国際法
大沼保昭(著)
/ちくま新書
作品情報
国際法とは何かと聞かれても、すぐにイメージしにくいかもしれない。でも、憲法や安全保障のような国民全体の大問題だけでなく、コンビニでパンを買うといった私的な問題にまで国際法は関わっている。そのように広く国際社会に通用している国際法をどう理解すればよいのか。弱肉強食の「国際社会」という不条理の世界で、法はどう働くのか。そうした「生きた国際法」を誰にでもわかる形で、国際法の第一人者が解説。グローバル時代を生きるすべての現代人にとって必読必携の書。
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この作品のレビュー
平均 4.5 (3件のレビュー)
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日本と韓国の関係悪化が止まりません。
従来から懸案だった竹島問題や慰安婦に加えて、徴用工訴訟における日本企業への賠償命令判決、レーダー掃射問題と課題続出です。
両国政府とも先方の責任を主張するのみで、…出口が見えないスパイラルに陥っています。
本書は、国際法の泰斗による市民向けの入門書。とはいえ、国際法を体系的に理解しつつ個別論点についても幅広にカバーしていて読み応えのある内容になっています。
国際法の成り立ちから始まり、国内法との相違点や、環境や人権など新たなトピック、戦争と国際法など、興味深い知見がたくさん披露されます。
〇国際法は二国間の条約や協定だけでなく、ガットなどの多国間協定、国連の枠組みでの共同宣言など様々な形態があります。
国内法とちがって管轄権のある裁判所が存在しません(国際司法裁判所の審理は当事国の同意が要件となっている)。したがって、紛争の最終的な解決はどうしても関係各国のパワーバランスに依存 するところが大きく、そうした面から国際法の非力さを揶揄する識者も多く存在しています。
しかし、一方で、成文化された取決めは、大国の恣意的な行動を抑止し、地球環境や人権など、地球全体で取り組まなければならない課題に一定の方向性を与えるという機能は否定できません。
〇それ故、各国とも自国の行為を国際法の文脈に位置づけ、国際法に則っているということを国際世論に積極的に発信します。「国際法違反」というレッテルをいったん貼られてしまうと、国際的な非難のみならず、国連による制裁、関係諸国による内政干渉を招きかねないからです。
その反面教師が、第二次大戦時の日本、ドイツでした。日・独の行為は、1928年のパリ不戦条約(国際紛争を解決する手段としての戦争の禁止)違反とされ、当時の指導者が平和に対する罪で裁かれました。筆者も、東京・ニュルンベルク両裁判は、勝者の裁きという側面を否定できないけれど、戦争の違法化を史上はじめて明記した不戦条約の前では、その正当性は揺らぎようもないと指摘します。
〇筆者は慰安婦問題、徴用工、領土問題にも言及します。慰安婦問題については、1993年の河野談話とアジア女性基金の設立(基金は国費から支出されている)で、日本は公式に本人たちに謝罪しているにもかかわらず、マスメディアが同基金が公的なものではないと報道したことで、国際的に謝罪していないことになっていると、メディアの姿勢を批判します。徴用工については、日韓基本条約、日韓請求権協定を前提とする限り、韓国国内の問題とせざるを得ないとの立場です。が一方で、国際司法裁判所をはじめとする国際法専門家の間では、条約締結時の取決めよりも、その後の人権観の発展により判例変更される「発展主義」が優勢なので、その点も留意する必要があると指摘します。領土問題では、北方領土については日本政府の「日本固有の領土」の主張根拠は弱く、竹島、尖閣については韓国・中国の主張に無理があると指摘します。無難に断定を避ける他の有識者とは異なり、かなり思い切った意見を示されている印象です。
〇筆者は筆をおくにあたってこう述べます。「大国のパワーゲームの前に国際法は無力だという現実に何度も打ちのめされたが、それでも国際法には平和な世界をつくり自由、人権保護を希求する力を持っている。21世紀の日本は、経済的には影響力を低下させつつあるが、だからこそ、国民、メディア、政治家が国際法を理解し、国際法を活用する知恵をソフトパワーとして身につけるべきだ」と。
〇本書の脱稿をおえて間もなく大沼先生はお亡くなりになられました。巻末に娘さんが最後の日々について書かれていますが、命の尽きる最後まで、本書の完成に心血を注がれたそうです。全巻を通じて、筆者の国際法に対する信頼があふれでた名著だと思います。続きを読む投稿日:2019.03.15
著者は死の前日まで本書の執筆をしていたという。その狙いは一般市民向けに国際法認識を共有してもらうことにより、自衛隊や日米貿易摩擦や中韓との歴史問題等々の理解を深めてもらうことにあるとのことだが、語られ…ているのは国際法の可能性と限界である。
著者も言うように「戦争と平和の問題が国際法の中心課題」であるとすれば本書のメインは第3部となる。そこでは中国の台頭やテロ集団、利己的国家(主にロシア)により国際法が揺さぶられ、破られ、蹂躙される<国際法冬の時代>への懸念が語られる。概して救いの無い内容ではあるが、所々の記述から著者の国際法への役割期待が感じられるし、最後は日本へのエールで終わっているのが印象的でもある。続きを読む投稿日:2021.06.02
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