日清戦争 「国民」の誕生
佐谷眞木人(著)
/講談社現代新書
作品情報
日清戦争は近代日本がはじめて経験した大規模な対外戦争でした。それは国民を熱狂させ、国家全体を狂騒の渦に叩き込みながら政治、社会体制のありかたまで変革させた巨大な祝祭だったといえましょう。その過程においてメディアが果たした役割は大きなものでした。というより、この戦争報道のなかで日本のメディアは今日にいたるプロトタイプを形成していくことになります。
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商品情報
- シリーズ
- 日清戦争 「国民」の誕生
- 著者
- 佐谷眞木人
- ジャンル
- 教養 - ノンフィクション・ドキュメンタリー
- 出版社
- 講談社
- 掲載誌・レーベル
- 講談社現代新書
- 書籍発売日
- 2009.03.20
- Reader Store発売日
- 2018.06.15
- ファイルサイズ
- 10.1MB
- ページ数
- 248ページ
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この作品のレビュー
平均 2.5 (6件のレビュー)
-
明治維新によって新たなスタートをきった国民国家としての「日本」。
アジアの小国であった日本は、初の対外戦争である「日清戦争」を通して、国家と国民の一体感を持つに至りました。
本書では、国家と国民の一体…感はどういうプロセスで形成されていったかを、明治六年の政変から紐解いていきます。
全7章で構成されているのですが、面白いのは1章と2章の前半のみです。
日清戦争を説明するにあたって、明治6年の政変の原因ともなった「征韓論」にその原因を求めるのは、真っ当なアプローチではあると思いますが、征韓論の解説あたりから著者の歴史観でバイアスがかかるため、納得しがたいものがありました。
日清戦争を語る場合、「韓の国(朝鮮)問題が争点であった」というのは著者の論点と同じなのですが、事実を分析する手法に違和感を感じました。
著者は日清戦争を「朝鮮に軍隊を送り、正義のために清と戦い、日本の国威を発揚することを侵略とは捉えないような思考の型が、たしかにそこにあったとしか言いようがない」とまとめるのだが、戦争の場合2国間以上で行われるのであるから、せめて両方の思惑くらいは解説して欲しいものだ。
清の属国であった朝鮮に対して、従属関係を維持させたい清と独立させたい日本の思惑を事実から公平にみる視点は必要だと思う。
事実、朝鮮における甲申事変においては、朝鮮は2つに割れており清派と日本派で争いクーデターまで起こっている。
華夷秩序を維持したい清と、新たな華夷秩序を形成したい日本がその中間地点である朝鮮でぶつかったという公平な視点がないのは、本書が日本の資料に頼りすぎるからかもしれないと思いました。
清側の日本に対する外交姿勢についても補足することで、よりフラットに東アジアの情勢を解説できたのではないでしょうか?
また、日清戦争の5年ほど前から西郷ブームが起こり、それが対外戦争へのエネルギーへとつながったというのはユニークなアプローチでしたが、肝心の西郷についてのエピソードが足りない気がしました。
西南戦争で自刃した後、十年を経ても西郷人気が衰えなかった彼の魅力を深堀することで、当時の日本人の美意識を浮き彫りにできたのではないでしょうか。
ちなみに、西郷隆盛の偉大さユニークさについては、鹿児島県の郷土史家がまとめた「大西郷の逸話」がオススメです。
http://www.amazon.co.jp/%E5%A4%A7%E8%A5%BF%E9%83%B7%E3%81%AE%E9%80%B8%E8%A9%B1-%E8%A5%BF%E7%94%B0-%E5%AE%9F/dp/4861240379
それと最後に、どうしても気になってしまった著者の思想についてですが、「人間皆平等」というのは、ご立派だと思いつつもコノ思想で歴史を語られると、全てが歪んでしまうように思えます。
本書の歴史観は、日清戦争当時の日本人が持っていた「中国・朝鮮に対する蔑視」が、日本を夜郎自大にし、それが次世代の子供達の教育にも受け継がれ、アジアの中で孤立していったというもの。
つまり、周辺諸国の人々と対等につきあおうとしなかった、明治の日本人の中に戦争の原因があるというものです。
本書で紹介されたある事例が、文明や民度には国それぞれの発展スピードがあることを示しているので、最後に引用します。
「朝鮮内地の大部落大都府として、都護府あり政庁あるの巨鎮大邑にして、その家を見れば土壁崩落し、その街を見れば人糞縦横尿汁渟瀦す、その不潔その醜陋、アフリカ内地の野蛮にも是ほど穢なき家はなくして蒙古・韃靼の野民といえどもまたこれに住まうを潔よしとせざるべし」
アジアにおける近代化の差はなぜ起こったか?
日本は明治維新を経て、国民の多くが私と公の問題に対して真っ正面から向き合った。
日清戦争当時、アジアの国々は、まだその段階まで達していなかったということなのではないでしょうか。続きを読む投稿日:2012.11.21
慶應の「比較文化論」の講義が元ネタのようで、社会史・文化史の観点から日清戦争を契機とした「国民」の誕生を論じている。よって、政治史・外交史としての日清戦争そのものを論じているわけではないので、題名は誤…解を招く気がする。ただし、知らなかったエピソードも結構あって、ネタ的な読み物としては面白い。ネタ系以外で興深かったのは6章で、軍隊と学校の関係性や類似性についてはさらに深堀可能に思えた。今後考察していきたいテーマになりそうである。
日清戦争は近代日本初の大規模な対外戦争であり、これを契機として民衆意識の点において「江戸時代的なもの」が一掃されたと解釈可能ではあるし、時代の転換点だったとも言えるのかもしれない。という意味において、社会史・文化史系の研究者は日露戦争よりも日清戦争を語りたがる印象を受ける。他方、政治史・外交史系の研究者にとっては日清戦争は日露戦争への通過点でしかないのか、日露戦争と比較して日清戦争を重要視しない傾向があるのかもしれない。これらの差異が、冒頭で問題提起されている「断層」に表れており、国内外問わず歴史認識の落差と相互理解の難しさに表れているように思える。先日読んだ加藤陽子の『戦争の日本近現代史』に対する著者の批判にその辺の一端が垣間見えたような気がした。続きを読む投稿日:2020.07.23
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