物流危機は終わらない-暮らしを支える労働のゆくえ
首藤若菜(著)
/岩波新書
この作品のレビュー
平均 3.6 (16件のレビュー)
-
よく聞くけど知らなかった問題。本書を読んで問題の所在がよく分かった。最近の本だと思ったら2017年発行だった。この本で指摘している問題をさいきんのTVでも取り上げていて唖然としている。
投稿日:2024.02.11
このレビューはネタバレを含みます
物流危機は終わらない
レビューの続きを読む
ー暮らしを支える労働のゆくえ
首藤若菜氏による著作。
2018年12月20日第1刷発行。
著者は1973年東京都生まれ。
1996年大妻女子大学社会情報学部卒。
2001年日本女…子大学大学院人間生活学研究科博士課程単位取得退学。
2002年「ブルーカラー職種における男女混合職化の研究」で学術博士。
2000年山形大学人文学部講師、2006年助教授、
2007年日本女子大学家政学部講師、2010年准教授、
2011年立教大学経済学部准教授をへて、2018年教授
夫は中北浩爾。労働経済学。
現在、立教大学経済学部教授
著書
『統合される男女の職場』
(勁草書房、2003年、社会政策学会奨励賞受賞、冲永賞受賞)
『グローバル化のなかの労使関係―自動車産業の国際的再編への戦略』
(ミネルヴァ書房、2017年、労働関係図書優秀賞受賞、社会政策学会奨励賞受賞)
学者である著者が、現場の第一線で働く人、企業へのインタビューも行った上で、物流危機の背景、今後に関してデータも踏まえて論じている。
ヒアリングを徹底して行ったからこそ机上の空論では無いリアリティを感じた。
私自身も物流センターでの勤務をしているからこそ痛感することもあったし、ドライバーの勤務の過酷さ、問題に関して改めて認識することが出来た。
単に学術論文を書くだけでは無く、新書の形でわかるように世の中に訴える事ができる学者というのは実はかなり少数派だ。
その意味でも首藤若菜さんにはこれからも学術論文だけではなく
良い本を世の中へ発信して貰いたい。
(全く論文を書かない、研究はしない、教育にも力が入っていないという駄目教授はかなりの数にのぼる)
第5章で指摘するように、過酷な労働を改善させる第1歩は他者の労働に対して無関心、無責任でいてはいけない。
社会的なつながりを認識し、働く者の負担を知り、そのコストを分かち合うこと。
適切なワークルールを作り守らせること(これが役所、公務員の仕事)
個人的には再配達には料金を取るように変える事が必須ではないかと思う。
人口減少社会に対して適切な規制を行う必要があると思う。
再配達無料から有料になることでコンビニ配達利用や宅配ボックス利用の促進を図る事が出来ると思う。
労働者、生活者、有権者の為のワークルールを作るという発想が乏しかった我が国日本ではある。
しかしこの数年働き方改革が曲りなりにも進んだ。
この方向性は正しい。
何でもかんでも市場丸投げ主義が正しいのではない。
ただ今の日本の役所、公務員は行うべきワークルール作りが不十分だ。
(というか霞が関の働き方そのものが過酷そのものだ)
世の中に必要ない不必要な資格試験の団体を作ったり天下り団体を作るのではなく
本来必要としている政策を実現して貰いたい。
印象に残った点を列挙していくと
(ヤマト運輸で)2016年度上期には、人員の大幅増強策が打たれた。
年度初めから、中途社員の大規模な募集が始まり、新卒採用の枠が第二新卒(学校を卒業後就業していない者および数年のうちに転職を志す者)にまで広げられた。
特に人手が足りていない地域では、募集時の給料を引き上げることも決まった。
さらに求職者の目にとまりやすくするため、募集・採用のウェブサイトが一新され、従業員が知人を紹介する社員紹介制度も導入された。
(中略)ヤマトホールディングスの有価証券報告書によれば、デリバリー事業の従業員は、2013年の14万7350人から、2014年には16万2383人まで増員されている。
高卒の新卒採用者数も、2013年までは年間150~180人程度だったが、
2014年には347人に増え、2016年はさらに471人と、以前の3倍程度の水準を記録している。
高卒者は、入社後に運転免許を取得してもらうが、大型免許の取得には3年以上の
運転経験が必要となるので、即戦力にはならない。
そのため、トラック業界では中途採用がこれまで主流だった。
