反貧困-「すべり台社会」からの脱出
湯浅誠(著)
/岩波新書
作品情報
うっかり足をすべらせたら、すぐさまどん底の生活にまで転げ落ちてしまう。今の日本は、「すべり台社会」になっているのではないか。そんな社会にはノーを言おう。合言葉は「反貧困」だ。その現場で活動する著者が、貧困を自己責任とする風潮を批判し、誰もが人間らしく生ることのできる社会へ向けて、希望と課題を語る。
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商品情報
- シリーズ
- 反貧困-「すべり台社会」からの脱出
- 著者
- 湯浅誠
- 出版社
- 岩波書店
- 掲載誌・レーベル
- 岩波新書
- 書籍発売日
- 2008.04.22
- Reader Store発売日
- 2016.10.20
- ファイルサイズ
- 1.8MB
- ページ数
- 238ページ
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この作品のレビュー
平均 3.9 (157件のレビュー)
-
現代日本の貧困の広がりと、そこから這い上がることを困難にしている社会の構造を訴えた、2008年の新書。貧困の実情と構造を伝える第一部と、著者も深くコミットする「反貧困」の活動を伝える第二部からなる。約…220ページ。
第一部では、著者が関わる自立生活サポートセンターの利用者である夫婦の来歴をとおして貧困の実例を確認する。そこから分析される貧困に陥るメカニズムとしては、「雇用(労働)」「社会保険」「公的扶助」という三層のセーフティネットが機能していない現状を訴える。そして、このような貧困を考えるキーワードとして、いかにして「自己責任」という言葉が広く浸透し、内面化したかを考える。ここではとくに、「他の選択肢を等しく選べたはず」という自己責任論の大前提そのものが現在の貧困問題には当てはまらないことを強調する。そして貧困の具体的な原因には、「小さな政府」を推進する政財界の意向、自助努力を要求する政府のありかたをあげ、これを徹底的に批判する。
第一部の現状を受けた「反貧困」の活動の状況を伝える第二部は、著者を含む非営利団体による公的機関への働きかけと、それに対する政府の動きを確認する。複数人が死亡する原因となった北九州市の対応例をはじめ、貧窮者にも徹底して生活保護受給を出し渋る公的機関の非人道的な対応の根源に、貧困を頑なに認めようとしない政府・厚生労働省の態度を糾弾する。ここでは「ネットカフェ難民」問題と現代の「飯場システム」として機能してしまっている日雇い派遣労働などを貧困の実例に、貧困者自身が「自己責任論」を深く内面化してしまっていることを伝える。また、政府自体が貧困問題を天下り先確保のための施策として利用し、民間企業だけでなく政府までもが「貧困ビジネス」に加担している現実を非難する。
社会活動家としての経験による貧困の現場のレポートに加え、政治学の専門家の観点から多くの人が貧困に陥り、そこから浮上できない構造的な問題に関して深い示唆を与える。著者の分析によって特定される現代日本の貧困の原因は明確である。それは前述のとおり、具体的な問題としては財界の要望ともあいまって新自由主義を推進し、貧困者を認めようとせずに、むしろ貧困ラインの切り下げによって問題を拡大させてしまう政府の姿勢にある。そして、このような状況を可能とする風潮として、本書で何度となく用いられる「自己責任」の精神が横たわっている。著者はこの二点について、政府のありかたを強く非難し、貧困の原因が自己責任の不足ではなく、むしろその過剰な内面化によって惹き起こされていると主張する。
著者は本書の役割を貧困問題の可視化にあるとする。なぜなら、貧困問題に限らず「姿が見えない、実体が見えない、そして問題が見えない」こと自体が、多くの社会問題に共通するポイントだからである。その意味で、本書は貧困問題の実例と構造、原因を理路整然と、かつ平明に伝えたうえで強い印象を与えて問題意識を喚起させ、その目的を十二分に果たしていると思えた。さらに、非正規雇用の増加が結果的に正規雇用者に対しても厳しい労働を強いることや、児童虐待、「最後のセーフティーネット」としての高齢受刑者の増加など、貧困問題が関係する与える負の連鎖と、その先にある戦争への免疫力の低下という恐ろしい事態への自覚を促し、貧困が同じ社会に住むすべての人々に大きな影響を与える問題であることを思い知らせる。
本書の出版から14年が経ち、そのなかで個人的に感じた社会の変化としては、自己責任を追求する風潮は以前より和らいでいるように感じられる。ひとつには著者のような論者の発信によって、貧困問題の大部分が経済力や人間関係をはじめとした環境に大きく依存する事実への理解が広まりつつあるのかもしれない。そしてもうひとつは、現実に貧困への危機を他人事として捉えられなくなった人が増加しているという社会全体の貧困化の広まりにあるのではないだろうか。続きを読む投稿日:2022.10.08
「まえがき」の時点で怖じ気付いて、本文を読むことを躊躇われた。実際ホラーより怖かった。今の自分はなんとかやっていけてるけれど、一歩踏み外したら転落しそうなので、困ったときの相談窓口など知ることができて…よかった。貧乏と貧困は違うんだなとハッとさせられた。自分の持っている「溜め」が少ないと気付いたので、人間関係なり知識なり少しずつでいいから増やしていきたい。続きを読む
投稿日:2024.01.19
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