医薬品とノーベル賞 がん治療薬は受賞できるのか?
佐藤健太郎(著者)
/角川新書
作品情報
2015年、大村智氏らが受賞したノーベル生理学・医学賞は、実に27年ぶりに医薬品開発に対して贈られたものだった。その間、エイズやC型肝炎などさまざまな病気の治療薬も開発されてきたが、いずれもノーベル賞受賞には至っていない。かつては「かぜ、水虫、がんを治す薬をつくればノーベル賞」ともいわれたが、医薬品開発でノーベル賞をとるのはそれほど単純ではないようなのだ。では、どのような医薬品を開発すればノーベル賞がとれるのだろうか? がん治療薬をつくればとれるのだろうか? そもそも医薬品開発の難しさとはどこにあるのだろうか?本書は、こうしたノーベル賞級の医薬品開発に焦点を当てる。過去から現在、そして未来に向けて、人類を救う医薬品開発の現場を見つめていく。たとえば、すでに一部のがんに対しては、驚くほどの効果を示す治療薬が登場している。抗がん剤においては、人体にダメージを与えずに、病巣にだけダメージを与えることが難しい。しかし、新しいアイデアの登場により、これが可能になってきたのだ。そのアイデアとはいかなるものか? 細胞レベルでの戦いをわかりやすく説いていく。また、近年一部の医薬品について、薬価高騰が大きな問題になりつつある。これが、ノーベル賞の選考にも微妙に影響を与えている可能性もある。この点についても合わせて考察を加えていく。医薬品とノーベル賞――。27年の壁を崩した大村氏らの受賞には、実は単純ならざる意義があった。十数年にわたって医薬品研究の現場に身を置いてきた著者が、医薬の現在とあるべき未来を読み解く。
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商品情報
- 著者
- 佐藤健太郎
- ジャンル
- 教養 - ノンフィクション・ドキュメンタリー
- 出版社
- KADOKAWA
- 掲載誌・レーベル
- 角川新書
- 書籍発売日
- 2016.09.10
- Reader Store発売日
- 2016.09.10
- ファイルサイズ
- 2.2MB
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この作品のレビュー
平均 5.0 (2件のレビュー)
-
このレビューはネタバレを含みます
医薬品クライシス(2010)でわかりやすく業界解説した著者による続編ともいえる好著。医薬品小史とウイルスの仕組み、がん治療、2015年生化学賞受賞した大村智にからめてノーベル賞との関連も論じている。2016年刊行
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2章で医薬品の歴史と仕組みを説明している。大きな流れは天然物質探索(発酵法)→合成法(低分子医薬)→バイオ医薬(抗体医薬)
「医薬品クライシス」より詳しく書いてある。
■人類最後の敵ウイルス
抗ウイルス薬の仕組みと実例。
19世紀後半細菌学が発達しコレラ、ジフテリア、赤痢、破傷風、ペストなど細菌がみつかる。1892イワノフスキーが顕微鏡でも見えず、培養もできない病原体を発見。ウイルスと名付ける。これには批判も根強く、野口英世は死ぬまで黄熱病を細菌だと信じていた。
いまでは両者は全く別物とわかっている。例えるならパソコンとUSB。生物かどうか、サイズ、治療法。
細菌は細胞壁を持つため、これにとりつく酵素をつくって攻撃すればいい。がウイルスには細胞壁はない。
おまけにウイルスは多様で、かつ変異がはやい。スペイン風邪は40年流行のち新型インフルエンザの登場でパタリと消えた。
21世紀の感染症は、サーズ、h1n1インフルエンザ、マーズ、エボラ、デング熱、ジカ熱。
