トランスジェンダーになりたい少女たち SNS・学校・医療が煽る流行の悲劇
アビゲイル・シュライアー(著)
,岩波明(監訳)
,村山美雪(共訳)
,高橋知子(共訳)
,寺尾まち子(共訳)
/産経新聞出版
作品情報
「KADOKAWA『あの子もトランスジェンダーになった』」
あの“焚書”ついに発刊
「今年最高の1冊」エコノミスト誌
「今年最高の1冊」タイムズ紙(ロンドン)
「今年最高の1冊」サンデー・タイムズ紙
ヘイトではありません
ジェンダー思想と性自認による現実です
世界9か国翻訳
日本語版緊急発売
思春期に突然「性別違和」を訴える少女が西欧諸国で急増しているのはなぜか。
かつては性同一性障害と呼ばれていた「性別違和」は幼少期に発現し、およそ全人口の0.01パーセントに見られ、そのほとんどが男児だった。
「性別違和」の急増や男女比の突然の逆転——何が起こっているのか。
・SNSとインフルエンサーたち
・幼稚園からジェンダー思想を教える学校教育
・精神科医の新標準「ジェンダー肯定ケア」
・思春期ブロッカー・ホルモン補充療法・乳房切除手術
・権威すらもキャンセルされる活動家の激しい抗議
……約200人、50家族を取材した著者が少女たちの流行の実態を明らかにする。
「それまで違和感を覚えたことはなかったのに、学校やインターネットで過激なジェンダー思想に触れて傾倒した十代の少女たちがもてはやされている。そうした少女たちの後押しをしているのは、同世代の仲間たちのみならず、セラピスト、教師、インターネット上の著名人たちだ。だが、そんな若さゆえの暴走の代償はピアスの穴やタトゥーではない。肉体のおよそ四五〇グラムもの切除だ。(中略)いわばフォロワーになっただけの思春期の少女たちに、そのような高い代償を払わせるわけにはいかない」(「はじめに」より)
米国ベストセラー『Irreversible Damage: The Transgender Craze Seducing Our Daughters』の邦訳版
【目次】
本書への賛辞
はじめに 伝染
1 少女たち
2 謎
3 インフルエンサー
4 学校
5 ママとパパ
6 精神科医
7 反対派
8 格上げされたもの、格下げされたもの
9 身体の改造
10 後悔
11 あと戻り
おわりに その後
謝辞
解説 岩波明
原注・参考文献
アビゲイル・シュライアー(Abigail Shrier)
独立系ジャーナリスト。コロンビア大学で文学士号(Euretta J. Kellett Fellowship)、オックスフォード大学で哲学士号、イェール大学法科大学院で法務博士の学位を取得。2021年にバーバラ・オルソン賞(ジャーナリズムの優秀性と独立性に贈られる)を受賞。また本書はエコノミスト誌とタイムズ紙(ロンドン)の年間ベストブックに選ばれた。
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商品情報
- 著者
- アビゲイル・シュライアー, 岩波明, 村山美雪, 高橋知子, 寺尾まち子
- 出版社
- 産経新聞出版
- 書籍発売日
- 2024.04.03
- Reader Store発売日
- 2024.04.03
- ファイルサイズ
- 2.2MB
- ページ数
- 368ページ
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この作品のレビュー
平均 3.9 (22件のレビュー)
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【感想】
「友人はほとんどがバイセクシャルです。友人グループ――人数は少ないですが――のなかでヘテロセクシャルの女の子がひとりだけいますが、ほかはレズビアンかバイセクシャルです。娘はその一歩先をいかな…ければならず、それで『トランスジェンダーになった』というわけです」
