では鼠群シリーズの描写のほうが迫力があり、一方で、覇者の力学が有する脆弱さを見事に突いた意味深さでは本作が相当勝る。甲乙つけ難い。 読破するまで夢中になれるエンタメの秀作である。

    3
    投稿日: 2016.08.02
  • 何度踏みつけられても「最後に笑う人」になる88の絶対法則

    何度踏みつけられても「最後に笑う人」になる88の絶対法則

    マック赤坂

    幻冬舎

    唯一無二のリビドー小説と評させて下さい。

    選挙と巷間のバラエティーで話題になる著者です。単なる金持ちの道楽や売名行為とはとても思えず、人物像に好奇心を掻きたてられて読破を決意しました。 ――想像以上でした。まるで昭和の西村寿行氏が描くハードバイオレンス小説に登場してきそうな狂人猛者で、驚異的な心的エネルギーの持ち主です。 感心している場合でありませんでした。正確に記すと、ヒトには本来これくらいのエネルギーが存在しているのだと思います。それを直截的に説明してくれています。猛と狂のてんこ盛りながら、終始一貫ぶれていません。人生の可能性に関して、本質を突く好著でした。描かれているのは、生命体のLibidoそのものなのです。著者の生きざまに一歩でも近づきたいという意欲が湧いてきます。 特にまえがきとあとがきが秀逸です。なんと、最初の数ページで不覚にも涙がこぼれてしまいました。

    6
    投稿日: 2016.07.27
  • 細胞の中の分子生物学 最新・生命科学入門

    細胞の中の分子生物学 最新・生命科学入門

    森和俊

    ブルーバックス

    ノーベル賞受賞直前の著者が説く武士道的細胞生物学

    医学生理学は、疾患があって研究が成立するものとばかり思っていました。巷間庶民のレベルにおいては、小胞体異常疾患など聞いた覚えがありません。なのに、小胞体ストレスなる生命現象をライフワークに選ぶなんて著者はよほどの奇人(想像を絶する偉人の意)なのだろうと思いました。その興味本位から読み始めた書です。 平易ではありません。高校生物の上級、あるいは理学薬学系の生化学Iくらいの知識は必要でしょう。 こう直裁的に記してしまうと、読破の意欲を削いでしまうかもしれません。本意はそうではなく、多くに方々にお薦めしたいノンフィクション研究史です。何と言ってもongoing なところが素晴らしい。武士道の精神を感じる著者の生き様に深く感銘を受けました。書の80%は、小胞体ストレスを理解するための知識整理です。ラストで一瀉千里の勢いを得て本題本質に迫ります。目睫に迫るなまめかしさで細胞の姿が1つの心象風景となり、圧倒的な説得力で行間までもが躍動します。読後感が、まるで痛快な推理小説のよう。同じ日本人であることが誇らしいです。そして、自分自身の身体に畏怖の念を抱きます。生命って凄い! 細胞って偉大だ! まだこんなに未解明な分野があったとは驚きでした。著者には、もっと自慢話の糊塗に専心して頂きたかったくらい。それに資する壮大な研究観です。

    5
    投稿日: 2016.07.16
  • 去りなんいざ狂人の国を

    去りなんいざ狂人の国を

    西村寿行

    角川文庫

    狂人を追い込む過程に西村ワールド全開

    昭和の時代に、作家同士の間でハードボイルドの定義に関する議論があったと記憶している。本作は、その渦中に含まれる作品であろうと思われる。 だが、そんな定義など、読者にとってはどうでもよいことだ。エンタメのための読書であり、エンタメに専心すれば、西村ワールドを存分に愉しめる。 まるで帳尻を合せるかのごとく、たんまり盛り込んできましたねえ、という印象。つまり、ハードロマンのフルコース。加えて、のちに日本で発生した実在の大惨事を予見するかのような展開に寒さを覚えてしまう。 定評のあるリビドー分野だけでなく、巨悪を討つ男の熱き血潮を描かせたら天下一品の著者。正義側は男専科のことが多いのだが、本作では、珍しく女刑事の出番もある。彼女も痛いくらいに熱い。

    4
    投稿日: 2015.07.14
  • 汝!怒りもて報いよ(下)

    汝!怒りもて報いよ(下)

    西村寿行

    角川文庫

    特級描写力ゆえ痛みがリアル

    描写力の定評がある作者が、直截的にバイオレンスを描いています。そのリアルさゆえ心が痛くなります。 強引な展開に食傷気味になるかもしれませんが、エンタメ追求のためなら妥協しないプロ作家の心魂に敬意を表したくなります。 西村寿行氏を読みなれた方なら受け入れられるでしょう。 ラストシーンの情景が特に印象的で、網膜に景色が鮮明に浮かび上がってきました。

    2
    投稿日: 2015.05.25
  • 汝!怒りもて報いよ(上)

    汝!怒りもて報いよ(上)

    西村寿行

    角川文庫

    特級描写力ゆえ痛みがリアル

    描写力の定評がある作者が、直截的にバイオレンスを描いています。そのリアルさゆえ心が痛くなります。 強引な展開に食傷気味になるかもしれませんが、エンタメ追求のためなら妥協しないプロ作家の心魂に敬意を表したくなります。 西村寿行氏を読みなれた方なら受け入れられるでしょう。

    3
    投稿日: 2015.05.25
  • 赤い鯱

    赤い鯱

    西村寿行

    徳間文庫

    これはいいです! 西村寿行氏版のミッション・インポッシブル

    時代背景が東西冷戦時代という点で、一種の歴史エンタメ小説として愉しめました。 壮大なスケールに圧倒され、寝る間も惜しんで読破してしまいました。リーダーストアのお陰で、こういう作品に出会える僥倖に感謝します。これだからリーダーでの読書はやめられない。わけても、西村寿行氏の作品は、全て読みたくなります。 何せ、物語の主軸が、「赤い国の最新鋭原子力潜水艦を捕獲せよ」というミッション・インポッシブルなんです。 それを日本人4名で成し遂げようっていうんです。 思わず、そんなん無理でしょう、と4名に呆れた口調で話しかける心境になっていました。 まさしくハードロマン。錆の浮いた鉄を思わせるハードさが剛直な根を下ろし、その地上部でロマンが息衝いています。 基本的に女人禁制。ですが、西村氏をあまり知らない方にもお勧めしやすい作品のように思います。西村ワールドのあらゆる要素がパワー全開という作品なので、愉しんで頂けるのではないか、と。

    4
    投稿日: 2015.05.06
  • 頽れた神々《下》(電子復刻版)

    西村寿行

    頽れた神々《下》(電子復刻版)

    西村寿行

    徳間文庫

    ファンのために書き下ろした確信犯的展開

    連邦政府と四国州の対立構図がよかった。なんか未来をトラベルしてきた感覚です。 全編を通して殺し犬がスパイスとして絶妙な効き具合を発揮しています。 西村寿行氏に対する免疫がない方にはお薦めしません。おそらく数作くらいは読破した経験がないと愉しめないと思います。 西村氏は、独自の世界観でエンタメに徹しています。些少な違和感などスルーし、四国州の住人になりきって読破できると、これほど愉しめる作品は貴重に感じられることでしょう。 要するに、読者を選ぶ作品です。確信犯で、自らの編集者と古からのファンを愉しませるためだけに書き下ろしていると思います。新規の読者層を開拓する気などおそらく皆無だったことでしょう。映画化などの下心も感じられません。 小細工なしで直截的にファンの心に響かせる筆力が秀逸。こういう骨太な作家は、めっきり減ったように思います。

    1
    投稿日: 2015.05.06