アウシュヴィッツのお針子
ルーシー・アドリントン(著)
,宇丹貴代実(訳)
/河出書房新社
作品情報
針と糸、そしてミシンが私たちの命を救った——アウシュヴィッツに収容されながら、ナチス幹部たちやその家族の衣服を仕立てることで、地獄を生き抜いた女性たちの衝撃の記録。
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商品情報
- シリーズ
- アウシュヴィッツのお針子
- 著者
- ルーシー・アドリントン, 宇丹貴代実
- 出版社
- 河出書房新社
- 書籍発売日
- 2022.05.27
- Reader Store発売日
- 2022.08.26
- ファイルサイズ
- 8.9MB
- ページ数
- 364ページ
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この作品のレビュー
平均 4.5 (9件のレビュー)
-
ホロコーストものは、読み慣れているのだが、
これは、きつかった。
それでも、最後まで、きちんと読み通したかったのは、
ノンフィクションの力。
女性達の生きる強さに感嘆し、その後が気になったからだ。
…女性達とは、アウシュヴィッツのお針子。
彼女たちは、収容所以前に洋裁の実力を蓄え、
中にはサロンを開き、高級顧客を相手にしてきた人も居る。
それが収容所で役立つわけだ。
ざっくりと、二部、ないし三部構成といえようか。
まずは、アウシュビッツ以前、
ユダヤ人は戦前、ドイツでのファッション業界をリードしていた。
しかし、ナチスはユダヤ人を、ファッション界から追放し、奪い取った会社をドイツ人のものとする。
(その評判は下がったとしても)
ここで、まず、気分が悪くなるのは、
ユダヤ人社会から奪い取った品々を、ドイツ人、
一般市民までもが、素知らぬ顔で恩恵を享受したと言うこと。
見て見ぬ振り、自分さえ良ければ・・・
この感覚、わたしは、どうだ?と考えると、
たまらない。
暴力シーンや残虐性は、過去ずっと読み続けてきたので、ある程度免疫はついている。だが、この一般人の振る舞いは、どうだ?
そして、「同じ立場にたったとき、オマエはどうだ」!?と問うから辛い。
続いて、収容所へ。
こちらも大きく分けて、ファッションサロン前と、サロンでの日々に分けられる。
まずは、収容所のおぞましいまでの暴力。
やがて生き残ったお針子が、収容所長ヘスの夫人のために、衣装を作り始める。
物質不足の時代、それでも、ここにはふんだんに材料があった。ユダヤ人から奪った衣類が「カナダ」と呼ばれる倉庫にぎっりしつまっており、さながらデパートの如くだったそうだ。
ヘスの自宅は、わすれもしない。
毒ガス室および・火葬場から、目と鼻の先だった。
かつてアウシュヴィッツ(ポーランドではオシフェンチウム)博物館を訪ねたとき、その距離に驚かされた。
案の定、ヘス夫人が「楽園」と呼んで、愛した庭や菜園には灰が降ったという。そのため野菜をよく洗うよう、料理番(とうぜん収容者)は常に言われていたという。
その灰が何を焼いたものなのか、わかっていて食事ができてしまう、このおぞましさ!
いやいや・・・
これが全てではない。
女性達の、つまりお針子の団結力をまずは、一番に挙げるべきだった。
お針子として選ばれることは、アウシュヴィッツでは生きることにつながる。
仕事は室内で行われ、他の収容所内の仕事に比べれば、心身共に比べものにならないほど、負担が少ない。
さらに、作業中は、おしゃべりだってできたのだ。
そうして創り上げるのは、美しい衣類!