しかし、中途採用で人を採用しにくい状況が続く中、ヤマト運輸では長く働いてもらえる労働者を確保するためにも、社内で育成していく方針を立て、高卒者の採用拡大に踏み切った。
だが罪の意識は、日々の忙しさにかき消されていった。
ヤマト・ショックから約1年が経過しようとしていた2017年末、内閣府はある世論調査の結果を発表した。
それによると、約9割の人が再配達を利用したことがあり、
7割以上の人は再配達を問題だと考えている。
けれども、7割近くの人が、コンビニ受け取りや宅配ボックスへの配達など、再配達削減に向けた方法を「いずれも利用したことがない」と回答した
(内閣府『再配達問題に関する世論調査』2017年12月)
そもそもヤマト運輸の旧来のビジネスモデルは、ドライバーの担当区域あたりの個数を増やし効率を高めることで、収益を上げることにあった。
ドライバーも人間である以上、一定時間内に配達できる個数には自ずと限度がある。
荷物の密度がいくら増していったとしても、労働生産性(労働者一人が時間あたりに
生み出す付加価値)は無限に上がっていくわけではない。
実際ある段階からは、コスト削減効果が明らかに逓減していたという。
モノの運搬や管理を「物流」と呼ぶ。国内で年間に輸送される貨物量は約47億トンにのぼり、このうち91%がトラックによって運ばれている。
国の基準により、貨物輸送時の連続運転は4時間までと定められている。
4時間続けて運転したら、30分以上の休憩を取ることが義務づけられているのだ。
「4時間ごとにタイミングよく休憩できる場所があるわけではない」
「深夜のパーキングエリアやサービスエリアは、どこも満車状態。休憩したくても、できない」といった設備上の制約から、休憩できない
との声も聞かれる。
今日、長距離ドライバーで4時間を超えて連続運転している割合は32.7%にのぼる。
つまり3人に1人が、休憩時間のルールを守っていない。
こうした実態が生まれる主たる理由は、
①時間が足りないこと
②運賃が低いことの2つにある。
だが、現実には多くのドライバーが、パレットに積まれた荷物を手荷役でトラックにバラ積みし、それを輸送して、到着時には平積みされた荷物を再び手荷役でパレットに積み直している。
なぜパレットによる運搬が広がらないのだろうか。
前出の日本物流団体連合会の調査によれば、「荷主が積載量を多くしたいから」
ということが、最大の理由である。
繰り返しになるが、ドライバーの仕事は、本来、貨物を運搬することである。
しかし貨物搬送の前と後には、必ず荷役作業が発生する。
それらは「附帯業務」と呼ばれる。
この附帯業務を誰が担うのかが明確にされないままに、
多くの物流現場が回っている。
もう1つのサービス労働が「手待ち(荷待ち)時間」である。
長距離ドライバーたちは、一度トラックに乗れば、極めて長時間にわたり
働き続け、数日間は自宅に戻れない。
「家に帰れないことが、一番つらい」と話すドライバーが少なくない。
トラック運送事業者数は、1990年に4万72社だったのが、
2007年には6万3122社まで増えた。
2008年から減少に転じたものの、その後はほぼ横ばいで推移している。
つまり事業者数は、物流二法施行後の約15年間で1.5倍に増加し、
その水準のまま現在に至る。
物流二法→貨物自動車運送事業法と貨物運送取扱事業法
今日、トラック業界は、従業員数が50人以下の事業者が全体の90.9%を占める。
宅配便に限っていえば、ヤマト運輸が宅急便を始めた1970年代は、多くの企業が参入し、厳しい競争が繰り広げられた。
しかしその後、淘汰が進み、今日ではヤマト運輸、佐川急便、日本郵便の上位三社で9割以上のシェアを占めている。
宅配便ビジネスは、幅広い配送ネットワークを構築することで、輸送コストを引き下げることができる。
そのため、全国各地に巨大ターミナルを設け、高速自動仕分け機を導入し多数のトラックを保有できる企業が勝ち残ってきた。
いわゆる「規模の経済」が働きやすいのである。
それゆえ宅配便は、大量のドライバーを抱えるという意味で労働集約的でありながら、装置産業的な特性も持つ。
他方、一般貨物は、主に法人を相手とし、一台のトラックに1社の荷物を積載する「貸切輸送」が典型的である。
ターミナルを利用せず、1台のトラックに貨物を混載して輸送する方式もみられる。