○ウイルスのサイクルについて。相性のいいタンパク質にとりつく。たいてい決まっていてインフルエンザなら気道上皮細胞、C型肝炎ウイルスなら幹細胞。くっつくと細胞はウイルスを取り込む。するとウイルスは殻(カプシド)を脱ぎ捨てRNA放出(脱殻)し、逆転写(RNA→DNA)酵素を使ってDNAを作る。できたDNAは宿主細胞のDNAに組み込まれ、ウイルス自身は消える。宿主はウイルスの構成要素を複製し始める。増えた子ウイルスはやがて細胞膜を破って外部に出て周りの細胞にとりつく。宿主は死に、これが病気の症状となって現れる。こうした仕組みは70年代に解明され、80年代から医薬品が作られ始める。
ウイルスのアキレス腱は増殖過程。ウイルスは自前の酵素を使うので、これに似ていて増殖を止める化合物が作れれば増殖を止められる。最初のエイズ治療薬のジドブジン(開発者は満屋裕明博士)。核酸アナログ方式と呼ぶ。アビガンもこれか。
他の方式も紹介している。HIVはタンパク質の長い鎖をつくりそれを切断して必要なタンパク質をつくる。この切断酵素プロアテーゼを狙うプロアテーゼ阻害剤。
タミフルは増殖を防ぐのではなく、増えた子ウイルス拡散を防ぐ。
■がん
人類の寿命が伸びて3人に一人はがんで死ぬ。原因はなにか。ガレノスの体液バランス説、1926寄生虫原因説、発がん性物質を発見した山極勝三郎へのノーベル賞学会の不名誉など歴史あり。現在の解釈は「DNA損傷による増殖制御の乱れ」
もともと生物には増殖を抑える仕組みがある。
テロメア(回数券)とアポトーシス(自爆)。もっとも、失われたテロメアを継ぎ足して復活させるテロメラーゼや、アポトーシスを司るp53という遺伝子が変異して機能を失うなど、細胞分裂のたびに少しずつ破壊されていく。
正常な代謝過程でも、活性酸素の作用などでDNAの損傷は起こり、その頻度は一日に数十万回。発がん性物質の摂取はこれに拍車をかける。長生きすればするほど発がんリスクが高まるのはこういうわけ。
○治療
抗がん剤の起源は1943年マスタードガス事件。被害者の白血球が激減したのに目をつけガスの親戚ナイトロジェンマスタードを悪性リンパ腫患者に投与し効果が認められた。
1965年白金化合物が大腸菌増殖をとめているのを発見し、がん細胞にも有効と認められた。
どちらも改良品が現在でも使われている。どちらも特徴はDNAに結合しやすい。しかし同時に使う場所、量によっては発がん性物質としても働く矛盾がある。
まさにこれが抗がん剤の課題。がん細胞と正常細胞の区別ができない。
乳がん細胞受容体HER2の異常増殖が病気を悪化させていることをつきとめた。ハーセプチンとして実用化され乳がん治療の主役となる。ハーセプチンは乳がん患者にしか効果がなく、事前に検査でわかるので無駄な投与をしなくて良い。これが個別化医療への道を開く。
抗体医薬、分子標的治療薬をあれこれ紹介している。
免疫療法は難問だらけ。そんななか真の免疫療法「免疫チェックポイント阻害薬」登場。異物を攻撃する細胞傷害性T細胞の表面のPD-1を本庶佑博士が1992年に発見。がん細胞はこれを悪用するので、それを食い止める「オプジーボ」を医薬として2014年に販売する。広範ながん治療に仕えて「第4のがん治療」ともてはやされた。この功績で2018年ノーベル賞受賞。
そのほかの治療としては、がんのボス幹細胞根治が研究されている。
■薬価問題
日本はじめ先進国では公定価格がある。アメリカで意図的に価格を高騰させモラルが非難されている。他人事ではなく、日本でも薬価はあがりつつある。
新薬に価格規定はない。プレミア価格がつき、希少疾病市場加算、小児加算、など価格が上乗せされる。
先例がない場合原価計算方式でコスト計算する。オプジーボであればその画期的薬効から60%の利益上乗せが認められた。バイオ医薬はもろもろコストが高く付きがち、患者が少なければその分一人あたりの単価に跳ね返ってくる。
