その名を暴け―#MeTooに火をつけたジャーナリストたちの闘い―(新潮文庫)
ジョディ・カンター(著)
,ミーガン・トゥーイー(著)
,古屋美登里(著)
/新潮文庫
作品情報
2017年、ニューヨーク・タイムズ紙に掲載された記事が世界を変えた。映画界で権力を誇る有名プロデューサーが、女優や従業員らに性的虐待を行ってきた衝撃の事実。報道の背景には、二人の記者による被害者への丹念な取材や加害者側との駆け引きがあった。その日を境に、女性たちは声を上げ始めた――。#MeToo運動を拡げたピュリッツァー賞受賞記事の内幕を描く調査報道ノンフィクション。
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商品情報
- 著者
- ジョディ・カンター, ミーガン・トゥーイー, 古屋美登里
- ジャンル
- 教養 - ノンフィクション・ドキュメンタリー
- 出版社
- 新潮社
- 掲載誌・レーベル
- 新潮文庫
- 書籍発売日
- 2022.04.26
- Reader Store発売日
- 2022.04.26
- ファイルサイズ
- 4MB
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この作品のレビュー
平均 4.3 (17件のレビュー)
-
ハーヴェイ・ワインスタイン。この事件が公になる前には映画界以外ではその名前はそれほど有名ではなかったかもしれない。彼は、『イングリッシュ・ペイシェント』、『グッド・ウィル・ハンティング』『恋におちたシ…ェイクスピア』『英国王のスピーチ』など、作品名を聞けばたいていの人がわかる、少しお洒落でかつ売れる映画を、所属していたミラマックスや自身が設立したワインスタイン・カンパニーを通して数多く世に出してきた。しかし、その裏では女優や女性社員に強烈な性的嫌がらせ行為を続けていた。本書は、その所業をニューヨーク・タイムズ誌でスクープとして明るみに出したジョディ・カンターとミーガン・トゥーイーの二人の記者自身によることの顛末をつづったものだ。
明らかにされたワインスタインの行為は、ひどく醜く、度を越している。しかしながら着目すべきはその行為が完全に隠されて行われていたわけではないということだ。ワインスタインがセクハラを行うとき、それを知りながら女性にホテルの部屋に行くように指示をした秘書がいた。いくつかのトラブルを収めるために秘密契約を交わすための弁護士が雇われていた。彼のセクハラに何かしら与した人の心の内では、どこか最後まで行かなければレイプではないし(実際にはレイプもしていたが、本人は合意の上と思っていたかもしれない)、重大な犯罪ではない、脅迫・強制ではなく、個人の選択の自由の上での配役の取引のためであることとの線引きは言ってみればグレーであるとも言えるのではないか。多かれ少なかれそういうことはこの世界にはあることだ、そう思われていたのではないか。何よりこの世界で力を持つワインスタインが大丈夫だと言っている。そして、片棒を担ぐ人たちにとって、そう思うことができることが重要であり、まさにそうであったからこそ多くの人が関わりながら、このときまで公にならなかったのだろう。長年ワインスタインを弁護してきたボイーズが、過去を振り返ってその行為を後悔していない、と言うのはある意味では正直な気持ちとしての典型的な例で、もし同じ状況に立ったとしても同じことをしたであろうということなのだろう。
また、もうひとつ着目すべきは、性的嫌がらせ行為の告発が、決して女性側に有利に働くことがないという認識が共有されていたこともある。そういう場面になったのはあなたの方にも軽率さやもしかしたら交渉の期待があったのではないかといわれるのではないかというものだ。そういった環境の中で、被害者から証言を行ってもらうことがいかに大変であったことがこの本からも窺い知れる。
ワインスタイン問題は、この報道の後に#MeToo運動にもつながった。日本でもようやく映画界での性的嫌がらせが公に問題視されている。園子温監督の告発などはその具体的な流れだろう。今まで大目に見られてきたことが、そうではなくなった。そういう言い方をすると以前も悪いことでなかったわけではないというように言われそうだ。しかしこの変化は、社会においてジェンダーに関わる概念が大きく変わったことにもよるものだ、ということができるのではないだろうか。
その観点においても、本書の後半で取り上げられているカバノー氏の最高裁判事の件は、今でもこの結末がよかったのかどうか異論はあるだろう。ことの発端は、最高裁判事候補の指名を受けたというニュースを聞いたフォード氏が10代のころカバノー氏から受けたレイプ未遂事件を告発したのだ。何人かが彼女に続いて同様の告発をしたもののカバノー氏は公聴会で否定し、最終的には最高裁判事に就任した。
