この作品のレビュー
平均 3.8 (202件のレビュー)
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いつもの、関西弁で感情が爆発しまくっている西さんの作品が高熱とするならば、この作品は、平熱、いや、低体温症くらいの温度感かもしれない。
解説P298「受賞作の『ふくわらい』の主人公、定(さだ)は、編集…者としては有能な女性だが、特殊な環境で育ったこともあり、『愛すること』や『気持ちが悪いこと』など、世間の人々が『当たり前』に感じている感情が『わからない』女性である」。
小川洋子さん曰く、「冷ややかで、生々しい」作品。
解説の上橋菜穂子さん評するに、「物語としてしか命を持ちえない作品」である。
ラスト、物語のその体温は、しっかりとした温度感でもって、迫ってくる。
読みたいと思って購入してからずっと、本棚でひっそりとしていた作品だ。
大好きな西さんの作品であるにも関わらず、ここまで時間が経ってしまったのは、作中に出てくる「プロレス」がネックになっていたからだ。西さんがプロレス好きなのは知っていたけれど、わたし個人の中で、ボクシングやプロレスのような、人を殴るスポーツを、なかなかスポーツとして受け容れられない部分があって。映画でも、殺人系や医療系の血は全然平気なのに、ヤクザ映画やボクシング映画は観られない。「アウトレイジ」は挫折、「ファイトクラブ」はまだ観てない。「あゝ、荒野」も、きっと観ない。
そんなだから、ちょっとこの作品を読むのに抵抗があった。だけど、作中に出てくる守口というレスラーは、わたしがイメージするレスラーとは異なり、なんとも人間らしく、弱かった。
プロレスに詳しくないわたしは全く分からないのだけれど、みんな無理矢理キャラクターを作っているのだろうか。自分の中に矛盾を抱えながら不器用に生きる守口の姿は、弱々しくもあるけれど、人間らしくてなんだか勇気をもらえたのだ。
また、作中に出てくる「目の前にいるあなたがすべて」という感覚は、平野啓一郎さん「私とは何か」に出てくる「分人」の概念と重なる部分もあった。
「ありのままの自分」とは言うけれど、結局「その人の前での自分」がその人にも自分にも全てであって、一緒にいる中で、いろんなその人を発見して、「その人の全て」の領域が広がってゆく。
誰かのことを受け入れる、誰かと一緒にいるって、こういうことだよなぁ、としみじみと思わされた。
これまでの過去の積み重ねが今この瞬間の自分であって、それが自分の全てである。
今この瞬間、目の前にいる人もそれは同じで、お互いに過去を背負った今を生きている。そして、今この瞬間を作ってきた道のりを、目の前の人が背負っているものを、関わりながらたくさんたくさん知ってゆく。
ふくわらいでバラバラに存在する目・鼻・口。
言葉と気持ちがバラバラな定。
それがリンクする瞬間。
どぼどぼと定の中から溢れてきた嘔吐は、気持ち悪いものをはっきりと気持ち悪いと認識した瞬間、気持ちと言葉が繋がった瞬間だった。
そして、なりたい自分と今の自分との間で苦しんで自分を傷つける守口も、言葉と気持ち/なりたい自分と今の自分との間で苦しんだ結果、プロレスを続けながら一つの答えを見出した。
「生きる」こと、「生きていく」ことの答え。
ラスト、守口が客席に向けてかける言葉に、胸を打たれた。
そして、西さんの作品にはいつも、死の気配がつきまとう。
それは常に、生きていることの尊さを教えてくれる。
死にたいと思う日々の中で。
友人の訃報を受けた時に、強く、親友と交わした約束を思い出す。
「私たち、人並みに長生きしようね」続きを読む投稿日:2021.07.13
このレビューはネタバレを含みます
最初の方はあんまりハマらないかもな〜と思ってましたが、乳母が体調悪くなったところくらいから、面白くなってきてどんどん読み進めていきました。
レビューの続きを読む
定が生い立ちからなのか、あっさりとした人だったのが守口との会…話で感情が芽生えてくるところ(?)は一緒に熱くなりました。続きを読む投稿日:2024.05.05
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