カラスはずる賢い、ハトは頭が悪い、サメは狂暴、イルカは温厚って本当か?
松原 始(著)
/山と溪谷社
作品情報
じつは私たちは、動物のことをぜんぜん知らない――。私たちが無意識に抱いている生き物への偏見を取り払い、真剣で切実で、ちょっと適当だったりもする彼らの生きざまを紹介。動物行動学者が綴る爆笑必至の科学エッセイ!『天地創造デザイン部』原作者、蛇蔵氏、驚愕! 「待ってた! ヘンで終わらない、動物のワケがわかる本!」カラスはずる賢い、ハトは頭が悪い、サメは狂暴、イルカは温厚って本当???鏡を見せると、ハトは自分が映っているとわかるが、カラスはわからず速攻ケンカを売る(鏡像認知という動物の認知能力を測る方法のひとつ)。他にも、サメはカメと間違えて人を襲うことが多い、イルカの交尾はめちゃくちゃ乱暴なこともわかっている。じつは私たちは、動物のことをぜんぜん知らない――。本書では、ベストセラー『カラスの教科書』の著者・松原始氏が動物行動学の視点から、人が無意識に生き物に抱いている〈かわいい〉〈狂暴〉〈やさしい〉〈ずるい〉などのイメージを取り払い、真実の姿と生きざまを紹介します。身近な生きものを見る目が変わるとともに、生物学の奥行きと面白さが感じられる一冊です。〈「はじめに」より〉 動物行動学の目を通した動物は、決して世間で思われている通りの姿をしていない。動物行動学とは「動物はどういう行動をし、その行動にはどんな意味があるのか」を観察し、研究する学問だ。本書では「きれい」「かわいい」といった見た目の誤解、それから「賢い」「やさしい」といった性格の誤解、そして「亭主関白」「子煩悩」といった生き方の誤解について、生き物の実例を紹介する。〈もくじ〉PART1 見た目の誤解 #1 「かわいい」と「怖い」~カモメはカラスと同じ、ゴミ漁りの常習犯 #2 「美しい」と「醜い」~ハゲタカはハゲだから清潔に生きられるのだ #3 「きれい」と「汚い」~チョウは花だけじゃなく糞にもとまるPART2 性格の誤解 #4 「賢い」と「頭が悪い」~鏡像認知できるハトとできないカラス、賢いのはどっち? #5 「やさしい」と「ずるい」~カッコウの托卵は信じられないほどリスキー #6 「怠けもの」と「働きもの」~ナマケモノは背中でせっせと苔を育てている #7 「強い」と「弱い」~コウモリの飛行能力は戦闘機並みに高いPART3 生き方の誤解 #8 「群れる」と「孤独」~一匹狼は孤独を好んでるわけじゃない #9 「亭主関白」と「恐妻家」~ライオンのオスはトロフィー・ハズバンド #10 「子煩悩」と「放任主義」~カラスの夫婦だって子育てに苦労する
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商品情報
- 著者
- 松原 始
- ジャンル
- サイエンス・テクノロジー - 生物・バイオテクノロジー
- 出版社
- 山と溪谷社
- 書籍発売日
- 2020.06.13
- Reader Store発売日
- 2020.06.13
- ファイルサイズ
- 11.3MB
- ページ数
- 288ページ
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この作品のレビュー
平均 3.7 (15件のレビュー)
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【感想】
人間は、見た目がかわいい動物には甘い。
2012年には「保全の対象となっている動物は多くが大型でかわいい、あるいは目立つ動物である。目立たない動物は少なく、植物に至っては滅多に取り上げられな…い」という論文が発表されている。科学的に言えば、動物の見た目と保全の重要性には何の関係もない。もっと言うと、人間にとっての「かわいい」と動物にとっての「美しい」は違う。にもかかわらず、イメージがプラスに働く動物を、人は贔屓しがちなのである。
本書はそうした「動物に対する偏見」をまとめ、それを生物学の領域から反論する一冊である。見た目、性格、生き方といった様々なテーマごとに動物の特性を紹介していくのだが、根底には「動物に対する綺麗、賢い、温厚といったイメージは、人間が勝手に作った基準にすぎない」という主張がある。
例えばカラス。日常で見かける鳥の中で特に大きく、見た目が怖い。人間の出したごみをあの手この手で漁る、ずる賢い動物のイメージだ。
カラスはその見た目から、凶暴で、目を合わせたらとびかかって来ると思われている。しかし、カラスの攻撃は大抵足で蹴るだけだ。また、カラスの嘴は湾曲しているため、まっすぐ前向きに叩きつけても滑るだけで刺さらない。要するに、カラスが飛びながら人間に嘴を突き刺すのはほとんど無理であり、それこそ人間の作った「イメージ」に過ぎないのである。
また、「賢い」という点にも疑問が残る。
