歴史・戦史・現代史 実証主義に依拠して
大木毅(著者)
/角川新書
作品情報
戦乱の狂騒に抗す。ウクライナ戦争、独ソ戦、太平洋戦争・・・・・・。動乱の時代には俗説(フェイク)が跳梁跋扈する。理性を保ち、史実と向き合う術を現代史家が問う!軍事・戦争はファンタジーではない。日本では報じられなかったウクライナ侵略戦争の「作戦」分析、『独ソ戦』で書ききれなかった挿話、教訓戦史への強い警鐘に歴史修正主義の否定、そして珠玉のブックガイドを収録した論考集。俗説が蔓延していた戦史・軍事史の分野において、最新研究をもとに新書を著し、歴史修正主義に反証してきた著者が「史実」との向き合い方を問う。戦争の時代に理性を保ち続けるために――。■戦争を拒否、もしくは回避するためにも戦争を知らなければならない■軍事は理屈で進むが、戦争は理屈では動かない■軍事理論を恣意的に引いてきて、一見もっともらしい主張をなすことは、かえって事態の本質を誤認させる可能性が大きい■歴史の興趣は、醒めた史料批判にもとづく事実、「つまらなさ」の向こう側にしかない■歴史「に」学ぶには、歴史「を」学ばなければならない■イデオロギーによる戦争指導は、妥協による和平締結の可能性を奪い、敵国国民の物理的な殲滅を求める絶滅戦争に行きつく傾向がある■戦争、とりわけ総力戦は、体制の「負荷試験」である。われわれ――日本を含む自由主義諸国もまた、ウクライナを支援し続けられるかどうかという「負荷試験」に参加しているのである【目次】まえがき第一章 「ウクライナ侵略戦争」考察第二章 「独ソ戦」再考第三章 軍事史研究の現状第四章 歴史修正主義への反証第五章 碩学との出会いあとがき初出一覧
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商品情報
- シリーズ
- 歴史・戦史・現代史 実証主義に依拠して
- 著者
- 大木毅
- 出版社
- KADOKAWA
- 掲載誌・レーベル
- 角川新書
- 書籍発売日
- 2023.07.10
- Reader Store発売日
- 2023.07.10
- ファイルサイズ
- 3.3MB
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この作品のレビュー
平均 4.3 (3件のレビュー)
-
本作中で書かれていますが、ロシアのウクライナ侵攻が独ソ戦を彷彿としていると感じていた読者の中の1人である私。
そして必然的に本作を拝読する流れになるのですが、読みながらずっと「へーぇ!ほうほう!」と頷…いてしまう程興味深い内容ばかり。(公園に居ましたが周りに人が居なくて良かった)
ウクライナ侵攻について独ソ戦に準えて書かれているだけかと思いきや、大木さんの著書『独ソ戦』で書き切れなかった補足等や、大木さんが取捨選択して下さった文献も丁寧に紹介されており良い意味で裏切られました。
色んなメディア等に寄稿された記事やインタビューも一纏めにされているので有り難いです。
では印象深かった内容を。
何故こんなにも長期化しているのか。私自身、当初はロシアが圧倒的武力と作戦能力で短期決戦に持って行くのでは無いかと予想していたのですが、本書を読んで納得。
ウクライナ側はゼレンスキー政権からの解放を受け入れ、ここまで抵抗するとは思わなかったプーチンが楽観視してしまい政治が軍事的合理性にそっぽを向いてしまったと著者。
なるほど、今回の侵略も戦争ではなく「特別軍事作戦」と称していたのも頷けます。
更にウクライナ軍が「任務指揮」をしっかり勉強していて下士官に至るまで叩き込み、ロシア軍を圧倒したという驚愕の事実。
「軍事は理屈で進むが、戦争は理屈では動かない」
消耗戦まっしぐらになる訳です…。
今回のウクライナ侵攻も後に歴史家の方々に研究される対象となるのでしょうけれど、大木さんは本書で歴史修正主義にも警鐘を鳴らされております。
