映画を早送りで観る人たち~ファスト映画・ネタバレ――コンテンツ消費の現在形~
稲田豊史(著)
/光文社新書
作品情報
なぜ映画や映像を早送り再生しながら観る人がいるのか――。なんのために? それで作品を味わったといえるのか? 著者の大きな違和感と疑問から始まった取材は、やがてそうせざるを得ない切実さがこの社会を覆っているという事実に突き当たる。一体何がそうした視聴スタイルを生んだのか? いま映像や出版コンテンツはどのように受容されているのか? あまりに巨大すぎる消費社会の実態をあぶり出す意欲作。
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この作品のレビュー
平均 4.0 (250件のレビュー)
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【題名を見るだけでわかる本の内容】
「映画を早送りで観る人たち」が20代男性では54%、女性では43%にになり、青学大学生は倍速視聴経験で言えば90%を超えている現状。
彼らは能動的にそれをこなすので…はないから速読とは違う。ファスト映画(短縮版)やネタバレ解説を観て読んで、作品を「鑑賞する」のではなく、コンテンツを「消費する」だけなのだ。
実は、たくさん突っ込んでやろう、と思って紐解いたのだが、結果ものすごく刺激を受けた。たった300ページほどの新書に38もの栞を挟んでしまった。本来なら「わかりやすい」批評にするために、冒頭の「題名を見るだけでわかる本の内容」と、末尾の「後書き抜書きからわかる著者の結論」のみを置いて、本レビューを終わらすべきだと思うのだが、「気づきの記録」という私的事情から本レビューがその数倍のボリュームになったことをお許し願いたい。「気づき」部分は早送り、或いは飛ばし読みOKです♪
以下幾つかの「気づき」
・コスパよく、早く結末を知りたい。
・彼らは「観たい」のではなく「知りたい」のだ。
・「ネットで"おもしろい"って声をあげるのは、勇気がいるんです。絶対に否定されないような、あらゆる人が傑作と認めている“勝ち馬”にしか“おもしろい”って言えない空気がある。誰も評価しない”負け馬“に乗っていることに謎のプライドを持つ昔のオタクとは真逆なんですね。」(脚本家・佐藤大)
・製作委員会で脚本の回し読みをすると、「わかりやすくしてください」という意見が出る。でも「わかりやすく」は「おもしろくしてください」という意味にはならない。説明的な台詞は書ける。そうすると勢いがなくなるのだ。(プロデューサー・真木太郎)←でもそういう作品に人が集まるから、結局作り手も最初からそれを作り出す。
・「わかりやすいもの」が喜ばれる傾向。絵の情報量が豊富なアニメでさえ、台詞で全てを説明する。←そういえばこの前放送されたアニメ「鬼滅の刃 刀鍛冶の里編」第3話においても 炭治郎はモノローグで、小鉄のスパルタ修行を「分析力高めの小鉄さん。しかし、剣術の教え手としてはド素人。どのくらいが人間の命の限界かご存じないため訓練がエグかった」「無知故の純粋なる暴挙」と喋っていた。名作と言われるアニメでも、台詞による説明を選ばざるを得ない。「鬼滅の刃」には脚本家が居無い。「シリーズ構成・脚本 ufotable」となっている。原作通りの台詞になっているからだ。
・Y世代(ゆとり世代・ミレニアル世代)はデジタルネイティブ(インターネットやパソコンで育ってきた)。次のZ世代は(現在8-27才)は、ソーシャルネイティブ(スマホでLINEやインスタ、Twitterに親しんできた世代)。
・Z世代の主な特徴は以下。
①SNSを使いこなす。
②お金を使うことには消極的。
③所有欲が低い(モノよりコト消費)。
④学校や会社との関係より、友人などの個人間のつながりを大切にする。
⑤企業が仕込んだトレンドやブランドより、「自分が好きだから」「仲間が支持しているから」を優先する。
⑥安定志向、現状維持志向で、出世欲や上昇志向があまりない。
⑦社会貢献志向がある。
⑧多様性を認め、個性を尊重し合う。
①④⑤はLINEグループの共感強制力へ
②③はDVDやCDなどのパッケージコンテンツの所有欲がなくサブスクで済ます気質へ。
・オタクに憧れるが、そこまでにはなれないと思ったら直ぐ諦めて「推し」活動をする。←2010年代の隠れオタクの「推し」活動(←私のAKB推し)が、今や「個性的になる」手段として手っ取り早い活動に変化しつつあるようだ。「ナンバーワンよりオンリーワン」が彼らを呪縛する。←「自己紹介欄に書く要素が欲しいのだ」(博報堂・森永真弓)
