ロシア文学の教室
奈倉有里(著)
/文春新書
作品情報
「ロシア文学の教室」から小説の世界へワープ――異色の体験型・文学教室!
青春小説にして異色のロシア文学入門!
「この授業では、あなたという読者を主体とし、ロシア文学を素材として体験することによって、社会とは、愛とは何かを考えます」
山を思わせる初老の教授が、学生たちをいっぷう変わった「体験型」の授業へといざなう。
小説を読み出すと没頭して周りが見えなくなる湯浦葵(ゆうら・あおい)、
中性的でミステリアス、洞察力の光る新名翠(にいな・みどり)、発言に躊躇のない天才型の入谷陸(いりや・りく)。「ユーラ、ニーナ、イリヤ」と呼ばれる三人が参加する授業で取り上げられるのは、ゴーゴリ『ネフスキイ大通り』、ドストエフスキー『白夜』、トルストイ『復活』など才能が花開いた19世紀のロシア文学だ。
社会とはなにか、愛とはなにか?
この戦争の時代を考えるよすがをロシア文学者・翻訳者の著者が真摯に描く
「ロシア文学の教室」。
【取り上げる作品】
ニコライ・ゴーゴリ『ネフスキイ大通り』
アレクサンドル・プーシキン『盗賊の兄弟』と抒情詩
フョードル・ドストエフスキー『白夜』
アレクサンドル・ゲルツェン『向こう岸から』
ミハイル・レーモンルトフ『悪魔』
イワン・ゴンチャロフ『オブローモフ』
イワン・ツルゲーネフ『父と子』
ニコライ・ネクラ―ソフ『ロシヤは誰に住みよいか』
アントン・チェーホフ『初期短編集』
マクシム・ゴーリキー『どん底』
フセーヴォロド・ガルシン「アッタレーア・プリンケプス」
レフ・トルストイ『復活』
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商品情報
- シリーズ
- ロシア文学の教室
- 著者
- 奈倉有里
- 出版社
- 文藝春秋
- 掲載誌・レーベル
- 文春新書
- 書籍発売日
- 2024.05.17
- Reader Store発売日
- 2024.05.17
- ファイルサイズ
- 3.9MB
- ページ数
- 384ページ
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この作品のレビュー
平均 4.5 (4件のレビュー)
-
こういう本って初めて読んだような!! すごく新鮮でおもしろかった。
ロシア文学の入門書なんだけどそれが小説仕立てになっている。大学でロシア文学を学ぶ日本の男子学生が主人公。ロシア文学の講義に出るたび、…なぜかいつのまにか課題作品のなかにワープする感じで登場人物のひとりとしてその作品を体験する。そして先生の講義があり、学生たちが意見をかわし、主人公もさまざまなことを考える。主人公は同じ講義を受けている女子学生に片思いしていて、それが作品の体験にリンクしたり。
とりあげられているロシア文学はトルストイとか有名作品もあるけど、自慢じゃないけどわたしは一冊たりとも読んだことがなくて、それでもおもしろかった。本当に作品を「体験する」っていう感じがしたし、現代の日本の学生たちの言葉で解釈とか感想を言われると、どういう話なのかがすっと頭に入ってくるようだし。
そして、主人公はウクライナで起きた戦争に衝撃を受け、無力感に襲われているような感じもあるのだけれど、本を読んで考えるうちに、絶望に落ちないとか、周囲に心をひらくとか、行動しようとするとか、他人を尊重するとか、そういう視点に気づいて多少なりとも希望を見出していくっていうようなところがすごくよかった。そういう視点とか考え方とかを、何百年も昔の文学者から手渡しされるというか、そんな感じがするところも本当によかった。
「必要なのは、焦らずそのときまで――心がよみがえるそのときまで、生きて、読んで、考えていくことだ。」続きを読む投稿日:2024.06.04
例えば、知人の前で本を手にしていて「何の本?」とでも尋ねられた時、「ロシア文学の関係の本で、これから読み始めようとしている」とでも応じたとする。こういう場合、十中八九は「多分…手にしないような種類の本…だと思う」という反応が在ると思う。
実は、偶々ながら例示したような出来事が実際に在った本書である。新書で377頁と、少し厚めな感じがする一冊だ。が、読み易く、その厚さが気にならない。
雑誌連載を基礎に整理したということであるらしい本書だ。特段にその連載記事に触れた経過は無く、「ロシア文学を説く」ということに漠然と興味を覚えて手にした。そして「意表を突かれた」と思えるような叙述方式に少し引き込まれた。
全般に、大学を主要な舞台としている、少しファンタジーのような要素も入り込んでいて、或る学生と周辺の仲間達の物語という「小説」の体裁なのだ。最近の作家達の作品の文庫本等を好んで読む、中高生を含む若い世代の人達が好みそうな雰囲気になっていると思った。同時に、随分と以前に読んだ、当時のベストセラーでもあった、少年少女向けに“哲学”が論じようとしている内容を説こうとする『ソフィーの世界』を想起するような感もした。
