気候変動の真実 科学は何を語り、何を語っていないか?
スティーブン・E・クーニン(著)
,杉山 大志(解説)
,三木 俊哉(訳)
/日経BP
作品情報
なぜ気候科学はねじ曲げられて伝えられるのか? ■私がこの本を書いたのは、気候科学やエネルギーに関する重要な情報が歪められているからだ。純然たるデータや科学文献の記述が、政府による評価報告書、マスコミを経由して、一般市民や意思決定者へ伝えられる過程でねじ曲げられてしまう。私が望んだとおり、専門家でない読者の方々は、(米国での出版後)本書の内容が公正でわかりやすいと評価してくれた。他方、予想したとおり、一部の気候科学者は本書を批判し、私の動機や資質に疑問を投げかけた。だが、内容面の大きな誤りを見つけることはできなかった。(「日本語版発行に寄せて」より)■私は科学者として、科学界の実に多くの個人や組織が、情報提供ではなく説得のために気候科学を誤って伝えていることに失望している。しかし、あなたも一市民として気をつけなければならない。民主主義社会では、有権者が最終的に気候変化への対応方法を決定する。科学が言っていること(と言っていないこと)を十分知らずに下される決定、悪くするとウソの情報に基づいて下される決定が、よい結果につながることはまずない。新型コロナウイルスでもそのことをつくづく思い知らされた。気候やエネルギーでもそれは同じことだ。(第10章「誰がなぜ科学を壊したのか」より)
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商品情報
- 著者
- スティーブン・E・クーニン, 杉山 大志, 三木 俊哉
- ジャンル
- サイエンス・テクノロジー - 数学・物理学・化学
- 出版社
- 日経BP
- 書籍発売日
- 2022.03.20
- Reader Store発売日
- 2022.03.20
- ファイルサイズ
- 24.6MB
- ページ数
- 376ページ
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この作品のレビュー
平均 4.3 (13件のレビュー)
-
『レフ・トルストイの1894年の哲学論文『神の国は汝らのうちにあり』には、以下のような考察が出てくる。【いかに難しい話であっても、そのことに関して先入観のない人に対しては、いかにその人の頭が悪くても説…明が可能である。だが、いかに単純な話であっても、そのことをとっくに知っていると固く信じている人に対しては、いかにその人の頭がよくても説明が不可能である。】』―『PartⅠ サイエンス/第10章 誰がなぜ科学を壊したのか』
確かにその通りかも知れない。ただし、頭が悪くても、話していることについてのリテラシーがあれば、と自分なら条件を加えるだろうけれど。科学的な思考についての無理解というのは、やはり手に負いかねるような気がしてならない。
石油開発に直接関わる仕事をして来たものとして、近年の気候変動の社会問題化(思うのだが、気候変動が問題なのではない。何故なら気候は必ず変動するものだから。それを社会問題であるとするか否かが問題になっているのだ)に関しては見て見ぬ振りではいられなかった。それどころか問題点の真偽について技術的な見解を求められることも多かったので、議論を生んでいる要点については一応理解しているつもりだ。そもそも地質学を学んだものの視点として、地球環境の変遷はヤワな現代人が経験している変化より大きなものであると理解していたし、アル・ゴアの有名な本が指摘していることについては元々やや懐疑的な立場であったというのが正直なところではある。多くの人が温暖化の元凶と思っている二酸化炭素の大気中の濃度についても、有名なホッケースティック状のグラフばかり引き合いに出されるが、実際には地球史を通して二酸化炭素の濃度は大局的には減り続けており、大きな目で見ればその結果として地球は氷期と間氷期を繰り返すようになっている(今現在も実は定義からすれば氷河期なのだと言ったらどれだけの人が驚くことだろう)。