上記は、トランスジェンダーを自称し始めた小学1年生の娘を持つ母親の言葉である。彼女の言っている内容が、私にはさっぱり理解できなかった。周りがトランスジェンダーだから自分もなる?レズやバイより「一歩先」を行くために、トランスジェンダーを選ぶ?いったいどんな感覚で自分の性別を変えようとしているのか。簡単に着脱できるファッションのように捉えているのか。
だが、これが今の欧米諸国のリアルなのだ。ジェンダー教育は完全に行き過ぎており、SNSにより不安に駆られた少女がアイデンティティのために乳房を切除する。そうしたカルト宗教にも似た価値観が、初等教育の段階から蔓延しているのである。
本書『トランスジェンダーになりたい少女たち』は、西欧諸国の少女たちの間で起こっている突発的な「トランスジェンダー化」の実態を描いた一冊だ。思春期に突然「性別違和」を訴える少女が、この数年で数十倍に爆増している。今まで性別違和を訴えていたのは2歳から4歳の男児が多かった。しかしここに来て、思春期の少女が罹患者の大半を占めるようになった。それはいったい何が原因なのかを、SNSや教育、医療の観点から深掘りしていく一冊となっている。
トランスジェンダーになろうとする少女たちにはある一定の傾向がある。
まず、彼女たちは幼い頃には性自認になんら問題がなかった。しかし中学・高校に入ってコミュニティが変わると、一定の生きづらさや不安をかかえるようになる。そのときに「トランスジェンダー」をおおやけにしている子どもが多いグループに関わる。そして自らも同様に「実はトランスジェンダーだ」という告白をする。親からすれば寝耳に水であり、気の迷いだと説得するも、不理解から家族との間に溝ができ始める。少女たちの精神状態は悪化し、怒りっぽくなり、いつも不機嫌で、抵抗しだす。そして自身の性に対する違和感が強まるにつれ、救いの手を差しのべてくれそうな人とますます距離をおくようになる。
彼女たちはトランスジェンダーのインフルエンサーからが大きな影響を受ける。「トランス少年」あるいは「トランス男性」を自称する生物学的少女たちが、テストステロン補充療法を受けはじめてからどのように日常生活が改善されたかを誇らしげに語る動画やコメントを見る。テストステロン補充療法でもたらされた高揚感、下腹部に黒っぽい毛が生え、俗に言う「ハッピー・トレイル」ができたときの身震いするほどの喜び、社会的な不安の消滅について語られる。
少女たちをさらに後押しするのが精神科医だ。性別が違う、反対の性になりたいと主張する子どもたちに対し、精神科医は簡単に「トランスジェンダー」と診断を下す。親や学校に男子生徒扱いすることを求め、外堀がどんどんと埋まっていく。
これが少女たちがトランスジェンダー化する典型的なルートであり、そのうち乳房切除、子宮と卵巣の摘出という取り返しのつかない行為にまで踏み込んでいくのだ。
――「『わたしはトランスジェンダー』と宣言するだけで、ジャーン、あなたはもうトランスジェンダー。進歩的な山を登っていけば、このインターセクショナルな世界観でさらに信用される」
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以上が本書の部分的なまとめである。
読んだ感想だが、衝撃的な事実の数々にただ絶句するばかりだった。確かに性的マイノリティへの理解と配慮は必要不可欠だが、本書で描かれる内容はどう見ても歪みすぎである。男or女に生まれ変わりたいという気持ちは、本来なら思春期特有の一過性の熱病であり、そのうち自然と治癒される。しかし、今の西欧社会ではそれを「病気の一種」とみなし、後戻りのできない治療に進ませている。Instagramを開けばトランスジェンダーのインフルエンサーが乳房切除手術を推奨し、性的違和のカミングアウトに万単位のいいねと励ましのコメントが来る。それを疑問に思わず真似してしまう子どもたち、そしてそれを増長する大人たちがこれほどまでに存在するとは、いよいよ社会全体がおかしくなっていると寒気がしてしまった。
