家族をテロリストにしないために :イスラム系セクト感化防止センターの証言
ドゥニア・ブザール(著)
,児玉しおり(訳)
/白水社
作品情報
フランスでは、ISのような過激派組織に洗脳される若者が増加し、大きな社会問題となっている。著者は、子どもを組織に取り込まれて苦悩する約400の家族に接し、その恐るべき実態を分析した。
第1部では、組織による洗脳や取り込みの手口が具体的に説明されている。イスラム系セクトのメッセージはインターネットによって流布され、段階を追って巧妙に若者を洗脳していく。食品・薬品やエコロジーへの批判、消費社会のスキャンダルなど、組織が作成する動画を通じて、若者は「世界は嘘だらけで退廃している」という思いを抱く。自室という安全な空間で、次々とパソコン画面をクリックしていくうちに、その思いは「世界をよくするために何かをしたい」「自分はそのために選ばれた人間なのだ」と変容し、より攻撃的で過激な思想へと飛躍していく。
第2部では、組織や洗脳から脱却させる方法を示す。いったん洗脳されてしまった若者を脱却させるためには、家族の協力が欠かせない。脱却に成功した人の体験談や感化防止センターの支援は大きな意味をもつ。
これらの事例は他人ごとではないはずだ。全世界に警鐘を鳴らす生々しい証言である。
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この作品のレビュー
平均 4.3 (4件のレビュー)
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なぜそんな明らかなことにはまっていくのか、と疑問に思ってたのですが、割とそこら辺に蒔かれていて、簡単にころっといってしまうのだな、と。
最近のあの事件にも通じるものがあるのだろうか...、と思ってしま…いました。続きを読む投稿日:2017.11.18
翻訳された本の題名が本の内容とちょっと違うなと思って確認したら、原著の題名は「どのようにジハーディストの手から逃れるか」だった。「魔の手」といってもおかしくないような洗脳の手口からいかにして子供たちを…守り、救い出すか、無差別殺人などのテロリズムの手先として利用されることを阻止するかを実例をもって解説したのが本書である。著者はこういう活動をしているので、カルト集団から目をつけられて護衛付きで生活しているそうだ。まさに命をかけて戦っている人だ。
ISなどの過激思想テロリストグループがどのような手口でティーンエイジャーを洗脳するのは私もよく知らなかった。YouTubeで動画を見る、そこに上がってくる関連画像を次々に観ていくことで正義感の強いまたは社会のあり方に疑問を抱いているようなティーンエイジャーたちがいとも簡単に自分を捨て去っていくのである。そんなの誰にでも起こりうるじゃないかと恐ろしくなった。
フランスでは最近(2021年)でもパリ郊外の高校の教師が学校前で殺されて首を切断されるという事件が起こり、犯人は20歳前の男の子だった。過激思想に洗脳されると想像もできないような異常な事件を起こすので、この手の「ジハーディスト」を作り上げる集団には大変な警戒心がある。が、学校などでも洗脳の手口はそれほど教育されていないのではないか。
キリスト教系、イスラム系にかかわらずこのような集団にとって宗教は隠蓑で、内実は人々を洗脳して支配することで主義主張なりを広めようとするカルト集団である。フランスの場合はイスラム系が圧倒的に目立つが、極右集団もよく似ていると思うし、日本でも新興宗教のオウム真理教が台頭して地下鉄サリン事件まで発展したし、どこの社会にも排他的で危険なカルト集団が生まれうる余地があるのだと思う。日本人の私としては、若い時にオウム真理教の事件があったことや、自分の大学時代に奇妙なカルト宗教グループがいとも簡単に18歳の大学生(たち)を洗脳するかを目の当たりにしていたので、方法がyoutubeやフェイスブックになっただけで、心の隙間に取り入るということ自体は同じなのだなと思った。
短期間の間に(1ヶ月や1週間も可能)家族や友人という親しい人々がカルト集団の「友人」「兄弟姉妹」に置き換わり、感情が抑制され、最終的にはロボットのようになってどんなことでもできるようになるのが洗脳の成果である。私はフランスの移民家族の子供たちで、家族が社会に適応できなかったり低所得の家庭出身者が多いのかと思っていたのだが、実際はムスリム家庭だけでなくユダヤ系だったりカトリックの家庭、中流階級の家庭の出身者も多いのだそうだ。要するに誰でも取り込まれる可能性があるということだ。
近年は洗脳の過程にある若い人たちがフランスなどの欧州全土からトルコなどを経てシリアなどに入国することが、大きな問題となっている。男の子は戦士(このような言葉を当てはめるのも適当かどうかわからないが)に、女の子はそれを支える妻になるのだが、著者は渡航に至るまえに阻止することを目指している。実際に現地に行ってしまうと、帰ってくるのが難しくなるためだ。たとえ帰国しても、洗脳されたままの状態で社会的には危険分子になる可能性もある。だから、著者はとにかく渡航前に洗脳を解くことに全力を注ぐ。体験者や家族などを巻き込んで、その子に合った方法で一度失った自分を取り戻す手助けをする。しかし、一度洗脳されたら、洗脳から解放された後も本来の自分に戻ることはできない、という現実的な一面も説いている。
読み終わって、とにかく、自分の子供がこの手のカルトの餌食にならないことを願うよりないと思った。親としては、こういう集団の手口をもっと勉強して、子供の行動には注意していくべきだろう。続きを読む投稿日:2021.12.04
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