走狗<文庫版>
伊東潤(作者)
/コルク
この作品のレビュー
平均 4.4 (8件のレビュー)
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「表舞台に出た」とは言い悪いのかもしれないが、薩摩の島津家中に在って、寧ろ低い身分であった川路利良が明治初期の警察のトップとなって活動するという経過の物語で、色々な意味で興味深かった。夢中で素早く読了…に至ったのだった。
物語は<禁門の変>―政変で京都を追われ、<池田屋事件>でのダメージも受けた長州が京都へ出兵し、京都に在った諸藩の軍勢と衝突した…―の辺りから起こる。薩摩勢の中に在った川路利良は、長州勢の有力な指揮官の一人であった来島又兵衛を狙撃して斃すという勲功を挙げて注目されたのだった。
そして川路利良は揺れ動く幕末の情勢下、西郷隆盛や大久保利通の下で働き、戊辰戦争の時代を駆け抜けて行く。やがて明治政府の中で、川路利良は警察機構を整えて警察の指揮を執る仕事に携わり、大久保利通の下で歩むことになる。
現在にも受け継がれている「警察」という制度の礎を築く大変な努力というようなことの他方、かの<西南戦争>を巡る動き等は…何か凄いモノが在る…
題名の“走狗”という言葉は、作中の川路利良が自問する、望んだか、望まなかったか、彼が歩むことになった「生き方」を形容した表現ということになると思う。その辺りに関しては、何となく色々と考えさせられるものも在る…
非常に面白い幕末・明治初期を扱った物語である。広く御薦めしたい。続きを読む投稿日:2020.03.07
2023年6月に伊東潤先生の 小説 走狗という本を読みました。
これは 幕末期の薩摩の武士階級の下の階級が出自であった初代警視庁大警視の 川路利良の生涯を書いた小説です。私は次の点で色々と感動と覚え…、その感想を書いてみます。
(1)チャンスをものにできる強運にあやかりたい
彼は薩摩城下の近郊に生まれて 幼少の頃から大変 貧乏で 士族の子供達からいじめられるなど身分制度の厳しさに泣く外城士の出自の境遇の少年だったが、持ち前の 反骨精神とチャンスをものにする力によって出世をして行きました。
東京に出て幕府との戊辰戦争の時には相当な戦功をあげて、「川路の*ん*ま」エピソードはこれだけでも幸運の持ち主だったと理解できます。この話を初めて知って、自分も少しはあやかりたいと思う。
(2)二人の偉大な先輩に恵まれるほど、有能だが非情な人物であった
青年期になるまで 西郷隆盛が面倒を見て目をかけてあげたことで 川路は 西郷隆盛を心の主として師事して仰ぐようになってきます。
しかしながら 明治維新以降、西郷が明治政府に嫌気が差して、下野する頃には 大久保利通に可愛がられて、この頃から親分は大久保利通に転身する。この西郷への裏切りに対する葛藤の描写がまるで、その場に居合わせたかのごとく素晴らしいと思います。
その後、警察機構とか秘密警察などの勉強をするため、パリに留学して日本に帰ってきて、認められてさらに出世をする。このとき、パリでの有名な事件である「列車から**放擲事件」を引き起こすくだりは最高に面白い。
明治9年に 西郷隆盛と大久保利通が征韓論で 仲違いをしてから、川路は警察機構の立ち上げが最重点課題として維新政府に残り、警視庁大警視に上り詰めて、ここで西郷と大久保の和解交渉役になれば、その後の評価は変わったかもしれない。
(3)西南の役のきっかけを作った人物として評価は落ちます
西南戦争が始まるきっかけとして、あれほどお世話になった西郷隆盛を裏切る。薩摩出身の警察官僚の人間にスパイとして 鹿児島に入らせ、西郷の動向を探り、西郷を暗殺しようとした密書を見つけられ 、具合が悪くなっていく。
理由は、国を治めるために、各地の不平士族の反乱を防ぐことが肝要として、自分の情動よりも国の治安が大義として、西郷を攻めるのである。少しは理解できるが、もう少しやり方がなかったか、残念でならない。
鹿児島県人からすると 尊敬できる西郷隆盛を苦しめ、 大久保とともに西郷隆盛を死に追いやった張本人ということで 総スカンを食らっています。 それもわかる気がします。
鹿児島県人同士が戦わさせ、大久保の犬となり警察を組織したということで警察の犬 として色々とスパイとして嗅ぎ回る。ここも、受け入れられない。
西南戦争が終盤にかかる頃には自分も率先して熊本に攻めてきて、それで 薩摩軍を殲滅させる。鹿児島での人気は無いのは当然かなと 改めて思いました
(4)大久保に対する疑心暗鬼の描写は素晴らしい
その後、川路は 西南戦争のきっかけとなった 西郷隆盛の暗殺のなすりあいを大久保利通とやるというのが大変 面白い。感動に至るほど手に汗を握る描写である。
大久保利通が暗殺された後、 自分も不平士族から暗殺される恐れが出てきたため、とりあえずフランスのパリに逃げて、その後病気で亡くなったという生涯を過ごしています。
(5)走狗のタイトルは絶妙です
このタイトルの付け方が絶妙だと思います。 主人公の 川路が警察機構の基本を作ったということで、警察は犬だと、だから日本国の犬として走り回る犬ということだったのではないかと思います。 そして、あの時代、明治維新から西南戦争へかけての時代の犬であるという理解です。
思えば、自分も会社の犬であったし、組織の犬であり、この20世紀末から21世紀初めにかけての時代の犬であり 資本主義の犬ではないかなと思い始めた。だから、ちゃんとご主人に仕えて、ご褒美を預かるということは一緒だったかもしれない。なので、一概に川路が悪かったというのも 酷なような気がします。
最下層のところから 立身出生をして時代の忠実な部下である犬になったこと、その犬として走り回ったということで少しは同情する点もあります。
しかし、大西郷を裏切ってまで、走り回る必要はなかったかと思います。
これを読んで、この作者の描写の表現がまるで、その場所に居合わせたかのごとくで、大変な力作であると思います。ますます、自分にとって勉強させられた一冊でした。
だから、映像化がしていないのであれば、是非とも映像化の検討をお願いしたいほどです。
とにかく、川路利良という人物の一面がわかって、大変満足しました。さらに、明治維新についての理解を深めようと思いました。
以上
続きを読む投稿日:2023.08.07
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