図書室のはこぶね
名取佐和子(著)
/実業之日本社
作品情報
1冊の本と、10年前の謎――この世界が愛おしくなる、瑞々しい青春小説!10年前に貸し出されたままだったケストナーの『飛ぶ教室』は、なぜいま野亜高校の図書室に戻ってきたのか。体育祭を控え校内が沸き立つなか、1冊の本に秘められたドラマが動き出す。未来はまだ見えなくても歩みを進める高校生たちと、それぞれの人生を歩んできた卒業生たち――海の見わたせる「はこぶね」のような図書室がつなぐ〈本と人〉の物語。~~県立野亜高校図書室名物~~1 オリジナル検索機「本ソムリエ」2 司書の伊吹さん3 海が見わたせる窓~~~~~~~~~~~~~~装画:カシワイ
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この作品のレビュー
平均 4.0 (109件のレビュー)
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あなたは、『今まで読んだなかで、一番おもしろかった本は』なんでしょうか?
ここがブクログという場である以上、これほど、直球ど真ん中の質問はないでしょう。ブクログには本を三冊選んで登録する”ブックリス…ト”という機能があります。毎年、”上半期ベスト”、”年間ベスト”というお題の下に、ユーザーの皆さんがそれぞれの期間に読んだ本の中のベストを投稿されてもいます。しかし、それはあくまで期間限定です。半年、一年という期間を区切って選んだベスト本の話です。
一方で冒頭の質問は『今まで読んだなかで』という広範な条件がついています。このレビューを読んでくださっている方の年齢はマチマチです。中・高生もいらっしゃる一方で、還暦、古希、そして米寿…という方もいらっしゃるかもしれません。となるとその中から『一番おもしろかった本』を選ぶというのはかなりの大ごとです。あなたなら、そんな質問にどの本を選ばれるでしょうか?
さてここに、冒頭の質問に対して、『一冊の本の表紙』を思い浮かべて、「シャーロック・ホームズ」と答えた一人の女子高生が主人公となる物語があります。学校の図書室を舞台にするこの作品。地味に存在感ある『司書さん』の存在がとても気になるこの作品。そしてそれは、『データ上では一冊しかないはずの蔵書が二冊あることを知っ』た主人公が、そんな謎に向き合う姿を描く物語です。
『失礼しゃっす』と人気のない図書室へと入り、『海だけが見える窓って、もう額縁って呼んでいいよね』と『艦船の浮かぶ海』を見るのは主人公の百瀬花音(ももせ かのん)。そんな時、『カウンターの下から制服姿の人影がにょっきり出て』『びっくりしすぎてオットセイみたいな声をあげ』た花音に、『驚かせてごめん。三年四組の図書委員、俵朔太朗(たわら さくたろう)です』と話し出した彼は『三年三組の百瀬花音さん、だよね?コンテストに参加したいなら、今からでも余裕で受け付けるよ』と続けます。それに『ウチのクラスの図書委員から代打を頼まれ』たと詳細を説明する花音に、『意外な人選』、『花音さんは女バレのエースじゃん』と返す朔太朗。花音は左足を見つめながら『今年の体育祭は出られないんだ…』と語ります。そして、『百瀬さん。今日から一週間、どうぞよろしく』と言う朔太朗は通常は四人体制の当番が『体育祭前の一週間は』二人で回していることなどを説明します。『野亜(のあ)高最大の学校行事と言われている体育祭』より図書委員会を優先している朔太朗のことを不思議に思う花音。そんな花音が委員の仕事を教えてもらっていると『まん丸い顔にまん丸の眼鏡をかけて、背は低く、コロコロとよく肥えた女性』が現れました。『こちらは、伊吹さん。学校司書として、もう二十年以上野亜高校にいらっしゃる、いわば図書室の主』と説明され挨拶を交わす二人。そして、『午後五時四十五分』、伊吹の指示で『片付けと掃除』をすることになった二人ですが、花音の左足を慮る朔太朗は自身が掃き掃除などを担当し、花音にはカウンター周りの片付けを指示します。伊吹に足のことを訊かれ『左足首の剝離骨折と靱帯損傷を少々』と答える花音は、この怪我で引退試合も見学、体育祭にも出られないことを説明します。そして、整理を始めたところ『トレイの下』から一冊の文庫本が床に落ちました。『飛ぶ教室』というその本について検索をかけた花音は『データ上は返却され、書架にあることになっている』ことを確認します。そして、当該の本棚へと本を持って行った花音ですが、なぜかそこには『まったく同じ文庫本がすでに鎮座して』います。『どういうこと?』と思う花音が『本をぱらぱらめくってみ』ると、カウンターから出てきた本から『白っぽい紙切れがはらりと落ちてき』ました。『方舟はいらない 大きな腕白ども 土だんをぶっつぶせ!』