幼児教育の経済学
ジェームズ・J・ヘックマン(著)
,大竹文雄(解説)
,古草秀子(訳)
/東洋経済新報社
作品情報
やる気・忍耐力・協調性――幼少期に身につけた力が、人生を変える!
なぜ幼少期に積極的に教育すべきなのか?
幼少期に適切な働きかけがないと、どうなるのか?
早い時期からの教育で、人生がどう変わるのか?
ノーベル賞学者が40年にわたって追跡調査
脳科学との融合でたどりついた衝撃の真実!
●5歳までの教育は、学力だけでなく健康にも影響する
●6歳時点の親の所得で学力に差がついている
●ふれあいが足りないと子の脳は萎縮する
子供の人生を豊かにし、効率性と公平性を同時に達成できる教育を、経済学の世界的権威が徹底的に議論する。
「就学前教育の効果が非常に高いことを実証的に明らかにしている。子供の貧困が問題となっている日本でも必読の一冊」解説 大竹文雄
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商品情報
- シリーズ
- 幼児教育の経済学
- 著者
- ジェームズ・J・ヘックマン, 大竹文雄, 古草秀子
- 出版社
- 東洋経済新報社
- 書籍発売日
- 2015.07.02
- Reader Store発売日
- 2015.06.19
- ファイルサイズ
- 2.5MB
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この作品のレビュー
平均 3.1 (60件のレビュー)
-
本書は、2000年にノーベル経済学賞を受賞したヘックマン教授(シカゴ大学)の著書で、日本では2015年に初版が発行されています。教授の専門は労働経済学ですが、非認知能力を高めるための幼児教育の重要性を…説いていて、教育的な価値からも興味深く読むことができます。
パート1ではヘックマン教授の理論、パート2では各分野の10人の専門家によるコメント(批判も多く含みます)、パート3ではその意見に対する反論も含むヘックマン教授によるまとめ、最後に日本人専門家による解説、という構成になっていました。40年にわたる研究が解説されていて、とても興味深かったです。
【パート1子供たちに公平なチャンスを与える(ヘックマン)】
アメリカでは、どんな環境下に生まれるかが不平等の主要な原因の一つになっている。しかし、幼少期の教育的介入によって、認知的スキルだけでなく社会的・情緒的スキルを向上させることができる。高校卒業率が一番高かったのは1970年代初めの約80%で、それ以降4~5%低下した。子供が小学校に入学する6歳の時点で既に格差は明白である。人間の発達は、遺伝子と環境の相互作用であると考えられており、環境への介入は大きな鍵となる。専門職の家庭で育つ家庭の3歳児の語彙は1100語、労働者の家庭では750語、生活保護受給世帯では500語と大きな開きがある。
ペリー就学前プロジェクトは、1962年から1967年にミシガン州イプシランティにおいて、低所得でアフリカ系の58世帯の3歳から4歳の子供(IQ70~85)を対象に実施された。高校を卒業した親は17%。対照グループは65人。午前中に毎日2時間半ずつ教室で授業し、週に一度は教師が各家庭を訪問して90分間の指導をした。内容は、子供の年齢と能力に合わせた、自発性を大切にし、非認知的特性を育てることに重点を置いたものだった。これを30週続けた後、40歳まで追跡調査している。
アべセダリアンプロジェクトは、1972年から1977年に生まれた、リスク指数の高い家庭の恵まれない子供57人、対照グループ54人(開始時平均4.4カ月~8歳)を対象に5歳まで毎日実施された。内容は徹底したもので、子ども3~6人に対して教師1人、鉄分強化の粉ミルクなども支給されたり、親の仕事や育児の支援もなされた。30歳まで追跡調査されている。
