死刑肯定論
森炎(著)
/ちくま新書
作品情報
死刑論と言えば、これまで存廃論議に終始していた。存置にしろ廃止にしろ、正義論を根拠に語ると、結局は優劣を比較したり、感情論に終始したりするなど、相対的なものでしかなかった。従来強調される「人的道な見知」「犯罪の抑止効果の有無」「誤判の可能性」…には、大きな錯誤があるのだ。本書は、これまでの議論や主張をコンパクトに整理。人はなぜ死刑を求めるのか、あらたな視点で死刑の究極的論拠をさぐり、罪と罰の本質をえぐりだす。
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この作品のレビュー
平均 3.4 (6件のレビュー)
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国際的には死刑廃止国は90以上、準廃止国(死刑執行停止中や軍事法廷での特別なケースのみ実施)を含めると140ヶ国にものぼる。
こうした単純な統計比較や死刑は残酷だとかの感情論、人が人を裁くのは間違って…いるなどのべき論に安易に流されるべきではありません。やはり、自分の頭で考え抜いて自分なりの決論を出すべきです。
本書は、被害感情の問題、被殺者の数の問題、更生問題を論じ、死刑判断(被害者の復讐原理、犯罪者の悪性原理、社会の安全原理)にも触れています。
そうした考察の上で、筆者の立場は死刑存置となっており、その背景には「死刑が廃止された社会では、自分が殺されるのは絶対嫌だが、自分が他人を殺すのは構わない」というモラルハザードの危険性が避けられない点も含んでいるようです。
私も死刑存続支持ですが、以前に日垣隆氏の弟さんの死についての文を読んで、さらにその意を強くしました。
死刑賛成の理由は、人の命に軽重はないという真理、であれば人を殺せば自分の命でしか償えないという大前提にあります。(もちろん、どうしようもない過失や判断能力の有無など情状酌量の余地がある場合もあり。具体的には、幼少より実父にレイプされ続けた娘がやっと好きな人が出来てその結婚を反対されやむなく父親を殺したケースとかの、被害者が加害者以上の悪事を働いていた場合など)
そして、基本的には、年齢で殺人が許容される少年法や心神耗弱による減刑も無くすべきです。どんな理由があれ、殺された人が現実にいる事実にきちんと向き合うべきです。
その上で、死刑にも強弱をつけるべきだと考えます。想像を絶する残虐な殺人には、殺された人とできるだけ同じ条件で執行し(生き埋め殺人なら、生き埋め死刑)、それ以外は絞首刑ではなく薬物注射で苦痛なく執行する。そして、死体の臓器を有効活用すれば最後の社会への罪滅ぼしと文字どおり最期のご奉公となる。
また、冤罪の問題にも触れておきます。まず、死刑廃止論の根拠とされる冤罪を無くすために、取り調べの全面可視化はもちろん、検察の持っている証拠は全て弁護側にも開示し、全ての証拠を元に裁判すれば、ありえない冤罪はかなり減らせると思われます。まず、そうした努力から始めるべきです。続きを読む投稿日:2023.05.28
死刑の賛否について、多角的な視野から真摯に検討されている。著者は元裁判官であるが、これほど真剣に死刑について考えている裁判官がどれくらいいるか。
もっとも、著者は、結局のところ、死刑賛成の根拠にも…穴のあることを認めつつ、死刑制度には生命尊重の規範確立という重大な機能があるとする。これは実に巧みで、死刑制度は凶悪事件の抑止になっていないという統計的事実とは無関係に、生命尊重の規範から死刑制度の正当化を図れる。しかし、死刑は国家が市民を結局のところ殺すのであるから、この世には生命を尊重されない者もいる、という生命尊重の規範への逆効果にもなるはずである。
著者は持論である裁判所の権力志向への懐疑から、死刑制度の問題点も指摘する。おそらく、死刑でリポートを書く大学生ならば、本書を読んで、死刑はやっぱり必要、でもその基準には問題がある、と、簡単に感化されるだろう。その意味でも、本書は死刑肯定論としてやはり巧みである。
また、本書では、死刑廃止国は死刑を批判しつつ、戦争を肯定して矛盾であるとして、死刑廃止国の欺瞞と死刑存置かつ「戦争放棄」をしている日本の正当化を図る。これは、死刑賛成派からよく聞かれる意見ではあるが、全く説得力はない。日本が死刑を廃止したうえで、死刑廃止国に戦争をするのは矛盾だからやめるべきだと、訴えるべきだともいえるからである。
著者の真摯で膨大な哲学・法の知識に基づく緻密な論理は称賛されるべきではあるが、ただその主張に従うだけなく、死刑制度の賛否を深く考えるきっかけとして読むことが必要だと思う。続きを読む投稿日:2021.08.20
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