AI原論 神の支配と人間の自由
西垣通(著)
/講談社選書メチエ
作品情報
第三次ブームを迎えたAIの進化は、われわれの生活を避けようもなく変えつつある。自動運転、投資相談、医療診断など、以前では想像もできなかった領域にAIが入り込んでいく中で、30年以内にAIの知性が人間を超越する、という「シンギュラリティ(技術特異点)」仮説を唱える専門家さえいる。われわれを待っているのは「薔薇色の未来」なのか? 半世紀にわたってAIを間近で見てきた第一人者が投げかける大切な問い。
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商品情報
- シリーズ
- AI原論 神の支配と人間の自由
- 著者
- 西垣通
- 出版社
- 講談社
- 掲載誌・レーベル
- 講談社選書メチエ
- 書籍発売日
- 2018.04.10
- Reader Store発売日
- 2018.04.10
- ファイルサイズ
- 2.5MB
- ページ数
- 208ページ
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この作品のレビュー
平均 4.0 (10件のレビュー)
-
AIと人間の思考原理の根本的違いとして、AIは「他律的」、生き物は「自律的」として原理的にAI(ここでは汎用AI)は生き物になることはできないということを解説した書籍。
生き物だということは他者からは…「不可知的」であるとし、その生き物の行動原理(人間の思考原理も含む)を哲学者メイヤスー「思弁的実在論」の「偶然性」の概念を参照しつつ「自律的」とは「偶然性が必然」であるという考え方から解説。
そもそも西洋人が汎用AIを人智を超えた存在として位置付けたがるのはキリスト教の三位一体の考え方が染み付いているのではないか、とその西洋人の思考原理も紹介。一方でAIはいずれ人間を知能を超える賢い機械になる可能性が高いという点は一般的なAI論者に賛同。続きを読む投稿日:2019.12.11
AIについては全くの素人なのですが、著者の本は何冊か読んだことがあり本書も手に取りました。結論から言うと非常に面白かったです。独特な視点からAIに切り込んだ書籍だと言えます。本書はAIの技術的な解説書…ではありません。そのような本は巷にあふれています。著者がこの本で指摘するのは、日本でAIを研究している専門家ですら、AIの背後にある哲学的思想や宗教的思想について理解しておらず、それは非常に危ういという点です。
本書は、これまでのAIブーム(1950年代の第1次、80年代の第2次、そして2010年代からの第3次ブーム)について概観し、第3次ブームに火をつけたと言ってもよいカーツワイルの「シンギュラリティ仮説」について紹介します。そしてこのシンギュラリティ仮説を中心に、それらがどのような思想のもと生まれたか、それがいかに「ありえない」かについて哲学や宗教の視点から解説しています。
本書は重要なキーワードが多数ちりばめられていたと思います。まず科学者が持ちがちな「素朴実在論」。それに対抗する、カントからはじまる「相関主義」(世の中の事象はすべて人間という主観的主体を通してしか理解できない)、そしてそれを突き詰めていくことで生まれたメイヤスーの「思弁的実在論」。また相関主義と似た思想としての「オートポイエーシス」理論で、人間や生命体だけが真の意味で「閉鎖・自律的」な存在であり、AIは「開放・他律的」存在でしかないことを示します(ただし本書で示されているように、深層学習しているAIは疑似的な意味で自律的存在として人間の目には映る)。
私が興味深かったのは、メイヤスーが提唱している2つの種類の不確定性と、それを用いた著者による人間・AIの違いについての説明でした。1つめは確率分布で表示できるもの(潜勢力と訳されている)、もう1つは確率分布で表示できないもの(潜在性と訳されている)があって、AIは前者にしか対応できないが、人間は前者だけでなく、後者の不確定性にも柔軟に対応できること(対応できない固体が死ぬ)、つまり言い換えれば行動ルール自体が時々刻々変化する存在だということです。AIはメタルールを自分で変えられません。それに対して人間はいざとなればメタルールすらリライトできるからです。
ちなみにこの2つの不確定性については、フランク・ナイトという経済学者もだいぶ前に区別をしています。彼は、確率分布で表示できるものを「リスク(risk)」、そうでないもの、たとえば世界大恐慌を引き起こすような株価下落については「不確実性(uncertainty)」と区分しています。ナイトは逆に、人間がすべての事象をリスクとして扱おうとする態度が世界大恐慌のような不確実性を見過ごすという警告をしています。ナイトもメイヤスーも後者の不確定性の存在を強調しているわけです。
なお本書の後半では、ギリシャ哲学(ヘレニズム)とユダヤ教(ヘブライニズム)の混交した西洋文化がAIの背後にあることを解説します。私としては、仏教の思想とAIがどのような関係にありそうか、という点に興味が湧いてきましたので、もしそのような本があれば手に取りたいなと感じました。繰り返しになりますが、本書はAIを通じて様々な哲学思想と宗教思想が学べる本になっていて、知的好奇心を満たしてくれる良書でした。個人的にはとても満足しています。続きを読む投稿日:2023.05.08
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