本書はかつて、その記述が「トランスジェンダー差別を助長する」として、KADOKAWAから発売中止を受けている。自分が読んだ限りではヘイト本というほど悪意に満ちた内容ではなかったが、一部の内容に疑問が残ったのも事実だ。特に、本書の最後に述べられる「娘を犠牲者にしないための実践論」はかなり怪しく感じてしまった。筆者の提案する方法は、子どもからスマホを取り上げたり、コミュニティから強制的に引き離したりと、かなり極端だからだ。
正直、トランスジェンダー化問題は究極のところ家庭環境に端を発していると思う。少女たちの性別違和は「不安からの逃避行動の一種」であり、その対応策として「子どもに寄り添う」「家族の時間を大切にする」「正しいしつけをする」ということは絶対必要だと思っている。しかし、本書ではそうした親の責任を全く論じていない。偏ったコミュニティに傾倒しすぎないように親が手綱を握ることで、思春期の子どもは成長していくと思うのだが、そうした役目をなおざりにしてただ「遠ざけろ」と主張している感が否めなかった。
朝日新聞の記事によれば、本書に使われている論文やデータに瑕疵があるとして、研究チームが原著の問題点をまとめた啓発サイトを公表する予定だという。そちらもチェックしてみたい。
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【まとめ】
0 まえがき
かつては性同一性障害と呼ばれていた性別違和は、自身の生物学的な性別にはげしい不快感をいだきつづけるのが特徴だ。おおむね2歳から4歳の幼少期に発現するが、思春期にとりわけ顕著に見られる場合もある。だが、その70パーセント近くは子どもの頃に性別違和を認識する。そのような状態に悩まされるのは全人口からするとごくわずかな人々(およそ0.01パーセント)で、ほとんどが男児だ。現に2012年までの科学論文では、11歳から21歳の女児で性別違和を発現した事例は示されていなかった。
この10年で状況は激変した。西欧諸国では、性別違和を訴えて「トランスジェンダー」を自認する思春期の少女たちが急増している。医学史上初めて、そのように自認する人々のなかに女性として生まれた少女たちが現れただけでなく、全体の大きな割合を占めるようになったのだ。
どうしてなのか。何が起こったのだろう?性別違和に悩まされる人々のなかで常に少数派だった思春期の年代の少女たちが、なぜ多数派を形成するに至ったのか?
それ以上に重要なのはおそらく、圧倒的多数だった男児に替わって思春期の少女が大半を占めるようになった男女比の逆転がどうして起こったのかということだろう。
1 SNSに煽られる現代の少女たち
今日、思春期の少女たちは多大な苦悩を抱えている。アメリカやイギリス、カナダでは、10代の若者たちが「メンタルヘルス危機」におちいっている。
2009年から2017年にかけて、自殺を考えたことのある高校生の数が25パーセント増加した。臨床的うつ病と診断された高校生の数については、2005年から2014年にかけて37パーセント増加している。ここで犠牲になっているのは男子より女子だ。うつ病を経験した割合は男子の3倍にのぼる。10代の女子全体で、自傷行為におよんだ数が62パーセント増加している。
