ポピュリズムとは何か - 民主主義の敵か、改革の希望か
水島治郎(著)
/中公新書
作品情報
イギリスのEU離脱、反イスラムなど排外主義の広がり、トランプ米大統領誕生……世界で猛威を振るうポピュリズム。「大衆迎合主義」とも訳され、民主主義の脅威と見られがちだ。だが、ラテンアメリカではエリート支配から人民を解放する原動力となり、ヨーロッパでは既成政党に改革を促す効果も指摘される。一方的に断罪すれば済むものではない。西欧から南北アメリカ、日本まで席巻する現状を分析し、その本質に迫る。
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商品情報
- 著者
- 水島治郎
- 出版社
- 中央公論新社
- 掲載誌・レーベル
- 中公新書
- 書籍発売日
- 2016.12.25
- Reader Store発売日
- 2018.02.09
- ファイルサイズ
- 10.9MB
- ページ数
- 256ページ
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この作品のレビュー
平均 4.3 (49件のレビュー)
-
筆者の主張:
21世紀の欧州のポピュリズムは、リベラルな価値の守り手として、男女平等や政教分離に基づきイスラム移民を批判する。またデモクラシーの立場から、EU離脱の国民投票を提起する。彼らは沈滞化した…既成政治に改革を促し、活性化させてもいる。これは言わば、デモクラシーの内なる敵だ。
となれば、ポピュリズムとはデモクラシーに内在する矛盾を端的に示すものではないか?デモクラシーの論理を突き詰めれば突き詰めるほど、「真のデモクラシー」を訴えて、住民投票でEU離脱を決しようとするポピュリズムの主張を、正当化するからだ。
ポピュリズムは、かつて多様な層の「解放の論理」として現れ、今では排外主義と結びつき、「抑圧の論理」として席巻している(と言われている)。
【ポピュリズムの定義】
①固定的な支持基盤を超え、幅広く国民に直接訴える政治スタイル
②「人民」という「下」の立場から、既得政治やエリートなど「上」を批判する政治運動←本書はこっちの立場
【ポピュリズムの特徴】
①主張の中心に「人民」を置いている
②「人民」重視の裏返しとしての「腐敗したエリート」批判がある
③「カリスマ的リーダー」の存在
④支配エリートの持つイデオロギーが変わると、ポピュリズムの主張もそれに合わせて変わる
ポピュリズム政党が標的とするのは、民主主義それ自体よりも、「代表制」に反発する。
ポピュリズムはデモクラシーを否定するものというよりは、むしろその一つの重要な側面、すなわち民衆の直接参加を通じた「より良き政治」を積極的に目指す試みと繋がる。
政治は民衆vs貴族、資本主義vs共産主義、左翼vs右翼を経て、今は「上の階層」vs「下の階層」に戻ってきた。
過去の民衆vs貴族と、今の上vs下が異なる点は、
民衆は貴族に対し、自分に携わる生来の権利を主張してきたのに対し、今は個人の権利からはやや距離を置き、「善」に基づく「よりよい政治」を主張していること。
ポピュリズムは、デモクラシーを促進させることも阻害させることもある。
促進については、多数の人々をまとめ、政治への参加と包摂を促す。
阻害要因としては、権力分立やといった民主的制度を軽視し、多数派原則によってマイノリティの権利を無視する。
【ポピュリズムの歴史】
自由で包括的な政治・経済制度の国(北アメリカ)と、
社会・経済・政治が圧倒的に不平等な国(ラテンアメリカ)においては、ポピュリズムの受け入れられ方が違った。
前者は、既存の党がマニュフェストの中にリベラル的要素を取り込んでいき、ポピュリズム政党の存在意義を消していったのに対し、後者は、そもそも既存政党による民衆のための公正な選挙が行われなかったので、ポピュリズム政党が躍進した。
ラテンアメリカにおいては、既存政党を中間層が支持する一方、政治的アウトサイダーを貧困層が支持している。この貧困層の「承認の欲求」に応えれるリーダーが票を獲得できるのだ。
【何故現代ヨーロッパでポピュリズムが広がった?】
①グローバル化とEU統合のもとで、各国における主要政党間の政策距離が狭くなり、有権者にとって政党の違いが見えづらくなり、既成政治に対する不満を表明する機会が減ってきたため。そのため、保革まとめて「既存政治」とみなし、これを攻撃する主張が支持を集められるようになった。
②人々が政党や団体への帰属意識が弱くなったことで、政党エリートや団体指導者が人々の「代表者」として意識されず、むしろ利益をむさぼる者として認識されるようになった。
③グローバル化によって格差が拡大し、「負け組」がグローバル化やEU統合を一方的に受け入れる政治エリートに不信がるようになった。
これらの理由から、エリートと大衆が断絶し、ポピュリズム政党の出現と躍進を可能とした。
また、ポピュリズム政党が、その排外主義的思考(移民反対など)、反対派に対する高圧的な対応が批判されながらも、政治空間を「活性化」させ、既成政党に大きな改革を促した。
ポピュリズム政党におけるイスラム批判は、反民主的・人種差別的イデオロギーではなく、デモクラシーや自由・人権・男女平等といった近代的価値の観点から、イスラムを「後進的」と非難する。
【国民投票のパラドクス】
国民投票が広く受け入れられ、世界で最も民主主義的な国と言われているスイスでは、従来、国民投票に訴えて政策を妨害する恐れのある野党や反対派を取り込むため、「協調民主主義」が成立してきた。
