ヨーロッパ 繁栄の19世紀史 ──消費社会・植民地・グローバリゼーション
玉木俊明(著)
/ちくま新書
作品情報
第一次世界大戦前、イギリスを中心にヨーロッパは空前の繁栄を誇っていた。蒸気船が大洋を駆け巡り人や物資を運び、電信が普及、グローバリゼーションが急速に進展し、富がヨーロッパに集中したのである。また、この時期に人々の生活水準が上昇、市民社会が形成され、余暇も誕生した。しかし、そのような繁栄の裏には、搾取され続けた植民地と、奴隷にされた人々の犠牲があった。本書は、そのようなヨーロッパの光と闇の両面を描き出す。
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この作品のレビュー
平均 4.0 (3件のレビュー)
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今年(2018)の読書の収穫の一つとして、ライバル多い欧州国のなかで、産業革命をイギリスがなぜ先んじて成功させられたのか、またイギリスが覇権を握れたのは、工業国として成功よりも、ライバルが成長しても自…国にお金が落ちるシステムを作り上げたからだ、というこの本の著者の玉木氏の本を読んで、長年のもやもやが晴れたこどです。
その玉木氏が書かれた本を読んでみようと思い、この本を選びました。19世紀というのはヨーロッパにとって繁栄した最高の時代でありますが、それと同時に、その踏み台とされた、アフリカ・アジア地区の国々は相当な受難の時代であったこともあわせて書かれています。
人口増加の勢いは、東南アジア・中国の伸び方が頭打ちになってきましたが、その時代に増えることが無かったエリア(インド、アフリカ)で現在増えているのは、理解できるような気がしました。
私にとっては今までとは違った見方をすることができるようになり、歴史の面白さをさらに教えてくれた、玉木氏の本はこれから私にとっては注目していきたいですね。
以下は気になったポイントです。
・ヨーロッパは自国では議会制民主主義を発達させたが、植民地にそれを築こうとしなかったし、また工業を発展させようとしなかった(p13)
・イギリスはインドに第一次世界大戦後の独立を約束したが、それを反故にしたのでインドでは独立運動が激しくなった(p18)
・電信はおおむね1860-1870年の間に導入され、世界の距離をあっという間に縮めた、海底ケーブルも1903年には完成して世界中が結ばれた(p38、54)
・南アメリカ諸国はたしかに政治的には独立したが、間接投資(主として政府の公債)さらには直接投資(鉄道への投資)を通じて、イギリスへの依存傾向を高めた(p45)
・ドーバー海峡に海底ケーブルを敷くために、当初は銅線を麻で巻いて、それにタールを染み込ませて海水の浸透を防ごうとしたがすぐに使えなくなった、この問題を解決したのがマレーシア原産のガタバーチャというゴムに似た固体の素材であった。(p53)
・イギリスに代表される欧州の対外進出の特徴は、海上ルートを利用したこと。アジアでは陸上ルートであり、アジア船が欧州の海で活躍したことは歴史上一度もなかった(p55)
・支配=従属関係は、欧州船、とりわけイギリス船が輸送することによって成立した、ととらえる。19世紀以前の帆船の時代には、欧州の船舶はアジアに航行するのに、いくつもの港を経由するので、その日数がきわめて長く、往復に1年かかっていた。帆船の時代にはアジア船で運ばれることも珍しくなかった(p57)
・電信の発達により国際貿易の決済はロンドンでなされていたので、アジア・アフリカ・南アメリカの多くの地域は、欧州へ第一次産品を輸出することで従属していただけでなく、貿易決済でも従属していた(p98)
・オランダは工業国ではなく商業国であったが、イギリスはそのオランダに経済的に追いつき追い越すために、保護主義政策をとり、おそらく意図しないまま、世界最初の工業国家となった(p66)
・イギリスでは、サトウキビ生産に加えて、綿織物を生産した、西インド諸島・アメリカ南部で奴隷が綿花を生産、それをイギリスで機械化により加工した(p67)
・万国郵便連合により、国際的に郵便料金が統一され、安価になり、料金を払うのは手紙を送る人だと決められた(p88)
・イギリスは1873-1913年において、資本支出を中心とする世界資本主義への移行の時代であった、世界の工場から世界の銀行へ変貌した、海運業からの純収入、保険・貿易による利益、サービスからの収入が増えていった(p97、99)
・近代社会では賃金が上昇しても労働時間は減ることなく、そのため生活水準が上がることが前提とされる、だからこそ経済は成長し続けることができる=反転労働供給(p105)
・ブラジルは1640年代にオランダ領となったが、1654年にポルトガルが領土回復すると、オランダからきたセファルディムはカリブ海のオランダ領植民地に渡りサトウキビ生産を開始した、同様にイギリス・フランスの植民地にも伝授された(p120)
・イギリス領バルバドスでは、1700年の奴隷人口は4万人、それから100年間に26万人の黒人奴隷を輸入したにもかかわらず、1800年の黒人人口はたった6万人、死亡率が高かったので奴隷を輸入しなければならなかった。その奴隷が作った砂糖で欧州人の生活水準は向上して、平均寿命の上昇に貢献した。多くの地域で奴隷制が廃止されていた19世紀中ごろになってもキューバ・ブラジルでは奴隷制は続けられた(p121、122)
・イギリスは植民地(西インド諸島と北米南部)での綿花生産に成功したので、綿製品をインドに売り、インドから清へアヘンを輸出して茶の代価とするという三角貿易を行えた(p123)
・イギリスはフランスよりも農業の生産性が高かったので、農民比率が少なくて済んだので余剰労働者が生まれて工業化が促進された、これが決定的な違いである(p127)
・工場労働は、家庭内労働やその他の仕事よりも特別過酷ではなかった、子供たちはすでに中世から農業であれ手工業であれ、かなりの長時間労働をさせられていた(p132)
・ナポレオン戦争の後に行われたウィーン会議では、欧州の国境について再確認された(p182,183)
・永世中立とは、戦争を前提とした行為である、その承認とは、戦争を前提とした社会の肯定を意味する(p186)
・フランス領であった、アルザスロレーヌ地方をドイツ領にするまでは、ドイツは石炭をフランスから輸入していた(p195)
2018年9月24日作成続きを読む投稿日:2018.09.24
著者の「近代世界システムは工業国と資源国という構図だけで語られるべきものではなく、物流(海運、鉄道)・金融(電信決済・保険)をどこが握っていたかという視点が不可欠」「イギリスがヘゲモニー国家たり得たの…はまさにそれらを同国が握っていたから」という視点からの19世紀ヨーロッパの諸相の描写。
同著者の著書を3冊続けて読んだので、まあとりあえずこれ以上は良いかな、という感じですが、歴史を見る1つの軸としての視点をいただきました。続きを読む投稿日:2021.06.14
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