この作品のレビュー
平均 4.1 (27件のレビュー)
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アメリカの黒人差別を描いた名作といわれる小説は、描かれる物語の過酷さに加えて、人間の暗部、そしてアメリカという国の暗部まで切り込むような、凄まじい作品が多いと感じます。
この『地下鉄道』も、そうした…作品の系譜を継ぐ凄まじさが伝わってくる。自由を求めたコーラが行き着いた土地の数々から、差別の根の深さ、アメリカという国の抱えた矛盾までも透けて見えてくるようです。
19世紀のアメリカ。南部の農園で奴隷として暮らしていた黒人の少女・コーラは、新入りの奴隷の少年・シーザーから、黒人奴隷を逃す“地下鉄道”を利用した、逃亡計画に誘われる。二人は逃亡を決意するが、奴隷狩り人のリッジウェイが二人の後を追い……。そして、コーラは各地で黒人の現実を知っていく。
地下鉄道というのは、史実的には黒人の逃亡を支援した組織の隠語のこと。しかしこの小説では、文字通り地下鉄道は鉄道として登場し、コーラたちは列車に乗り込み、黒人差別が厳しいアメリカの南部から、奴隷制が一足早く撤廃された北部へ向かいます。
物語の序盤で描かれた農園での過酷な生活と逃亡劇。そこから協力者の助けの元、地下鉄道で文字通り自由へ向かって走り出す姿は、自由の象徴としてとても分かりやすい。
作品の文章や話の雰囲気も硬質なのですが、この場面は映像として鮮やかに浮かんでくるよう。このイマジネーションだけでも、とてもユニークで、どこかロマンチックな予感を感じさせる。
北部に至るまでにコーラが訪れることになる、アメリカの各州。初めにたどり着いたサウスカロライナでは、コーラたちの農園があったジョージアとは違い、黒人に対しても先駆的な考えを持っているようで、コーラたちもここで仕事を見つけ、徐々に生活の場を築いていきます。このままここに居つくべきか迷うコーラたちですが……
州を超えるごとに形を変えていく物語。しかし、その根底にあるものは変わらない。一見ユートピアに見えた場所も、一歩足を深く踏み入ればそこには強烈な差別意識が息づいている。そして、新しい生活を築こうとするコーラの後を追うリッジウェイの存在は、現実的な脅威として、そして奴隷時代の過去として、コーラにまとわりつき安息を壊していく。そして地下鉄道自体の存在にも危機が迫り……
舞台が変わってのノースカロライナの章はかなり過酷。匿ってくれる人は見つけたものの、黒人は見つかり次第処刑され、匿った人物も無事で済まないということから、コーラはほぼ一日中屋根裏に隠れることに。そこから覗くことができる公園では、夜な夜な、黒人の処刑が行われ……
奴隷を逃すため、全米に張り巡らされた地下鉄道、という、寓話的でロマンチックなアイディアが中核にありながらも、物語自体はなかなかに希望が見えない。ようやく見えた希望や、穏やかな平穏も、裏切られ、崩壊する。そして地下鉄道自体も危機に陥る。これもまた、今の象徴なのかもしれない。
映画だったか報道だったかは忘れたけど、黒人男性が白人警官の前を歩くとき、どうしても緊張してしまう、みたいな話を見た覚えがあります。当時は若干オーバーに思ったものの、最近の情勢なんかを見ていると、それはもはや冗談に受け取れない。平穏に暮らしていても、運が悪ければその平穏が一瞬に崩れる。それは現実としてあるのだろうし、その現実の象徴としてこの『地下鉄道』という小説もあるような気がしてなりません。
一方で単に白人批判に終わらないのも、この小説の力だと思います。白人、黒人以外にも、移民やインディアンなどの先住民族のパワーバランスや歴史も、物語の中に織り込み、そうした歴史を描くことでアメリカという国が誕生時から持ち合わせる、闇を描き、また別の場面では黒人間の意見の対立も描く。
国家の暗部、あらゆる人間の持ち得る闇と対立。それも描くから、物語は単に白人は悪、黒人は被害者、という図式ではなくより重層的になっていく。
コーラ以外の人間にも幕間ごとに焦点を当て、その人物が抱える様々なかたちの差別意識を露わにしたり、あるいは自由を求める人、愛を求めた人の輝きや哀しさを表したりと、そういう点でも素晴らしいと思いました。特にコーラの母の真実が分かるシーンは印象的。
アメリカでピューリッツア賞をはじめ7冠を受賞し、ニューヨークタイムズやウォールストリートジャーナルなど様々な有力紙誌で年間ベストブックに選出された作品だそうですが、その輝かしい実績もうなずける。それだけ迫力に満ち溢れた小説です。
一見天国に見えるところでも、地獄は地続きで存在していて、地獄に見えるところですら、より深い闇がある。それは今のアメリカの人種間の状況も表しているのかもしれないし、人間すべてが抱える、敵や他人と判断した人に対する残酷さ。判断されてしまった人たちの過酷さと絶望までも、表しているのかもしれません。
『地下鉄道』は世界に対し、おぞましいけれど忘れてはならない過去と、そして本来あるべき今の姿、未来に作らなければならない世界の姿を思いだせるような、そんな作品だと感じます。続きを読む投稿日:2020.10.22
奴隷制度の残るアメリカ南部。
奴隷が逃げ出すために、地下に鉄道が作られていた、という設定。
地下鉄には駅があって、それぞれの駅から地上に出るごとに全然違う場面に転換する。今っぽい視覚的効果だし、各場面…の残虐さもネットドラマみたいな印象は拭えない。
それでも、奴隷制度の残酷さや理不尽さは十分に伝わるし、自由を求めて進んでいく主人公と、途中で命を落とす仲間達や支援者達に、胸が痛む。続きを読む投稿日:2024.02.26
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