人間はどういう動物か
日高敏隆(著)
/ちくま学芸文庫
作品情報
人のおっぱいはどうしてこういう形になったのか。一夫一妻の論理と流行のファッションとの意外な関係とは。少子化のコストベネフィット。戦争の背後にある、遺伝子に組み込まれた攻撃性とは別の「美学」の問題。科学と神はほんとうに対立するのか。――動物行動学の草分けとして長く第一線で活躍した著者が、あえて動物学的見地から「人間」を問う。言葉をもって概念を生み出すようになった人間は、どのような存在になったのだろうか。身近で多彩な例を引きつつ、表面的な現象の奥にある人間の行動論理を、やさしく深く考察する。
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商品情報
- シリーズ
- 人間はどういう動物か
- 著者
- 日高敏隆
- ジャンル
- サイエンス・テクノロジー - 生物・バイオテクノロジー
- 出版社
- 筑摩書房
- 掲載誌・レーベル
- ちくま学芸文庫
- 書籍発売日
- 2013.06.10
- Reader Store発売日
- 2015.08.28
- ファイルサイズ
- 0.2MB
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この作品のレビュー
平均 4.3 (10件のレビュー)
-
たくさんの本を出されているのに、日髙先生の本はなぜかこの1冊しか読んでいません。そしてこれがとても印象的でした。それほど古い本ではないのですが、すでに先生が他界されているということもあってマイ古典ベス…トに入れました。そして再読しました。タイトルはとても大きなテーマなのですが、中身は小さなエッセイの集まりです。いろいろな雑誌などに書かれたものを1冊にまとめたのだと思います。
いきなりですが、とても興味深いデズモンド・モリスの説を紹介しましょう。「人間もほ乳類の仲間であるから、赤ん坊を産んで、乳で育てる。おっぱいは、赤ん坊に乳を与えるための、まさに授乳の器官である。ところが、人間の女のおっぱいは美しいものだということになっている。これはなんなのだろう。じつは、ほかの動物のおっぱいはみんな細長い形をしている。・・・ところがなぜか人間のおっぱいは非常に丸く、乳首が短い。・・・赤ん坊に母乳を与えようとするとき、・・・鼻が押さえつけられて息が出来ずに泣くことになる。・・・人間のおっぱいは変な形で、母乳を与える器官としては具合が悪くなってしまっている。・・・どうしてこういう形になってしまったのか。それは人間が直立したことと関係があるのだと、モリスは言っている。・・・類人猿のメスが、自分が優れたメスだということを示す信号はお尻である。・・・赤い尻はメスであることをあらわしている。・・・四つんばいで歩くと、お尻が後ろから見える。オスはそのお尻を見て「あ、いいメスだ」と思って追いかけていく。人間の場合、直立して互いに向き合って話をするようになると、後ろ向きの性的信号は、思ったほど効果を生まない。・・・それで前にあるおっぱいをなるべくお尻に近いものに変えてしまったのである。」なるほど、おもしろい。いや、でもそれって本当かなあ。まあ、いろいろな考え方ができるわけで、他にも擬態の例はいろいろあるので読んでみてください。
次はハヤブサの話題を。猛禽類であるところのハヤブサは断崖絶壁に巣をつくるのだそうです。ところが最近(今現在がどうか不明ですが)アメリカの大都会ニューヨークに住み着いて数を増やしているのだそうです。一体どこに住んでいるのでしょう。それは、ちょっと古い高層ビルの壁。ちょっとした張り出しの下などに巣をつくるのだそうです。そんなところまで天敵のキツネなどは上ってこられないから。
今度はアオムシの実験を紹介しましょう。モンシロチョウの幼虫であるところのアオムシはアブラナ科の植物だけを食べます。これはきちんと遺伝的に決まっている。ホウレンソウやレタスはぜったいに食べない。キャベツとかダイコンはアブラナ科の植物でカラシと同じ成分を含んでいる。そこで、ただの紙切れにカラシをぬって与えてみると、食べても何の栄養にもならないのに平気で食べてしまうのだそうです。かわいいね。
人間の子どもは小さいころは何でも口に入れます。それが辛かったり、口に入れて痛かったりしたら、それは口に入れてはいけないものだと学習するのでしょう。
鳥のひなは親鳥が食べるものをよく見て同じものを食べるようにします。「親の背中を見て育つ」ということですね。
ウグイスの「ホーホケキョ」という鳴き方は、以前は遺伝的にそなわったものであるという説があったそうですが、実験するうちにそうではないことが判明しました。ウグイスのひなを親と離して、音の聞こえないカゴの中で育てる。そうすると、「チャッチャッチャ」という地鳴きはするが、「ホーホケキョ」とは鳴けなくなるのだそうです。ちゃんと鳴けるようにするには、テープでもいいので、「ホーホケキョ」という鳴き声を聞かせて覚えさせるといいのだそうです。
