会話の科学 あなたはなぜ「え?」と言ってしまうのか
ニック・エンフィールド(著)
,夏目大(訳)
/文春e-book
作品情報
会話の「普遍のルール」から人間の本性が見える
「え?」「えーと」「はあ?」・・・・・・これまでの言語学が見逃してきた、こんな言葉に「人間の本性」が表れていた!?
今まで、主流の言語学が重視してきたのは常に文法や単語の成り立ちだった。
しかし、あなたが人と会話するときに、完全に文法通りの文章で話すことなどあるだろうか? 「あー」「いや」「はあ?」「え?」「で?」などなど、辞書には載らない言葉を繰り出しながら、すさまじいスピードで言葉のキャッチボールをしているのではないだろうか。
もちろん文法の研究は重要だ。だが、人間は文字より前に会話をはじめていた。現実の会話には、主流の言語学が軽視してきた本質的な何かがあるのではないか・・・・・・本書は、そんな言語学の「革命」を追うサイエンス本である。
著者をはじめとする会話研究者たちは、世界中の会話を録音し、辛抱強く分析してきた。それによって、意外な事実が次々とわかってくる。
たとえば、人間が会話に応答する時間は、さまざまな言語の平均で0.2秒。これは脳が言葉を発するために必要な反応時間(0.5秒)よりはるかに速い。ちなみに、日本語話者は世界最速の0.007秒で応答しているという(!)。なぜそんなことが可能なのか?
また、誰しも、会話の相手が返事をくれないと気まずくなってくるものだ。あなたはどれくらいそんな沈黙に耐えられるだろうか?
調査の結果、それは最大でも1秒間だった(!)。しかも、沈黙が0.5秒を超えると(何か話が通じていないか、否定的な返事が返ってくるのかな)という気持ちになってくるという。あなたも、そんな状況で質問を言い直したりした経験があるのではないか。
すさまじい速さで応答し、話が止まると思うと即座に流れを修復しようとする。何気なくかわしている会話には、実はそんな無意識の超高等技術が詰め込まれている。
そして、その武器になっているのが「え?」というパワーワードだった!?
AIがまるで人間のように問いかけに答えてくる現代こそ、「会話」を考えることは「人間」を考えること。本書には、そのヒントが詰まっている。
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商品情報
- 著者
- ニック・エンフィールド, 夏目大
- 出版社
- 文藝春秋
- 掲載誌・レーベル
- 文春e-book
- 書籍発売日
- 2023.03.27
- Reader Store発売日
- 2023.03.27
- ファイルサイズ
- 13.1MB
- ページ数
- 264ページ
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この作品のレビュー
平均 3.8 (11件のレビュー)
-
【まとめ】
0 まえがき
私たちの日常の会話に関しては、たとえばすでに次のようなことがわかっている。
・何か質問をされて答えるまでにかかる時間は平均すると、瞬きの時間と同じくらい。つまり200ミリ秒ほ…どである。
・質問に対し「いいえ」と答えるのには、「はい」と答えるよりも時間がかかる。それは言語を問わず共通している。
・会話中に相手の返答を待つ時、私たちはだいたい「1秒間」を基準にその速さを評価している。1秒間の間に返答までが一定時間より短いか長いかで「速い」、「遅い」、「ちょうどいい」もしくは「返答がない」と判断する。
私たちは、会話中、どのようなルールに則って話し手を交代しているのか、何か誤りや誤解が生じた時には咄嗟にどういう対応をしているのか。「あー」「え?」など一見、無意味に思える音にはどういう機能があるのか。
日常の話し言葉に関しては、言語学の分野ではほとんど研究されていない。書き言葉にばかり注目がいき、最も言語がよく使用されるはずの「会話」は見過ごされてきた。本書で、会話こそが言語研究の主たる対象であるべき理由を説明したい。
1 会話のルール
質問をされた相手は、それに答える義務を負っている。本来であれば会話の中で必ず回答しなければならないというルールは存在しないのだが、会話が共同作業である性質上、質問をされた人は応答をする義務が、同時に、質問をした人は応答を求める権利がある。ただし、回答の内容に関してはかなり自由度が高く、聞かれたことに答えなくても一応ルールは守ったことにはなる。
2 話者交代のタイミング
・会話中は、話者が度々変わる。
・ほとんどの場合、話者は一度に一人。
・時折、複数人が同時に話すこともあるが、長くは続かない。
・話者の遷移はほとんどの場合、整然と行われる。明確に知覚されるほどの間が空いたり、話者が重複したりすることはめったにない。
・話者の順番はあらかじめ決まっているわけではなく、会話中に順番が変わることもあり得る。話者が一度に話をする長さは決まっているわけではなく、時々で変わる。
話者交代のタイミングは非常に速いことが研究でわかっている。話者交代の40%超で、交代にかかる時間は200ミリ秒以内に収まる。この速さにもかかわらず、会話中にはほとんど話者が重複せず、重複した場合であっても500ミリ秒程度の被りに収まる。200ミリ秒というほんのわずかだけ沈黙になっている時間があるのだが、このくらいの短時間だと人間の耳にはまったく隙間がないように聞こえる。これは驚くほどのことではない。200ミリ秒という時間は文字通り「瞬きをするより短い」時間だからだ。
