村上春樹、河合隼雄に会いにいく(新潮文庫)
河合隼雄(著)
,村上春樹(著)
/新潮文庫
作品情報
村上春樹が語るアメリカ体験や1960年代学生紛争、オウム事件と阪神大震災の衝撃を、河合隼雄は深く受けとめ、箱庭療法の奥深さや、一人一人が独自の「物語」を生きることの重要さを訴える。「個人は日本歴史といかに結びつくか」から「結婚生活の勘どころ」まで、現場の最先端からの思索はやがて、疲弊した日本社会こそ、いまポジティブな転換点にあることを浮き彫りにする。
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商品情報
- シリーズ
- 村上春樹、河合隼雄に会いにいく
- 出版社
- 新潮社
- 掲載誌・レーベル
- 新潮文庫
- 書籍発売日
- 1999.01.01
- Reader Store発売日
- 2016.12.23
- ファイルサイズ
- 0.6MB
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この作品のレビュー
平均 3.9 (197件のレビュー)
-
30年?くらい前の対談集
阪神淡路大震災や湾岸戦争
サリン事件のころ...
対談集なので読むのは易いけど
後から自分なりに考えることが多く
感想をまとめるのは難しい
ブックオフにて購入投稿日:2024.05.27
このレビューはネタバレを含みます
【自己治癒的な作業】
レビューの続きを読む
1995年11月に、村上春樹さんが京都にいる河合隼雄さんのところへ行き、対談されたときのお話。
書きおこしに加えて、それぞれのコメントの追記があり、より話の内容への理解を深めら…れる形になっていました。
阪神淡路大震災とオウム真理教の地下鉄サリン事件があった年。
そして村上春樹さんは、
1994年に『ねじまき鳥クロニクル』の第1部、第2部を出し、
1995年にはアメリカから帰国後に、8月第3部を出されたところでした。
この作品を取り巻く思考が、河合先生とのお話の中で続けられていて、
とても興味深く、
私は昔に一度読んだのですが、
まったくの無知でしたので、
この対談を踏まえ、
再読したいと思います。
・コミットメントとデタッチメント
村上春樹さんが、小説を書く際に考えられている概念。
小説的、外部的、という言葉で説明されていたけれど、
内側にある自分ー個人として どう社会と外部と関わるか
河合隼雄先生が言われていた、「自分の全所在をコミットさせること」を学ぶ。
プロとして仕事をする、ということなのか、
人生として何をするか、という話なのかな、なんて勝手に考えながら。
自分は一人しかいない、
人生は一度、
その事実に向き合うことでもあるように感じました。
対談では、社会的な出来事にも触れられ、この言葉は引き続きこの対談のキーワードとなっていました。
・非言語
河合先生が推進されていた箱庭療法に関心を寄せる村上春樹さん。
イメージを使った心理療法ですが、先生は、言語かだけが治療ではないことが強調されていました。
視覚思考や、言語化されるプロセスを経ない、ある種潜在意識下の心理に焦点を当てているという点、
先日読んだ、『#第1感』の本や『#ビジュアルシンカー』の本とも通ずる部分があり、
私自身も興味深く読みました。
村上春樹さんは、小説を書くことにこの心理療法に似たような部分があり、自己治療的な行為だと話されています。
自分でもうまく言えないこと、説明できないことを物語に置き換えていく、と。
Spontaneous な物語でなくてはいけない、なぜなら、「予期せぬものに対して、さっと素早く対処する際のスタイルの中に、小説的な意味が含まれている」、と。
意識的な言語化のプロセスは、ある種思考を完結化するプロセスでもあるので、
その中で失われてしまう情報がある、
小説は、言語で成り立つけれども、現実世界にとらわれないイメージ、を生み出すための想像性があるので、
そこには非言語の思考を伝える可能性があるのだなーと感じました。
そして、「部分的には読者も癒すもにでなくてはならない」とも。