大学で―一応、大学に学んだ経過も在る自身が知る昔の様子と、昨今は様子が大いに異なってはいる…―は、規定した回数の講義を確り開催することになっているので「前期に12回の講義」ということなのであれば、4月上旬から7月下旬の12週間で12回を確り開催する。本書―或いは「本作」という雰囲気が色濃い…―は、2022年4月から2022年7月という時期を想定した「12講」を核としている。ここに前段と後段が付されている。そして4月に新学年が始まった頃の様子から、梅雨時が過ぎて暑くなり、暑い盛りになって来た頃に予定の「12講」が閉幕するのである。
「12講」で扱われるのは、主に19世紀の作家達やその作品だ。ゴーゴリ、プーシキン、ドストエフスキー、ゲルツェン、レールモントフ、ゴンチャロフ、ツルゲーネフ、ネクラーソフ、チェーホフ、ゴーリキー、ガルシン、トルストイという名が並ぶ。本書には「ロシア文学」とでも言えば名前が出て来る人達が次々に登場する。
本書、または本作の主人公は、大学でロシア語やロシア文学を学んでいる「ユーラ」こと湯浦である。湯浦は、前期の12回の講義各回で、代表的な「ロシア文学」の作家の作品等について論じるという講義を受講することにした。「文学の世界を体験して頂く」と言い出す、少し風変わりな先生に導かれ、毎回の課題図書を確り読み、色々と考えながら学んでいくというように展開する。
本書は、作中世界の大学で展開される「12講」の物語で、全体的には「12篇から成る少し長い篇」という体裁だ。1篇ずつ読み進めることが基本であろうが、気になる作家や作品を扱う篇を気が向くままに、随意の順番で読む事も出来よう。そして、気に入った篇の再読というのも好いであろう。「多分…手にしないような?」と漠然と思う程度に敷居が高い「ロシア文学」に、少しカジュアルな感じで向き合う材料になりそうだ。
主に19世紀の作家達は、現在とは異なる背景の中で生き、そして「ロシア文学」なので外国に在った人達ということになる。が、本書の作中の講義での課題図書となっている彼らが綴った内容は、かなり普遍的なテーマ性を帯びている。人の人生について、個人と社会または社会の中の個人、愛や哀しみや憎悪というような人の情というようなことを考え、そうした想いを綴る「文学」は時空を超えて読者に近付いて来る筈だ。本書はそういうことに改めて気付かせてくれる。
極個人的には、挙がっている12人の作家達の作品等ということであれば、チェーホフに最も親しんでいると思う。チェーホフは振り返る過去、「こうしておけば…」という程度に思う場合も在る来し方というのは、簡単に取り戻す、やり直すことが叶うでもないのだから、眼前のことや現在の人生と確り向き合って生きるべきである人間というようなことを、数々の作品を通して語り続けていたのかもしれない。本書ではそういうように、数々の短篇を題材に論じていた。
更に言えば、社会の様子を謙虚に見詰め、自由な一個人として堂々とそれを論じられるような、「真に自由な個人」であることを目指して活動を続けたということでゲルツェンが取上げられていたが、これは個人的に興味深かった。
本書は「2022年4月から2022年7月」という時期という設定で小説仕立てになっている。ウクライナの戦禍に纏わる衝撃が大きかった時期で、主人公がそういう状況下で心揺らいだというような描写も在る。或いは、真摯にロシア語やロシア文学を学び続けた著者自身の当時の想いが大きく反映されているのであろうとも思いながら読んだ部分だ。
現在、ウクライナの戦禍というような重大事件迄起こってしまっている訳で、そういう中であるからこそ「所縁の地域の文物」に触れてみて考えるようなことも求められるのかもしれない。殊に「文学」となれば、普遍的なテーマ性を帯びている訳で、世界の混迷を遠目にモノを考える材料になり易いかもしれない筈だ。
本書のことを知り、入手して紐解いてみようと思い立ったのは、『夕暮れに夜明けの歌を 文学を探しにロシアに行く』という、著者の自伝的要素も色濃いエッセイ集を大変に興味深く読んだ経過が在ったからだった。そういうことで「アレの著者?!」と注目したのだ。本書に出くわして善かった。
細々と本署に在る内容を綴り過ぎるのも、未読な方の愉しみを妨げるばかりとなるので、これ以上は詳述しない。是非、本書を「体験」して頂きたいと思う。
序でに個人的な希望を申し上げておくと、是非とも本書で取上げていない20世紀の作家達に纏わるモノの登場にも期待したい。続きを読む投稿日:2024.06.07
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