ペリー就学前プロジェクトでは、子供のIQは最初高くなったが、介入終了後4年で効果はなくなった。しかし、14歳時点で通学率と成績はよかった。アベセダリアンプロジェクトでは、IQが高かった。両プロジェクトの最終的な追跡調査では、学力検査の成績が良く、学歴が高く、特支教育対象者が少なく、収入が多く、持ち家率が高く、生活保護受給率や逮捕率が低かった。スキルがスキルを生む相乗効果を考えると、幼少期の介入は経済的効率性を促進し、生涯にわたる不平等を低減すると考えられる。認知的スキルは幼少期に確立され、10代になってからの改善は難しいが、社会的・性格的スキルは20代のはじめまで発展可能である。ただ、学習を向上させることからも、幼少期に形成しておくのが最善策である。支援で貴重なのは金ではなく愛情と子育ての力であり、人生で成功するには学力以上のものが必要である。
【パート2各分野の専門家によるコメント】
・母親の役割を奇妙なほどに重要視している。(ロビン・ウエスト)
・サンプル数が少ない。介入グループ377人、対照グループ608人の低体重出生児に、3歳になるまで毎日アベセダリアンプロジェクト的な介入をしたが、2歳、3歳の調査では順調だったものの、5歳になるまでには成果の大半は消えてしまった。18歳の調査では差がなくなっていた。(チャールズ・マレー)
・思春期の子供に介入実験をしたところ、学習スキルだけを学んだ対照グループより、介入グループの意欲が大きく向上し、成績が急激に反転した。ストレスレベルや素行、健康にも変化が見られ、それは学年を通して続いた。最低の生活をしている生徒にとっては、幼少期を過ぎてからの非認知的要素への介入は、驚くべき効率ですばらしい成果をもたらした。(キャロル・S・ドウェック)
・ペリー就学前プロジェクトの介入者は40歳時点で29%が2000ドルの月収を得ており対象者を上回っていたというが、当時の平均所得34000ドルに比べるとかなり少ない。介入者の29%が成人後に生活保護を受けていないというが、逆に言うと71%が生活保護を受けていた。アべセダリアンプロジェクト介入者の23%が4年制大学を卒業。全国平均32%と比べてまずまず。しかし、27%が犯罪を犯しており、全国平均5%をはるかに超えている。プロジェクト費用は、公立学校の生徒一人の平均年間経費より47%も高い。カリフォルニアは学級人数削減に取り組んだが、優秀な教師が大幅に不足して失敗に終わった。(ニール・マクラスキー)
・子供の人生の可能性を形作るのは、両親だけでなく、多くの社会的機関(保育所・学校・福祉事務所・医療・警察・裁判所…)も重要であるが、ヘックマンはそちらに重きを置いていない。(アネット・ラロー)
・恵まれた層のコミュニティと貧困層のコミュニティの間に平等な場所を作ることが大切。(ジェフリー・カナダ)
【パート3ライフサイクルを支援する(ヘックマン)】
・親への介入は、その就労や教育を推進する。
・性格的スキルに着目した思春期への介入もまた利益をもたらす。思春期の介入と幼少期の介入はたがいに対抗するものではなく、補完的なものである。
【解説(大竹文雄)】
社会的に成功するためには、非認知能力が十分に形成されていることが重要であり、それが就学前教育で重要な点である。例えば自制心が高かった子どもは大人になっても健康度が高く、30年後の社会的地位、所得、財務計画性が高い。
日本の貧困率は、1980年代では60歳以上の高齢者で高かったが、2000年代では5歳未満の子供たちである。若年の非正規雇用労働者の増加と、離婚率の上昇によるものであると考えられる。一人親家庭の貧困率は50%を超えている。小学校に入る前から学力格差はついている。就学前教育への支援、とりわけ貧困層への支援に対して税金を投入することは投資効果が高いと考えられる。続きを読む投稿日:2023.09.18
就学前の教育が、忍耐力や協調性、頑張る力などの非認知能力を高める。ゆえに社会課題である子どもや社会的貧困を解決する一助となると主張する。
著者の主張への反論、またそれに対する反論も書かれている。著者…の主張だけに偏らず、多様な意見を見ることができるのも好感が持てる。続きを読む投稿日:2023.01.24
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