よくわかる山岳信仰
瓜生中(著者)
/角川ソフィア文庫
作品情報
国土の七割以上を山に囲まれた日本では、古くから山を神聖視して信仰の対象とする山岳信仰が盛んだった。そして、六世紀に仏教が伝来すると、山岳信仰は仏教の思想と修行法を取り入れて発展。平安時代初期には密教とも融合し、やがて修験道と呼ばれる日本独自の宗教が生み出される――人々の生活に大きな影響を与え続けてきた「山」への信仰を辿り、日本の歴史文化の基層を知る入門書。第一章 日本人にとっての山第二章 山岳信仰の整備と神仏習合第三章 山の神とその信仰第四章 修験道の成立第五章 代表的な霊場
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商品情報
- シリーズ
- よくわかる山岳信仰
- 著者
- 瓜生中
- 出版社
- KADOKAWA
- 掲載誌・レーベル
- 角川ソフィア文庫
- 書籍発売日
- 2020.11.21
- Reader Store発売日
- 2020.11.21
- ファイルサイズ
- 8.3MB
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この作品のレビュー
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「他界」
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座とは神を数える助数詞
神は山頂に降臨する 神の座する巨石
「魔界」
仏教は三の倍数が無限を表す
「神仙術」
仙人になる術
「木食行」丸薬づくりと五穀断ち
祭=政 神仏習合「本地垂迹説」 仏主神従 ↔ 神主仏従:伊勢神宮 外宮
本仏のもとに無数の化身が菩薩
名神大社 →明神=明王の力を持った神
法華経
経典で女性も成仏
平城京
20万人の過密都市 奈良仏教の崩壊 で山岳修行も増加
修験道
神仏習合 民族宗教 修験者=山伏 1872年修験道禁止令
投稿日:2021.03.11
950
山岳信仰の本面白かった。山と日本文化って切っても切り離せない関係だし、日本神話の話とかも沢山あった。
瓜生中
1954年東京生まれ。早稲田大学大学院修了。東洋哲学専攻。仏教・インド関係の研…究、執筆を行い現在に至る。著書は、『知っておきたい日本の神話』『知っておきたい仏像の見方』『知っておきたい般若心経』『よくわかるお経読本』『よくわかる浄土真宗 重要経典付き』『よくわかる祝詞読本』ほか多数。
また日本は周囲を海に囲まれた海国、島国でもある。海辺に暮らす民も海浜の山と深いかかわりを持って来た。日本民族は太古の昔から、山とともに生き、そこにある種の信仰や生活の指針を 見出してきたのである。
日本には神が山の上に降りて来るという信仰があった。富士山をはじめ、各地の 霊山 と呼ばれる山の頂上には必ず社や鳥居が備えてあり、山内にも要所要所に鳥居や社が建てられている。
ただ、インドなどの山岳信仰は山麓の山岳民族を中心とするものであり、シナイ山はユダヤ教やキリスト教という宗教を通じて、その信者に限定された信仰の山ということができる。 これに対して、日本の山に対する信仰は北から南まで日本列島全域で行われており、そこに日本の山岳信仰の特異性がみられるのである。これは日本民族がほぼ同一の言語を用い、正月や彼岸、盆の行事を行うなど、ほぼ均一な文化を持っていることから、山岳信仰も均一に保たれていると考えられるのである。
日本の 神奈備 信仰もアニミズムに基づくもので、特異な発展を遂げた信仰形態である。
また記紀神話では、イザナギとイザナミが最初に生んだ(つくった) オノゴロ島という島に降り立ったとき、この島を国中の「柱」として国生み、神生みを行ったという話が出ている。さらに天孫 瓊瓊杵尊 が日向の高千穂の峰に降臨したときには、地下の盤石に届くほど太い巨大な柱を立てた上で宮殿を建設したという。
ちなみに、平安時代の法令書である『 延喜式』では、神を数えるのに「 座」という助数詞を用いている。この座は磐座に由来するのだろう。さらに、日本では山の数を数えるときにも「座」を助数詞としており、海外の山まで「ヒマラヤ八〇〇〇メートル峰一四座」などと言っている。これも磐座に由来するもので、山には必ず神がいることからこのようにいわれるようになったのであろう。
このように上に火を 捧げるという風習は世界中にある。キリスト教やヒンドゥー教などでも火は欠かすことができない存在で、もちろん、仏教でも燈明を上げることは 必須 である。そして、神などの神聖な存在に火を上げるということは、仏教やキリスト教が興る以前の、つまり宗教以前の信仰と見ることができるだろう。その原初的な信仰に対し、仏教やキリスト教などが後付けでいろいろと説明を付けたのである。
今も山伏は 峰 入り修行(山に入って修行すること) のときに、 柴 燈 護摩 という特大の護摩を焚く。これは丸太をキャンプファイヤーのように高く組み上げて焚く大掛かりな護摩で、死者の霊は護摩の炎を目印に山の頂上を目指し、昇天するという。また、 回 峰 の途中の 靡き(神聖な場所) で野護摩を焚く。これも神霊の目印になるものである。
那智(熊野) の火祭や東大寺のお水取りの 御 松明 なども、古来の火を焚くという信仰に基づくものと考えられる。このほかにも日本には火を焚く祭は多く、その祭は冬に行われているものが多い。これは冬至のころに弱まる太陽の光を火によって活性化させる意味があるのだろう。そして盆に迎え火を焚くのも、神を迎える風習が仏教的に説明されていることは明らかである。