2016年から2017年にかけてアメリカでは、女性に生まれついた人で性別適合手術を受けた人の数が4倍に跳ねあがった。生物学的女性が性別適合手術全体の70パーセントを占めるようになったのだ。2018年、イギリスではジェンダー医療を望む10代の少女の数が、過去10年のあいだに4,400パーセント増加したとの報告があった。プリンストン大学の「あなたはLGBTQですか?」という大学の調査に対して、学生の40パーセントが「はい」と答えている。
少女たちが不安定化している原因はSNSだ。TikTok、Instagram、YouTubeでは、拒食症やリストカット、自殺など、自傷行為を促すコンテンツが投稿され、実際にスマートフォンの登場以来そうした自傷行為の件数は劇的に増えている。トゥエンギによると、今日の18歳は情動面の成熟度がX世代の15歳と、今日の13歳はX世代の10歳と同程度だという。
現代の10代は長いときで1日9時間、カスタマイズされたインターネットという土牢にひとりではまり込んでおり、友人やセレブリティ、インターネットのインフルエンサーたちの生活が垣間見え、修整がくわえられた写真が載っている魅力的なページを見ている。YouTubeやTikTok、Instagram、Reddit、Tumblrにもぐり込み、そこで彼女たちを待ちかまえている住民から、人生に関する助言をもらう。Z世代の若者は、もしたとえば自分の性的指向に疑問を持っているとすれば、時間をかけて「誰に恋をすればいいのか?自分はこの女の子の手を握りたいのだろうか?」と考えず、すぐにインターネットへ向かう。すると無数の赤の他人が喜び勇んで、性的指向の手引きを提供する。
今日、アメリカにかぎったことではないが、8歳から19歳の若者は、性スペクトラムにおいて自分がどこに位置するかを明確に示すよう強いられている。まだ性的にじゅうぶん発育しておらず、自分が何者で何を欲しているか自分でもはっきりとわかっていない時期だというのにだ。まわりから女らしさに欠けると思われた若い女性は、臆面もなく訊かれるようになった。「あなたはトランスジェンダーなの?」
ジュリーも、SNSの犠牲になった少女のうちの一人だ。ジュリーはバレエを習う典型的な少女だった。しかし高校に上がり、ゲイ・ストレート・アライアンスやトランスジェンダーのインフルエンサーに触れ始めると、性自認に対して疑問を持つようになった。女性と付き合い、乳房切除手術の動画を見たり、男性になることを夢見るようになった。
ジュリーはセラピストのもとでカウンセリングを受けるようになった。セラピストはまずジュリーに、彼女の好きな名前と人称代名詞を決めさせた。そして髪の毛を短くし、母親たちに新しい名前と人称代名詞を使うよう求めた。ジュリーの学校の教職員や友人たちはジュリーを男子生徒として扱い始めた。次第に家族とそりが合わなくなり、家を出て、やがて連絡が取れなくなった。
本来であれば、思春期の恋の悩みやストレスは毒ではない。それを乗り越えれば人間的に成長できる。思春期にストレスを感じるのはいまも昔も変わらないが、変わったのは、ストレスに対処する力がなくなったこと、そして「手っ取り早く解決する」という選択肢が存在することだ。どんな不快感であれ、それに耐える必要はない。注意欠如障害のためのリタリン、鎮痛剤のオピオイド、抗不安薬のザナックス、抗うつ薬のレクサプロ、思春期の少女用のテストステロン。常にスクリーンを眺めている10代の若者は忍耐力が低下している。そして社会の「その症状には薬があるはずだ」「その悩みは違う性別を押し付けられているせいだ」という通念が、彼女たちを誤った方向に後押ししているのだ。
2 急速発症性性別違和
リットマン博士は2つの発見をした。ひとつは、思春期になってからトランスジェンダーを自認した10代の女子のうち、明らかに過半数(63.5パーセント)が、長い期間にわたってSNSに熱中したあと、突然自分はトランスジェンダーだと言いだしているということ。もうひとつは、女子の友人グループ内において、トランスジェンダーを訴える子の割合が予想される割合の70倍以上になっていることだ。