海水準の上昇についても、今より温暖な縄文時代には汎世界的に海水準が高かった(東京も武蔵野や下総台地以外は海の中だったと、ブラタモリで毎度説明している筈だし、ノアの洪水を始めとする古代の洪水の神話が各地で語られているのもこの時期の記憶の残滓とも言われている)し、そのサイクルは周期的に繰り返し、かつ温暖な間氷期は氷期に比べて短期間で終わることも地質学的な常識として理解しているので、海水準の変動で地球環境が取り返しのつかないことになると言われてもうむと唸ってしまう。そして、これは科学的思考というより個人的な思いだが、地球上の生物の歴史の中で人類と呼ばれる生物種が如何に新参者であるかを知る身としては、自然環境保護とかサステナブルという言葉に人間の驕り(人が自然を制御できるという考え方)が潜んでいるように感じてならない。
地球温暖化に人類がどれ位影響を与えているかという議論は生業としている事業の将来像を予測する上でも避けて通れない議論だ。その問題に関して個人的な感傷はあるものの、技術評価を長年してきてものとして要点を問われた際には出来るだけ中立的に色々な情報を集めて議論の材料としたつもり。その際、確実な気候変動の予測が如何に困難なことであるのかも併せていわゆるマネジメントに説明するのだが、その時の経験から言うと、ことは科学的な確からしさを問う段階から宗教裁判のどちら側に就くかを問う段階に移行してしまった感がある。それ故、本書の出版には気付いていたもののどうせ読んでも意味は無いという思いもあり、更にこの本がトンデモ科学者による強引な主張の本であるかも知れないという先入観も手伝って、中々手を出すに至らなかった。それでも今更ながらに読んでみたのは、自分自身がそういう不毛とも思える論議から少し離れた立場になったことが一番の理由だ。
著者のスティーブン・E・クーニンは、英国の石油会社BP--余計な話だが、BPは元々前身が旧セブンシスターズの一つであるアングロ・ペルシャ石油であったBritish Petroleumという会社が、ロックフェラーのスタンダード石油から分割された会社の一つであるAMOCOを(BP Amocoと改称)、更に独立系石油会社のARCO(Atlantic Richfield)を買収した後改名した会社の名前で、元の会社の略ではなくBP(plc.)という社名。当時は「Beyond Petroleum」(本書279頁参照)という意味だとも宣伝していた。そんなスローガンもあってか、BPは大手石油会社(いわゆる一つのスーパー・メジャー)の中でも環境問題に人一倍真面目に取り組んでいる(ロゴの色含めて)「グリーンな」会社として業界では知られている--の技術者でもあったことから、米国の某社程ではないにしろ、右派的(反環境派的)な著者の書いたものなのかと思いながら恐る恐る読み進める。しかし図らずも本書が事実を良くまとめた真面目な一冊であることを確認する。特に、パートⅠのサイエンスと題された本書の主要部分を読めば、必ずしも科学一般についてのリテラシーが高くなくとも注意深く論旨を追えば、何が事実で何が誇大広告的な話なのかが理解出来る筈だ。
一方、この問題に多少真面目に取り組んだものとして新たに気付かされたことはほとんどなくて、少し真面目に文献調査をすれば気候変動の社会問題化の問題点については理解が可能であることも再確認される。ほぼ唯一目から鱗的だったのは、地球の黒体放射に与える二酸化炭素の熱収支の影響が1%程度であるのに気温の上昇が10%近くなるのを漠然と辻褄が合わないと思っていたことについて。温度を摂氏ではなくケルビンで考えなければならない、と指摘されて「そりゃそうだよね、ガッテン承知の介です」となった。それと気候モデルのアンサンブル表示は何度も見ていた筈なのに、1905年からの約40年間の気温上昇がどのモデルも実際の上昇傾向を再現できていないというのもグラフの混雑の中で見落としていた。これはモデルの適合性、特に人類の社会活動の拡大と二酸化炭素の排出の温暖化への感度を問うのに重要な点だというのに(その後の寒冷化の傾向がどのモデルで再現されていないのは有名な話だ)。
