この作品のレビュー
平均 4.5 (13件のレビュー)
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東日本大震災直後(2011年7月)に編まれた、寺田寅彦随筆選である。編者の意図を超え、コロナ禍の現代に読むと、そのあまりにもいまの我々のために言ってるかのような言葉に溢れていて、びっくりした。
その…幾つかを、以下に羅列する。
「天災と国防」(昭和9年)
・文明が進めば進むほど天然の暴威による災害がその激烈の度を増す
・日本のような特殊な天然の敵を四面に控えた国では、陸海軍のほかにもう一つ科学的国防の常備軍を設け、日常の研究と訓練によって非常時に備えるのが当然ではないかと思われる。
「流言蜚語」(大正13年)
・(大地震の最中毒薬を暴徒が井戸に投じたという噂に関して)いわゆる科学的常識というものからくる漠然とした概念的の推算をしてみただけでも、それが如何に多大な分量を要するだろうかという想像ぐらいはつくだろうと思われる。
・もちろん常識の判断はあてにならない事が多い。科学的常識はなおさらである。しかし適当な科学的常識は、事に臨んで吾々に「科学的な省察の機会と余裕」を与える。そういう省察の行われるところにはいわゆる流言蜚語のごときものは著しくその熱度と伝播能力を弱められなければならない。
「政治と科学」(昭和10年)
・他国では科学がとうの昔に政治の肉となり血となって活動しているのに、日本では科学が温室の蘭か何ぞのように珍重されている。
「日本の自然観」(昭和10年)
・現代の日本では、ただ天恵の享楽にのみ夢中になって天災の回避のほうを全然忘れているように見えるのはまことに惜しむべきことと思われる。続きを読む投稿日:2021.03.11
災害の多い日本だからこその随筆集。大勝から昭和初期に書かれたものだが、災害の様子も寺田寅彦の語る内容も、これって現在のことか?と思えるものばかり。
『天災と国防』昭和9年(1934年)11月
災害の…無い時に準備をしなければいけないのに、それをせずに「非常時」と騒いでしまうことについて。
日本は、地理の問題として世界の国々との関係が特殊になり、多くの仮想敵国を想定して防衛の準備をしなければいけない、それと同時に、気象学的地球物理学的にも極めて特殊な場所であるので、常に特殊な天変地異に晒されていることを忘れてはならない。
日本は、陸海空の軍備の他に、科学的国防の常備軍が必要なのではないか?転々の強敵に対して常に国民一致団結して科学敵対策を講ずるのも愛国心だろう。
しかしこのように四方を天然の敵に囲まれているということは、日本人の国民性に良い影響を及ぼしている面もある。
人々は、過去の災害の経験を生かすことができる。関東大震災でも、昔から人が住んでいた地域の住居は無事だったが、新しく造られた小学校の多くが倒壊した。
寺田寅彦の知人は、多くの小学校が倒れたのは国辱中の国辱だ!と憤ったんだそうだ。これは人として正しい感情で、この感情を持っていれば良い国が作れるんじゃないかと思ったんです。
『火事教育』昭和8年(1933年)1月
ロシアの絵本で、実にわかりやすい火事教育のものがあるそうだ。そこで日本でも小学生にもわかりやすい絵本を作って学校や家庭で日常のものとして教えられないものか?と提案している。
ここで傷害されているロシアの絵本はたしかにとても良かった。
『災難雑考』昭和10年(1935年)7月
それまでずっと行われていたことが、不幸な偶然が重なり甚大な被害に繋がってしまうことがある。天災とは違う災難について。
そして責任について。
建築や計画にミスがあって人が死んだ時に、退職したりまたは死んでお詫びすることが「責任」といえるのか。設計ミスならその設計をした本人が、失敗を調べ上げ、そこから徹底的に安全な新しいものをつくることこそ「責任」なのではないか。
実際にあった良い例(胸のすくほど愉快な例)として、旅客機の白鳩(しろはと)号飛行機墜落事故について書いている。目撃者が全くいない事故で、飛行機の残骸を集め、一つ一つ組み立て直し、傷を調べ、なぜその傷がついたのかの実験を繰り返して、ついに原因を解明し、今後二度とその故障が起きないようにすることができた!
この解明を「推理小説の名探偵は謎を解いても次の犯罪を食い止めることはできないが、科学解明は次の事故を防ぐことができる」と言っている。ほうほう、推理小説好きなら、きっと飛行機事故解明ドキュメンタリーも楽しめそう。
『地震雑感』大正13年(1924年)5月
地震の概念、原因には何があるか、予報や日頃の備えについて。
『静岡地震被害見学記』昭和10年(1935年)9月
地震研究も行っていた寺田寅彦は、昭和10年(1935年)の静岡地震に調査に行った。
新聞報道ではまるで静岡県全体が壊滅しているかのような写真がたくさん出ていたようで、新聞が大げさに書くことは現在と同じ、いやこの頃のほうが強かったくらいだろうか?