リットマン博士はこの非定型の性別違和を「急速発症性性別違和(ROGD)」と名付け、「トランスジェンダーの急激な増加の理由は友人間での伝染」という仮説を立てた(その後、彼女の論文は物議を醸し、「偏見の塊であり弱者を虐げる人物だ」という汚名を着せられた)。
リットマン博士は、SNS上での3つの考えが伝染を広げているという。
①特異的ではない症状も性別違和とみなされるべきであり、性別違和はトランスジェンダーの証拠だという考え
②幸せに通じる唯一の道は性別移行だという考え
③トランスジェンダーだという自己認識に異をとなえたり、性別移行の計画に反対したりする人はトランスジェンダーを嫌悪し侮蔑的だから、縁を切るべきだという考え
リットマン博士の研究は、「精神的に傷つきやすい年齢で診察を受けにくる少女全員が、自分の症状の原因について正しく判断できているわけではない」ということを示唆している。
調査によれば、急速発症性性別違和者の90パーセント以上が白人である。つまり、今日の大学でもっとも悪く言われているアイデンティティだ。少女たちは有色人種にはなれない。大半は同性愛者にもなれない。
「あらゆる被害者の立場のなかで、現実で選べる唯一のものが『トランスジェンダー』なのです」。プリンストン大学客員研究員ヘザー・ヘイングはそう指摘した。「『わたしはトランスジェンダー』と宣言するだけで、ジャーン、あなたはもうトランスジェンダー。進歩的な山を登っていけば、このインターセクショナルな世界観でさらに信用される」
3 学校がトランスジェンダー化を肯定している
2020年1月、カリフォルニア教員組合は、シスジェンダー、トランスジェンダー、ノンバイナリーの生徒が平等かつ内密に、身体面や精神面、行動面についての幅広い診療を受けられるよう、学校が基盤のヘルスケア・クリニックの創設に向けて動きだした。うまくいけば近々、カリフォルニア州において性別移行目的のホルモン療法を望むマイノリティの生徒は、親への通知や親の同意なしに、ホルモン療法を受けられるだけでなく、学校を早退しないで受けられるようになるかもしれない。
ニューヨーク州、ニュージャージー州、コロラド州、イリノイ州、バージニア州の北バージニア、オレゴン州の公立校では、ジェンダー問題への急進的なジェンダー教育がすでにカリキュラムや方針に組みこまれている。
カリフォルニア州は性自認と性的指向に関して、どの州よりも包括的な教育を誇っており、幼稚園から高校3年生までの全生徒を対象に、性自認と性表現および性的指向に関して、親へのオプトアウト(生徒に関する情報を親に伝えること)を明確に禁止している。同性愛者やトランスジェンダーを理由とするいじめを防ぐ、という建前だ。
教師たちによると、トランスジェンダーの生徒の性自認を肯定するのはその子の幸せや安全にとって非常に大切なことなので、カミングアウトをしても「親には知らせない」方針をとっている。内密に学校の記録簿に記載されている生徒の名前と人称代名詞を書きかえ、反対の姓のトイレの使用を認められるのだ。
公教育でキーワードとなるのは「ジェンダー・ノンコンフォーミング(性に関する旧来の概念に合致しない人)」だ。過去の例を挙げると、ジャンヌ・ダルク、エカチェリーナ二世、サリー・ライド(アメリカの宇宙飛行士)である。この女性たちは誰ひとりとして、男性の役割と考えられてきたことをしたからといって自分を女性らしくないとは思っていなかっただろうし、自分はほんとうは男だと主張もしなかった。しかし、アメリカ中の学童が教わっているのは、彼女たちが実は「同性愛者」であり、それがゆえ男性が得意な分野で秀でることができた、という歴史である。
未就学児から始まるLGBTQ教育の累積効果はどれほどのものだろうか?
