自由か、さもなくば幸福か? ──二一世紀の〈あり得べき社会〉を問う
大屋雄裕(著)
/筑摩選書
作品情報
日本でも犯罪不安が高まり、監視が強化されている。幸福な人生への私たちの欲望が、こうした社会を生み出した。しかしそこでは、言われなき差別が助長されかねない。ならば、どのような社会が望ましいのか? この問いに応えるべく、本書はまず「個人」の自律性が夢見られた一九世紀システムにまで遡り、それが機能不全を起こし、個人の能力不足を社会システムが補うようになった二〇世紀の苦闘と幻滅を描き出す。「自由」と「幸福」という両立し難い価値のうち、私たちは、どちらをどのような理由で優先させるべきなのか。二一世紀の〈あり得べき社会〉を、正義という観点から構想した社会哲学の書である。
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この作品のレビュー
平均 3.8 (6件のレビュー)
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このレビューはネタバレを含みます
こういう論ではおなじみオーウェルの「一九八四年」からスタート。
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自由で平等な個人が自己決定することで幸せに生きるという19世紀の理念が破れていく現状がまず指摘される。適切に自己決定できる人間の自律性を保つためには教育や環境で社会を制御し、統制していく必要があるという矛盾。むしろ人民は自己決定する責任ある自由を望まないという現実。少数者は自分の意見を反映できないままに法の順守を強いられ続けるという民主主義の限界。
著者は今後の展開として、いくつかの可能性の中で、コミュニティの全構成員が徹底した監視下に置かれる「ミラーハウス」社会(万人が不快を引き受けることの上に成立する正義にかなった社会)が到来する可能性が高いし、消極的にそれがふさわしいのではないかという結論を出す。
個人的には、少数を犠牲にする社会より全員が不快を引き受ける社会が支持されるというのは考え辛いように思う。心理的には、自分が一切不快にならない可能性があればその選択肢に傾くのが人間だ(そういう実験もあったはず)。現実にマイナンバーカードやらワクチンパスポート程度で大騒ぎしているのだからしょうもない。
功利主義的な合理性に基づけば適切な社会なのかもしれないけど、えてして人間は合理的な選択をするものではないし、それは著者がほのめかすような教育や「監視」によって矯正される性質のものではない。
しかも監視によって安心が提供されるわけではないと著者自身も書いているのに、それを徹底しても「同一化」よりは分断が進むのみではないか。「監視」とは具体的に何を想定しているのかもいまいち分からないのだが、著者が自ら指摘する是正可能性が課題という点、これこそが致命的に思える。結局運営や是正をコミュニティメンバーに頼るのであれば結局、現状の欠点を煮詰めたようなものにしかならないのではないか。
監視社会が不快とかいう以前に、人間の理性と合理性を頼りに依存したシステムがただしく機能して「正義」が実現するのかは疑問である。そういうシステムが機能するのなら、今だってみんな幸せな成熟した民主主義社会が実現していたのではと思う。投稿日:2021.09.03
論点の展開がよく考えられている良書だと思います。タイトルで自由の反対に幸福を置くのは違うのでは?と感じていたのですが、なるほどと思わせる展開でした。
自由は基本的な権利で不可侵であることと、社会性生…物として功利主義は正しいがその最大化には「国」が「国民」をつぶさに知らなくてはいけない、というどちらも正しいがゆえに両立はしないことを、人が社会の中で重きを置いてきた権利の変遷で説明されているので、極論ではなく自然な議論なのだと納得することができました。
なので、この辺りの社会の在り方は、民主主義も含めて、答えというものはなく、時代の要請によって移り行くものなのだと考えることができました。(つまり、民主主義も変わる時期に来ている)続きを読む投稿日:2022.08.07
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