読者からのプラス・マイナスのフィードバックも、自己治癒の一部であり、それを「手応え」として話されていました。
・社会の矛盾を抱える自己
河合先生曰く、
60年代の反体制への抵抗、
本質的に体制に組み込まれている反体制に、コミットすることがいかに空しいか。
そして今(1995年当時)、反抗するものがない時代。
オウム真理教の存在、阪神淡路大震災とボランティア、
アメリカに在住されていた村上春樹さんにとって、湾岸戦争は個人的にも衝撃的出来事だったようです。
「日本の戦後的な価値観が、世界でほとんど汎用性を持たない」、という印象的な言葉もありました。
社会の中の矛盾とどう付き合っていくか、自分がどう社会とかかわるか、
矛盾の存在に対して、統合性は必要ない、バランスをどうするか、とでお二人が一致していて、
既存のものへの対抗ではなく、異なる次元を生む、というある種の解決策。昇華、というのか。
自分なりのスタイル、「生き方そのものという作品」を新しく作るというコミットメント、として話されていました。
・井戸掘り
『ねじまき鳥クロニクル』は井戸が一つの舞台となっていますが、
その井戸掘りについて、とても興味深い対談がなされています。
井戸掘りも、治癒であると。
村上春樹さんがマラソンなどで身体を鍛えていることと、
それが文章にも表れる、とうことに触れられていましたが、
身体を伴う作業という点では、修行にも似ているように感じる。
作品のテーマにもなっている、夫婦、結婚について、
一側面を強調すると、
苦しむため、井戸堀りするために結婚する、と解釈される河合先生。
現代、結婚とは、協力するだけじゃなくて、理解したい、そのために必要なプロセス。
相手に自分の欠落を埋めてもらうのではないこと。
自分の欠落を苦しいながらも認識すること、明らめる、直視する内的な経験があるということ。
男女関係が、井戸堀の治癒に移行していく必要性。
その前提の考え方は、
誰もが持っている欠落、皆ある程度病んでいる、と村上春樹さんが話しています。
人間は自分が死ぬことを知って生きる特殊な動物であり、これもある意味病んでいると言える。
一人の人間のことに必死になっていたら、世界のことをかんがえざるをえなくなってくる、ということは河合先生が話されていましたが、
一人の人間は世界の縮図でもあるような、
生きた人間と深くかかわることが自分と向き合うことになるような、
そしてそれが社会、世界と向き合うことになるような…。
・壁抜け
小説を書くにとどまらず、芸術行為一般について、治癒的な作用を話されていました。
「壁抜け」も、村上春樹さんの小説の中で用いられている言葉ですが、
みんなに通じる表現で、掘り下げる、超えることについての表現として、思考されていました。
村上春樹さんは小説で言葉にしているものでも、どういう意味なのか、
「作者にも分からないことがいっぱい入っている」、「小説が自分自身より先を行っている感じがする」、と言っていて、
この対談そのものも、その言語化されていない思考を模索し明らめていくような作業が続いているといった一面を感じました。
より速いスピード、より多い情報量、より楽な方向を目指す現代社会に対して、
小説を書くことが、その一般的風潮と逆な個人的作業であること。
フィクションとノンフィクションについても、
河合先生が、
実際おもしろい偶然がたくさんある、偶然待ちの商売をしている、とユーモア交えて話されていましたが、
理性では理解できない部分が現実にあること、時々忘れているかもなーと思ったり。意識的に消している部分もあるのかも。
平和の時代に書く暴力性、本能的なもの、
そして
テクノロジーの時代に書く死、
そうして創造された作品だと思うと、とても深いですね。
「苦痛のない正しさは意味のない正しさ」
人生の意義の深め方、ともいえるのでしょうか。
村上春樹さんが、日本に戻る必要性を感じ、
何か暴力的なことを予見していた当時。
その後30年をどう過ごされ、どのように今解釈をされているのかも気になりますね。
とても興味深い対談でした。続きを読む投稿日:2024.06.08
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