作中で例に挙げられている船戸さんのお言葉「小説は歴史の奴隷ではないが、歴史もまた小説の玩具ではない」まだまだ知識不足で勉強中の私には響きました。
『同志少女よ敵を撃て』を書かれた逢坂さんはこの辺りを良く分かってらっしゃるんだなと改めて感服した次第です。ちゃんとソ連側も虐待していたものなあ(ちゃんと、という表現は良くないですけれど)
しかしウクライナに対して「ナチ化」とのたまうプーチン自身が、ヒトラーと同じく収奪によって戦争を維持している事実に頭を抱えてしまいますが、台湾での緊張も高まっていますしいよいよ他人事では無くなって来ていますね。
『独ソ戦』が再度売れ出したのも皆さん危機を感じていらっしゃるからなのかも。
最後に私が衝撃を受けたトロツキーの言葉を書き置いて終わりにしたいと思います。
「諸君は、戦争には関心がないというかもしれない。だが、戦争のほうは諸君に関心をもっている」続きを読む投稿日:2023.09.29
このレビューはネタバレを含みます
これまでの著者の著作物をエッセイ風にまとめたもの、という印象です。
レビューの続きを読む
まえがきにも書かれていますが、これまでの著者の綴ったものを集めて改めて俯瞰してみると「筆者の感心は一つところをぐるぐると回っているの…だな、と思い知らされたものだ。すなわち、本書のタイトルとした『歴史・戦史・現代史』である。」とのことなので、様々な書き物を集めたものですが、テーマを据えています。
ただし著者は上記のようにテーマを述べていますが、読んでみるとより具体的なメッセージが込められています。それは例えば、
●日本において戦術というより戦場に近い分野の研究は市井の間ではほとんど行われておらず、もっぱら自衛官や元自衛官の専任状態になっているということへの問題意識。
●その自衛官らによる研究も精神主義や教訓戦史の陥穽に陥っている可能性があり、真に有意義な研究を妨げている危険がある。
●一般的なアカデミックな研究に目を移した場合も、事実によらない歪んだ研究が成果が世間にまかり通っていることへの危機感
などなど。これらのメッセージが様々な書評やエピソードを通じて語られているという印象です。
こう書いてしまうと本書をとっつきにくい作品と勘違いしてしまうかもしれませんがさにあらず。そのメッセージに通じた書き物しか取り上げていないというわけではなく、横道脱線もあります。これが本書を読みやすくしていると思います。
例えば著者のベストセラー作品となった『独ソ戦』には納められなかったエピソードや、先の大戦で欧州とアジア双方で重要な役割を担ったソ連という存在の位置づけ、スターリングラードの降将パウルスのその後の数奇な運命、著者が触れた様々な
著作物(中には北杜夫の「どくとるマンボウ」など、軍事と全く関係ないものも含まれます)の紹介・感想などなど。知識欲を満たしてくれる情報が豊富なので気軽に読んでも面白いと感じます。
個人的にはジャーナリストであるジョン・トーランドに関するエピソードは強く印象に残りました。
トーランドは持ち前のフットワークの良さと膨大な数をこなす調査力を活かし『バルジ大作戦』や『旭日』といった名高い作品を残しましたが、その後枢軸国側に過度に肩入れする性格を強め、最終的にはその評価を落とすことになった人物です。
その上昇・下降のエピソードは、たとえ名声を得たとしても研究者としての初心を忘れてはならないこと、最終的には評価を落としたとしても当初の作品の学術的歴史的価値は落ちないと評価する著者の「真面目さ」を感じます。
私はこのエピソードで、別宮暖朗氏が土肥原賢二を念頭にした「外務に携わる人間は往々にして任地惚れする」という言葉を思い浮かべました(トーランドも枢軸国側への膨大な調査を通じて「任地惚れ」したのかもしれません)。
読みやすく、また著者の書評からは興味深い作品も知ることができるのでお勧めですね。続きを読む投稿日:2024.01.20
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