カラスはかなり計画的な動物だ。クルミを自動車に轢かせて中身を取り出す。お店の軒先のお菓子(当然蓋は開いていない)を食べ物と認識し、奪っていく。人間社会にここまで上手く適応できる動物はそうそういないだろう。
しかし、カラスは鏡像認知ができない。鏡像認知はサルやゾウだけでなく、ハトやイカにもできる。しかし、「イカが賢い」と言われてピンとくる人はいないだろう。
結局のところ、知能というのは、その動物がその環境で生き残るための性能の一つにすぎないのである。だから、ある特定の能力が発達していて、他の能力が平均以下、ということも当然ある。それなのになぜ「賢い動物」「バカな動物」というカテゴリがあるかと言えば、人間が人間の基準に当てはめて語っているからだ。人間は動物のやることを、ことごとく人間の行動のように解釈しがちである。しかし、人間のバイアスで動物を一括りにするのは、非常に浅はかではないだろうか。
――そう、人間はしばしば、自分自身の行動原理を動物に投影し、勝手に動物像を作り上げ、その虚像にああだこうだ言っているわけである。
ただし、人間が作り上げた虚像も、それはそれで一つの物語であり、世界の把握の仕方の一つであることは間違いない。古代社会において、神話や伝説が世界を説明する方法であったのと同じである。例えば、カラスは仲間の葬式をするとか、悪がしこいとかいう「物語」も、それはそれで、人間にとって納得のゆくストーリーだ。
だが、ストーリーはそれ一つではない。生物学に則った理解も、世界の見方の一つだ。動物の目から見た時に世界はどんなものか、という視点を持っているのは、悪いことではない。(略)人間の常識から踏み出して、動物たち自身の視線に合わせて世界を見ようとする時、生物学的な解釈は極めて正しい方法である。
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【まとめ】
1 その「動物像」、誤解です
動物行動学の目を通した動物は、決して世間で思われている通りの姿をしていない。第一、動物の行動はそんなに単純ではない。
もちろん、種ごとの傾向や制約はある。だが、それを一言でくくってしまうのは、「日本人はメガネをかけていて、スシとスキヤキを食べる」というくらい雑な理解である。
動物にもこういう間違ったイメージ付けがなされるわけだが、私が感じるモヤモヤは、単に「間違っている」ということではない。言ってみれば動物に対する敬意の問題だ。知った上で「こいつはひどいやつだな」と思うならまだいい。だが、知らずに決めつけてしまうほど失礼なことはない。
2 見た目が恐ろしいと凶暴なのか?
カラスはその見た目から凶暴だと思われており、カラスに襲われる話も少なくない。しかし、カラスの攻撃は足で蹴るだけで、ちまたで信じられているような、飛びながら突進してくるようなものではない。第一、カラスが飛ぶ速度で頭から激突したらカラスの方が危険だ。
また、標本を見るとよくわかるが、カラス(特にハシブトガラス)の嘴は湾曲しており、まっすぐ前向きに叩きつけても滑るだけで刺さらない。要するに、カラスが飛びながら人間に嘴を突き刺すのはほとんど無理なのである。ただし捕まえると噛みつかれる。鳥の攻撃の基本は噛むことで、カラスの咬筋はなかなか強力なのだ。
同じく凶暴だと思われている動物にサメがいるが、サメは大きな獲物を襲うのが上手ではない。人間が襲われる例として案外多いのが、サーフボードに腹ばいになってパドリングしている時だそうである。サメが水面下から見上げると、アザラシやペンギン、あるいはウミガメが泳いでいるように見えるのだと言われている。そして、大型のホオジロザメはしばしば、そういった餌を食べている。第一、人間が海中にいることは滅多にないので、サメの方も人間を常食するほど出合うのは難しい。人間をわざわざ狙って捕食しようとするサメは、おそらくいない。
動物の多くも、人間と同じように見た目を重視する。ただ、動物のメスは突然好みを変えてしまうことがある。例えば、クジャクのオスだけが持つ長い尾はどう考えてもメスにモテようと発達したものなのだが、現在の伊豆シャボテン動物公園においては、もはやメスに対するアピールになっていないという研究がある。
長谷川寿一らは長年、伊豆シャボテン動物公園で繁殖しているクジャクのモテ方を計測していた。長谷川らは尾の長さ、目玉模様の数、対称性など、様々な要因と、繁殖成功の関連を調べ続けた。だが、結果はことごとく予想を裏切るものであった。尾の長さも目玉模様も、オスのモテ具合と今ひとつリンクしないのである。ところがある時、思いもよらない結果が出た。クジャクのオスの繁殖成功と強い相関を持っているのは、鳴き声だったのだ。よく鳴くオスはモテる――なんとシンプルな、そして意外な結果であったことか。
3 「賢い動物」って、そもそも何が基準?