しかし、この協調民主主義の存在そのものが、人民の主権を不当に侵害するものとみなされ、ポピュリズム政党の批判のターゲットになった。
また、国民発案による憲法改正の国民投票は、可決されれば行政府の裁量を許さず実施することができ、とうてい考えられないような法であっても、「民主主義」の名のもとに実現することが可能である。
さらに、国民総福祉や女性参政権のように、現状になんらかの変更を加えようとする国民投票は、人間の現状維持的心理から、変更を「否定」する要因が強く、立法の歩みが遅くなる危険性がある。
【イギリスのEU離脱】
ポピュリズム政党であるイギリス独立党が躍進したのは、本党が、「イギリス社会における深い断絶の政治的な表現」であるからだ。
50年前のイギリスでは、低学歴の白人労働者階級が社会の中核だったのに対し、現在では若い世代のホワイトカラーが中核を担う。若い世代はEU志向の価値観なのに対し、昔の世代はイギリス志向の内向きの価値観であった。
こうした置き去りにされた低所得者層・中高年ブルーワーカーに対し、既存政党が彼らの関心を代表していない事態に陥り、新生党が票を伸ばしていった。
そして既存政党が「置き去りにされた人」を無視し、都会のエリート層が彼らの価値観を尊重できなかったことが、EU離脱に繋がった。
【グローバル化するポピュリズム】
現在の世の中では、ラテンアメリカにおけるポピュリズムは、労働者を基盤とし、社会改革や分配を求める「解放」志向を持っているのに対し、ヨーロッパでは、「リベラル」や「デモクラシー」に依拠しつつも、移民・難民排除を柱とする「抑圧」的な傾向がある。
これらの違いは、どの層を「特権層」と定義づけているかの違いだ。
ラテンアメリカでは貧富の差が激しく、エリートや裕福層を「特権層」とみなしており、彼らの権利を分配するために政府の権限の拡大を欲すのに対し、
ヨーロッパでは貧富の差が小さく、福祉国家化によって「便益」を受けている生活保護者、公務員、移民難民を「特権層」と規定し、その「再分配」の結果によって保護された層を引きずり下ろすことを訴える。
この「分配されてないことへの批判」→「再分配への批判」という図式においては、両者は民主主義が時代を経るに従って批判の対象を変えていったという、いわば地続きの結果であると言える。
また、ラテンアメリカは経済的な格差是正を中核とするのに対し、ヨーロッパは多文化主義などの、「支配的価値観・文化観」への対抗を中核とする。
【感想】
ポピュリズムとはなにか を読んで
本書における筆者の主張は、ポピュリズムとは民主主義を脅かすものではなく、むしろ民主主義を煮詰めた結果できた「純度の高い民主主義」であり、それゆえ、民主主義を推し進めることでポピュリズムを排除するのは困難である、ということだ。
これには3つの理由がある。
1つ目は、ポピュリズムの担い手が近代的価値をバックボーンにしているからだ。
イスラム排除、移民反対といった急進的なマニュフェストを掲げる際の理由として、「イスラムという女性軽視文化への拒絶」や、「社会秩序の安定」といった、合理的な理由を挙げることが多い。頭ごなしの拒絶よりも、デメリットを比較検討した結果の民主的判断を寄る辺にしているのだ。
2つ目は、ポピュリズムは既存エリート層への下層からの突き上げという形をとっており、これは低所得者~中産者層といった、「社会の大多数を占める成員」の利益表出の結果であるからだ。
3つ目は、国民投票によって、憲法改正やEU離脱などの重要事項が決定されてきたことである。
国民投票にかけられる法案の種類にもよるが、可決された法案のうちのいくつかはリベラルな価値観に異議を唱えるポピュリズム的なものだ。
これは、既存政党における協調民主主義が、「取り残された人々」--国内産業の衰退を放置した結果生まれた低所得者層--を無視することに繋がり、その結果、国民の間に溜まったうっぷんが、民主主義の究極系である国民投票という形で表出したのだ。
ポピュリズムを端的に言えば、民主主義における舵取りの違いである。
ポピュリズムは民主主義を脅かすものではなく、従来の民主主義が見ていた方向と違う方向を見ながら前を進んでいる。
そして、見ている方向が違うということは、目をそらしている対象も違う。
従来のリベラリズム政党が自国民の低所得労働者から目をそらしているとすれば、ポピュリズムは人種間平等や労働力人口の減少から目をそらしている。
彼らは時に国民の政治的関心を高め、既存政党への変化を促す呼び水にはなるものの、使い方を間違えると「ノイズ」になり、国民の分断を招くもろ刃の剣だ。
現代における利益者集団の種類は大幅に増えてきている。若年層、高齢者層、ブルーワーカー、ホワイトワーカー、シングルマザー、移民、LGBTといったように、全ての国民をカバーすることは不可能に近い。
しかしながら、ポピュリズムは、そうした国民を「特権階級・非特権階級」と強引にカテゴライズしなおす。また、カテゴライズしなおした後は、特権階級を共通の「敵」として攻撃を煽ることで支持を集めるという、恐ろしく社会主義的なアプローチをとる。
ポピュリズムをどう扱うかは、今後の社会を決める重要な課題となるだろう。続きを読む投稿日:2020.07.31
各国のポピュリズムについてよく理解できた。ラテンアメリカとヨーロッパのポピュリズムのありかたの比較が興味深い。2016年の本だが、現在はどうなっているのか、別の本で学びたい。
投稿日:2023.10.03
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