日本の経済政策 「失われた30年」をいかに克服するか
小林慶一郎(著)
/中公新書
作品情報
バブル崩壊以降、「失われた三〇年」とも言われる長期停滞から抜け出せない日本。なぜこれほど長く低迷しているのか。日本経済を一九九〇年代から振り返り、繰り広げられた論争と、実施された政策をマクロ経済学の見地から検証する。一九九〇年代の不良債権処理、二〇〇〇年代の格差論争、二〇一〇年代の低金利政策。私たちはどこで判断を誤り、どのように克服すべきか。将来への持続性につながる経済政策を提言する。
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商品情報
- 著者
- 小林慶一郎
- 出版社
- 中央公論新社
- 掲載誌・レーベル
- 中公新書
- 書籍発売日
- 2024.01.25
- Reader Store発売日
- 2024.01.22
- ファイルサイズ
- 4.7MB
- ページ数
- 288ページ
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この作品のレビュー
平均 5.0 (5件のレビュー)
-
経済学の研究者、大学教員も務める著者が説く日本経済の30年程の経過ということになるのであろうが、「そこに留まり切らない」というような興味深さが在り、色々と示唆に富んでいるように思った。専門的な知見を基…礎にしながら、広い読者層に説くという「新書らしさ」に溢れた一冊だと思う。興味深く読了した。
本書の題名を見た時に思った。嘗て「失われた10年」という言い方が在った。やがて「10年」が「20年」になり、そのうちに「30年」になっていた。30年間に何が如何なっていたのか?何が変わって、何が変わらないのか?そういうようなことを考えてみる材料を求めて本書を手にしたという感だ。
個人的なことを申し上げれば、「30年」というのは概ね、自身の大学生の時期から社会人というようになって現在に至る迄の期間と重なり合う。最早、キャリアの形成を云々するよりも、その終焉を真面目に考えるべきなのかもしれない年代に差し掛かってしまっているのかもしれない。それだからこそ「自身の人生の大半とも重なる時期が何だったのか?」を考える機会を設けてみる、考える機会という程ではなくとも、考える材料を得たいという程度には思う。
本書では1990年代頃の「“バブル”の後」の様子に関する話題から起こる。そして2000年代頃のリーマンショックのような事柄への流れ、2010年代頃の行き詰ったような感から極最近迄と、30年程度の流れが、様々な研究での論議を交えながら詳しく説かれている。
そうした或る意味で、「経済学研究の経過も交えた経済の歴史」という要素が濃いのだが、それに留まらない「考え方の御提案」というような要素も入り込んでいると思う。
一般に数年程度を論じる将来傾向を予測する議論に関して、何十年間を顧慮して検討する在り方が在っても好いかもしれないというような話しが在った。更に、現在の時点での利点や問題点を論じ合うに留まらず、少し遠い将来に在る人達の目線を想定して考え、論じ合うような視点が好い結果をもたらすかもしれないというような論が在った。
本書に関して、実は“感染症”の問題の故に当初の構想よりも登場が遅れたそうだ。加えて、そういう展開の故に「考え方の御提案」というような要素が増えた感でもあるのだという。著者は“感染症”の問題に際しての諸政策を巡って、経済関係の専門家として対策を練る会議に参加することになり、本書に関する作業時間を割き悪くなったということだった。
“感染症”の対応そのものには医学、微生物学、薬学というような自然科学の知見が必要である。が、例えば「無症状の感染者という人達が動き廻るような様子を如何する?」というようなことになると、社会政策であり、経済活動を安全に行えるようにする政策ということになって行く。(具体的には「検査」を広く手軽に行える体制を素早く構築することが求められたものの、その実現に酷く時間を要して混乱したという経過が見受けられた。)
こうした「専門」と「専門以外の諸要素への問題の拡がり」という問題意識が本書の末尾の方に示されている。「専門」と「専門以外の諸要素への問題の拡がり」というようなことに関しては、1990年代末近くの金融機関の経営が傾いて、どの程度、如何やって救済を図らなければならないのかというような議論でも見受けられた視点かもしれないともしている。
本書の中、凄く刺さったのは「人的劣化」という指摘である。所謂“非正規雇用”が拡がり過ぎ、労働力の質的向上へ向けた動きが鈍ってしまっている、人々の収入が伸びない様子の度が過ぎるような様子になってしまい、社会の活力が損なわれてしまっているというような論だ。考えてみれば、2000年代以降に「人様の仕事を買い叩く?」かのような様子になって行って、それが進行して現在に至り、改善が在ったようにも見えない様子かもしれない。
「失われた30年」と言うが、「30年」は余りにも長いように思える。それでも更にこういう様子が続くのか、または違う様子になって行くのかは全く判らない。が、何れにしても本書のような材料に触れることは必要であるような気はする。そういう意味で本書は御薦めだ。続きを読む投稿日:2024.03.10
バブル崩壊以降の日本と世界の金融経済史を経済学説のフレームワークで体系化した名著。
結果論でものを言うのはアンフェアかもしれないが、読むにつれ、なぜ経済活動に財政、金融政策がかくも介入したがるのか、…経済学会の問題なのか、それとも政策側の問題なのか。
経済学の理論構築に問題があるのではなく、学説は殆どの場合、何らかの前提があり、その限りにおいて正しい。ところが、政策側にはその前提への認識が希薄になってしまうことがあり、結論ばかりが先走る。何となく使う側に分が悪い印象だ。
今一度、根本的な役割に立ち返る時の様なきもする。例えば、日本から中央銀行制度がなくなったら、デフレやインフレは手の施しようがない状況になってしまうのではないか?その際求められる本質的な役割にこそ機能発揮の機会がある。
一方、その割に、不平等の問題や貧困、学力の低下、自殺の増加など経済学的な解決ツールが見出しにくい分野ほど、もっと介入が必要な気がするが、なぜ変わり映えしないのか不思議な気もする。続きを読む投稿日:2024.03.28
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