共和党系保守強硬派で知られるカバノー氏が最高裁判事に加わることで、最高裁の判例が一気に保守主義に傾くのではないかと党派や保守リベラルの間での大きな論争にもなっていたことで、政争の具にもされた形になった。ワインスタイン報道の後に、この件にも関係することとなった著者らは、慎重にことを進めたことを丁寧に書いている。それでも、それがもう何十年も前のことであることも含めて、性的嫌がらせの概念での訴追することが理に適っていたのだろうかというのは議論として残るのだろうと思った。そういうこともフェアに議論ができるべきだと思う。その観点でカバノー氏が行為を否定し、そして多くの人が事実やったのだろうなと思いながらも、公には本人も否定をしていることもあって指名受諾に至ったという経緯はこの論争の結果として残念だったと言うべきだろう。
なお、ほぼ同時期に同じくワインスタインの告発報道を巡る本である『キャッチ・アンド・キル』が出版されている。こちらはニューヨーク・タイムズ誌に遅れること数日後にザ・ニューヨーカー誌に記事掲載されることになったファロー氏の著作である。ファローの告発も、本著者らの告発記事掲載があったからそのタイミングで出されたと言えるだろう。その分、世の中の評価としても、やはりまず第一報として抜いた彼女たちの記事の方が賞賛され認識されているのかもしれない。
しかし、『キャッチ・アンド・キル』では、タイムズ誌の記者たちより早く情報をつかんで追い込みながら、TV媒体での発表をNBCの上層部に握りつぶされた経緯が書かれていて、読み物やメディアの告発としてよりスリリングだ。この件に興味がある人は、是非『キャッチ・アンド・キル』も読むべきだと思う。ことの顛末を比較すると、あらためて、ニューヨーク・タイムズ誌の健全さが引き立ち、メディアの闇の深さを感じることだろう。
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『キャッチ・アンド・キル』(ローナン・ファロー)のレビュー
https://booklog.jp/users/sawataku/archives/1/4163915265続きを読む投稿日:2022.08.07
日本語訳のタイトルは原書の『SHE SEDI』の方がしっくり
すると思うのよ。
大学在学中に設立した映画プロダクション「ミラマックス」の
成功で、アメリカ・ハリウッドのみならず、世界の映画界で
押し…も押されぬ大プロデューサーとなったハーヴェイ・ワイン
スタイン。
彼が手掛けた映画は日本でも多く公開されているので、劇場や
テレビ放映で目にした人も多い思う。
そんな大プロデューサーには公にされたら困るいくつもの
秘密があった。
自社の女性従業員や役を欲しがっている若い女優たち複数名に
大しての、性的暴行や性的虐待だ。
何十年にも渡って続けられたワインスタインの蛮行は、ある日、
「ニューヨーク・タイムズ」のオンライン版に告発が掲載され
たことで大反響を呼ぶ。
本書は、一連のワイスタイン事件を追い、関係者に取材し、掲載
にまで漕ぎつけたふたりの女性記者を中心に、調査報道の醍醐味を
感じさてくれる。
アメリカだろうか日本だろうが、性被害に遭った人が声を上げる
には高いハードルがある。ましてや相手が富と名声を手にしていれ
ば猶更だ。
ワインスタインは事が表沙汰にならぬよう、「映画界で仕事を得られ
ようにしてやる」と相手を脅し、多額の示談金を支払い、秘密保持
契約書にサインさせる。
ふたりの女性記者は公で発言することを躊躇う被害者たちに根気よく
連絡を取り、証拠を積み重ね、遂にはワインスタイン周辺の関係者
からの証拠や証言さえも得て、告発に踏み切る。
取材の過程、ワインスタイン側との駆け引きはまるで極上の
ミステリーを読んでいるようで、ドキドキワクワクさせられる。
「ニューヨークタイムズ」の告発が契機となり、性被害に遭いながら
も声を上げることを躊躇っていた女性たちが、「私もそうだった」
と声を上げ始め、以降の「#MeToo」に発展していく。
アメリカの悪口ばかり言っている私だが、アメリカの報道は心底
凄いと思う。権力を持つ者にさえ、容赦しない告発をするのだから。
翻って我が日本。時の権力者に近いゴロツキ記者の起こした性加害
事件を国ぐるみで闇に葬ろうとしたのだからなぁ。アメリカの
ジャーナリズムの足元にも及びませんわ。
某タレント事務所の性加害問題だって、30年以上前に告発があった
時に、後追いしたのは少数の週刊誌と今は亡き月刊誌だったもの。
今回だって、事の発端はBBCからだったしな。
ハーヴェイ・ワインスタイン、ニューヨークとロサンゼルスで起訴
され、禁固39年の刑を受け、現在服役中である。また、被害を受けた
女性たちには合計で20億円以上の賠償金が支払われる予定だ。
「ニューヨークタイムズ」の告発記事は、調査報道の部門で
ピュリッツァー賞を受賞している。
残念ながら、私は映画された作品を見逃してしまった。続きを読む投稿日:2023.11.13
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