と手書きで書かれた紙に『もしかして暗号?と血が沸』く花音。そんなところにやってきた朔太朗に事情を説明する花音。『こっちの「飛ぶ教室」を借りてた人って、特定できない?』、『”土ダン”が土曜のダンスだとしたら、体育祭にまつわる暗号でしょ』と言う花音に『本人に”あなたのメモを勝手に読みました”って宣言する気?』とどこか『しらけた表情』の朔太朗。そんな朔太朗を見て『”方舟”って何?”大きな腕白ども”って誰?”土ダンをぶっつぶせ”ってどういうこと?完全に謎じゃん』と息巻く花音は『データ上は一冊しかない蔵書が、二冊出てきたことも気にならない?』と言うと伊吹の元へと行き事情を説明します。それに伊吹は二冊とも預かって調べる旨説明しますが、『プライバシー保護』のため、花音は詳細を知ることはできないと説明します。それに納得できず『「この本を借ります」と宣言』した花音。そんな花音が『飛ぶ教室』から現れた『暗号』を解き明かしていく先に一冊の本に隠されたまさかの真実が明らかになる”学園ミステリ”な物語が始まりました。
“10年前に貸し出されたままだったケストナーの『飛ぶ教室』は、なぜいま野亜高校の図書室に戻ってきたのか。体育祭を控え校内が沸き立つなか、1冊の本に秘められたドラマが動き出す”と内容紹介にうたわれるこの作品。『野亜(のあ)高校』という校名からして何か怪しさ満点(笑)の設定が読む気を煽動してもいきます。
そんなこの作品の内容紹介には”県立野亜高校図書室名物”として以下の三点が挙げられています。
1. オリジナル検索機「本ソムリエ」
2. 司書の伊吹さん
3. 海が見わたせる窓
では、素直に(笑)この三つの点から見ていきたいと思います。
まずは、”3. 海が見わたせる窓”です。この作品の舞台となる『県立野亜高校』は『図書室からの海の眺め、いいよね』と生徒たちが語り合う通り海沿いの『浜貝市』という街にあります。
『軍港が見える。紺青色の海には今日も二艘ほど、大きな艦船が浮かんでいた』。
そんな景色は主人公の花音の言葉をして、
『海だけが見える窓って、もう額縁って呼んでいいよね』
というくらいに美しいものとして描かれています。この海の印象が物語の舞台となる図書室の印象を随分と変化させているように感じます。図書室の描写のある作品は多々ありますが、そこから見える窓の外の景色の方に引っ張られる作品は珍しいと思います。私の読んできた作品では畑野智美さん「海の見える街」も同じく海が登場しますが、やはりこの引っ張られ感はオリジナル性を強く感じさせます。図書室の情景を読んだはずなのに海の印象が残るという不思議感。このことがおそらくこの作品の印象を決定づけているように思います。
次に二つ目は”オリジナル検索機「本ソムリエ」”です。はい、海のことを書きましたが、この作品の書名は「図書室のはこぶね」であり、図書室自体をはずすわけにはいきません。舞台となる図書室は、高校にあるごく一般的な図書室の風景が思い浮かびます。
『貸出期間は二週間。三冊まで。読みきれなかったら、さらに一週間の延長手続きも可能』
そんなルールもごく一般的です。そこにオリジナル性を発揮するのが『野亜高卒業生が作成したオリジナル蔵書検索システム”本ソムリエ”』というものです。どんなものか見てみましょう。
・『たった三問の三択に答えるだけで、野亜高図書室三万冊の蔵書の中から、他ならぬ自分の心が選んだ一冊が導きだされる』。
・『質問の文章自体がおもしろかったり、自分の答えが提示される本の伏線になったりして、凝ってる…ゲームっぽい遊び心がある』
・『読み手の気分や目的に合わせて、おすすめ本が表示される検索機能』
いかがでしょうか?このレビューを読んでくださっているあなたは本を選ぶ際にどういった方法を用いるでしょうか?もちろんブクログのレビューを見て…というのは基本のキだと思います(笑)が、そのレビューに辿り着くまでの本当の起点?と考えると人によってマチマチだと思います。私は常日頃、この起点になることを目指してレビューを書いていますが、そこに辿り着いていただかない限り意味はありません。そこにこの『本ソムリエ』というものがとても興味深く登場します。『たった三問の三択に答えるだけ』で『他ならぬ自分の心が選んだ一冊が導きだされる』というそのシステム。一体全体どういう仕組みなんだ?という気もしますが、これは是非とも試してみたいです。とても興味が湧きました。そして、この作品では、この『本ソムリエ』が各章で図書室を訪れた生徒たちにさまざまな本を提示していきます。どんな生徒にどんな本が提示されるのか?これも読みどころだと思います。