実は、この時間は人間の脳の認識から考えれば、あまりに「食い気味」である。人間が馬の画像を見せられてから「これは馬だ」と言うまでの間は、600ミリ秒の時間を要することがわかっている。にもかかわらず、200ミリ秒程度しか沈黙がないのであれば、相手が話し終えるよりもかなり前のタイミングから準備に入っていないと無理だろう。話者交代の時に相手がまだ話し終わっていないのに話し始める人はほとんどいないし、反対に相手の話が終わってから長い間を空ける人も少ない。相手が話を終えることを随分前の段階で察知し、「予測して」食い気味に話し始めているのだ。
ところで、この「予測した応答」が世界一「食い気味」なのは、日本語だ。英語の場合質問と応答の感覚は236ミリ秒だが、日本語の場合はわずか7ミリ秒。最も遅いデンマーク語は468ミリ秒であった。
2 沈黙の1秒
社会学者のゲイル・ジェファーソンは、英語での会話の1000を超える応答あるいは沈黙について分析をした。それでわかったのは、わずかな例外を除き、また会話がよほど不調である場合を除き、会話者は沈黙が1秒を超えて続くのを放置しないということだ。ジェファーソンは「1秒は通常、会話における沈黙の最大持続時間である」と言っている。
質問に対する応答の中身を見てみると、YES/NOで答えた場合は150ミリ秒後に、質問に答えていない(「分からない」といった回答)場合は650ミリ秒後に応答が始まった。また、どの言語においてもYESのほうがNOよりも早くなることがわかっている。
応答の遅れが起こる原因の一つは、認知処理に時間がかかる(頭の中で答えを探している)ということが挙げられる。もう一つ、相手の頼みごとを積極的に聞き入れたくない(瞬間的にためらう)という場合もある。会話の大部分では、1秒以内に話者交代が行われるが、話者交代が0秒~0.5秒の範囲内で行われた場合には、円滑な交代だと感じられる。しかし、所要時間が0.5秒を超えると、交代が遅いと感じられる。0.5秒を超える範囲を「レイト・ゾーン」と呼んでいるが、話者交代が遅いと、あまり応答したくない、あるいは応答の内容が肯定的でない、ということが言外に伝わる。
話者交代のタイミングについて詳しく調べると、筆者が「会話機械」と呼んでいるもののはたらきの一端がわかる。まず、会話機械は、会話の際に相手が話し終えてからの経過時間を測っている。特に「最初の1秒間」を敏感に察知しており、その時間を二つのゾーン(オン・タイム・ゾーン(0.5秒より前)とレイト・ゾーン(0.5秒より後))に分割して、それぞれに違った意味を持たせている。その意味は、言語処理に関する認知処理の都合によって必然的に生じるものだ。おかげで人は、応答のタイミングを意図的に操作することによって、 社会的信号を相手に送ることができる。言外の意味をそれによって伝えるのである。
質問への肯定的でない応答の例を数多く調べると、肯定的な応答の場合よりも故意にタイミングを遅らせていることがわかる。また、実質的な応答を始める前に、沈黙や、「あー」、「えーと」など無意味な言葉を入れて、応答を先送りしていることもわかる。会話を詳しく調べると、そういうちょっとしたノイズのような言葉も大切な役割を担っているとわかるのだ。そうしたノイズでタイミングを調整することで、信号を発し、微妙な意味を相手に伝達することができる。
3 うーん、あー
うーん(Um~)、あー(Uh~)、といった言葉は、どちらも滑らかに言葉が出ないときに使われるが、実は英語圏では、あーから滑らかな発話再開までが平均250ミリ秒に対し、うーんは平均670ミリ秒であることがわかっている。うーんのほうが遅延が長いのだ。
また、女性よりも男性のほうがうーん、あー、を頻繁に使う。男性は会話中の50語に1語、女性は70語に1語程度だ。あー、の回数だけで見ると、男性は80語に1語、女性は200語に1語以下だ。
Um、Uhによる信号の特徴は、まず「再帰的」であることだ。つまり、会話の中で「自分自身について何かを伝えることができる」という特徴だ。これは人間の言語に特有の興味深い特徴である。会話の現在のテーマに関しては何も情報を付加せず、話者の脳内、精神の情報や会話そのものの流れについての情報を付加する役割を果たす。
他の特徴としては、高速で話者交代が行われる場面でのみ意味をなす、ということがあげられる。この場面では、ほんのわずか発話に遅れが生じただけでも簡単に誰かに話を取られてしまう恐れがある。会話が共同行動であり、その中で皆が一定の道徳的義務を背負っている状況では、遅延が生じるのならばその理由を伝えるべきである。正当な理由が伝えられなければ、「話す」が奪われてもしかたない。遅延の理由を伝えることは可能だ。会話中は、皆がタイミングに非常に敏感になっている。その状況では、わずかな遅延があっただけでも、 そこから様々なことが推測できる――たとえば、「話者は何かためらっているのかな」といったことを推測できるのだ。話者の側は、そこで "Um" や "Uh" を故意に使うことで、「発話は遅延しますが、まだ私の番ですよ」ということを相手に伝えられる。
また重要なのは、"Um" や "Uh" を使う場合、話者は相手が自分に協力的なはず、と無意識 にでも考えているということだ。「遅延するけれど、発話は控えて待って欲しい」という信号に従ってくれるはずだと思っているのである。隙間が空いて、割り込むのは不可能ではないが、あえて割り込まないでいてくれると思っている。
4 え?
