星条旗の聞こえない部屋
リービ英雄(著)
/講談社文芸文庫
作品情報
横浜の領事館で暮らす17歳のベン・アイザック。父を捨て、アメリカを捨て、新宿に向かう。1960年代末の街の喧騒を背景に、言葉、文化、制度の差を超え、人間が直接に向き合える場所を求めてさすらう柔らかな精神を描く野間文芸新人賞受賞の連作3篇。「日本人の血を一滴も持たない」アメリカ生まれの著者が、母語を離れ、日本語で書いた鮮烈なデビュー作。
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商品情報
- シリーズ
- 星条旗の聞こえない部屋
- 著者
- リービ英雄
- 出版社
- 講談社
- 掲載誌・レーベル
- 講談社文芸文庫
- 書籍発売日
- 2004.09.10
- Reader Store発売日
- 2014.05.16
- ファイルサイズ
- 0.2MB
- ページ数
- 192ページ
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この作品のレビュー
平均 3.7 (12件のレビュー)
-
"帰る場所のない"ベン・アイザックが、"あめりか"を抜け出し、日本語の飛び交う東京へと、そして「しんじゅく」へと迷い込む物語。日本語を母語としない作家による、初の日本文学である。
ぐいぐい引き込まれ…るのはなぜだろうと考えると、まるで自分が幽体離脱――ニホン語の空間を、ガイコク人の体から覗く――しているように感じたからだった。
どれだけニホン人の側に立っても、どれだけニホン人と同じ行動をとっても、どれだけニホン語を使っても、決して入れない「ニホン」という空間。「イングリッシュ・コンバセーション・クラブ」の大学生たちは、ベンに向かって英語で話し、決して日本語という殻を割らない。
それに対し、突如現れた安藤はこう言う。「日本に来て、どうして英語で喋べっておるんですか」。こう言う安藤に惹かれるように、ベンは"ニホン"に憧れ、のめりこんでゆく。
ここでえぐられるのは、いかにニホン人が"ニホン"を所有して手放さないかということ。
どうして「ガイコク人」には「ガイコク語」を使って話さなきゃならないと思っているのか。どうして「ガイコク人」が「ニホン語」を喋ると、その内実よりも上手い下手に心が行くのか。
ふだんは気づかないが、この両者はどちらもガイコク人には違和感のあることで、これは自分と相手の立場を置き換えてみれば良く分かる。
それと同時に、"ニホン語"という、ナショナル・アイデンティティの核の部分(とくに国家=民族=言語という等式がほとんどきれいに成立するゆえか)には決して触れられたくないという、ニホン人の日本/日本語に対する所有権の主張さえ感じるのである。
安藤の手助けを借りながら、少しずつベンは「しんじゅく」へ足を踏み入れていく。その時々で、自らのナショナル・アイデンティティの不在を語り、「どうしてニホンなのか」を、直接には語らない形で徐々に明かしていく。
しかし、結局ベンは"ニホン人"にはなれない。ラストに「生卵を飲む」というシーンがあるのだが(ゼミで聞いたところ、生卵を食べるのはアメリカなどではあまり一般的ではないとか)、このような「日本人になるための儀式」を象徴した行為を経てさえも、彼は決して日本人にはなりきれないのである。
自分としては、なかなか衝撃的な一冊であった。
ひとつは、先述したように「日本語の所有権」という気づかなかった事実を突き付けられたから。もうひとつは、外から見た日本とはこうなのか、という越境を感じられたからであろう。
一読した程度だが、まだまだいろいろな謎が残っている。
たとえば、どうして日本でも東京でもなく「しんじゅく」なのか(「日本語」の問題は執拗に描かれるが、「日本」という空間を意識的に描いているとはあまり思われなかった)、どうして「星条旗の『聞こえない』部屋」なのか(『見えない』ではなく?星条旗のはためく音でもなく、英語でも中国語でもなく、「星条旗の聞こえない部屋」=「日本語の聞こえる部屋(=安藤の部屋)」ということなのだろうか?)。
これらの謎は、時間を置いて何度も味わううちに分かってくるのだろうか。ベンが"ニホン"という空間に入り込んできたように、わたしがベンの空間に侵入していくうちに。続きを読む投稿日:2011.11.19
文学作品をまともに読むなんて、相当久しぶりでした。
先輩に誘われて参加している読書会という名の飲み会で、課題図書になっていたのに、会には間に合わず。そんで、ようやく読み終えました。
アメリカ人が日本語…で書いた小説ということで話題になったそうです。
日本人でも使わないような語彙も繰り出していて、日本文学が「開国」を迫られた、みたいな。
しかし、ことはそう単純ではないようで、主人公=作者はアジアでの生活が長いユダヤ系アメリカ人だと。日本人の血は入っていないけど、生粋?のヤンキーでもない。
こういうのを「ディアスポラ」とかいうんでしたかね?
とにかく、どこに行っても居場所がない感じに溢れた小説です。続きを読む投稿日:2013.10.08
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