この作品のレビュー
平均 4.0 (81件のレビュー)
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「三島由紀夫×トップガン」
佐藤究作品はハズレがなく、今作もまた素晴らしかった。
文章表現による戦闘機の操縦描写は美しく、荘厳さすら感じ、戦闘機乗りの主観には驚くべきリアリテ…ィがあった。
しかし読後に抱いた感情は、よくわからない。無色透明な・・・なにか。
心に波立つざわめきはあったが、形を成さなかった。
しばらく放置して反芻すれば明瞭な形が浮かんでくるだろうかと2ヶ月ほど置いてみたが、変わらない。
そんな不思議な読書体験だった。
とはいえ、端的に面白かったので、ぜひ読んでみてください。そして、感想を教えてください。続きを読む投稿日:2024.01.29
戦闘機というモチーフと、仏教というモチーフが使われており、ふたつの要素は透の人生に深くかかわってくる。ときに救いとして。ときに呪いとして。空に、戦闘機に、速さに憧れた透はパイロットを目指し、とんとん拍…子で航空宇宙自衛隊の戦闘機(ファイター)パイロットとなるのだが、第1章にあたるこの部分はまわりと馴染むことができない透の人間性と、しかしパイロットとしての異常な適正・才能を見せていくという話になっていて、ある意味『スラムダンク』的な成長と栄光に満ちた物語とも言えるだろう。しかし主人公の性格は寡黙かつ人付き合いも悪いという『戦闘妖精・雪風』の深井零みたいな奴なので、自衛隊内では浮いた存在となる。それが直接的な原因となるわけではないものの、音の壁を越えると「蛇」に身体を捉えられたような窒息感を覚えるようになった透は自衛隊を辞め、舞台は海外へ移り、冒険小説の色合いを帯びていくこととなる。
おそらくこれは社会性と純粋性についての話であり、透が感じた窒息感とは戦闘機に乗ってマッハのスピードを出しながら空を飛んでいてさえ自由にはなれない社会的制約からくるものなのだろう。透が望む速度とは、何者にも縛られず、ひたすら解放された状態で空を飛び回ることを指すのだ。
話は2030年代という近未来に移行し、やがてジャングルの奥地に墜落した戦闘機を発見するという『闇の奥』や『地獄の黙示録』の様相を呈していく。それは本作を単なるミリタリー小説ではなく、エンタメ小説であり、純文学小説であり、ややSFであるという宣言にも感じられた。
戦闘機に乗って空を飛ぶことは透にとって手段のひとつであって、必ずしもパイロットである必要は無かったのだろう。なぜなら透が求めているのは一定の速度を超えたスピードを「自由」に感じることであり、後半からはそれが話の主軸となるのだから。そしてその目的を達成することは、イコール仲間を裏切り、世界を裏切る行為でもある。それでもなお、透は「速さ」を求め空へ旅立つこととなり、幽玄なる空の色を知るのだった。
本作はまさにこの場面のためにある。
音の壁を越えるという物理的な解放の瞬間と、俗世間の束縛から解脱するという宗教的な体験を重ね合わせ、身体と精神が圧倒的な自由を得る瞬間。それは本来、言葉に置き換えることが不可能な出来事であり、しかしエンタメとして、そして純文学として、物語としてそのことを語ることによって、私たちもまた読書という行為を通して、その出来事を追体験するのだ。
戦闘機と自身の身体を融合させる感覚と会得している透はそこで遂に真の青空と出会い、その青さは血〈赤〉の補色なのだということを思い出す。透の純粋性が音の壁を超えるとき、それは透にとっての死を意味してもいて、呪いの象徴である蛇は透自身に、そして救いの象徴である孔雀明王もまた透自身となり、「ウロボロスの蛇」のような円環を描きながら幽玄の彼方に透(=戦闘機)は消える。
これは救いと呪いを表裏一体のものとし、それでもなお、解放の瞬間を求め続けた者の物語だ。
やがて空への渇望はバングラデシュの少年へと引き継がれ、話自体が円環のような構成となって幕を閉じる。
身体的な解放と、宗教的な解脱を、同時に、言葉として置き換え、読者に体感させる。それは小説という媒体ならではの幽玄な体験だ。続きを読む投稿日:2024.06.02
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