訂正可能性の哲学
東浩紀(著)
/ゲンロン
この作品のレビュー
平均 4.7 (23件のレビュー)
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私はSNSはやらないが、SNSには、白黒ハッキリさせるような論議を生む機能が内蔵されており、その意見の差が大きい程、人は反論の熱意が高まるようだ。それは宗教論争のように相手を屈服させ、自らの正義を知ら…しめようとする。その根底には論に仮託した承認欲求の維持、自意識を失いたくないという気概すら見える。
その状態はヤバい。社会は、訂正し、実態にアジャストする機能を有していたはずではないか。また、完全な根拠で立論して最適解を弾く「人工知能民主主義」にはリアリティが無いが、実現するとしても、その無謬性ゆえに「訂正可能性」を欠くならば、あってはならない。こと哲学においても、過去の論考を引きながら訂正するのは、人文学における当然の作法である。あるべき筈の「訂正可能性」を訂正強度のミスリードにより敵味方に分断したり、片方の論説を過敏に扱い過ぎる、または自論を完璧に信仰し過ぎるのはいかがなものか。本著の論旨は、そうしたあるべき「訂正機能」を消失しないようにというメッセージを含むものだと読解した(あくまで個人の意見であり、書評)。
観光客とは、友にも、敵にも分類できない第三の存在。家族とは、自ら選択して集められた集団ではなく、いつの間にかそこにあるもの。こうした二つのカテゴリーを駆使して、確定した立場や意見の危うさを看破する。そして、クリプキのクワス算を象徴的に援用する。
ー 僕たちは、すべての問題に中途半端にしか関わることができない。これは決して冷笑主義の表明ではない。それはすべてのコミニケーションの条件。足し算の規則すら完璧に提示できず、ソクラテスの名前すら完璧に定義できない。そのような単純なことに対しても、原理的に他者からの訂正可能性にさらされている。
人文学者、いや社会学でも私は疑問に感じるのだが、誰それがこう言ったという言辞を弄して、それは実験データでも無いのに、なぜ得意気に論説を複雑化してしまうのか。彼らは皆、自信がない。あるいは教養=記憶力が売りのナルシストなのかと。東浩紀は、訂正可能性をモチーフに、その答えを本著で与えてくれた。
ー 人文学は過去のアイディアの組み合わせで思考を展開する。自然科学のように実験で仮説を検証するわけではない。社会科学のように統計調査を活用するわけでもない。プラトンはこういった、ヘーゲルはこういった、ハイデガーはこういったといった蓄積を活用し過去のテクストを読み替えることで思想を表現する。ヴィトゲンシュタインの哲学を訂正し、ローティの連帯論を訂正し、アーレントの公共性論を訂正するといった訂正の連鎖の実践である。この訂正こそが、人文学の持続性を保証する。
ー 成田氏による無意識民主主義、人工知能民主主義については、実現不可能だと考える。例えば戦争のように情動が沸騰する事態に対応できない。無意識が常に公共の利益を指し示すわけでもない。訂正可能性の概念を導きの糸としているのは、一般意思とその暴走を抑制するものの、拮抗関係についてより明確に説明できると考えたからである。アルゴリズムの構築そのものも疑わしい。人工知能民主主義は、訂正可能性を消去するから問題なのだ。
改善ではなく訂正。いや訂正にも「正しさ」を語感に含むので、少し齟齬があるようには思うが、社会構造上、当たり前にあったもの。必ずしも良い変化とは限らぬが、あるべきもの。それがインターネットやAIにより、消去されぬように。私はそういう読み方をしたのだ。後は訂正していけば良いではないか。続きを読む投稿日:2024.05.04
訂正する力に挫折していたところ、友人から勧められて読みました。
まだ、一通り目を通しただけですが、訂正する力に比べるとはるかに読みやすい。投稿日:2024.05.23
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