
ブギーポップ・ミッシング ペパーミントの魔術師
上遠野浩平,緒方剛志
電撃文庫
ペパーミントの風味が効いた名作
「傷つきたくない」という気持ちが誰かの中に有る限り、みんながみんな取り返しの付かない失敗をしている。 けれども、失敗して傷ついたからこそそこから前に進もうという意思が生まれる――心の痛みはそのためにある。 傷つきたくない、それでも触れあいたいというシンプルなテーマをシンプルにアイスクリームに託した、ペパーミントの風味が効いた名作。
2投稿日: 2017.01.09
ソウルドロップの幽体研究
上遠野浩平,斎藤岬
NON NOVEL
ついにソウルドロップシリーズも!
祥伝社さんから刊行されているこの「ソウルドロップシリーズ」も電子化していただいてありがとうございます! これを機に、著者のファンで未読の方にも、 あるいは表紙やタイトルに惹かれて今まで気になっていた、という方にも 読んで頂けると嬉しいです。 予告状を出して「キャビネッセンス」を盗み、人の命を奪う「ペイパーカット」と呼ばれる怪人。 因縁を持ちペイパーカットを追うサーカムの保険調査員、伊佐俊一と千条雅人。 彼らを巡る事件と物語――その中で、 「人間とは何か?」 「何が人間なのか?」 という問いかけを独特の発想で重ねる作品群という部分こそ、このシリーズの魅力です。 朝、電車で同じ車両に乗り合わせた人に対して 「彼らが人間であるかどうか」という確認をして、 「そうである」という定義をするかどうか。 そんなことはいちいち誰も考えない。 ――であるならば、あなたはどんなときに、ある人物に対して 「彼が人間である」と認識を確定させているのか。 または自分自身を「人間である」と定義しているものが何なのか。 そういうことを扱った物語です。 死亡した人気歌手を巡り、様々な人間が 「彼らを彼らたらしめているもの」のために行動を起こす。 コンサート企画を運営するスタッフ。 みなもと雫の音楽とそれぞれの向き合い方をするミュージシャン。 トリビュートコンサートの中止を求めるフォーカード。 そして、ペイパーカットを様々な立場から追う追跡者。 彼らが何者なのか、どうして、何が彼らを彼らたらしめているのか。 時にペイパーカットの、時に彼を追跡する伊佐や奈緒瀬の立場から、 人間とキャビネッセンスとを追う不思議な作品です。 不思議な直感を持ちペイパーカットを追う伊佐俊一。 脳内に演算チップが移植されロボット探偵となった千条雅人。 東澱一族に脅威となる存在を排除するという命を受け事件に介入する東澱奈緒瀬。 3人の関係性も、シリーズを追いかける楽しみの一つです。
1投稿日: 2016.05.22
酸素は鏡に映らない No Oxygen,Not To Be Mirrored
上遠野浩平
講談社ノベルス
「自分」と「世界」とをめぐるささやかな冒険
昔、寺月恭一郎という男がいた。 彼は多くのものを手に入れながら、ある日あっけなくこの世から去った。 彼が本当の意味でこの世に遺していったもの、それは必ずしも多くはない。 その意味を理解するものも、多いとは言えない。 ――何故なら、それはすなわち「世界を支配する」という事の意味を問うことに等しいからだ。 そんなことは思いも寄らない、考えもしない少年たちが、寺月が遺したほんの一握りの遺産を、ある男から戯れに託される。 「世界を支配する」ということはどういうことなのか。 これは、世界のあれこれと比べてしまえばほんのささやかな、しかし「自分」と「世界」とをめぐる冒険のお話。 著者らしい切り口で、少年たちの小さな成長と少し不思議な出来事を描いた物語です。 また、著者の作品をご存じで、酸素という単語に「ひょっとして――」と感じられた方には、是非読んで頂きたいです。
3投稿日: 2016.02.10
トクサツガガガ(1)
丹羽庭
ビッグスピリッツ
だいすきです!