寺田寅彦の見た現地被害、ボランティアの人々の様子など。
不思議な倒れ方をしている石灯籠があって、どのような地震の伝わり方をしたのだろうと首を傾げていたら、作業員が倒れそうで危なかったから倒したんだそうで、地震研究において人による被害をうっかりカウントしてしまうところだった(そしてそのうっかりは割とあるらしい)というのがちょっと面白かった。
そして多くの灯籠が倒れている中で立ち残っている物を確認したら芯棒がきっちりと通してあったのだとか。いつ起こるかわからない災害に備えることは、平時は無駄なようでもやっぱり大切だという次第。
『小爆発二件』昭和10年(1935年)10月
軽井沢のホテルで浅間山の噴火を見た!噴火(最初は噴火だとはわからなかった)の様子を文章で記載しているのはとても興味深い。映像や体感は、まさにそのものではあるけれど、それを文字にすることで自分の頭で再現できる。やっぱり文字ってすごい。
しかし山好きの人たちには日常的なのか、噴火しても「大丈夫ですよ〜」と山登りを続ける人もいたとか?そしてそんな人たちに、大袈裟ではなく適切に危険を伝えた駅員さんの様子に感心している。
『震災日記より』昭和10年(1935年)10月
大正12年9月1日の関東大震災と、その前後の日々の日記。大震災数日前の8月24日に首相の加藤友三郎が薨去したことから書かれているので、9月1日時点では「首相」というものはいなかった。
また8月26日には空に閃光が走ったなど前兆らしきものも書かれている。
9月1日の震災の時、寺田寅彦は上野の喫茶店にいた。上野でも寺社で灯籠や社務所が倒れたり、大木の枝が折れたなど被害があったようだ。しかし揺れの大きさ(これも地震を文字で書くことにより、読者が独自に体感できる)や、外に出たらカビの匂いが漂い、下谷方面からひどい土埃が飛んでくるのを見て多くの家屋の倒壊を感じ取ったのだそうだ。
そんななかで、人が日常を送りたがる感情も書かれる。昼食のお店では今まで体感したことのない揺れにみんな店から飛び出してしまい、お会計どうしよう…(戻ってきた店員さんに払った)とか、この後どこどこに行き、どこどこでお昼ごはんの予定だけど行けるかな、などと考える心理が語られる。
寺田寅彦の実家は曙町(現在の文京区本駒込)で、建物は無事だった。しかし焼け出された多くの親族が集まっていて、翌日から食料を「うちばっかりこんなに食べ物持ち込んでごめんなさい…大人が20人いるんだよ…」と思いながら運び込んだとか、「暴徒が井戸に毒を入れたり、爆弾投げるといわれた」とい風評に「普通に考えて、東京中に投げる爆弾なんてどうやって調達するんだ!!」と怒りを見せている。
『函館の大火について』昭和9年(1934年)5月
昭和9年(1934年)函館の大火事について。そして日本人と火事の歴史。
『流言蛮語』昭和8年(1933年)8月
人々を惑わし、場合によってはとんでもない被害をも産んでしまう流言は、「源」を次々と取り次いでいってしまうことにより伝わる。
もし「源」の近くでリーダーや長老格の人たちが落ち着いていれば、そして人々も現実的にできるわけがないと考える余裕さえもてば、そんな流言は広がらないだろう。
適度な「科学的常識」を持ち、落ち着いて考えれば流言蛮語を止めることもできるのではないか。
『神話と地球物理学』昭和8年(1933年)8月
民族に伝わる神話には、その国土風土が表されている。日本神話でも速須佐之男命や八俣大蛇が暴れるときの様子はまるで火山のようではないか。
とはいっても、神々が自然現象の擬人化というのではなく、神々の荒ぶる様子や葛藤や戦いを描写するのに、その民族の自然現象を使いやすかったのだろう。
神話のなかに、国土の様子や、それによる民族魂の由来をみることだできるのではないか?
『津浪と人間』昭和8年(1933年)5月
津浪のこと…、いやこれ現代にもそのまま当てはまる…。
昔の人々や科学者の警告と人間の警戒心の追いかけっこ、非常時のための教育など。
『厄年とetc.』大正10年(1921年)4月
厄年にはいわれがあるんじゃないの?と調べたり考えたりする章。続きを読む投稿日:2023.04.11
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