そして、三つ目は、“司書の伊吹さん”です。物語に図書室または図書館が登場する作品は数多あります。私が読んできた作品では瀬尾まいこさん「図書館の神様」、有川ひろさん「図書館戦争」、そして上記でも触れた畑野智美さん「海の見える街」など、本好きなあなたには、そんな本が大量に保管されている場に興味は尽きないと思います。この作品に登場する朔太朗も『そこまで読書家じゃないよ。好きなのは、本というより図書室』と花音に説明するなど作品自体も本ではなく図書室に向いていることがわかります。そして、そんな場になくてはならない存在が『司書さん』です。『司書さん』に光を当てる作品で最も有名なのは青山美智子さん「お探し物は図書室まで」だと思います。”何かお探し?”という問いかけから始まる司書の小町さゆりが、図書室を訪れる人たちの人生に起点・きっかけを作っていく物語は傑作揃いの青山さんの作品の中でもピカイチです。一方でこの作品には司書の伊吹が登場します。
・『まん丸い顔にまん丸の眼鏡をかけて、背は低く、コロコロとよく肥えた女性』
・『年齢は察しづらく、ウチの母より年上で、祖母より年下くらいしか絞り込めない』
・『学校司書として、もう二十年以上野亜高校にいらっしゃる、いわば図書室の主』
そんな風に印象が記されていく伊吹ですが、どうも実像が掴めない存在でもあります。青山さんの作品でも存在感はあるのにはっきりしないという小町がとても気になる存在として読者の興味を釘付けにしましたが、この作品では、そこまでではないとしても地味に存在感を発揮し続けます。これから読まれる方には是非そんな伊吹の存在も意識して読まれることをおすすめします。
さて、そんな”名物”を有する図書室を舞台に展開するのがこの作品です。高身長を武器にバレー部で活躍していた主人公の花音。しかし、『夏前に部活でちょっと怪我』したことから、引退試合もままならず、さらには『野亜高の創立当初から四十年以上つづく伝統種目であり、体育祭の名物』と呼ばれる『土ダン』に出ることさえ叶わなくなってしまった花音が、代役で図書委員を務めるために図書室を訪れたことから物語は動き出します。『好きなのは、本というより図書室』と公言して憚らない朔太朗に委員の仕事を教えてもらう中に、偶然にも『飛ぶ教室』という文庫本を手にし、そこから『暗号』のようなものが書かれた紙が落ちてきたのを拾った花音。
『方舟はいらない 大きな腕白ども 土だんをぶっつぶせ!』
なんとも摩訶不思議な文字がそのメモには並んでいます。さらに、
『データ上は一冊しかない蔵書が、二冊出てきたことも気にならない?』
そんな摩訶不思議な状況を背景に、花音はそこに隠された真実を求めて調査を進めていきます。その意味では”ミステリ”としての側面もありますが、それ以上に朔太朗をはじめとした個性豊かな登場人物たちが”学園もの”としての読み味を強く演出してもいきます。
『学校という大きな容れ物の中身は、ごった煮のようでいて、実は細かい膜によって何層にも分けられている。膜は透明で、視界は良好、互いの膜の中の声もよく聞こえるが、移動は簡単にはできない』。
まさしく“スクールカースト”を暗示するような記述で語られていく物語はどこかはっちゃけた登場人物が抱える学校生活における葛藤と苦悩をも感じさせます。そして、そんな物語が行き着く結末。”1冊の本と、10年前の謎 ー この世界が愛おしくなる、瑞々しい青春小説!”と本の帯に記されるその意味を読者が知ることになる結末、そこには高校を舞台に色濃く描かれる”青春物語”の姿がありました。
『世の名探偵は、だいたい何パーセントの可能性を感じたら動きだすんだろう?わたしはゼロでない以上は動きたい。その結果、名探偵になれなくてもちっともかまわない』。
一週間の期間限定で『代理図書当番』を引き受けた花音。そんな花音が偶然見つけた一冊の本に隠された謎に立ち向かう姿が描かれるこの作品。そこには、『野亜高の創立当初から四十年以上つづく伝統種目であり、体育祭の名物』とされていた『土ダン』へ向けて盛り上がる学校の中でそれぞれの立場に青春を生きる生徒たちの姿が描かれていました。図書室が舞台となる物語に親近感を感じるこの作品。そこで繰り広げられる謎解きにまさに青春を感じるこの作品。
舞台となる学校の名前が『野亜(のあ)高』、そして、そんな本の書名が「図書室のはこぶね」というなんとも意味深な設定の先に、あたたかい結末を見る素晴らしい作品でした。続きを読む投稿日:2024.06.08
いやあ、なかなかに面白かった。土曜のダンス、土ダンや図書室を中心に描く学生たちのハートフルストーリー。なかなか深いテーマもあり、登場人物も個性が際立っていていい。人におすすめしたい一冊。
投稿日:2024.05.05
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