帝国の参謀 アンドリュー・マーシャルと米国の軍事戦略
アンドリュー・クレピネヴィッチ(著)
,バリー・ワッツ(著)
,北川知子(訳)
/日経BP
作品情報
「軍務に就いたことは一度もないのだが、マーシャルはまさに『冷戦の戦士』だった。戦略家として、国防に携わる政府高官の助言者としてのキャリアは、米ソが対立した冷戦時代から中国の台頭、イスラム過激派の出現にいたる長期に及ぶ。 2015年に公職を退いたときには、冷戦を経験した世代の最後の1人だった。」(日本語版への序文) アンドリュー・マーシャルは「ペンタゴン(米国防総省)のヨーダ」と呼ばれた稀代の戦略家。ペンタゴンの総合評価室 (ONA)を率いて、40年以上にわたって対ソ戦略から今日の対アジア、対中戦略をデザインしてきた。マーシャルの軌跡を通して米国の世界戦略の変遷を描いた。
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商品情報
- シリーズ
- 帝国の参謀
- 著者
- アンドリュー・クレピネヴィッチ, バリー・ワッツ, 北川知子
- 出版社
- 日経BP
- 書籍発売日
- 2016.04.14
- Reader Store発売日
- 2017.01.16
- ファイルサイズ
- 14.5MB
- ページ数
- 502ページ
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この作品のレビュー
平均 3.4 (12件のレビュー)
-
本書は、アメリカ国防総省のネットアセスメント室長として長年アメリカの軍事戦略の根本を担い続け、そのキラ星が如くの弟子?を生み出してきたことから、「ペンタゴンのヨーダ」と呼ばれた男の生涯の実績を綴ったも…のである。
著者も長年「ヨーダ」とともに仕事をしてきた弟子?である。
原題は"THE LAST WARRIOR"(最後の戦士)。
ただ、本書のスタンスとして、最初の「著者の言葉」では「単なる伝記ではなく、彼の知の歴史を辿ること」とある割には、しょっぱなから延々と彼の歩んできた道が羅列されているだけであり、アメリカ国防に関する機密事項のためか彼の「知の歴史」ともいうべき肝心要の思考や理論はほとんど記されていない。核心には触れないまま無味乾燥な名詞がこれでもかと並びたてられているので、その記述の多くはその筋以外の者にとっては頗る退屈な内容が続くものであったことは否めない。
さらに、RMA(軍事における革命)の記述では、著者自身の実績にも多く紙数を割いているため、「ヨーダ」との関連がわからなくなってきた部分もあり疑問符が連打されるところだ。
また、前後の文章の繋がりから、明らかに日本語訳のミスと思えるような箇所もいくつもあり、この辺りは読みにくさを助長していたかもしれない。
最も「ヨーダ」自身が、自分の思考の根本であるネットアセスメントというものを明確化・理論化をしなかったとのことであり、何となくの彼の考え(笑)を一書にまとめあげたことに関しては、広く世に知らしめたという点で賞賛されてもいいだろう。
本書の価値の多くは、ペンタゴンの奥深くで営まれた「知」を表舞台に出したことにあるといえる。
それにしても、本書での彼の「知」の正味の記述はそれほど多くないものの、彼の洞察力と基本戦略は驚くべきものであり、特筆に値することは疑いない。
本書では「ネットアセスメント」を「総合戦略評価」と訳す。
その意味は使用する各人によって定義が異なるともいい、本書の主人公であるアンドリュー・マーシャルについていえば、敵と味方の軍事力を正当に位置付け評価すること、のような意味として仕事をし、常に適切な問いを設定した上で、それに対する「診断」はするが「処方」はしないことに徹していたという。
彼が所属した代々の国防長官や大統領に対し、彼らが適切な判断や政策ができるよう累々と現在の状況や将来起こり得る可能性について評価し、提供し続けてきたということである。
第二次世界大戦後、アメリカ一強の世界勢力図に対抗し、ソ連の核開発と攻撃能力の向上により米ソ冷戦の方向性が決定づけられた時、互いのその強大な兵器の存在により抑止が成り立つのか、仮に抑止が失敗した時の敵の先制攻撃後に反撃能力は維持できるのか、という点はアメリカにとって国家戦略上の大きな課題であった。
そのような状況で、マーシャルが行った仕事の成果はおおよそ次のようなことが挙げられる。
・アメリカの反撃能力についての評価を行い、海外基地、海軍力、B1戦略爆撃機の開発などには力を入れるべきとしたこと。
・ソ連の戦力態勢の意思決定は、決して合理的な目標を持ったものではない、システム分析やゲーム理論で計るのは有効ではなく限定合理性となっており、大組織一般に見られるように様々な組織上の制限や妥協により生み出されているとしたこと。
・ヨーロッパにおけるNATO軍とワルシャワ条約機構軍との我彼の戦力分析で、単に戦車の台数、大砲の数、兵士の数といったシステム分析だけに留まらない、補給の充足度合い、兵士の熟練度、稼働率、損傷後の回復力などを加味した真の戦力を数値化し、実際はNATO軍が地上戦敗北の末に戦術核を使うような状況ではなく、容易にワルシャワ条約機構軍はNATO軍に勝つことができない状況を明らかにしたこと。
・ソ連の軍事力の進歩に疑問を持っていたマーシャルは、GNPの6~7%が軍事費というCIAの試算とは裏腹に、経済力が大きく劣ると見なされるソ連がなぜアメリカに対抗できるだけの軍事力を整備できるのかという問いを設定する。
長年の研究の結果、ついにはネットアセスメント上、ソ連はGNPの40%程度を軍事費としていると判断。戦略として、アメリカの特に強い部分についてはそれを超えられないようなハードルを課すとともに、ソ連の反撃戦略が完全主義であることを見抜いた上で、例えば穴だらけのミサイル防衛網であってもそれを宣伝することで、過重なコスト増を強要しソ連経済の破綻を誘導したこと。
・RMA(軍事における革命)を提唱し、精密誘導兵器やネットワークの向上、情報戦争、自動偵察攻撃複合体、電子制御などのイノベーションに伴い、軍組織や運用を抜本的に作りかえる必要があるとしたこと。
そこでは空母などは精密打撃に対し脆いだけのプラットフォームと主張している。
・中国の台頭を予測し、そのA2/AD(接近阻止・領域拒否)能力の向上に伴う対抗策が必要であることを早くから喚起したこと。
まさにアメリカが何十年にもわたって実践してきた戦略そのものであり、現実を認識し先を見通す能力については驚嘆せざるを得ない。
政権が代われば政府職員も丸ごと代わるというアメリカにあって、昇進させることもなく延々とマーシャルのような人材に戦略を考えさせ続けたアメリカという国の底力をみる思いである。常に核抑止の失敗という巨大なリスクに晒され続けたアメリカの英知だったともいえるだろう。
かつて経済大国と言われた我が国の失墜と度重なる大企業の不祥事や破綻は、戦略が無かったことの明確な表れであり、思考停止と希望的観測に陥りがちな日本ではこのような「軍師」が誕生することはないのかもしれない。
功績という欲もなく表舞台に出ることも欲しないままマーシャルは93歳で退任したということだが、次なるマーシャルはいるのか?果たして不気味なところである。続きを読む投稿日:2017.08.31
すごいんだろうなと思うが、よくわからなかった。コアな部分は書かれていないのか? ソ連と戦う戦力を得る方向性は必要だが、どのような戦力を準備すればソ連が防衛費過多に陥るかを分析した視点は面白い。
投稿日:2022.12.25
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