文庫 データの見えざる手 ウエアラブルセンサが明かす人間・組織・社会の法則
矢野和男(著)
/草思社
作品情報
幸福は測れる。
幸福感が上がれば、生産性は向上する。
AI、センサ、ビッグデータを駆使した生産性研究の名著。ついに文庫化。
著者は、ウエアラブルセンサを使って職場での従業員の行動を計測、そのビッグデータを人工知能で解析して生産性向上につなげるという画期的な研究を行ってきた。
その研究によれば、生産性の向上は、従業員を「管理」するのではなく、逆に従業員の「幸福感」や相互のコミュニケーションを高めることで達成されるという――。
文庫版のために新たに「著者による解説」を追加、「日本の生産性はなぜ上がらないのか」「人工知能は人間から仕事を奪うか」「幸福の計測は何をもたらすか」「幸福になるとなぜ生産性は上昇するのか」など、現状分析と最新の研究成果を語る。
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文庫 データの見えざる手
単行本版
ウエアラブルセンサが明かす人間・組織・社会の法則
著:矢野 和男
草思社文庫 や 4 1
おもしろかった センサーがもたらす、ビッグデータを解析することで新たな世…界が拓けていく
複雑で、膨大な知識の集大成である社会科学に、ビッグデータという新しいものさしをあてて、新しい法則や原理を発見できる可能性が高まっている。21世紀は、知のブレークポイントになる可能性が高い
・計数的な裏付けのなかった定性的な社会科学を、ビッグデータで、定量的な自然科学へと読み替えていく
・人間の行動は、1/T=U分布という統計的な法則に従う
・世の中には仮説が立てられない問題があって、その解法にビッグデータを用いる
・人の運というものを、組織のメンバー間のコミュニケーションの濃さで表現する
冒頭に、センサーの折れ線グラフ、ライフタペストリ、ソーシャルグラフ、店内の従業員と顧客の動線図などの口絵が乗せられていて、ビッグデータを可視化するためのツール群がいきなり目に入ってくる
気になったのは、以下です。
■イントロダクション
・ウエラブルセンサーを使って、社会現象や、人間行動を計測して、大量データを分析することで人間行動や社会現象に関する様々な発見により世界をリードしてきた。その全体像をまとめたのが本書である
・社会科学が発達してきたが、物理学などの定量的かつ精密なハードサイエンスと比べる、まだ定性的なレベルにとどまっている
・センサー技術により得られた大量データを活用することで、社会現象や経済活動についても、定量的でハードなサイエンスが確立され、科学的な予測や制御が可能となる考えている
・人間や社会に関する大量の計測データは、我々の人生における根源的な問いに答えてくれる可能性がある
■時間は自由に使えるか
・人間や社会の行動に関する大量のデータが得られるようになったことで、人間に関する新たな科学と科学法則が見つかる可能性が大きくなってきた。
・時間の使い方が重要であることは認識されてきたが、それは幸福論や自己管理の話題であって、科学の対象とは考えられていない。
・しかし、論じるに、まさにこれを否定することである。
・あなたが今何に時間をつかうかは、無意識のうちに、科学法則に制約されており、自由にはならないのである
・人間行動や社会行動に普遍的に見られる統計分布、U分布を見つけるためである
・統計分布がU分布のときは、片対数プロットというやりかたでプロットすると直線になる
・U分布は、筆者が幅広い人間行動や社会行動を計測するなかで見出したものだ
・熱力学の法則と人間の行動には共通性がある
・熱力学の法則
⓪温度という概念が存在すること
①エネルギーの保存則
②エントロピーの増大
・エントロピーが最大となる分布をボルツマン分布(=U分布)という
・エントロピーとは、乱雑さ、でたらめさ、と理解するのではなく、むしろ、自由さの尺度であると考えた方がいい
■ハピネスを測る
・幸福度を、「質問紙による調査」で計測すると、およそ半分は遺伝的に決まっていることが明らかになった