賢い動物と言われて想像するのは、「道具を使える」「鏡像認知ができる」動物だ。
鏡像認知というのは、「鏡を見て、映っているのが自分だとわかること」である。人間はこれができるが、小さな子どもにはわからない。動物の場合、鏡を見ると大抵は「他個体がそこにいる」と思い込む。魚もネコも、鏡を見ると後ろをのぞきに行くが、これは「そこに誰かがいる」と思っているからである。
ヒト以外の動物で、鏡像認識ができるのは、チンパンジー、ゴリラ、ハト、イカなどだ。しかし、賢いと考えられているカラスにはできない。
人間が「賢いと感じる」行動が、実はもっと単純な仕組みで発現している、ということはよくある。カラスは鏡像認識ができないが、数の概念を理解し、計画性もある。道具も使う。
知能というのは、生き残るための性能の一つにすぎないのである。だから、動物の知能は、その動物が必要とするものになっているはずだ。例えば、社会を作らない動物には社会的知能はいらない。だが、獲物の動きを読んで先回する能力はいるかもしれない。
こういう一匹みたいな知能は、「人間でいうと何歳児並み」といった言い方ができないだろう。先読みは大人並み、社会性ゼロ、道具使用はそもそも手がないのでできません、なんて動物相手に、「何歳くらいの知能」という言い方は通用しないのである。
4 個体としての強さと生態系の中での強さ
マンボウやネズミのように、一個体は非常に脆弱だが、どこにでも分布する上に個体数が極端に多い、よって地球上で繁栄している、といった生物もいる。逆に、それこそライオンやトラのような生態系の頂点に立つ動物たちは、餌となる動物が十分にいなければ生存できず、そのためには広大な環境が保全されていなければならず、何より最も手強い敵である人間に狙われやすいという、弱い立場に置かれている場合もある。一個体の強さと、生態系の中での安定性はまた別なのだ。というわけで、生物の場合、「強いは弱い」「弱いは強い」のようなアベコベな理屈も、成立しなくはない。決して1対1の決闘で勝てるチャンピオンだけが、生物として強いことにはならない。それこそが、この地球上にありとあらゆる生物が存在できている理由である。
5 群れを率いるリーダーは、意外といない
人間の集団には社会的なリーダーがいることが多い。だが、動物の場合、そういったリーダーや命令系統が存在するとは考えにくい場合がしばしばある。
かつて、ニホンザルはボスザルを中心とした社会システムがあると考えられたことがあった。だが、これは1960年代あたりの想定で、現在は野生状態のニホンザルにそのまま当てはめられるモデルではないことがわかっている。だが、一般にはまだまだ「ボスザルは群れに君臨してメスと子どもを守っている」「ワカモノはボスの命令によって集団を守る」といった説が信じられているかもしれない。
もちろん、そういう状況が生じることもないわけではない。初期のニホンザルの研究は餌付け群を対象に行われたから、餌が極度に集中していたのである。そういう場所では、優位個体がやすやすと餌を独占できる。その結果、優位個体を中心に、周囲を他のサルが取り巻くような構造ができる。メスや子どもはまだしも近くにいられるが、劣位のオスは「餌待ち」の列のはるか後ろだ。
その結果、中心にボスザル、それからメスと子ども、中堅クラスのオスザル、周辺部に若いオスという形が生まれる。
だが、野外ではこんな独占は不可能だ。餌はそこら中に分散しているからだ。彼らに命令系統という意識はないだろう。
6 本能とは複数要素の組み合わせ
よく「本能」という言葉が使われるが、これは現在、生物学ではあまり使われていない。というのは、説明になっているようで、なっていないからである。例えば、ガンの雛が猛禽のシルエットを見ると反射的に隠れる行動がある。これは生まれてすぐにできるようになるし、人間が育てても同じような反応を示す。これを「本能」と呼ぶわけだが、「驚異的な、しかも教えられたわけでもなく知っている叡智」を「本能」と呼び変えただけである。結局その「驚異的な叡智」のメカニズムについては言及していないわけだ。
本能と呼ばれていたものは、生得的な部分と後天的な部分が組み合わさった、一連の行動と考えるのが適当だろう。これらをまとめて「本能」と呼ぶこともできるのだが、それだけでは「実際に動物の中で何が起こっているのか」という研究には進まない。それが、「本能」という言葉を使わなくなってきた理由である。
多くの動物は学習によって行動を変えることができる。ただし、何を学習するかできるかは、生得的に決まっている場合が多い。続きを読む投稿日:2022.10.05
動物の生態を紹介した上で、世間に浸透している言説がどのようにズレてるかを解説する構成。
動物を愛する専門家としての自負あってのことだと思うし、ユーモラスで読んでいてわかりやすくはあるのだけど、槍玉にあ…がってる世間サイドの人間としては「や、よく聞く言説が本気で学問的に正しいとは思ってないスよ」とも反論したくなる。
「人間、興味ないジャンルは恐ろしく低い解像度で満足しちゃってるのね」という自覚と、いつか使えるかもしれない話のネタがこの本の成果物。
読み物としては面白い。続きを読む投稿日:2024.01.04
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