こうした輸送方式では、トラックとドライバーさせそろえば、スポットで仕事を請け負うことも可能であり、参入障壁は極めて低い。
その結果、物流二法施行後、事業者数が急増した。
つまり一般貨物については、規模の経済が機能しにくく、
価格競争に陥りやすい。
日本郵便の存在が、運賃を据え置く方向に作用してきた。(中略)
現在、ヤマト運輸の宅急便、佐川急便の飛脚宅配便、日本郵便のゆうパックの基本運賃を見ると、大きさや重さによって違いがあるため厳密な比較はできないものの、概ねヤマト運輸と佐川急便が同水準であるのに対し、日本郵便は若干安く設定されている。こうした状況のもと、ヤマト運輸や佐川急便は、日本郵便に顧客を奪われることを懸念して、運賃の値上げに踏み切れなかったと考えられる。
ただでさえ競争が厳しい宅配便市場の中に、こうした公共的性格を有する
日本郵便が参入していることをヤマト運輸は、以前から問題視してきた。
ヤマト運輸の関係者は、「佐川さんはいいんですよ。民間企業同士が闘うのであれば、互いに赤字になれば潰れるわけで、正面切って経営努力で勝負することができます。今回みたいに価格競争になって、
採算が合わない水準にまで(価格が)落ちれば、互いに撤退するか、値上げを求めるかだけです。でもね、何年も赤字を垂れ流しながらも決して潰れない企業と闘ったら、どの企業だって負けちゃいますよ」と苦々しく語る。
本来、市場が持つ「公正な競争による淘汰」という機能が働かないのであれば、
別の方法で公正な市場を形成しなければならない。
公正な競争を保障するために、例えば、各職場の労働条件を監督指導する労働基準監督官を大幅に増員し、事業所の監視を強化するといった施策も考えうる。
現実に労働基準監督官は、少しずつ増員されている。
だが厳しい財政状況のもと、十分な監視を可能とするほどの人員増は現実性を持ちにくい。
それよりも現実的で、より効果的な施策は、社会保険の加入や労働時間などのワークルールを遵守しうる規模の事業者のみに参入を制限することである。
物流が止まった例 2018年5月のブラジルでのトラック運転手と業界団体が燃料価格の高騰に講義して、全国規模のストライキと抗議デモを起こした。
小規模事業者がひしめき合うなかで、他社と異なる付加価値をつけようとしても
それが難しい。より多くの荷物を、より早く運ぼうしても、道路交通法の積載制限や速度制限を遵守して運行する限り、自ずと限界がある。
つまりサービスの差別化がしづらく、技術特性を発揮しにくいのである。
そのことが運送会社の交渉力を弱め、荷主に対して従属的な性格を生み出してきた。
なぜ若者はトラックドライバーになりたがらなくなったのか。
これには若者の「車離れ」といった変化も関係するが、それ以上に労働条件の相対的低下が影響していると思われる。
かつてトラックドライバーは「きついが、稼げる」仕事と言われていた。
それが、若者にとって魅力となってきた。
だが1990年代後半から賃金が低下していく。
今日、トラックドライバーの賃金(所定内給与)は、平均男性の7割ほどである。
労働時間が長いという意味で「きつい」ことは変わらないまま、「稼げない」仕事になってしまった。
若年層の参入減には、トラックドライバーのキャリアの変化も関係している。
かつては、20~30代にトラックドライバーとして働き、そこで身につけた技能を活かして、40~50代にバスドライバーに転職し、さらに60代でタクシードライバーに転換するキャリア・パターンがあった。
そうした道を歩めば、平均に近い生涯賃金を獲得することができた。
ところが、トラックドライバーの賃金水準が下がっていった時期に、バスドライバーの賃金はそれ以上に下落した。
例えば、50代前半のバスドライバーの年収は、1990年では600万円を超えていたが、
今日(2017年)では500万円を下回り、大型トラックの年収とあまり変わらない。
その結果、もはや運転職を渡り歩きながら、一般的な賃金水準を得るキャリアを描けなくなった。
要するに、同じ時期にトラックだけではなく、バスやタクシーといった他の運転職の賃金水準も低下していった。
それゆえ、運転職としてのキャリア展望を見出しにくくなり、若年労働者を惹きつけることが難しくなったと考えられる。
続きを読む投稿日:2021.12.10
新刊自動購入は、今後配信となるシリーズの最新刊を毎号自動的にお届けするサービスです。
- ・発売と同時にすぐにお手元のデバイスに追加!