自分が大好きなもののことを、 誰かに話すことをためらってしまったり、 それを大好きな自分に自信がもてなかったり、 誰かに大好きなもののことについて悲しい言葉を聞かされたり。 大好きであるということは、 たくさんの葛藤を伴うし、 いやな思いもすることも、悲しい思いをすることもあります。 でも、大好きなものは、やっぱり大切なもので。 大好きなもののおかげで素敵な体験をいっぱいして、今の自分は大好きなものがあったから存在するし、 (未来のことはわからないけど) 今、自分が大好きなもののことを、 もっと素直に大好きでいたいというのは、当たり前のことですよね。
2投稿日: 2016.01.30
夜明けのブギーポップ
上遠野浩平,緒方剛志
電撃文庫
拙い、思いの物語
なぜ「ブギーポップ」と名付けたのか。 炎の魔女がどうして正義の味方をはじめたのか。 2人の邂逅までの課程で途切れていった 誰かの願いや様々な可能性は、 切なく、儚く、必死で、とても愚かしかったりすることもある。 それらは結局なにも変えられなかったのかも知れない。 それでも、彼らの思いを受け止めて、 きっと繋がっていくものがある。 …これは著者の作品に特に共有されるテーマなのだと思いますが、 本作品はシリーズの中でも特に好きな作品の一つです。 始まりは案山子、──カラスよけの、道化だよ。
1投稿日: 2015.06.20
猫弁と少女探偵
大山淳子
講談社文庫
大いなる欠けと、たくさんの余計なこと
大好きな七重さん。今回もとても不器用で、どこかずれていて、それでも、誰かに愛情をたっぷり注ぐことができる不思議な人。わたしたちは余計なことくらいしかできませんからね、と七重さんは笑う。やっぱり素敵な人だ。 さて、今回のおはなしについて。 「なんだかうまく行かない」に「上手にできない」が積み重なっていく三毛猫誘拐身代金請求事件は、それでもしっかり、まっすぐ、「誰かを助けたい」「しあわせになって欲しい」という登場人物達の願いとともに。そして中心には、猫。 いつも誰かを救いたいと思考を分裂させてばかりで、自分のしあわせのことをほったらかしの猫弁・百瀬。百瀬のしあわせを不器用に、ほんのちょっとだけ応援しようとするたくさんの人たち。彼らおのおのに訪れる転機は、しあわせになるために自分から踏み出す第一歩。喜ばしくもあり、頼もしくもあり、ちょっと寂しくもあり、切なくもありますが、彼らにしあわせになって欲しいという願いがやさしくそっと寄り添います。だから「卒業」なんでしょうね。 次のエピソード「猫弁と魔女裁判」で物語は完結しますが、そのためか読後に「途中感」が残ってしまうのがちょっと収まり悪いので、魔女裁判までの一気読みをお勧めします。
1投稿日: 2014.12.20
新 仮面ライダーSPIRITS(1)
石ノ森章太郎,村枝賢一
月刊少年マガジン
彼らにずっと伝えたかった言葉
「新仮面ライダーspirits」では、1号・本郷さんの苦悩から物語が新たに書き始められる形になります。そこでの彼の苦悩の深さ、タイトル「spirits」の意味と滝和也たちの存在。ヒーロー・仮面ライダー1号として始まる「仮面ライダーspirits」と人間・本郷猛として始まる「新仮面ライダーspirits」。 引き続き描かれる戦いの激しさは、「仮面ライダーであること」そのものとの戦いかもしれません。 「そんなの地獄に決まってる」 でも、彼らは独りきりじゃない。 かつて彼らを応援していた人たちがずっと伝えたかった言葉かもしれません。
1投稿日: 2014.02.23
仮面ライダーSPIRITS(1)
石ノ森章太郎,村枝賢一
月刊少年マガジン
かつてのヒーロー、じゃない
取り敢えずライダーのことは幼少時のヒーローずかん記事くらいの知識しかない自分にとって、初めて接する「仮面ライダー関連作品」です。 ピンチに陥った滝和也の耳に届くマシンの排気音、目に焼き付いたシルエット…。 人づてに耳にしていた、「仮面ライダー」というかつてのヒーローが今もヒーローとして戦っている姿、まさしくその物語の始まりのシーン。 作品は各ライダーを順番に登場させ、ゼクロスがメインとなる長いエピソードが始まり「新仮面ライダーspirits」へと続いていきます。在りし日の彼らの姿を知らない私のような立場の方でも、ひとたび読み始めれば彼らの魅力、激しい戦いの行方にページが止まらなくなります! ちなみに、アマゾンにすっかり夢中になってしまったので、以後のレビューはアマゾン登場部分レビュー中心の予定です(゚∀゚ゞ)
2投稿日: 2014.02.23
ペンギン・ハイウェイ
森見登美彦
角川文庫
言葉にできないかもしれないということ
いくつもの謎を追う物語の中で、アオヤマくんたちは「おねえさん」にプールに連れていってもらう。そこで、アオヤマくんは「ひょっとすると彼のノートに記録できないかもしれないこと」を、生まれて初めて予感する。 この作品は全くもって、その瞬間のせつなさそのものだと思います。
0投稿日: 2014.02.22
flat 1巻
青桐ナツ
月刊コミックアヴァルス
そういえば…
ただなんとなく、それだけでじゅうぶんな毎日。それはとても得がたいもの。 そこに、イトコの秋くんとの出会い。 なんとなく、の中にあった「自分」と「相手」を、「そういえば…」くらいの感覚でふと気にしたり、思い出したり、そこにまた素敵なものを見つけたり。ゆっくり淡々と独特の空気をただ受け入れるだけで同じ時間を過ごせそうです。
1投稿日: 2013.12.28
