ガルブレイス-アメリカ資本主義との格闘
伊東光晴(著)
/岩波新書
作品情報
二〇世紀アメリカを代表する「経済学の巨人」は何と闘い続けたのか? アメリカ思想の二極対立をえぐり,経済学研究の水準を社会思想史研究の水準に高めてきた著者が,病をおして筆を進めた渾身の作.ケインズによってイギリス論を,シュンペーターをかりてドイツ社会を論じてきた社会経済思想史研究三部作の完結編!
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商品情報
- シリーズ
- ガルブレイス-アメリカ資本主義との格闘
- 著者
- 伊東光晴
- 出版社
- 岩波書店
- 掲載誌・レーベル
- 岩波新書
- 書籍発売日
- 2016.03.18
- Reader Store発売日
- 2016.06.16
- ファイルサイズ
- 2MB
- ページ数
- 256ページ
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この作品のレビュー
平均 4.3 (7件のレビュー)
-
【読了】伊東光晴『ガルブレイス-アメリカ資本主義との格闘』2016
読了した後に、再び主要部分を読み返してしまった本は本当に久しぶり。以下に気になった部分を6つ挙げる。
1. 依存効果
通常、経済…学において需要曲線と供給曲線は独立で、その交点で価格と取引量が決まるとされているが、ガルブレイスはここに依存効果という概念を持ち込んだ。物質的必要が満たされた現代の「ゆたかな社会」において、生産者は広告によって消費者の欲望を刺激し、需要曲線に影響を与える。これによって、消費者はいつになっても欲望が満たされない精神的窮乏を抱えることとなった。
2. 私的財と公共サービスの不均衡
市場が提供する財は容易に生産を拡大するが、それによって同時に需要が増す公共サービスは拡大しづらい。例えば乗用車が増えると道路の必要が高まるが、乗用車の生産拡大に比べて道路の建設拡大は緩やかである。
こうした、私的財の生産拡大に応じた公共サービスの需要増に対応するために必要なのが売上税(消費税)である。売上税は生産の拡大に比例して伸びるため、こうした需要に対応しやすい。
3. 経営支配権の資本家からテクノストラクチュアへの移行
かつて企業経営の舵取りは企業の所有者たる資本家が一手に担っていたが、株式の分散所有が進み、科学技術や市場環境が高度に複雑化した現代において、実質的に経営の舵取りをしているのは経営者の下で各部門の専門知識を有するマネージャーたちである。ガルブレイスは彼らをテクノストラクチュアと呼ぶ。
こうした環境において、株主や一部の経営トップが桁外れな報酬を得ている状態は前時代的であり、経営への寄与度と比べて余りに多くの不当な利益であると言える。テクノストラクチュアは結集してこれに対抗し、拮抗力を行使するべきである。
この拮抗力が、大企業によって競争の自己調整機能を削られた寡占市場において、新たな調整機能として役に立つ。
4. マーシャルの労働曲線
日本やアメリカで標準的な経済学の教科書には、労働供給曲線を右上がり曲線として描いている。
つまり、賃金が上がれば労働者は喜んで働くようになり労働時間を増やすが、賃金が下がれば労働を提供する価値が減り労働時間を縮小するというものである。
しかしケインズの師匠とも言われるマーシャルが描いた労働供給曲線は、逆に右下がり曲線になっている。
つまり賃金が下がれば現行の収入を維持するために長く働き、或いは自分がこれ以上働けなければ家族の別の者が働くことで労働供給を増やすといったような行動が想定されている。こちらの方がかなり現実的ではないか。
こうした行動を仮定した場合、労働市場は賃金の下落により労働供給を増やし、供給過剰となってさらなる賃金の下落を招く。つまり労働市場は自己調整機能を持たず、政府による最低賃金や長時間労働の保護が必要になる。
アメリカ経済学の仮定は財市場や金融市場と同等の「商品」として労働を捉え、同様に自己調整機能を有するという「美しい仮説」であるが故に、その他にありうる現実的な仮説を見えづらくしてしまっていたのではないか。(例えばワルラスの均衡市場論などは美しさのあまり鼻血が出そうなほどであるが、それが実証的に論証されたものであるかどうかについて十分に関心を払っていなかったように思う。)
こうした労働市場観を前提にすれば、政府は労働組合の組織化を責任持って推し進めるべきであるし、実際、ニューディール期にはそうした政策が功を奏した。
一方で、2009年にゼネラルモーターズが倒産したのは労働組合による硬直的な費用のせいだったとも言われている。
ガルブレイスは「政府・経営者・労働者の代表同士で話し合って理性的に解決しなさい」のようなことを言っているらしいが、現在の安保やら何やらに対する左翼の行動を見る限り、そうした交渉能力があるとは思えない。
労働組合はあった方が今より良いと思うが、どこまで推し進めるべきなのかについてはまだ見えないのが悩ましいところだ。
5. 国内産業保護のための数量制限
ガルブレイスおよび市場原理主義に批判的な経済学者の間では、国内産業保護のためには関税保護より輸入数量制限の方が効果的であると考えているらしい。その理由について詳説されていなかったのが残念なところなので、そのうちどういうことなのか調べてみたい。
6. 投資銀行による売り崩し
北海道拓殖銀行と山一証券が倒産した背景に、アメリカの某投資銀行による大規模な売り崩しがあったという話が載っている。
当時の日本には売り崩しを防ぐための法律が無く、投資銀行は拓銀の大きな不良債権に目をつけ、保有していない株を前借りして売る(後で買い戻して返す)ショートという方法で拓銀の株価を下落させ、資金繰りに窮した拓銀を倒産させた。続いて、拓銀に資金を供給していた山一證券に拓銀を救済する余力が無いことに気付くと、同じ手法で山一を倒産させた。
倒産した企業の株は、1株1円、2円といった価格で買うことができる。倒産後にこういった価格で株が購入された記録が、拓銀で6億株以上、山一で18億株以上にも及んだ。前借りした分をそうした価格で買い戻した投資銀行は、前借りして売った際の価格(67円〜)との差額で、拓銀で360億円以上、山一で1,800億円以上を得たことになる。
こうした売り崩しで企業が倒産すれば取引企業まで損害を受け、連鎖的に不況に突入することもある。私欲による投機が多くの人々の生活を犠牲にすることを防ぐため、金融市場への規制は厳しく続けなければならない。
Togetterまとめ
https://togetter.com/li/1175405続きを読む投稿日:2017.11.26
印象に残ったところ。
『アメリカ特有の哲学であるプラグマティズムの真の敵は、今まで述べてきたイデオロギー化した自由原理主義、リバタリアンでも必ずしもない。真の敵は、多くの経済学者の中にあるイデオロギー…—アメリカは自由競争社会であり、自由競争は、もっともよい経済状態をつくりだすという輸入経済学への信奉であり、それを真理として疑わない信条である。』続きを読む投稿日:2023.08.12
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