- ・買い逃すことがありません!
- ・いつでも解約ができるから安心!
※新刊自動購入の対象となるコンテンツは、次回配信分からとなります。現在発売中の最新号を含め、既刊の号は含まれません。ご契約はページ右の「新刊自動購入を始める」からお手続きください。
※ご契約をいただくと、このシリーズのコンテンツを配信する都度、毎回決済となります。配信されるコンテンツによって発売日・金額が異なる場合があります。ご契約中は自動的に販売を継続します。
不定期に刊行される「増刊号」「特別号」等も、自動購入の対象に含まれますのでご了承ください。(シリーズ名が異なるものは対象となりません)
※再開の見込みの立たない休刊、廃刊、出版社やReader Store側の事由で契約を終了させていただくことがあります。
※My Sony IDを削除すると新刊自動購入は解約となります。
お支払方法:クレジットカードのみ
解約方法:マイページの「予約・新刊自動購入設定」より、随時解約可能です続巻自動購入は、今後配信となるシリーズの最新刊を毎号自動的にお届けするサービスです。
- ・発売と同時にすぐにお手元のデバイスに追加!
- ・買い逃すことがありません!
- ・いつでも解約ができるから安心!
- ・優待ポイントが2倍になるおトクなキャンペーン実施中!
※続巻自動購入の対象となるコンテンツは、次回配信分からとなります。現在発売中の最新巻を含め、既刊の巻は含まれません。ご契約はページ右の「続巻自動購入を始める」からお手続きください。
※ご契約をいただくと、このシリーズのコンテンツを配信する都度、毎回決済となります。配信されるコンテンツによって発売日・金額が異なる場合があります。ご契約中は自動的に販売を継続します。
不定期に刊行される特別号等も自動購入の対象に含まれる場合がありますのでご了承ください。(シリーズ名が異なるものは対象となりません)
※再開の見込みの立たない休刊、廃刊、出版社やReader Store側の事由で契約を終了させていただくことがあります。
※My Sony IDを削除すると続巻自動購入は解約となります。
お支払方法:クレジットカードのみ
解約方法:マイページの「予約自動購入設定」より、随時解約可能ですReader Store BOOK GIFT とは
ご家族、ご友人などに電子書籍をギフトとしてプレゼントすることができる機能です。
贈りたい本を「プレゼントする」のボタンからご購入頂き、お受け取り用のリンクをメールなどでお知らせするだけでOK!
ぜひお誕生日のお祝いや、おすすめしたい本をプレゼントしてみてください。※ギフトのお受け取り期限はご購入後6ヶ月となります。お受け取りされないまま期限を過ぎた場合、お受け取りや払い戻しはできませんのでご注意ください。
※お受け取りになる方がすでに同じ本をお持ちの場合でも払い戻しはできません。
※ギフトのお受け取りにはサインアップ(無料)が必要です。
※ご自身の本棚の本を贈ることはできません。
※ポイント、クーポンの利用はできません。クーポンコード登録
Reader Storeをご利用のお客様へ
ご利用ありがとうございます!
エラー(エラーコード: )
ご協力ありがとうございました
参考にさせていただきます。