日本の場合患者5万人未満は希少疾病扱いになり、乳がん、肺がんもこれに該当してしまう。
国民健康保険で最終的に国民負担に跳ね返ってくるため、75歳以上の延命治療禁止が議論されている(苦痛除去へ切り替え)。
またソバルディ、オプジーボのように予想外の売れ行きを得た薬価の引き下げ制度が2016導入された。※2021/8の改定でオプジーボは2014年当初価格の1/5に値下げ
これには、イノベーションをそぐとして業界からの反発があり、著者も一部賛同。2年毎の定例薬価改定にも、薬効と見合う引き下げにすべきとの立場(カナダなど先例)
■ノーベル賞
2015年の生理学医学賞は寄生虫関連。いずれも天然から医薬を見つけ出す泥臭い研究ばかりで、昨今の分子標的治療のような派手さにかける。著者はノーベル賞の傾向を指摘している。貧困、環境への貢献度が重要視され、高額医療開発にひた走る製薬会社への目配せ、と。WHOは17種の「顧みられない熱帯病」を指定してる。余談だがそのなかの住血吸虫症はかつて日本でも「地方病」として恐れられた。著者いわくWikipedia全項目中屈指の力作だそうな
受賞したふたつの病気とその治療薬について以下
○世界最大の感染症マラリア。蔓延する理由は免疫系の攻撃を巧みにさける仕組みを持つ。一度感染しても免疫ができず何度も感染。ワクチンもない。
薬は17世紀からキニーネが使われている。20世紀クロロキン、メフロキンが創出されるも副作用が強い。新薬が出ないのは、患者の大半が貧困地で儲からないため。2000年代にはいりWHOの取り組みで患者数が半減した(それでも毎年40万人が死亡)。立役者はアーテミシニン。1972年古くから漢方薬としてつかわれたクソニンジンから発見された。発見したトゥヨウヨウ氏にノーベル賞が与えられたが、文革の影響がなければもっと早い実用化が実現していたかも
○イベルメクチン
1974年大村智博士が静岡県で採取した土に潜んでいた放線菌から、ユニークな化合物を発見。動物寄生虫専門家のキャンベル博士がテストして強力な駆虫作用を発見し、改良を重ねた。1981年に駆虫薬として売り出され大ヒットしフィラリア症予防の定番品となる。
フィラリアは人間にも感染する。特にサハラ以南アフリカが問題となっていたが、イベルメクチンはこれらにも効果を発揮。メルク社は人間用を無償で提供し2億人に投与された。2021現在各地で撲滅宣言が出ているが、完全根絶は2028年頃とのこと。
ノーベル生理学・医学賞級の研究が待たれるのは、認知症、依存症のない鎮痛剤など。
また2010年代は抗体医薬の時代だったが、今後期待される研究をあげている。
○遺伝子治療。特定の遺伝子を患者に組み込み治療
○再生医療。iPS細胞など
○核酸医薬。拡散アナログとは異なり、数十個のヌクレオシドを連結させたDNA.RNAの断片を医薬として使う
その一つとしてウイルス感染症の治療薬をあげている。まさに新型コロナウイルスに使われたmRNAワクチンがこれ。その研究蓄積は30年とも40年ともいわれるが、ノーベル賞受賞は叶わなかった。投稿日:2021.10.17
医薬品研究者であった著者による、医薬品研究の歴史と手法等を私のような素人でも十分理解できる表現で紹介頂いた良書です。薬効やその安全性評価の手法について、その培われた歴史の中で得られた社会的価値について…説明されています。薬剤単体でノーベル賞に至らない理由や、一方でその開発手法に対しての評価による受賞など、ノーベル賞の受賞基準も理解できます。また薬価についても言及され、良し悪しがある状況が記述されています。薬の社会的評価と薬効機序など歴史的背景も含めて理解できました。続きを読む
投稿日:2022.11.19
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