
ハーモニー
伊藤計劃
早川書房
人が病を克服した先に待つものは...
人体内の健康状態を常に把握し、改善策を処方するシステムが開発され、病や不健康が実質克服された近未来を描いたSF小説。 ストーリー展開等にはやや疑問を感じるところもあったが、人が自分の身体にかかわることのほぼすべてを外注化した先に何が待っているのか?、人の意識とは何なのか?等といった壮大なテーマが扱われていて、読み応えは充分。 また、本作発表後間もなく没することになる作者の思いが、作中何度も語られる「永遠」という言葉にこめられているように思われ、感慨深かった。
1投稿日: 2014.03.07千年ジュリエット
初野晴
角川文庫
コメディ色が薄まったのがちょっと残念
吹奏楽の甲子園とも呼ばれる普門館コンクールを目指す高校生達を描いたハル・チカシリーズの第四作。 今作は、高二の文化祭の話に終始しており、結果として新たに部員や指導者として加わりそうな人は何人か登場しますが、吹奏楽部としての活動等はほとんど描かれないため、少し停滞感が感じられました。 また、比較的重いテーマを扱う話が多かったがためか、このシリーズならではのドタバタコメディ感が薄かった点も、個人的には少し期待外れだったかも。
0投稿日: 2014.03.07本日は大安なり
辻村深月
角川文庫
気楽に読める娯楽小説
名門ホテルの結婚式場を舞台に、同じ日に結婚式をあげる予定だった4組のカップルが巻き起こす様々な騒動等を描いた小説。 読者に対するミステリー的な仕掛けも一応あるものの、「女性が結婚式にかける祈りに似た思い」がストーリー全体のメインテーマになっている感じであり、女性同士の複雑な関係を描くのが得意な作者の作品にしては、登場人物の内面描写等も比較的あっさりしていた。 他の作品(「子供たちは夜と遊ぶ」)とのリンクもあるので、そちらを先に読んだ方が本作をより楽しむことが出来るだろう。
0投稿日: 2013.10.30シンメトリー
誉田哲也
光文社文庫
シリーズのファンなら...
「ストロベリーナイト」シリーズの連作短編。 各編は30分程度で読み終わってしまう分量であり、ミステリーとしての意外性等は期待すべくもないが、このシリーズの登場キャラクター達が好きなら、軽く楽しめる感じ。
1投稿日: 2013.10.05ソウルケイジ
誉田哲也
光文社文庫
安心して読める作品
「ストロベリーナイト」の続編で、久しぶりにこのシリーズを読んだが、非常に読み易く、ページ数の割にあっという間に読み終わってしまった印象。 ミステリーとしては、「真相」がある程度早い段階で想像できてしまうし、実際の警察の捜査はそんなに甘くないんじゃないか等々、細かな突っ込みどころは色々あるが、主人公をはじめとした個性的な登場人物がこのシリーズの魅力だろうし、そう言う意味では及第点以上だと思う。
0投稿日: 2013.10.05シューマンの指
奥泉光
講談社文庫
意外性にあふれたクラシック音楽ミステリー
クラシック音楽の世界を題材としたミステリー。 中盤まで事件らしい事件がほとんど起こらず、クラシック(特にシューマン)に関連した薀蓄ばかりのストーリーなのでやや退屈したが、一気にストーリーが動きだす後半以降はなかなか。 特に、ラストの二重にわたるドンデン返しは意外性だけでなく、序盤からの微妙な違和感の解消にもつながっており、「やられた!」と久しぶりに感心してしまった。
2投稿日: 2013.10.05雨の匂い
樋口有介
中公文庫
ストーリー展開にびっくり
作者の他の作品と似ているようでいて、全然似ていない、主人公の壊れたキャラクター設定が絶妙。 予定調和の世界を突き放したストーリー展開も鮮やかで、非常に印象的だった。
6投稿日: 2013.10.05定年ゴジラ
重松清
講談社文庫
戦後の高度成長を支えたサラリーマンへの応援歌
架空のニュータウン・くぬぎ台を舞台に、定年を迎えたサラリーマン達の「余生」を描いた小説。 作者の実際の年齢よりも遥かに上の世代を主人公として描いたからか、ところどころでわざとらしさを感じてしまったが、全体としては戦後の高度成長を支えた先輩サラリーマンに対する愛情が感じられ、読後温かな気持ちになれる佳作。
1投稿日: 2013.10.05楽園
樋口有介
中公文庫
挑戦的な作品ではあるが...
ミクロネシアにある架空の小国・ズッグ共和国で起こる事件を、CIAの駐在員の目から描いた小説。 現地人の喋るズッグ訛りの英語を、「おらは~」という日本の方言で表現しているのには最初面食らったが、慣れてくると意外と違和感がなく、素直にストーリーに入ることが出来た。 ただ、せっかく日本を離れて架空の国を描いた割には、展開に意外性等がなく、作者の持ち味が活きた作品かというと、やや疑問なところ。
0投稿日: 2013.10.05シャングリ・ラ 下
池上永一
角川文庫
荒唐無稽なストーリー展開自体は好みなんですが...
地球温暖化の影響により熱帯化した近未来の東京を舞台に、超巨大建物・アトラスへ移住した支配層と森林化の進む地上に取り残されたゲリラ達の戦い等を描いたSF小説。 とは言っても、途中からストーリーはどんどん脱線というか別な方向に進み、最後には東京という都市自体の成り立ちや歴史がテーマとして浮上。 超スピーディーで荒唐無稽なストーリー展開といい、登場人物達の極端にデフォルメされたキャラクター設定といい、アニメを無理やり小説という器で読まされた印象で、小説ならではの深みや良さが感じられなかった点が、個人的にやや残念だった。
3投稿日: 2013.10.05