人間はどこまで家畜か 現代人の精神構造
熊代亨(著)
/ハヤカワ新書
作品情報
清潔な都市環境、健康と生産性の徹底した管理など、人間の「自己家畜化」を促す文化的な圧力がかつてなく強まる現代。だがそれは疎外をも生み出し、そのひずみはすでに「発達障害」や「社交不安症」といった形で表れている。この先に待つのはいかなる未来か?
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商品情報
- シリーズ
- 人間はどこまで家畜か 現代人の精神構造
- 著者
- 熊代亨
- ジャンル
- 教養 - ノンフィクション・ドキュメンタリー
- 出版社
- 早川書房
- 掲載誌・レーベル
- ハヤカワ新書
- 書籍発売日
- 2024.02.21
- Reader Store発売日
- 2024.02.21
- ファイルサイズ
- 8.5MB
- ページ数
- 224ページ
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この作品のレビュー
平均 3.4 (7件のレビュー)
-
SNSで目に入った書評を見てきっとおもしろいと思って、さっそく入手。
人はこれまでにいろいろな動物を家畜化してきたというのはわかっていたが、自らも家畜化しているという視点はなかった。でもたしかに、自然…から切り離された、清潔で計画的で道徳的な生き方は"家畜化"なのだなぁ…。「社畜」のような表現もなかなか的を射ているということか。
この本では、自己家畜化を必ずしも悪いこととはきめつけず、ゆるやかな進化の過程としてはある意味当然の変化だととらえつつ、社会や文化の設計がこのゆっくりした変容がおいつかないこと急なことで生じる問題などを検討している。続きを読む投稿日:2024.04.19
人間は生物学的な進化の過程で家畜化してきたが、文化・文明的な意味でも自らを家畜化してきた。しかし今に至って、現代社会が人間を家畜化しようとする圧力は、動物としての人間の首を絞め始めたのではないか?とい…う考察をした一冊。
一章では、人間の生物学的な家畜化がどのようなものかを説明し、二章では近代までの文化による家畜化を、三章では現代文化による家畜化を、四章では現代社会の家畜化圧力による弊害を説明している。最終章である五章では、現代社会の家畜化圧力から導き出される未来像を描いて、その未来を憂慮している。
脳科学者や心理学者、精神科医のおもしろい話には気を付けなければならない。胡散臭い人の顔も思い浮かぶ。この本にしても、引用している文献を恣意的に解釈しているのではないか?という疑いを持つ必要はある。
という警戒は必要だが、著者の見方には概ね同意する。日頃、著者のツイッターやブログは見ているし、「健康的で清潔で、道徳的な秩序ある社会の不自由さについて」も既読なので、このような内容になることの予想はついていた。著者も言及している通り「健康的で清潔で・・・」を踏まえた上で、自己家畜化というキーワードによって考察を深めた一冊だろう。
些末なことだが、猫が家畜化された動物だという話に違和感がある。あいつらは本当に家畜なのだろうか?犬は家畜だと思うが、猫は簡単に野生に戻れるイメージがある。野生のヤマネコと見た目も大して違わない。その点、犬はチワワからブルドックまでめちゃくちゃだ。
平たい顔族の一員としては、家畜化された種は野生種より顔が平面的になる、という話には思うところがあった。東アジアの人間は動物的特性が弱いのだろうか。
この本では触れられていないが、文化や社会が人間の家畜化を進めた要因として、死刑は大きいと思う。死刑は、野生の狂暴な遺伝子を持った個体が遺伝子を子孫に残すことを難しくしたに違いない。
ところで、私が本書を読む前に密かに期待していたことがある。それはリベラル・ポリコレ批判のための外堀を埋めることだ。リベラル・ポリコレはそろそろ生物学的な人間の対応できる一線を越えようとしている気がする。リベラル原理主義者は人間が動物であることを認めないのではないか。自分自身は10年前だったら、リベラルですよ、と言えた。しかし今は口ごもってしまう。そろそろついて行けなくなっている。なんならマイルドな保守かもしれない。自分はおそらく昭和のリベラルなのだ。真・家畜人失格だ。
だが、リベラルは基本的に、理性的で論理的で倫理的に正しい。そこに異議を唱えるのは難しい。なぜか。その異議は、非理性的で非倫理的で非論理的な動物的な正しさに基づいているからだろう。動物的な正しさは、理性や倫理や論理とは関係がない。論理的な「言語」を舞台に両者が相対した場合、リベラルが勝利するのは当然だ。ただ著者はバランス感覚に優れているらしく、リベラル批判という言質を取られそうなことは書いていない。
急進的なリベラル・ポリコレの動きにブレーキをかけるという意味では、ネトウヨや陰謀論者にも果たす役割があるのかもしれない。彼らはリベラルである真・家畜人より動物的特性が強いのだと思う。ただやはり言論という場に立つと、理性的で倫理的で論理的なリベラルには勝てない。
五章に書かれた未来予測はSFで描かれるディストピアのように感じた。ある程度リアリティもある。しかし本当にそのようになるのだろうか?生物学的にも内面的にも家畜的特性を備えた真・家畜人は、あまり子供を産まないだろう。その一方で、生物学的にも内面的にも家畜的でない特性を持った人々、動物的特性の強い人々、雑にいうとヤンキー素養のある人々は子供を産むだろう。その結果、家畜的特性の強い真・家畜人は絶滅するのではなかろうか?
経済的な側面からも似たようなことを考えてしまう。これから日本は更に没落していくことが予想される。その世界でお行儀の良い真・家畜人は生き残れるだろうか?戦後間もない頃、ヤミ米に手を付けずに死んだ裁判官がいたことを思い出す。健康的で清潔で、道徳的な秩序ある社会は社会的経済的に安定していることが前提だ。それが崩れた時、真・家畜人は葛藤に引き裂かれるだろう。それでも真・家畜人でいられるだろうか?その時生き残るのは、すぐ怒鳴る、殴る、約束を守らない、略奪する動物的な特性を備えたヤンキーではないか?それはそれで嫌なディストピアだが。続きを読む投稿日:2024.05.01
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