「教育によって、わたしたちを標準化しようとしているのだと思います」とLGBTQに属するチアソン博士は言う。同性愛者の生徒を平然と無視したり、大勢の目のまえでその性的指向をからかったりすることはもはやできない。
しかし、またべつの側面もある。教育という名のもとで思春期の若者たちに、否応なく自分の性や性的指向を突きとめさせようとしている。常に強い感情や衝動、ジェンダーフルイドかクィア、アセクシャル、またはノンバイナリーのほうに向かせるかもしれない何かを意識するよう仕向けているのだ。それに、ふたつの集まり――『自分たちとそれ以外の人たち』の漠然とした形成をうながしてもいる。実際、かなり多くの学校のスクールカレンダーには、LGBTQの生徒を平等に扱うだけでなく、その生徒たちの勇敢さをたたえるための、年間何ヶ月にもわたって行われるイベントがある。
4 肯定ケア
現在の精神科医は「肯定ケア」を軸とした診察を行い、トランスジェンダーの診断を下している。肯定ケアとは、性別違和に対する診察の根拠について、患者の自己診断および患者の認識を「全て正確である」と肯定することである。たとえ多くの証拠に反し、ときには問題に対する医者自身の考えと逆であっても。つまり、性別違和で自分を女性だと思っている男性患者は、例えどこからどう見ても妄言だとしても、ほんとうに女性だと認めなければならない。「自分のことは自分が一番知っている」というわけだ。
米国心理学会のガイドラインは医療従事者に対して、トランスジェンダーのコミュニティにおいて『味方として肯定的な関わり』を持つことを推奨し、「トランスジェンダーとされる患者が必要としているのは肯定的な方法で性自認に対処する敬意ある治療だ」としている。
ジェンダー肯定療法は、次のような主張に基づいている。
①思春期の子どもたちは自分のことをわかっている
②社会的性別移行とジェンダー肯定は「成功確実」な提案である
③肯定しなければ、あなたの子どもは自殺するかもしれない
④性自認は不変。子どものトランスジェンダー自認は変えられない
5 女性の役割の剥奪と、男性の役割の神格化
すでにアメリカじゅうの高校で最高水準にある女子スポーツ選手が、女性を自認する生物学上男子の選手に圧倒されている。女性の陸上競技選手も、水泳選手も、ウエイトリフティングの選手も、トランスジェンダーを自認する選手に追いやられた。その多くは男子チームでは月並みの選手だったのに。不公平さに異議を唱えても、簡単にかたづけられるか、偏見だと非難されるかのどちらかだ。
もはや女性を身体の特徴や生物学で定義できないのであれば、どう定義したらいいのだろうか?著名なトランスジェンダーの作家であるアンドレア・ロング・チューには答えがあった。「女性とは他者の欲望によって定義される普遍的な存在」だ。
女性についてこれ以上不快でおもしろみのない定義は想像できない。だが、トランス女性をふくむ女性を再定義するためには、この種の解答が標準になっている。女性とみなされる人物を説明する生物学的な指標を奪われたことで、トランスジェンダー活動家はステレオタイプな女性像に頼った。その多くが古めかしく侮辱的だ。
確かに、大人の女性への道のりは優雅にとはいかないし、簡単なものでもない。性別違和を覚える若い女性たちのうちで「男の子になるほうがはるかに得かも」と思っている人は少なくない。女性が大きな割合を占める職業は、男性の占める割合が多い職業よりも低く見られがちだ。
しかし、男性たちのほうが有利で、彼らの求めるもののほうが何でもいいに決まっていると考えてはいけないし、母性を傷つける行動を推奨してはならない。少女たちはジェンダー論にまつわる大人たちの被害者意識や妬みを見ており、それに影響されてしまうからだ。地位の低い危険な仕事を担っているのは圧倒的に男性のほうが多く、絶え間ない競争にさらされ続けて生きているのも男性のほうが多いことを忘れてはいけない。
6 少女たちに施される改造手術
●思春期ブロッカー
思春期ブロッカーとは、リュープリンなど、下垂体の一部の働きを抑え、第二次性徴の進行を遅くする薬である。
ジェンダー問題の医師は思春期を開始時に止めるのは中立的な介入、すなわち一時停止ボタンだと主張したがる。思春期ブロッカーの投与をやめれば、正常な思春期がはじまるのだからと。しかし、身長や体重の成長を阻害する薬の投与を中立的な医療介入とは呼べない。
たとえ人工的にトランスジェンダー・アイデンティティを得たとしても、異なる性別の体をしているという根本的な苦痛は無くならない。治療という名の医療的手段は続いていく。