ミランコビッチ周期という概念こそ出てこないものの、気候変動が天体としての振る舞いや海水温の長期変動周期に影響される話などの主要な物理的因子については網羅的にきちんと整理され、太陽光の熱収支、各温室効果ガスの影響度と特に水蒸気の影響度の大きさとそのモデル上での扱われ方に潜む不確実性の話などのモデリング上の問題点を含めて核心をついて指摘されており、議論に必要な要素は網羅されているという印象。しかもいわゆる孫引きではなく可能な限り元のデータに遡って調べているし、その引用元も参照できるのは、この問題に真面目に取り組む人にとってはありがたい本。何より気候というものは定義からして最低でも数十年単位の傾向を捉えるものであるのに、多くの人がそれを数年単位の気象現象の変化と混同しているとの指摘は正鵠を射るもの。その結果の不確実性故に、IPCCでも多くの気候モデルを並列に扱っているというのに、まして気候モデルでは海水準の変化や降雨降雪量の推定や台風やハリケーンの発生などの長期的な予測は出来ないにも拘らず、これらの短期的な現象に一喜一憂しては気候変動の影響と結びつける風潮に著者は警鐘を鳴らす。もちろん著者も地球が温暖化の周期にあることは認識し、その傾向に人類の活動が何らかの影響を与えていることは認めている。ただし、それが人為的な二酸化炭素の削減を行わなければ取り返しがつかない事態になる、あるいは制御可能であるかのような短絡的な結論を急ぐ「科学」を否定しているだけなのだ。
パートⅠの最終章「誰がなぜ科学を壊したのか」からパートⅡ「レンポンス」に関しては、それまでの章とは異なり著者の個人的な解釈が多く含まれる。ここでは人間の経済活動やその影響度の経済価値など気候モデルとは異なるタイプの不確実性が含まれる故に自然現象の予測以上に前提条件の確からしさに疑義が残ると自分は考えているのだが、著者は案外単純にシンクタンクが説明するようなシナリオを軸に価値を判断しているようにも思う。特に最後の章「プランB」では、気候変動の実態を知るパートとは異なり人類がこの問題にどう対応出来るのかが語られるのだが、その説明は慎重に聴いておく必要があるだろう。ただし、不確実性の高い気候変動の予測を前にして、不可知である(結局、自然現象はカオス的に振る舞うのだというローレンツの教えの通り)が故に何をしても無駄であると投げ出すのではなく、科学者として何が言えるのかを絞り出してみたという主旨の章であり、その主張の土台となっている考え方そのものは有効であるとも思う。
『「説得」のための誇張やウソに惑わされないために私は科学者として、科学界の実に多くの個人や組織が、情報提供ではなく説得のために気候科学を誤って伝えていることに失望している。しかし、あなたも一市民として気をつけなければならない。民主主義社会では、有権者が最終的に気候変化への対応方法を決定する。科学が言っていること(と言っていないこと)を十分知らずに下される決定、悪くするとウソの情報に基づいて下される決定が、よい結果につながることはまずない。新型コロナウイルスでもそのことをつくづく思い知らされた。気候やエネルギーでもそれは同じことだ』―『PartⅠ サイエンス/第10章 誰がなぜ科学を壊したのか』
企業の経営者たちは一度冷静に本書を読んでみるべきだと思う。続きを読む投稿日:2022.10.19
科学的とはどういうことかを含め、大きな話題になっている地球温暖化問題を冷静に考え直す。(山城昌志)
日本大学図書館生産工学部分館OPAC
https://citlib.nihon-u.ac.jp/o…pac/opac_details/?reqCode=fromlist&lang=0&amode=11&bibid=1000283344&opkey=B169881701613200&start=1&totalnum=1&listnum=0&place=&list_disp=20&list_sort=0&cmode=0&chk_st=0&check=0続きを読む投稿日:2023.08.08
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