・Z世代はTwitterで迂闊に呟くと大変な目に遭うことを経験してきた世代。よって作品を自分なりに解釈することを、萎縮するようになる。奇妙な謙虚さ。見知らぬ相手から厳しく批判される、あるいは人知れず嘲笑される惨状をずっと目撃してきたから。
・Z世代はジェネラリストではなくスペシャリストを目指す。自分の希少価値を高めるのが勝負。何故ならば、リーマンショック、東日本大震災、コロナショック、一寸先は闇に生きてきたから。彼らは金もない。時間もない。精神的余裕もない。でも圧倒的個性で目立たなくてはいけない。倍速視聴も、推し活動も、タイパ主義でゆく。つまらない作品をつかまらされて、時間が無駄になるのは避けたい。何本もの駄作をつかまされた挙げ句、自分にとっての傑作にたどりつく喜びは解さない。もしくはそこに価値を置かない。極力外したくはない。回り道はなるべく避けたい。とにかく効率よく生きたい。
・Z世代の「社会への還元とか、生産性の向上を考えるべきという思考を強いるような圧力をすごく感じる」という思考を、20代地方紙記者から聞いて、1976年生まれ探検家・角幡唯介は愕然としたらしい。または「進路学習の冊子で将来の夢を書く欄に「その夢はどのように社会に役立ちますか」という問いがあった」らしい。夢にすらコスパを求めている。←いつのまにか「教育」が変わっている?(←よく考えると、物凄く恐ろしい)
・東京私大教連の調査で、「大学新入生の月平均仕送り額から家賃を除いた生活費」調査では、1986年は7万円ほどだったのに、2020年には18200円までに落ちていた!!私の時は、田舎なので、(特に安いんだけど)一万円の家賃を引くと仕送りの残りは3万円だった。奨学金2万7千円。それでバイトせずに4年間送った。今の大学生は、私の貧乏大学生よりも明らかに厳しい(奨学金も完全借金だし)。だから彼らが金と時間と精神的余裕がないのも頷ける。
・ラノベの方向は主人公はどん底に落ちない。読者は一瞬たりとも「どん底」味わいたくない。男性は異世界転生しても、ずっとハーレム状態が続く。好きな情報やコンテンツしか見たくない。インターネットはそれを可能にする。
・プロの評論家はジェネラリストではあるが、そもそも買ってまで読まない。評論なんて、SNSにいくらでも落ちている。「好きなものを絶対に貶されたくない(否定的な指摘を含む)評論などされたくない」→結果的に若者は批判に弱くなる。批判されたら、社会からダメ出しを食らったと錯覚してしまう。
【後書き抜書きからわかる著者の結論】
本書執筆中、取材相手や打ち合わせ相手にたびたび、「インターネットは人類を幸福にしませんでしたね」などと、幼稚で短絡的にいじける自分がいた。倍速視聴の背景にある定額制動画配信サービスの作品供給過多も、LINEの共感強制力も、他人の芝生が青く見えてしまうSNSの仕様も、ネット警察の存在も、あらゆる「答え」が最短・最速・実質無料で手に入ってしまう環境も、全部インターネットが提供したものではないか、と。
つまることころ倍速視聴は、時代の必然と呼ぶべきものだった。人々の欲求がインターネットをはじめとした技術を進化させ、技術進化が人々の生活様式を変化させる。その途上で生まれた倍速視聴・10秒とばしという習慣は、「なるべく少ない原資で利潤を最大化する」ことが推奨される資本主義経済下において、ほぼ絶対正義たる条件を満たしていたからだ。(300p)
最後にちょっとした私の願望。
「テオ・アンゲロプロスの作品は『ユリシーズの瞳』にしても、『永遠と一日」にしても、いつも途中で寝ていたんだけど、この『エレニの旅』の170分だけは、一瞬たりとも目が離せなかった。冒頭からずっと長回し映像が続いて、台詞も少ないけど‥‥凄い映画だった」
「それは君が、アンゲロプロス作品を観るまでに成熟したということだよ」
もう、18年も前の会話だ。映画鑑賞仲間の大先輩(故人)から頂いたこの一言が忘れられない。
ファスト映画を観る君たち、君たちは映画に求めるものが違うんだよね。でもね、長い長いトンネルの果てに見つける、あの170分の至福を、そう!それは至福なんだ!それをいつか君にも体験してほしいと思うんだ。続きを読む投稿日:2023.05.01
私は映画を倍速再生したことがないけど、思うところある。
オタクのような、わかりやすい「個性」が欲しいという考え方はすごく同意見。投稿日:2024.06.18
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