しかしいろいろな実験をする人がいるものですね。これはどうしてだろう、もしこうしたらどうなるのだろう、と何でも不思議に感じる好奇心が必要なのですね。人間の教育については、日髙先生はこんなふうに書いています。「子どもは、自分でおもしろいと思ったことは、どんどん取り込んで育っていくものだ。好奇心があれば身につける必要のあるものを自分で選んで、取り込んで、勝手に育っていく。教育とは、結局、そういう「場」をつくることなのである。」皆が夢中になって学ぶ環境をつくるのが私たちの仕事であると、あらためて考えさせられました。
あとがきで先生は次のようなことを言っています。「今われわれにとって重要なのは、昔からたえず問われてきた「人間はどう生きるべきか?」を問うより、「人間はどういう動物なのか?」を知ることであると思うようになった。」そして、それを知るために、動物行動学と呼ばれる学問と付き合ってこられた。動物行動学は、「それぞれの動物がなぜそのような行動をしているのか?」を知ろうとする学問です。その研究が、人間がどういう動物なのか、ひいてはどう生きればいいのかを知るヒントになっていくのでしょう。
最後に、解説として作家の絲山秋子さんがいいことを書いているので紹介しましょう。「むずかしいことをむずかしく書く」のは誰でもできる。「むずかしいことをやさしく書く」のが大切。しかしそれは「わからないことを都合よく理解する」こととは全く違う。利己的遺伝子で有名なリチャード・ドーキンスは「利己的なのは遺伝子であって、個体ではない」と発言している。それは、動物行動学が恣意的に誤った方向で利用されることに危機感を感じたからではないか。日髙先生もモリスもドーキンスもそれから動物行動学を確立したコンラート・ローレンツも皆「むずかしいことをやさしく書く」のが上手だったようです。このあたり、ほとんど手付かずです。まだまだ読んでいない本がいっぱいあります。興味をもたれた方は、本書を入り口として、いろいろと読み進んでいってみてくださいね。(2016年5月再読)
光合成の授業をするときはいつも、「雑草(なんていう名の草はないけれど)だってちゃんと光合成をして、二酸化炭素を吸収して酸素を作ってくれている。地球温暖化の防止に役立つ。だから、今度、草むしりのときには、そういう理由で、先生に草は抜いちゃいけないと言えば良いよ。」などと冗談で言っている。子どもたちは喜んでくれる。しかし、日高先生の本を読んでいると、あながち間違っているわけでもなさそうだ。我が家の前は芝生にしているが、すぐに雑草(そんな植物はないが)が生える。抜こうかどうするか迷うが、抜いてもすぐ生えてくるから、すぐ抜いてしまう。(・・・から、放っておく。どちらにしても論理的に成り立つ。)これは、見た目の問題。芝生があると、緑があって、自然があって良いよねとなる。けれど、草むしりをせずに放っておいた方がやはり自然なのか。自然という言葉自体をどうとらえるのか。ニューヨークのビルの壁面にハヤブサが巣を作るという。これは、人工の断崖絶壁に作られた自然。生命力というのはすさまじい。ローレンツとか、モリスとか、ドーキンスとかも読んでみたいと思うけれど、とりあえず日高先生の本で、読んだつもりになっておこうか。しかし、亡くなられてからの方が、次々に本が出てくるというこの不思議。続きを読む投稿日:2014.10.01
日本の動物行動学の先駆者のお一人である故:日髙先生のエッセイ的な本。(2008年) 文章が知的でユーモアがあり面白いです。
3章から成り、表題作(人間とはどういう...)は、第1章だけですが、読み…終えると、やはりタイトルをもう一度考え直してしまうから凄いです。
ドーキンスの「利己的遺伝子」説や、科学(学問)とは「ものの見方が変わる」もの、「共生」とはせめぎ合い…etc.動物から自然、教育や宗教、幽霊、頭の良さなんかにも少しずつ触れています。
言語がますます新しい概念をつくり、先生のいうイリュージョンや「美学」を生み出し、戦争をする、アンチ•エイジングに狂奔するー「人間」という動物は、果たして賢いのかー サラリと考えるきっかけをくれる本でした。
おまけ 以下、第1章より
“頭についてはこれでよいとしよう”(p.20「直立二足歩行」より)
“ぼくはそれをコム・デ・ギャルソン戦略と呼んでいる”(p.44)
“「コスト・ベネフィット」計算のことだ”(p.45「少子化の論理」より)
“遺伝子は残さなくてもよいから、ミームは残したい、と思う人もいる。(p.50)
“学習と遺伝は対立するものではなく、学習は遺伝的プログラムの一環であるということになる。なにを、いつ、どういう形で学習するかということも、遺伝的に決まっているらしい。しかし、それは種によってちがっている”(p.68)続きを読む投稿日:2024.03.06
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