感情化する社会
大塚英志(著)
/太田出版
作品情報
「天皇」も
「文豪」も
「お気持ち」化する
天皇「お気持ち」、スクールカースト、多崎つくる、腐女子AIりんな、LINE文学・・・。
私たちはあらゆるものを「感情」として表出し、「感情」として消費して生きている。余りに感情的すぎる日本の現在を不愉快に「批評」する試み。
「感情化」とはあらゆる人々の自己表出が「感情」という形で外化することを互いに欲求しあう関係のことを意味する。理性や合理でなく、感情の交換が社会を動かす唯一のエンジンとなり、何よりも人は「感情」以外のコミュニケーションを忌避する。(略)その結果、私たちは「感情」に対して理性的でありえることばを政治からジャーナリズム、文学にいたるまでことごとく葬っている。私たちは私たちに心地良い感情を提供することばしか、政治にもジャーナリズムにも文学にも求めず、その要求にそれらはいとも簡単に屈した。だからぼくは本書で敢えて不快なことばを連ねる。(「第一章 感情天皇制論」より)
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この作品のレビュー
平均 3.6 (6件のレビュー)
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初めて大塚英志の最近の文章をウェブ以外で読んだのだが、随分文章が変化していてびっくりした。無駄のないスリムな文章になっていると同時に、昔の文章にあった意味不明な遠回り感がなくなり、とげとげしく、やや余…裕がない文章に見える。それはまさに時代の反映のようで、読んでいて少し悲しくなる。江藤淳への言及も「もう書いてもいいと思うが」という形で江藤淳が、大塚英志の江藤とその母について書いた文章を読んで「泣いた、会いたい」と連絡してきたとのことをカミングアウトしているが、これは時の流れではなく何か締まりとしてあったものが失われているように見える。江藤が自死した直後の大塚英志の文章は、このことを書く未来は永久に来ないかのように徹底的に自戒しているように見えるから。
しかしながら「感情化」というキーワードをもとに、天皇のお気持ち表明会見、AIからスクールカースト小説、最終的に村上春樹へと連なる一連の文芸評論は、ある種の天才的なひらめきと強引に事象をつなぎあげる力を未だ感じるとともに、こんなものまで相変わらずチェックしてるんだ!?という率直な感動がある。特に村上春樹の多崎つくる論は、私の感じていたこの小説への違和がどんどん視界が晴れていくようにクリアになってとても面白かった。
あとがきを読むと、ほぼほぼ絶望的ですね。最近は死んだ人の本ばかりを読んでしまうので、未だ健在で自分と同時代を生きながら文章を書いており、かつ心底愛する批評家がいるのは大変嬉しいのだけれど、同時に彼に「もう批評は不可能なのではないか」と言われてしまうと、やはりな…という気持ちを隠しきれない。
あと、女性一人称の言文一致は、男性が客体という「神」として存在し、その男たちが観察者の視点を女性の言文一致に対して特権的に持っていった、男に管理された文体であるという指摘は目から鱗だった。今に至る女ことばの問題、そして私たちが取り戻した(のか?)私語りの問題はおそらくこの地点に遡って検討しなければならないはずなので。続きを読む投稿日:2019.03.09
久しぶりに著者の批評を読んだ。話題にされるのはネット上、SNSの承認欲求、俯瞰ポジショニング、共感レースについてが主だが、なろう小説や大統領の演説への反応といったあらゆる文芸ネタを横断して共通テーマを…見出す手法は相変わらず錬金術じみて面白い。
しかし全体的に悲観的だった。ポストモダニスト故に自ら書いてきた批評に縛られている感。AIの発達への希望的観測意外は読んでぼんやりと虚しさが残った。
4年前に書かれた本なのでもう言説が古くなりはじめている。それだけ今は先が予測できない社会だということ。
作品がインスタント化し続けているということに関しては、SNS二次創作界隈にいると良くも悪くも顕著に感じるので、「感情」の外に立つ客観的な機能まで失われるべきではないというのには同意。
文芸から描写が消えゆくのは、ウェブ上で「言文一致」が再び起こっているからだという指摘は新鮮だった。集合知の一人称「私」=私の語りになってしまう。主導者がweb企業だけでは済まない。続きを読む投稿日:2020.12.16
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