ハックルベリー・フィンの冒けん
マーク・トウェイン(著)
,柴田元幸(訳)
/研究社
作品情報
★柴田元幸がいちばん訳したかったあの名作、ついに翻訳刊行。
★オリジナル・イラスト174点収録。
★訳者 柴田元幸の「作品解題」付き。
「トム・ソーヤーの冒けん」てゆう本をよんでない人はおれのこと知らないわけだけど、それはべつにかまわない。あれはマーク・トウェインさんてゆう人がつくった本で、まあだいたいはホントのことが書いてある。ところどころこちょうしたとこもあるけど、だいたいはホントのことが書いてある。べつにそれくらいなんでもない。だれだってどこかで、一どや二どはウソつくものだから。まあポリーおばさんとか未ぼう人とか、それとメアリなんかはべつかもしれないけど。ポリーおばさん、つまりトムのポリーおばさん、あとメアリやダグラス未ぼう人のことも、みんなその本に書いてある。で、その本は、だいたいはホントのことが書いてあるんだ、さっき言ったとおり、ところどころこちょうもあるんだけど。
それで、その本はどんなふうにおわるかってゆうと、こうだ。トムとおれとで、盗ぞくたちが洞くつにかくしたカネを見つけて、おれたちはカネもちになった。それぞれ六千ドルずつ、ぜんぶ金(きん)かで。つみあげたらすごいながめだった。で、サッチャー判じがそいつをあずかって、利しがつくようにしてくれて、おれもトムも、一年じゅう毎日(まいんち)一ドルずつもらえることになった。そんな大金、どうしたらいいかわかんないよな。それで、ダグラス未ぼう人が、おれをむすことしてひきとって、きちんとしつけてやるとか言いだした。だけど、いつもいつも家のなかにいるってのは、しんどいのなんのって、なにしろ未ぼう人ときたら、なにをやるにも、すごくきちんとして上ひんなんだ。それでおれはもうガマンできなくなって、逃げだした。またまえのボロ着を着てサトウだるにもどって、のんびり気ままにくつろいでた。ところが、トム・ソーヤーがおれをさがしにきて、盗ぞく団をはじめるんだ、未ぼう人のところへかえってちゃんとくらしたらおまえも入れてやるぞって言われた。で、おれはかえったわけで。
——マーク・トウェイン著/柴田元幸訳『ハックルベリー・フィンの冒けん』より
■タイトルの表記について(本文「解説」より)
ハックはまったくの無学ではないし、学校に行けばそれなりに学びとるところもあるようだから(まあ六七(ろくしち)=三十五と思っているみたいですが)、もし漢字文化圏の学校に通ったとしたら、字もある程度書けるようになって、たとえば「冒険」の「険」は無理でも、「冒」は(横棒が一本足りないくらいのことはありそうだが)書けそうな気がするのである。
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この作品のレビュー
平均 4.2 (14件のレビュー)
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日本では「ハックの冒険」より「トムソーヤーの冒険」の方が有名ではないだろうか? にもかかわらず,オールタイムベストの類に選ばれているのは,かならず「ハックの冒険」の方である.この認知度(日本での)と評…価のずれは,一体何なのだろう? とかねてから不思議に思っていたのだが,そこに鳴り物入りで柴田元幸訳の本書が登場したので,読んでみた.
ハックはまともに教育も受けていない,なかば浮浪児であるが,そのハックが自分で書いたという設定が絶妙で,ハックのたどたどしい文章を通じて,彼の冒険の数々が生き生きと浮かび上がる,また冒険の道連れとなった逃亡奴隷のジムも当然ながら無学で,この二人が様々なトラブルに巻き込まれる道中が,そしてそれに対する二人の心からの反応が,彼らの周りの一見立派な世の中の矛盾を浮き彫りにする.
あとがきによればヘミングウェイは最後の10章分は読まなくていいと言ったというが,まあ,ここは必要でしょう.
で,最後になったが,何よりも翻訳が素晴らしい.本書の魅力はハックが書いたという設定の,誤字だらけで平易な単語しか使っていない文章にある.それを平仮名ばかりで「読みにくいの一歩手前」で訳した翻訳者の力量は,本当にすごいと思う.続きを読む投稿日:2018.10.28
じつに伸びやかな冒険譚なのであるが、「しゅくえん」の話みたいに南北戦争前のアメリカ中西部の厳しさも多々あり、ハックの良心についての悩みも読みごたえがある。
挿絵がたくさん入っているのも、終盤のともす…ると蛇足っぽいあたりも、なんだか昔の本という感じがして好き。続きを読む投稿日:2023.07.01
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