「相手の言ったことがなんだかわからなかった」など、会話の途中で問題が発生した場合は、何か新しいことを言って会話を前に進めるのではなく、問題が発生していることを知らせて注意を喚起し、話し手がそれを受けて会話を修復する。「え?」「何?」などの言葉の使われ方だ。
修復を促す言葉には強い言葉と弱い言葉がある。「誰だって?」という言葉は、前の会話のうち「人物名」が聞き取れなかったことに対する聞き返しであり、修復を促すのに強い言葉だ。一方、「なんだって?」という言葉は会話を丸々繰り返させることになるため、会話の修復能力としては弱い言葉である。会話が協力行動である以上、常に可能なのは、相手の負担がなるべく軽くなるような強い言葉である。言語を問わず、誰もが可能な限り、具体性の高い「強い」言葉で修復を促そうとするという傾向があることがわかっている。
5 会話機械
筆者の紹介した研究は様々な点で互いに異なっているのだが、どれも基礎となっている考え方は共通している。それは、人間には、社会的交流のための能力があるという考え方である。人間は「会話機械」を持つ、という考え方だと言ってもいいだろう。この機械は、言語の基本的な特性、人間の社会的認知能力、そして相互交流の文脈などに依存して機能する。
ここで特筆すべきことは三つある。まず、人間は他人との社会関係を結ぶことに真剣に取り組むということだ。社会関係を結ぶことに関しては、義務と責任を感じていると言ってもいい。この義務感、責任感がなければ、会話は決して成り立たないだろう。
二つ目は、人間の言語には、自分の言葉について語る機能があるということだ。この「再帰的」な機能がなければ、自分の発言への注目を促すこともできず、誰かが会話のルールを破った時や、会話に修復すべき問題が発生した時に、それを指摘することもできない。
三つ目は、会話中、人は、相手の言動をすべて、直前、直後の出来事に関連するものと解釈するということだ。この「関連性の原則」のおかげで、会話中のお互いの言動がすべて結びつくことになる。見方を変えれば、会話中の人は、常に相手の直前の言動とのつながりを意識すべきということだ。相手の言動に注意を向け、それに応えるような行動をする必要がある。
人間の会話の主要な特徴は、この三つの要素から生じているとも言えるだろう。たとえば、 会話中の発言は基本的に一度に一人ずつ、という規則や、話者交代は1秒以内に行われるといった規則は、関連性の原則や、人間の会話に対する義務感、責任感から生まれていると考えられる。また、会話中に何か問題が生じた際に修復を促す場合の規則は、言語の再帰的な機能や、人間の会話への責任感がなければ生じないものだろう。続きを読む投稿日:2023.07.16
言語学研究の中で
会話中心のものは少ないのだとか。
世界には文字を持たない言語もあるのにね。
誰かから何か聞かれた時に
英会話のような本だとPardon?とか
Sorry?のように聞き返すとあるけれ…ど
実際には日本語でも「なんですか?」より
「え?」「はっ?」のように聞き返すよね。
そういうとっさの一言が
だいたい世界中似ているなんて楽しい。
あと、質問に対する返答についても
調査されているのですが
内容がどうあれ「反応」が早いのは
日本語とのこと。
しかも正答が返せる時は
食い気味くらいの速さで返すらしい(笑)
謎です。続きを読む投稿日:2024.04.02
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