・うまれつきになりやすい人と、なりにくい人がいるということだ
・遺伝的に影響を受けない残り半分は、後天的な影響である。半分は、努力や環境変化で変えられる
・行動を起こした結果、成功したかが重要なのではない、行動を起こすこと自体が人の幸せなのである
・「行動の結果が成功したか」ではなく「行動を積極的に起こしたか」がハピネスを決めるというのは、実は、私たち一人一人にとっては、とてもありがたいことだ。
・重要なことは、仕事ができる人は成功するので幸せになる ではなく、
幸せな人は仕事ができる ということだ
・ハピネスレベルを高めるのは、成功を待たずとも、今日ちょっとした行動を起こすことで可能なのである
・行動量を計測することで、幸せは、加速度センサで測れる
・コールセンターの受注率:電話の応対には、性格的な向き不向きがあるとも考えられてきた。しかし、このパーソナリティと受注率との相関を調べてみても相関はなかった。
・実は、受注は意外なことと相関していた。それは、休憩所での会話の「活発度」である。
・結論をひと言でいえば、「活発な現場」では、「社員の生産性が高まる」し、
一方「活発でない現場」では、「社員の生産性が低くなる」のは普遍的・一般的な傾向である
・ソフトウエア開発、研究開発、装置設計、管理職など630人の社員を調べたデータセットがある
・そのデータを分析すると、質問紙による調査した職場のストレスレベルの平均はやはり加速度センサで測った集団的な身体運動の活発度と強く相関していた。
・ハピネスレベルが高いと、業務の生産性は37%も向上し、創造性は300%も向上する
・現場の活発度が、生産性やコストに直結することは、企業のITにも大きなインパクトがある
・しかし、ここで明らかになった「現場の活発度」の重要性は、従来、IT設計にまったく考慮されていない
■「人間行動の方程式」を求めて
・人と対面したり、一人になったりという変化を大量データから解析した結果によれば、再会の確率は最後に会ってからの時間が経過するに従って低下していく。最後にある人にあってからの時間をTとすると、再会の確率は、 1/T に比例して減少していく これを1/T法則という
・時間は、一様に流れるのではなく、面会間隔が空くほど、速く進むようになる
・1/T法則はU分布から統一的に導くことができる
・古代ギリシアでは、時間を表す言葉が2つあり、
機械的に流れる時間:クロノス時間
人の内的・主観的な時間:カイロス時間
といい、明確に区別していた
■運とまじめに向き合う
・運を人生や社会で確率的に起こる好ましい出来事と定義してみよう
・すなわち、人生やビジネスにおける、望ましい確率現象、と捉えるのである
・組織の盛衰は、組織のリーダの運が大きく影響することは明らかだ
・ここで注意すべきは、リーダーのコミュニケーション相手をむやみに増せばいいということではない
・むしろ、重要なのは、組織のメンバーどうしのつながりであった
・メンバー間に三角形のつながりが多いと、その組織のリーダの運がよくなるのだ
・望ましい会話や会議を科学的に定義し、その品質を測れるだろうか。
・答えはイエスだ
・すでに、指標がいくつか見つかっている
・その指標とは、会話の双方向率である
■経済を動かす新しい「見えざる手」
・人の行動は、人と、コンテキスト(文脈)との相互作用から生まれる
・着目する人だけを分離したり、コンテキストだけを分離せず、両者の複合システムとして捉える必要がある
・このような考え方はすでに近年、人の発達や教育などを理解するのに、取り入れられていて、DST(動的システム理論)と呼ばれている
・人工知能Hが店舗について、顧客の動線を分析したところ、ある特定な場所に従業員がいると売上が伸びる、高感度スポットというものがあることが判明した。
・高感度スポットに、従業員をおけば、売上げが15%増え、営業利益が5%アップした
・店舗の実態として、データは、顧客、店員、棚、商品、行動など大量、多様である
・データの属性の選択肢がありすぎで、仮説をどうやってつくったらよいかわからない
・人間では、仮説をつくりようもないのだ
⇒