この石長姫の話が民間に流布し、山の神は器量が悪いという信仰が山間部を中心に広まったのかもしれない。また、かつて日本中のほとんどすべての山は女人禁制で、女性の入山を厳しく禁じていた。しかし、古くは山の神に女神が少なくなかったのである。たとえば、高野山の地主神は 丹 生 都 比 売 命、白山の神は 白山 比 売 命 である。また、日光や 波山には 男体山 に対して 女体山 があり、埼玉県大宮の 氷川神社は、同じ埼玉県の 見沼 というところに氷川女体神社がある。
このように、山の神は基本的に女性でしかも極めて不器量だと考えられていた。だから美しい女性が山に入ると 嫉妬 し、嵐を起こしたりして人々に襲い掛かる。それで女人禁制にしたというのが民間の俗説である。 また山間部に住む人々の間には、女神である山の神は男根を好むという俗信もある。数人の若者が山仕事などで山に入って天候が悪くなったときに、彼らは男根を 露 にして山に向かって大笑いをする。それを見た山の神が喜んで天気が良くなるという俗信があったという。
このような魔物が棲む山に足を踏み入れることはタブーとされていたが、山仕事や山越えをして遠方に行くときには、どうしても山に入らなければならないこともあった。また、山の神は怒りっぽく人間の言動が気に入らないと暴風や雪崩などを起こす。そこで、とくに山国に住む人々は神の 逆鱗 に触れないように、さまざまなタブーや掟を作ってきた。
このほか、神使としては烏、 雉、蛇などさまざまな鳥獣がある。烏については熊野神社の三本足の 八咫烏 が有名で、記紀神話の中では熊野に上陸した 神武天皇を 大和 まで導いたという話が語られている。雉は主人の命令に忠実に従う鳥とされ、記紀神話の中にも登場する。蛇に関しては世界中に蛇神信仰があり、日本でも古くからその信仰があった。伊吹山の神が蛇だったという話は記紀神話にも語られている。 このように鳥獣を神使、あるいは神霊そのものと見なすのは日本の神に対する信仰の中にアニミズム的信仰、言い換えれば宗教以前の信仰が色濃く残っていることを示すものである。
これは日本の神はインドから来た仏、菩薩が仮にあらわした姿であるという思想である。「本地」とは本体、親分、「垂迹」とは本体の影のようなもので、親分に対する子分である。なぜこのような説が説かれるようになったかというと、仏教の仏、菩薩はまだインドから来て日が浅い。だから、何か頼みごとをしたり、助けを求めたりするときに親しみが薄く、何となく相談しにくい。そこで、古くから慣れ親しんでいる日本の神(子分) が先ず前面に現れて人々の望みを聞き、それを日本の神が親分であるインドの菩薩に報告する。そして、実際に相談を受けて救済してくれるのは仏教の仏、菩薩なのである。
インドに神道はないが、もともと多神教のインドでは、神々の中に仏教の仏が入り込んでいったとき、仏が既存の神々の中に埋没して仏教の教えが伝わらない恐れがあった。それを避けるために『法華経』の内容を「本迹二門」に分け、本門で久遠実成の釈迦如来の存在を際立たせることにより、他の神々との差別化を図ったと考えられる。
神道と仏教とを比べると、タブーが多いのは神道の方である。仏教の方でも「とも詣り」といって葬儀のときに墓参りをすると縁起が悪いとか、葬儀や通夜のときには神棚は紙を貼って隠し、仏壇は扉を閉じるなどの決まりごとがある。しかし、これらのタブーのほとんどは神道由来のもので、合理的な仏教には呪術的なタブーという考え方はないようである。神道にはさまざまなタブーがあるが、それらのほとんどは民間信仰の中で醸成されてきたものである。
先ず、女人禁制の大きな要因になっているのは女性特有の血の穢れとお産による穢れである。月のものやお産に直面している女性は山に入ってはならず、神社の鳥居すら潜ってはならないというのである。明治の神仏分離のときに全国の山の女人禁制は解禁となった。しかし、今も吉野の大峰山の山頂付近では守られており、 峰 入り行を行う女性は、大峰山の山頂付近だけは 迂回 しなければならない。
また前にも述べたが、山の神はもともと女神だったと考えられている。だから、自分より美しい女性が山に入ることをことのほか嫌い、女性が入山すると暴風雨などの災厄をもたらしたというのである。
その意味でインドの民族宗教であるヒンドゥー教に近く、今もヒンドゥー教はほとんどのインド人に圧倒的に支持されているのである。
しかし、修験道は明治の神仏分離によって完膚なきまでに解体されてしまい、その後、復活したものの旧観には遠く及ばない。修験道の解体は日本民族にとって極めて不幸な事件であり、これほど日本人の民族性と宗教心を傷つけた事件はないといって良いだろう。この不幸な出来事がなければ、修験道は今もインドにおけるヒンドゥー教と同じように活況を呈していたに違いない。
先に述べたように、山岳信仰の下に形づくられてきた宗教は、神道や道教などあらゆる宗教の教義や儀礼を取り入れて来たのであり、極めて現世利益的な性格の強いものだった。そこで山岳宗教と密教はすぐに結びついたのである。若いころに独学で仏教を学んだといわれる空海も古くから行われていた山岳修行に励んだ。そして、天台宗の 最澄 が行ったのも 比叡山 を中心とする山岳修行だったのである。
平安時代の末に作られた『聖徳太子絵伝』には、聖徳太子が 甲斐 国(現在の山梨県に相当) から献上された 黒駒 という 駿馬 に乗って富士山に登る姿が描かれている。江戸時代まで聖徳太子の絵巻(絵伝) は作られたが、太子の富士 登攀 は絵巻の定番になっている。また、『日本霊異記』には伊豆に流された 役 小角 が空を飛んで富士山に登ったと記されている。しかし、これらは伝説で史実ではないことは言うまでもない。続きを読む投稿日:2024.01.22
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