カポ(ユダヤ人ボス)のマルタの力だ。
彼女は優れたファッションサロンの主で、
仲間の誰かのつてで、新たなお針子を助ける・・・
そうして、助けられたお針子は、互いに、守り合う。
病人がいたら、その仕事も必死でカバーするのだ。
なんせ、シラミが一匹でも居たら、命はなくなる・・・と警告されている。
お針子だって、死と直面していたのだ。
それだけに緊張を強いられるのは、同じこと。
やがて、アウシュビッツは解放され、
生き残ったお針子達も、それぞれの選択で進む。
逃げる者、再び、別の収容所へと行進するもの・・・
運良く故郷へ着いても、ユダヤ人である自分たちの財産は、町の人間に奪われていたという。
当時、ユダヤ人が財産を奪い返しに来る、と恐れられていたという話もある。
戦後も、戦前と同じ・・・ここでも、再び暗澹とした。
さて、この本は、全くのノンフィクションだという。
著者は、ある程度情報が集まった段階で、
お針子をテーマにしたヤングアダルト小説を書いた。
それを読んだ人たちからの情報は、やがて膨大な資料となり、このノンフィクション作品へとつながった。
アメリカに住むミセス・コフートとのやりとりは、すばらしい。
生き残る強さがあふれ出ている。
死ぬことは、いつでもできる。
だからあきらめずに生きる。
それは時代を超えた力になる。続きを読む投稿日:2022.06.28
このレビューはネタバレを含みます
アウシュヴィッツに関わる本をいくつか読んだことはあった。夜と霧、アンネの日記、縞模様のパジャマの少年など。
レビューの続きを読む
もちろん仕立て作業場があったことは初めて知ったし驚き。というか、彼らがそもそも何の労働をさせ…られていたのか、あまり考えたこともなかったのかもしれない。お針子以外に、労働の内容は服飾に関するものがあったのだとも初めて知った。
著者のフィクション作品をきっかけに、情報が集まりノンフィクションのこの本が作られたこともすごいし、更にはこの素晴らしい本を日本語訳してくれたことも本当に嬉しい。読めてよかった。
以下、メモ
--|
服飾文化からパリを除き、ユダヤを排除するために女性の権利も貶めるという徹底ぶりがおそろしい。ADEFAについても初耳。とはいえユダヤ人の技術が高かったため質は悪いものだったというのが皮肉。
百貨店の経営もほぼユダヤ人だった、とのことで、ユダヤ人の優秀さがわかる・・
ナチスの男性陣の妻たちはユダヤ人の技術を分かっていたのに傍観するしかなかったんだ。。と思って読み始めたけど、その後は利用もしておりなんとも言えない気持ちに。
ナチスの領土征服は権力誇示だけでなく、略奪品を私物化しての財政確保の意味もあった。
収容所について衣服を全て奪われる、女性たちについての描写はがとても細かく、辛いものだった。生理についても配慮がなく尊厳も傷つけられる。耐え難い。
髪の毛を剃られたことは知っていて、山積みにされているのをアウシュヴィッツで実際に目にしたことがあったけど、買い取られて様々な製品になったとは知らなかった。そして、人間の皮膚までも。。
発疹チフスに汚染されたシラミで親衛隊を殺す、と言うこともできてしまったというのはすごい。。勇敢。。
こんな最低な環境においても、身なりに気を配れる囚人は親衛隊員からやや丁寧に扱ってもらえるなんて、見た目はやはり大事なのか。。
今もヨーロッパに店舗がある靴屋なども、この時期にユダヤ人から略奪した物品を、奴隷が修理して流通させていたことがあるのだと初めて知った。
略奪品集積所(通称カナダ)では、ナチスが利益を得るのを阻止しようと、貴重品は隙あらば土に埋められ、紙幣はトイレットペーパーになった。というのはこちらも勇敢な抵抗だと思った。
ただし、そのカナダで家に残してきた自分のものや、姉妹の服を見つけ家族の死を知るというのは、言葉には言い表せないほど悲しいこと、。
親衛隊員の妻たちは傍観者だったのか?同情者、共犯者?いずれにしてもその人たちとアウシュヴィッツの搾取システムを利用して、マファッションサロンを作り、マルタは囚人を救うことになった。
ナチスがあらゆる虐待を尽くしても一掃できなかったもの、すなわち友情とまごころに救われた。という言葉。重い。
ロシア軍による開放の直前に、アウシュヴィッツから撤退して死の行進と呼ばれる移動があったとは。劣悪な環境で行進させられていたとは。(これが解放かと思ってた。アウシュヴィッツからラーフェンスブリュックに移動させられただけ)そしてその間にマルタたちは逃亡して全員撃たれた。
本当の解放の後も、ロシア人による性的暴行が横行していた。アウシュヴィッツから逃れた人たちは、人間に戻るためにドイツ人の家から略奪をして服を着替えるしかなかった。
ヒトラーとその妻って自殺したんだ、、知らなかった。
フーニアに関する出典としてでてくるmemory book は、姪の作文だったんだとわかる。素晴らしい功績・・続きを読む投稿日:2023.06.02
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