●テストステロン
テストステロン(T)は代表的な男性ホルモンだ。アメリカのジェンダークリニックは現在ゆうに50箇所を超え、紹介状もセラピーも必要なくテストステロンを打てる。
トランスジェンダーを自認する少女にとって、テストステロンは麻薬のようなものだ。テストステロンは不安を抑え、抑うつした気持ちを引きあげさえする。若い女性は大胆になり、心配がなくなる。人付きあいが苦手な人にとって、テストステロンが与える自由は奇跡に等しい。注射を打って最初の数週間で身体や顔に毛が生えはじめ、腿と腰と尻から肉が落ちると、これまで自分は笑われるために身体を差し出してきたのだと明らかになる。もう美貌の無さに一喜一憂する心配はなくなる。
テストステロンを投与しつづけて数か月たつと、少女の声はかすれはじめる。ニキビができる。男性型脱毛症になる場合もある。鼻は丸く、あごは四角く、筋肉はたくましくなる。神経性無食欲症の人がやせていく姿を見つめていたように、彼女はこの変化を鏡で観察する。だが、無食欲症と違い、彼女は次第に強くなっていく。それを実感する。
テストステロンは血液を濃くする。トランスジェンダーを自認する女性は希望する身体の変化を起こすために、通常の10倍から40倍のテストステロンを投与される。この量のテストステロンを投与された生物学上の女性が心臓発作を起こす危険性は通常の女性の5倍近く、男性の2.5倍だという指摘がある。
また、男性ホルモン投与後まもなく、永久的な変化が起こる。生物学上の少女が決断を後悔してテストステロン投与を中止しても、大きくなった身体や顔に生えた毛は残り、肥大したクリトリスと低くなった声、おそらく男っぽくなった顔の造作さえ変わらないだろう。性別移行の効果を完全に残すためには大量のテストステロン投与を継続する必要があるが、そのいっぽうでテストステロンを除去しても思春期はもとには戻らない。月経不順による子宮頸がんの可能性が増し、その結果予防措置として子宮と卵巣の摘出手術の必要を考える人も出る。
●乳房切除手術(トップ手術)
カリフォルニアでは13歳の少女がトップ手術を受けられる。しかし、テストステロンの投与と違い、一度取り除いた乳房はもとに戻すことはできない。授乳機能も失われる。
「いちばんうれしいのは、みんなの笑顔を見たときでしょうね」トップ手術で有名なトロントのヒュー・マクリーン医師は言った。「どうしても手術を受けたいという患者たちがいるのはご存じでしょう。患者さんたちの望ましい結果や、幸せや、安寧がうれしいのだと思います」。マクリーン医師は個人として合計「1000件以上」のトップ手術を行ない、16歳の患者にも行なったと話した。
支持者によると、こうした手術だけが患者を性別違和から救える有効な方法らしい。若い女性たちに男になる機会を――少なくとも、男に見えると確信をいだける機会を――与えなければ、患者たちは悲しみに負けてしまう。
信じられないことに、マクリーン医師もほかのトップ手術を行なう外科医たちも、男だと自認すらしていない生まれながらの女性にも、男になるための両乳房切除手術をしていた。『ノンバイナリー』を自称する人々にも手術を施したのだ。もはや手術の目的は「女性を男性と思わせること」ではない。患者の意思を(たとえ13歳の未熟な子どもの判断でも)をすべて肯定し、違和感を解消してあげることなのだ。
7 わたしたちが子どもにできること
・スマホを持たせない
・親の権限を放棄してはいけない
・子どもの教育の場でジェンダー思想を支持してはいけない
・家庭のプライバシーを取り戻す
・子どもを今のコミュニティから引き離す続きを読む投稿日:2024.05.10
2020年にアメリカで出版され、賛否両論の騒動を巻き起こした本の全訳版。当初はKADOKAWAから出版される予定だったが、発売前からタイトルや帯、内容を巡って批判が殺到し、謝罪と刊行中止に追い込まれた…。それを引き継いだ産経新聞出版や書店に対しても脅迫が行われた。
21世紀に入ってから「自分はトランスジェンダーだ」と主張する思春期の少女が急増した(この時点でなにか異常な事態が起きていることがわかる)。本書は彼らや家族を中心にインタビューし考察した、まっとうなノンフィクションである。
インターネットやスマホの普及でどんな情報にも簡単にアクセスできる時代の功罪か。自由すぎるアメリカ社会にも問題がありそうだ。続きを読む投稿日:2024.06.23
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