自ら学習するマシンである人工知能Hは、このアナリスティクスを不要にする
・人工知能には3つの分類がある
①運転判断型⇒アナリスティクスを不要とする
②質問応答型⇒GPT、ワトソン博士
③パターン識別型 写真、音声などの識別
・ビッグデータで儲けるには
①向上すべき業績を明確にする
②向上すべき業績に関係するデータをヒトモノカネに広く収集する
③仮説に頼らず、コンピュータに業績向上策をデータから逆推定させる
・営利活動を4層で捉える
①財務層
②需要層
③業務層
④設備と投資層
・コンピュータにできないこと ⇒ 人間にしかできないこと
①学習するマシンは、問題を設定することはできない
②学習するマシンは、目的が定量化可能で、関係するデータがすでに多量にある問題しか解けない
③学習するマシンは、結果に責任をとらない。⇒人間にしか、責任はとれない
・アダム・スミス
国富論 経済的な豊かさの本質
道徳感情論 人間らしい生き方の意味
両者が協調しあってうまくいく体系であることがアダム・スミスの主張である
■社会と人生の科学がもたらすもの
・今後、世界中の現場で、日々蓄積されるデータを使って、人工知能と対話しながら、問題を科学的に
高速に解決することが可能になる と期待できる
・データ規模が拡大するとセンシング技術やデータ収集技術の発展を促し、これらのシステムや運用のコストが下がり、これによってデータ収集規模がさらに拡大する
・収集したデータが役立ちはじめると、データ収集や蓄積の価値を理解する人の数も増えていく
⇒ サービスの拡大と科学技術の発展とかデータを共有しつつ共進化する
目次
イントロダクション
第1章 時間は自由に使えるか
第2章 ハピネスを測る
第3章 「人間行動の方程式」を求めて
第4章 運とまじめに向き合う
第5章 経済を動かす新しい「見えざる手」
第6章 社会と人生の科学がもたらすもの
あとがき
著者による解説
注
参考文献
ISBN:9784794223289
出版社:草思社
判型:文庫
ページ数:288ページ
定価:850円(本体)
発売日:2018年04月09日第1刷続きを読む投稿日:2024.02.29
今や当たり前になっているスマホやアップルウォッチなどによるビッグデータの活用について8年前に書かれた本。
・活動予算のU分布
一日の活動は色々な活動量(速さ?)によりはじめから分けられているという。…U分布で考えると激しい運動をすると全体的に活発になるのでは?と思ったがどうなんだろう。経営者とかジムで体を鍛えている人が多いのはそういうことかな?とも思った。
・運について
人とのつながりによる「到達度」が重要であるということ。確かにJCでのつながりができてからは仕事の速さと質が上がったように感じる。何か困ったことがあっても相談できる人がすぐに見つかる。
・活気ある職場にするには?
この部分が一番この本で参考になった。自分は効率を求め、従業員が仕事中に関係ないおしゃべりをしていると腹が立ってしまう。それが良いかは置いといても社員同士のつながりや会話などの重要性が科学的データとして書かれていたので納得感があった。ただ、じゃあどうしたらいいの?というところが今一分からずモヤモヤしているが社員旅行・運動会など一見仕事とは関係のない行事の大切さというのはこの本を読まなければ分からなかったと思う。
・会話に動きがあると質が上がる
スティーブジョブズは会議を歩きながらしていたという話を聞いたことがある。とても理にかなっていたのだということ。
・AIと今後の人間の役割
ビッグデータをもとにAIが出す仮説にもとづいて事業を改善できるという内容があり、人間よりAIが優れている点、劣っている点なども書かれていた。これから更にAIに人間の仕事をしてもらう中で人間でしかできない仕事、それは課題の設定、問題提起など。確かにこういう力が必要でその解決のために発達したデジタル技術を使っていくことが今後の仕事の仕方になっていくのだと思う。続きを読む投稿日:2023.01.26
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