權兵衛さんのレビュー
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このユーザーのレビュー
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さよなら妖精
米澤穂信 / 創元推理文庫
青春活劇の謎解き小説
6
人物描写が秀逸で、それぞれの登場人物が実体としてイメージできます。この技量ゆえ、終盤に瞠目させられる展開が際立ってきます。
青春小説と謎解きの両面があり、そのどちらに共鳴できるかでも評価が変わってくる…でしょう。畢竟、青春の心象風景に心を傾けるのか、あるいは、ミステリアスな妖精の素性に注目するのか、という感じになります。
声高に明示された直截的なタイトルに作者の度胸や気概を感じます。「妖精」に「さよなら」が既定路線なのです。
それでも読者を感情移入させ、しっかりと重たい物を置いていきます。女性向きのストーリー展開だと思いました。心が震えると思います。
何故、自分(男性)向きではなかったのか。とても下賤な理由です。主人公の男子高校生は、煩悩の欠片も見せない善人なんです。自分の思春期に照らし、とても無理(非現実的)があると思ってしまいました。それでも、潔く終章の手前で「了」になっていれば、★5つにしました。終章で興ざめです。文学って、それくらい微妙なものなんだと教わりました。
心の中では、★5つです。トリック(殺人事件ではないので仕掛けと記したほうが適切)が見事でした。作者への私的な抗議として3つにしているだけなんです。 続きを読む投稿日:2013.10.13
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「相対性理論」を楽しむ本 よくわかるアインシュタインの不思議な世界
佐藤勝彦 / PHP文庫
楽しく学べます
5
相対性理論を勉強するのには、かなりの心的エネルギーを要するでしょう。
こんな難しい話を、ここまで分かりやすく解説できる著者の慧眼を感じます。
とても分かりやすかったです。
ちょっと誰かに、習得したにわ…か知識を披露したくなります。 続きを読む投稿日:2013.09.25
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彼女はたぶん魔法を使う
樋口有介 / 創元推理文庫
柚木草平シリーズは、安定していいです
5
推理小説ではありますが、いわゆる本格的なものではありません。
ハードボイルとは対極にあり、探偵小説に青春小説の要素が加わります。
著者は、タイトルの付け方が実に上手い。読後にそれを実感します。投稿日:2013.09.26
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宇宙に外側はあるか
松原隆彦 / 光文社新書
難解な問題を分かりやすく
5
宇宙論を知る必要があるのか。もしそう思っているのなら、読んでみる価値があるかもしれません。
宇宙は、論じられて初めて存在価値があるものだと思うのです。
知っていて得することはないかもしれません。しかし…、研究者が分かりやすく解説してくれています。
そして、我々には知る権利も、知る術(=本著)も与えられているのです。 続きを読む投稿日:2013.09.26
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細胞の中の分子生物学 最新・生命科学入門
森和俊 / ブルーバックス
ノーベル賞受賞直前の著者が説く武士道的細胞生物学
5
医学生理学は、疾患があって研究が成立するものとばかり思っていました。巷間庶民のレベルにおいては、小胞体異常疾患など聞いた覚えがありません。なのに、小胞体ストレスなる生命現象をライフワークに選ぶなんて著…者はよほどの奇人(想像を絶する偉人の意)なのだろうと思いました。その興味本位から読み始めた書です。
平易ではありません。高校生物の上級、あるいは理学薬学系の生化学Iくらいの知識は必要でしょう。
こう直裁的に記してしまうと、読破の意欲を削いでしまうかもしれません。本意はそうではなく、多くに方々にお薦めしたいノンフィクション研究史です。何と言ってもongoing なところが素晴らしい。武士道の精神を感じる著者の生き様に深く感銘を受けました。書の80%は、小胞体ストレスを理解するための知識整理です。ラストで一瀉千里の勢いを得て本題本質に迫ります。目睫に迫るなまめかしさで細胞の姿が1つの心象風景となり、圧倒的な説得力で行間までもが躍動します。読後感が、まるで痛快な推理小説のよう。同じ日本人であることが誇らしいです。そして、自分自身の身体に畏怖の念を抱きます。生命って凄い! 細胞って偉大だ!
まだこんなに未解明な分野があったとは驚きでした。著者には、もっと自慢話の糊塗に専心して頂きたかったくらい。それに資する壮大な研究観です。
続きを読む投稿日:2016.07.16
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種の起源(上)
ダーウィン, 渡辺政隆 / 光文社古典新訳文庫
理系の入門書に非ず
4
――子供達は、なるべく早いうちに、進化と自然淘汰の視点から生命を見るべき――が、この大著を薦める言葉である。
DNAの構造解析で科学史に盛名を永遠に残すであろうジェームズ・ワトソン博士の言葉だけに、そ…の意義は果てしなく大きい。そう感応して読破を決意した。
イメージとして、理系の著の感はある。だが、本著をワトソン博士が薦める意味は、理系育成ではないと断言したい。分野問わず、事実から意味を汲み取る訓練が重要であるのを説いているように思う。
生命、生物は、神が創造した産物であると断定されていた時代に、相当な発展家として異端児扱いされていた著者である。命がけで本著を書き上げた気迫に触れるだけでも、一級品のドキュメンタリーとして楽しめる。自説の正当性を主張しながら、抵抗勢力を揶揄するロジックが延々と続く。透明な笑いを溜めこんで言葉に毒を盛り続け、ときには哄笑と憐笑が聞こえてくるほどの悪罵も混じる。
真実のダーウィンは、実に人間的で、それもどちらかというと弱い人間である。学校教育で真実のダーウィンと、自然淘汰説の本質を教わらなかった30年分の怨恨を糧に読了した。当時の理科教師、生物教師に対する憤怒が収まらない。
ダーウィンを正しく理解すると、日常で出会う様々な動植物に対する目が変わってくる。路傍の蟻一匹にもリスペクトの念を感じるようになる。 続きを読む投稿日:2014.07.21